「たいぎぃ。」
「やんのかやんねーのか、どっちじゃ?」
概要
真祖:ユーベン・ペンバートン率いる組織ゴールデン・パームに所属する社員の一人で、広島弁を話す17歳の少年。
佐神善や七原健と同じ年齢であるが善とは違い学校は中学までしか行っていない。
目つきが非常に悪く、その立ち振る舞いは完全にチンピラである。(実際に飲酒、喫煙、麻雀などを楽しんでいる完全な不良少年。)
その見た目とガラの悪い態度で当初七原からは非常に恐れられていたが、ひょんなことから互いが熱心なカープファンであることを知り、そのまま意気投合。その後は常に行動を共にする無二の親友となる。
球団の好みの関係から、明とは非常に折り合いが悪い。
人物
七原と行動している間は少しガラの悪い普通の野球大好き少年であり、広島焼きを得意げに七原に教えるなど年相応な面を見せる。
だが普段は常に気怠げで不機嫌そうな顔をしており、他人とは距離を取りがち。この姿勢は仲間であるゴールデン・パームの面々に対しても同様であり、水波はそんな様子を見かねて色々と世話を焼いていた。
その本質は見下ろされることを極端に嫌い、一度キレると誰も手がつけられなくなる危険人物であり、ユーベンや火防はその危うさに気付いていた。
実際、過去に喧嘩で人を殺しており、その賠償金返済のためにゴールデン・パームに所属している。また、その生い立ちからか自分の人生に強烈なコンプレックスを抱えており、その境遇は七原や芭藤などと似ている。
だが、仲間に対しては深く情を抱いており、心が折れかけた七原を激励して再起させたり、燦然党と戦う仲間たちを守るために捨て身の特攻を仕掛けたりと心根は仲間想いの熱い人物でもある。
能力
その変身体は鳥の嘴を模した頭部の装甲、身の丈ほどもある翼、巨大な両足と、そこに備わる鋭い爪など、全身の色が黒であることも相まって、その姿はカラスそのもの。
戦闘能力は非常に高く、京児からは『燦然党幹部クラス』であると見られていた。
翼を用いた高い機動力に加え、その脚爪はヴァンパイアの肉体を容易に切断するほど鋭利であり、格闘戦も善と張り合えるほど。また、その大きな足を使って2人まで味方を抱えて飛行することも可能。
『降下(フォール)』
彼のヴァンパイアとしての固有能力であり、翼から分離させた羽根を刺した相手を下に引っ張り落とす。
作中で実際にこの能力を受けた善や北ノ城はまともに行動することが出来ていなかった。この羽根は阿久津が自在に動かすことが出来、羽ばたきと同時に射出したり、何本かを宙に浮かべ弾丸のように放つことも出来る。
この羽根自体に殺傷力はないが、防ぎ難い小さな羽根を敵の身体のどこかに刺し込むだけで能力の発動条件を満たせるため非常に使い勝手の良い能力。またこの能力は七原と似たタイプの能力であり自分自身に作用することも可能で、上空から超高速で降下し相手を踏み潰すという大技を切り札としている。その威力も凄まじく、作中屈指のパワーを誇る佐神善が放った全力の拳ですら砕けなかった御前試合のリングを、一撃で叩き割るほど。
『無限降下(むげんこうか)』
彼の扱うD・ナイト。掌を翳した相手の意識の速度を1/60に降下させる能力。1秒の思考だけで1分が経過するというかなり強力な能力であり、並のヴァンパイアに使用すれば、ほぼ確実に勝利出来るほどの弱体効果を付与できる。デメリットとしては、発動条件の影響で『必ず相手に近付かなければならない』ため、真祖相手に使用する場合は命懸けになる。加えて、真祖に選ばれる者は傑出した才能を持つ超人であり、圧倒的な判断速度を誇る者も少なくない。そのため、確実に倒せるほど大きな影響は与えられないという欠点を抱えている。
過去
彼の生まれは小さな漁村であり、家はすぐ裏にゴミ山のあるボロ屋という劣悪な環境で育った。
父は漁師でショボいチンピラで、家庭は常に困窮しており、兄弟とは食事や物資を巡って争い、母は何もせず泣いてばかり。父は何かあればすぐに怒鳴り散らすなど家族関係は最悪で、服も靴も家の裏のゴミ山から拾ってきたものだった。
