『私が望んでやまぬものはただ一つ。誰もが平等に光に照らされる、公明正大な世…陰なき世界だ!』
『強ければ、望むがままに生きられるとでも?』
『殺して立とう。真の高みへ!』
『私には!!!光が見える!!!』
概要
燦然党党首の政治家にして、日本を暗部から守ってきた日ノ元家の当主。そしてドミノやユーベンと肩を並べる真祖の一角。
掲げる理想は『公明正大』、望む世界の形は『陰無き世界』。
その容姿はドミノから『黒マッチョ』と称されるほど筋骨隆々で、その身体には無数の傷跡がある。(本人曰く『少々棘の多い門松をたくさん潜ってきた』とのこと)
元国会議員であり、自由民生党に所属していた。当時は国民に寄り添った政策を行っており、立花の地元に1億円の費用をかけてトンネルを建設していた。また既婚者であり、妻と娘がいるが、妻は物語開始時点で故人。そして、日ノ元家の例に漏れず巨人ファン。
人物
表向きは公明正大な人物であり、カリスマ性溢れる熱血漢。仲間たち一人一人を『同志』と呼んでおり、よく気にかけている。だがその本性は国家工作員である日ノ元家が長年日陰から泥をかぶって必死に守ってきた平和を当然に享受する一般人を愚民と忌み嫌う選民思想の権化。
公正を掲げつつもその内実は実力主義の徹底であり、その理想の先にあるものを部下は「強者だけが生きられる世界」と評している。だがこれは人外のヴァンパイアたちには魅力的であり、彼の真意に気付いたうえで賛同している者も多い。
燦然党に参加しているヴァンパイアたちは日ノ元家の身内を除いて全員が使い捨ての駒であり、弾扱いにしたり、容赦なく処分するなど作中では散々な扱いをしている。
一方で身内である葛や日ノ元家、見込んだ者へは敵であっても肩入れしたり、身内には甘い一面もある。葛からは『あれほどの慧眼を持ちながら肉親相手にはここまで曇るか』と嘆かれている。
あらゆる物事を万全にこなす天賦の才を持って生まれた彼だが、何故か書道がド下手であり、基本的に側近である葛が代筆している。
能力
その変身体は黄金に輝く仁王の如き荘厳な姿。背面には光輪のようなものを背負っており、ここからも後述の能力を発動可能。圧倒的な武才を持ち、日ノ元家特有の身体能力も合わさって徒手空拳に於いては間違いなく作中最強。
『超光(ちょうこう)』
彼のヴァンパイアとしての固有能力。全身の体表でエネルギーを高速振動させており、光に似た力を操る。常に全身から高熱を放っており、並のヴァンパイアでは近付くだけで消耗してしまい、阿久津曰く『まるで太陽』。この熱を利用して指先や拳から高熱の光を放ち、山すら吹き飛ばす熱線として飛ばすのは勿論、前述したように攻防を兼ね備えた鎧として身に纏う等、遠近共に隙が無い。だがデメリットもあり、纏っているエネルギーが強力すぎるため何もせずとも自傷してしまう。
ユーベンの心臓を喰らってからは肉体がより頑強になりこのデメリットは消え、放つ熱や熱線の威力が大幅に向上。並のヴァンパイアでは近くにいるだけで発火するほどの熱量を常に放ち、元から強力だった熱線はさらに強力になり、着弾した周囲の電子機器が故障していた。
『金麦操作』
ユーベンの心臓を喰らい手に入れた第二の能力。この形態になると変身体にも変化が生じ、全身のデザインがより鋭角的なものになる。
真祖2体分の力を手に入れたことで元の持ち主のユーベンを凌ぐほどの規模と精度を誇り、作中では海中を隈なく探知出来るほどの量を顕現させ、ドミノとの決戦時には巨大な花弁を生成し、花びら一つ一つに風見のチャフと同じ構造を持たせていた。また、瞬間的に義手を生成することも可能。
『Re・ベイキング』
ドミノ、ユーベンのものを2度見ただけで再現してみせた真祖の切り札。外見は従来のものと変わらないが、右半身が黒、左半身が白色になるという彼の強烈な二面性を端的に表現した姿となる。
Re・ベイキングといっても彼のこれはただの猿真似であり、最大の利点であるステータスの再配分は滅茶苦茶になっている。
関連人物
血の繋がった娘。親子としての関係は無いに等しく、明からは『あの男は訳がわからん』と言い捨てられ、母を殺したことから殺意を抱いている。だが士郎側は、葛から始末するよう進言され、敵対しても捕らえろの一点張りで、口では一族の若いものに嫁がせて飼い殺しにするような素振りを見せており、明に情を抱いているように見えるが…?
