現在では歩兵を同乗させた装甲車を随伴させる「歩戦共同戦術」に発展している。
概要
第2次世界大戦中、兵員輸送車両の不足を抱えたソビエトなどで多用された
戦車の外に歩兵を跨乗または随伴させつつ移動・戦闘に参加する戦術。
機動力・突破力を持つ戦車(タンク)と共に索敵・機銃制圧を担当する歩兵を進出(デサント:上陸、滑降)
させるこの戦術は、侵攻作戦において偵察・奇襲、時に決死隊的任務にと長く用いられた。
欠点
タンクデサント兵(歩兵)はなんら保護されない生身の兵士であるので、当然砲撃・銃撃されれば容易に死傷する。
更に跨乗中は目立つうえ隠れようのない車上であり、戦車の方も機動や砲塔の旋回を行なうので…
・迫撃砲の阻止放火を受けてミンチ
・対戦車砲の砲撃が飛んで来てミンチ
・機関銃で掃射されてミンチ
・小銃で狙い打たれてミンチ
・振り落とされて後続に轢かれてミンチ
…等々、死亡率も極めて高かった。
(そもそもの話、戦場では敵の火力は戦車に集中する傾向があり、その戦車に生身の兵士を跨乗させているのだから余計被害が増える)
証言によればタンクデサント兵の寿命は従軍して一週間程度とも言われる。
多民族国家たるソ連の当時の人権意識の低さを示すものとして取り上げられることも多い戦術である。
実戦での効果
多くの人的被害を出しつつも、随伴歩兵の有用性を論ずる上で重要視されている。
分厚い装甲で四方を固められた戦車は視界が狭く、小回りが利かない。実際に敵戦線を突破することが出来ても、歩兵携行用の対戦車兵器・爆破工作用爆弾や火炎ビンなどを用いた敵歩兵の肉薄攻撃で撃破されるケースは多かった。日本ではノモンハン事変で同様の例も多く報告されている。つまりは(随伴歩兵のいない)単独行動の戦車など簡単に撃破されてしまうのがオチなのである。
現代戦車の戦車運用には『歩戦共同』と言われる戦術が用いられている。
タンクデサントは歩戦共同の始祖(派生形の一つ)と言うことができ、戦車の突破力と歩兵の制圧力を同時に発揮することが出来る有効な戦術だった。このことから攻撃側のタンクデサントが成功するか否かでその後の戦闘経過が大きく左右されるため、防衛側が生き残るためには一刻も早くデサント兵を全滅させる必要があったのである。
現代のタンクデサント
ベトナム戦争時のアメリカ軍や、アフガニスタン紛争時のソ連軍では、かつてのタンクデサントと同じく、歩兵がAPC(装甲兵員輸送車)の車上に跨乗して移動する姿がよく見られた。
APCには歩兵を収容するキャビン(兵員室)が用意されているが、狭い上に、ゲリラによる奇襲や地雷攻撃を受けた場合、反撃もままならないまま閉じ込められて、車両ごと“蒸し焼き”にされてしまうケースが続出したのである。そのため、最初から車外に陣取っていたほうが見通しも良く、何か遭っても即座に下車、展開、反撃できるので、かえって都合が良かった。
元々、歩兵戦闘車やAPCは、正規戦や核戦争下での弾片や放射能から歩兵を保護する目的で設計されたが、非対称戦や対戦車兵器の発達によって、「装甲化されたキャビンに歩兵を収容して保護する」というコンセプト自体が怪しくなっていたのである。
戦術的には一見、“退行”“逆行”のようにも見えるが、戦場の実情に即した“適応”“復活”と見るべきだろう。
なお、当たり前だが戦車の移動能力は人間の徒歩による移動に比べると、スピードや不整地の走破性などにおいて格段に優れており、兵の疲弊も少ないため、脅威の少ない後方地域での移動において歩兵が戦車の上に“便乗”させてもらう光景は、他国も含めよく見られるものとなっている。
歩兵の側からすると銃火器や装備を所持したまま楽に移動でき、戦車の側からしても戦車の上部や後方に「目」が付くようなものなので、不意の遭遇戦対策や事故の軽減に役立つ…と、一石二鳥なのである。
そして現代ではボディアーマーの発達により、砲爆撃からの脆弱性が軽減されているのも見逃せないポイント。
ちなみに自衛隊でも戦車に乗せるイベントはあるが、ここには含まれない
余談
派生として、AH-64のような攻撃ヘリコプターの機外に歩兵をしがみつかせて飛ばす方法が俗に「ヘリデサント」と呼ばれている。
異世界転移作品である漫画『ドリフターズ』では、亜人を率いて人類を滅ぼそうとする黒王の軍勢によって、武装した巨人の身体にコボルドなどが乗るという形で再現された。