概要
マレー人や華僑をはじめとし、インドやインドネシア、バングラデシュなど周辺諸国から多数の移民を労働力として受け入れてきた多民族国家であるシンガポールにおいては、マレー語が国語であるが、マレーシアから民族・宗教問題を発端に連邦を追放されて不本意に独立した歴史があるために、実態は居住する諸民族の言語の一つに過ぎず、事実上の公用語はイギリス英語である。
しかし、実際の市民生活で使われている英語はマレー語や中国語の影響を多分に受け、なんばぬかしょっとやいっちょんわからんぐらいに見事に訛りに訛っているため、もはやこぎゃんつかもん英語やなかっちゃねという比喩の意味も込めて、シングリッシュと呼ばれる。英国人にとっては最も解読困難な英語の一つであり、Engrish話者の日本人にとっては言わずもがなである。
特徴
マレー語の影響を受けて非常に早口である。訛りに訛っている上に発話速度も非常に速いという、非母語話者にとってはこの上なくタチの悪い方言と言える。逆にシングリッシュが理解できるようになれば、あなたの英語はネイティブレベルかネイティブ以上である。
マレー語や中国語と折衷し、多くの語彙の借用をした言語であるという点ではマングリッシュと同様であり、文法、語彙もおおむね共通。従ってマングリッシュとはよく似ているが、訛りの強さがその比ではないというのが実態である。ある意味、めちゃくちゃ訛りの強烈なマングリッシュである。
マングリッシュの特徴である語尾の特に意味のない"lah"も健在。ただし、さらに訛りが強まって不明瞭となり、"eah"のように発音される。上がり口調になると疑問系になるのも同様。
日本語に例えれば、マングリッシュは博多弁、シングリッシュは鹿児島弁(ちなみにどちらも同じ九州方言なので、基礎的な文法は似ていたりする)のようなもの。(※博多弁は西日本方言に疎い北関東・東北地方を除いて全国的に通用するが、鹿児島弁は県外ではまず通用しない)。
語彙だけでなく、一部の文法までマレー語や中国語のものを借用している。そのため、言語学者によってはもはや英語ではなく、英語とマレー語、中国語の折衷により生じた新言語(言語学的にはピジンという)とみなす者も多い。マングリッシュは基本的な文法の揺らぎが存在しないため、このように考える言語学者はまずいないことを考えると、シングリッシュの訛りのロックぶりが想像できるだろう。
地位
前述のようにもはや英語ではないとみなされることも多いシングリッシュであるが、基本的な特徴が共通するためマングリッシュのシンガポール方言と考える人間もいる。また、マングリッシュとは異なる別の英語の方言と見做す人間もいる。
公用語に指定される英語をイギリス英語の容認発音のみとするシンガポール政府にとって、シングリッシュの台頭は頭を悩ませる存在である。そのため、教育現場などでは、ファインネーション・シンガポールの権威を振り翳し、シングリッシュの撲滅を目的とした凄まじい生活指導が行われていたりするが、シングリッシュの定着ぶりは予想以上に深刻でありやや訛りの強いマングリッシュ程度のシングリッシュを話す教師が、ばり酷か訛りのシングリッシュを話す生徒を懲戒するとでもいうべき目糞鼻糞、五十歩百歩の状態であり、シングリッシュは撲滅どころかイギリス英語を駆逐して定着し続けるばかりである。