同じ日ノ元の直系に生まれた弟。政治家気質の士郎とは正反対の人物であり、ただ強さだけを追求する求道者。そんな彼を士郎は(主に好きな球団の好み的な問題で)『訳がわからん』と評しているが、兄弟としての愛情は本物。
葛
幼い頃からの世話係であり、側近。明に対する態度等から他の日ノ元家の人間からは嫌われ排斥さえ訴えられていたが、祖父や父との関係が悪かった彼からすれば親代わりであり、士郎も鬱陶しがっていたが、親と認めていた。彼が「坊ちゃん」と呼び、士郎が「坊ちゃんはよさんかぁ!!」とツッコむのはお決まり。
燦然党幹部の中で唯一対等と認めた相手。勿論これは表向きの態度であり、彼を幹部として迎え入れた真の理由は『ドミノの内通者として利用し、彼女との決戦を有利にするため』であり、用済みになれば切り捨てるつもりだった。
風見涼、葵洸
その能力の有用性から燦然党本隊に招き入れた二人組。ただ仲間というわけではなく、彼らもあくまで駒の一つ。また、風見は死と悲鳴を浴びるのに燦然党が都合が良いから、葵は風見に強く依存しているだけである。
日ノ元道三、貴誉、天馬、影成
士郎の腹心たち。全員との付き合いは非常に長く、信頼関係は相当なものだった。
志月
現日本国防衛事務次官。士郎が政治家だった頃に親交を深めたようで、彼を『ゴア対策本部』に推挙していた。だがその真の理由は彼が今回の戦いの情報規制を司っていたヴァンパイアだったからである。
選民と虐殺の果てに
ドミノとの決戦に敗れ、心臓を穿たれたことで死を待つだけだった士郎。今際の際で彼は、家族のことを思い出す。
「明が、苦手だ」
政界への足掛かりとして娶った政治家の娘である妻。穏やかで優しく、血生臭い世界とは無縁で、日向で生きてきた彼女は正に士郎が忌み嫌う愚民そのもの。そんな彼女が産んだ実の娘もまた平和を当然として生きる愚民であり子供の頃から仕事にかまけてろくに構わなかった。その最大の理由は士郎は親と子という関係が理解できなかったからであった。士郎本人が「ロクな思い出がない」と思い返すほど関係は希薄であり、父はひたすらに士郎を誉めるだけであり、祖父は厳格で日ノ元のなんたるかを教え説く存在だった。更には国家工作員の殺し屋という自分の何を見せればいいのかが士郎には分からなかった。だからこそ、明への接し方が分からなかったのである。
ある日、そんな内心を妻に漏らすと、彼女は「明が、可愛いのですね」と宣う。妻の言い分に絆された自分を、結局は忌み嫌っていた筈の「平和を享受する愚民が愛しい」と認めて自嘲する士郎の前に、ゴアは真祖の力を与えるべく姿を表した。
そして富士山噴火の日。ゴアの宣告通りに始まった戦いの狼煙に際し、自分を探しにきた妻のほっとした笑みと呑気な口ぶりに思わず釣られて笑った瞬間、ヴァンパイア化した直後で暴走した葛によって妻は輪切りの死体となった。情に絆され生じた一瞬の油断によって守ることもできず死んだ妻の姿に、激情に駆られた士郎は「何故動じる」「この先どれだけの人間を、その家族をこんな無残な死体にすると思っている」と自問自答。濁りきった目で、側にいた娘にも気づかず妻の遺体を踏みつけ、修羅の道へと足を踏み出した。
薄暗い洞窟の中、瀕死の士郎の前にドミノと明が姿を現す。『外道の最期など看取る必要もない』と影の中を歩こうとする彼女に『公人が端など歩くな』と初めて父親らしい言葉を伝える。
そして明が洞窟を去った後、王を目指した者同士でドミノと言葉を交わす。ドミノは初めて会った時、ここまでの犠牲を出す男には見えなかったと言う彼女に数千人の民間人が最小の犠牲であったこと、いずれ訪れる災厄の存在を伝え、詳細は玄ノ進に聞くように後を託す。
ドミノに負けた理由を『武が及ばなかった』と結論付けた士郎だが、ドミノはこれを即座に否定。彼が敗けたのは『自分の理想に翳りがあったから』である。公明正大を掲げながら、情に目を曇らせ自分の娘すらまともに見ることが出来なかった。だがそんな彼の生き様と理想を認め、去っていくドミノを眩しいと称しながら、選民と虐殺の王は陰の中で灰に還っていった。
『さらばだ。血と灰の女王。』
余談
彼が心臓を喰らったユーベンの能力は『小麦の操作』であり、対して彼の能力は『太陽そのもの』。この2つを掛け合わせ、パンを焼くのではないかという秀逸なネタがコメント欄にて披露されていた。
また、彼のRe・ベイキング体は身体の中央で白と黒に分かれており、読者からは「先生に真っ二つにされそうなデザイン」とネタにされていた。
彼の言葉通り現れた最悪の存在が出した数百万を超える被害を目の当たりにすれば、彼の数千人の犠牲は確かに最小だったと言える。さらには彼の存在が現代人の希望であったことが判明し、死後に株が急上昇していた。