人形の国
あぽしむず
概要
弐瓶勉による漫画作品。
講談社『月刊少年シリウス』にて2016~2021年まで連載。
シリウスKC①~⑧巻発売中。全九巻予定。
概要
極寒の人工天体・アポシムズを舞台に展開するSFダークファンタジー。
作者の初期作であるBLAME!と同様に地形に影響を与えるほどに機械が埋め尽くした世界観が目に付くが、月日と共に作風がかなり変化している。細部まで緻密に描くスタイルはそのまま、話の大筋は極めて簡素に仕上げており暴虐の限りを尽くす悪の帝国を主人公がぶっつぶすという大変わかりやすいもの。また登場人物たちの特撮ヒーローを思わせる外観や異能バトルめいた固有能力(機能)、勧善懲悪的だが人間味溢れる敵勢力やかわいい絵柄、ハコガキを多用した解説やスローによる煽り演出など、初心者でも楽しめてハードSFながらとっつきやすい要素も散見されるようになった。
反面、初心に帰ってか展開自体はハード路線。登場人物の心理描写は最低限に留め、かつ死ぬときはかなりアッサリ死ぬため、少なくない犠牲を払いながらも大団円を迎えた前作シドニアの騎士から入る場合はそれなりの覚悟が必要かもしれない。
ストーリー
酷寒の人工天体:アポシムズ。そこは、巨大な超構造体とパイプ群が入り交じった過酷な世界。この星の地底には中央制御層と呼ばれる場所があり、遙かなる昔、人々はそこから地表へと追いやられたのだという。
住人達はこの星の生態系と化した自動機械達と生存競争を繰り返しながら、身体が人形へと変質してゆく奇病「人形病」に脅かされていた。
『白菱の梁』と呼ばれる辺境に住む戦士エスローは、ある日地底からの使者タイターニアと遭遇し、世界を揺るがすガジェットであるAMBを託された。しかし、AMBを付け狙うリベドア帝国の尖兵によって『白菱の梁』は壊滅し、住人達は皆殺しの憂き目に遭った。
瀕死の重傷を負ったエスローは、タイターニアの導きによって正規人形へと転生。
かくしてアポシムズを征服せんとするリベドア帝国に復讐するべく、エスローとタイターニアの戦旅が始まった。
登場人物
- エスロー――この物語の主人公。リベドア帝国に故郷『白菱の梁』を滅ぼされた青年で、打倒帝国を目的として行動する。そこそこ食欲旺盛でラッキースケベ体質だが会話は必要最低限程度で戦闘時は殆ど何も喋らない殺戮マシーンと化す。タイターニアからコードを継承し射出系の鎧化能力を得ており、物語が進むにつれて単独で帝国を滅ぼせる男と各所から恐れられるようになる。故郷では子供達を教え諭す先生をしていたためか、面倒見が良いしっかり者である。その一方でちょっとドジなところも。
- タイターニア――この物語の鍵を握る美しい自動人形。ただし平時はハリガネムシみたいな形状をとる。惑星アポシムズの地底に存在する「中央制御層」からやって来た”地底の使者”。帝国との戦いにエスローを巻き込んでしまったことを負い目に感じており、以降エスローの身の回りの世話から戦闘までなんでもフォローする。機械樹の脳ハッキングから顔面張り付き食いなどの駆除、調理までしてくれて超便利機械嫁。便利すぎてもはやドラえもん。地表世界で長年人間と接してきた影響なのか、見た目と違ってフランクで俗っぽい所があり、よく喋るしよく食べる。
用語
(ネタバレにならない程度で随時加筆修正希望)
- アポシムズ――舞台となる人工天体。地下は比較的古い技術が生き残っており、オーパーツ的な品々は時折信仰の対象となる。弐瓶勉の作品世界よろしく相変わらずスケールがバカでかく、あっちこっちに謎だらけ。
- 人形病――肉体が徐々に人形=アンドロイド(?)化していく奇病。遅行性で最後は自我を失うと言われている。また、最終段階に到達した者たちがゾンビの如く群がって放浪する。
- 正規人形――スティック状の装置:コードに適合した人間”適合者”が生まれ変わった存在。別名:「転生者」。生体サイボーグとでも呼ぶべき存在であり、あらゆる悪環境に耐えうる不老の肉体を持つ。胞衣(エナ)と呼ばれる万能物質を身に纏っており、戦闘時にはコレを鎧のように纏う”鎧化”形態に変身する。それぞれが特殊能力を持っているのも特徴である。転生者の数ほど個性が存在し、異能バトルめいた戦闘を展開することもある。適合する確率は恐ろしく低く、帝国内の適合者は特権階級クラスの待遇が許されるが、同時に兵器として使い捨てられるような描写もある。
- リベドア帝国――作中開始段階で猛威を振るう敵勢力。地下世界の旧技術を積極的に解析、活用する。今作は幹部を中心に敵勢力側からの描写も豊富なため、各所で様々な内情が見て取れる。劇中一の国力と技術力を有し、国外勢力へは常に高圧的な態度をとるため反抗する者も多い。一万人の正規人形を所有しており、現場指揮官や軍上層部は正規人形で占められている。これもまた、リベドア帝国の残虐な蛮行に拍車をかけている一因でもある。
- 超構造体、エナ、恒差廟、衛人、ヘイグス粒子――前作シドニア以上に過去作からの流用技術が散見し、さながらスーパーニヘイ大戦。何がどこまでそのままなのか、全くわからないため逆に展開が読めなくなっており、往年の読者をさらに翻弄させる。
余談
相変わらず劇中用語の解説は必要最低限なのだが、副題である『APOSIMZ』をはじめ、複数の語句およびキャラクターデザイン等が、作者の過去作品から流用されている。用語の半分はBLAME!、アバラ、バイオメガ、シドニアの騎士といった過去作品からの流用や発展であり、ニヘイ経験者にはある程度考察のネタとして楽しまれている。ただしシドニアで巨大ロボットを指す言葉だった『衛人』が今作では巨人サイズ程度の人型兵器を呼称するものだったりするので、見知った語彙が登場してもそのまま鵜呑みにはできないらしい。
あと往年の漫画読みならば弐瓶勉と聞けば大抵『画面がめちゃくちゃ黒い』という印象をもたれるだろうが、今作は打って変わって『画面がめちゃくちゃ白い』