彼自身も『世の中の人間を恵まれた上から順に並べたら、オレは一番下の方。上の奴らが捨てたゴミを漁ってその中古を身につけている。』と理解していた。だから彼の処世術は『見下す相手をキレて黙らせる』こと。そんな生き方から彼の人生に喧嘩は絶えなかったが、彼の『一度キレると自分も相手と顧みずに暴れる』という姿に誰も彼もが逃げ出して行った。
そんなある日、彼の噂を嗅ぎつけた取り立て屋に集金係としてスカウトされる。スカウトマンは入社祝いとして阿久津に高級腕時計を渡すが、彼はかつての暮らしの経験から「中古は好かん。」と時計を顔面に投げ返し一蹴。だがコケにされた取り立て屋たちがそのまま彼を逃すはずがなく、帰りの夜道、灰皿で後頭部を殴られそのまま3人がかりでリンチを受けてしまう。スカウトマンがナイフを取り出したことに危機を覚え、反射的に手元に落ちていた石でスカウトマンの頭を何度も殴りつけ、最終的に殺してしまう。そうして彼は多額の賠償金を背負い、その返済のためにゴールデン・パームに入社するのであった。
活躍
初登場は第54話。火防、水波とは別行動を取っておりチームドミノを追跡していた燦然党員の始末を担当していた。その後、ユーベンの元に向かう道すがら、善たちの戦いに参加する理由を聞き、善の『他人の命を守るためだけに戦う』という考えに不信感を示していた。
ユーベンの元に到着してからは、七原とともに小型船(ゴールドトレジャー号)を海に戻しに向かい、その帰り道、七原が彼の服に書かれた数字(カープの永久欠番たちの背番号)に気付き、彼と意気投合し翌朝には肩を組んで笑い合うほどの仲になっていた。そして創血式の翌日は七原、明とともに『巨人VSカープ』の試合を仲良く見ていた。
御前試合では、第一試合の前に七原と八百長を組もうとしていたことが発覚。(ドミノの鉄拳制裁で未然に防がれたが)そして面倒くさがりながらも七原と対戦することになる。「痛くないよう終わらせてやる」と七原を甘く見た発言をするが彼の予想外の速度、そして彼の『分身加速(ドリフト)』を見て彼を強敵と認め、変身し応戦しようとするが、七原は凡ミスで場外負けになってしまった。(その際、彼らしからぬドン引きした顔をしていた。)
御前試合2日目の昼、京児のやらかしについて菓子折りを持参して謝りにきた七原、善を水波とともに迎え入れる。その際、昼食を用意しに行った水波と彼女を手伝う七原が席を外している間、善と2人で捕獲した魚を彼女の部屋に運ぶよう頼まれる。だが、水波の部屋に魚を運ぶ途中、阿久津は善の背中を蹴り飛ばし、階下に転落させる。阿久津は善に虚偽の報告をするように恫喝。その通りにした善に対して「ええ奴やの、お前。」と言葉を残し去っていった。
その夜、御前試合第二試合にて善と激突。水波の開始合図を待たず善に攻撃を加えるなど品位のカケラもない行動をし、善に自分の殺し合いに対する価値観を語ると、善の歪さを指摘。
「オレはお前が心底気に食わん。…ここから失せろや。ぶちまわしたる。」
戦闘中は『降下』能力で終始善を圧倒。空中戦でも即座に善を撃墜しその実力の高さを見せつける。
阿久津は決着を付けようと思えばすぐに勝てたが、善の戦法を全て正面から破り、自分から負けを認めさせることが彼の狙いだった。しかしその慢心から生じた油断を善に突かれ、強烈な一撃を貰ってしまう。阿久津が試合中に発した「反論したいなら一撃入れてからしろ」という言葉通り、彼に殴り付けられた上に真っ向から反論された事で怒りのスイッチが入ってしまう。
「オイ佐神…お前にはあるんじゃろ?引き返せる場所も…人並みの日常も…。他にやってける場所がねえ…縋れるもんが何もねぇ…そういう奴が命かけて殺し合っとんじゃ…!!なんでテメーみたいな奴が混じっとんじゃ…!!!」
これまでのトリッキーな戦法を捨て、リーチと能力をフル活用した力押しによって善を一方的に圧倒。善を殺しかねない勢いで畳み掛け、水波の言葉すら耳に入らないほどに頭に血を上らせる。しかしそれが仇となってしまい、彼が少しずつ形成していた分裂体の柱をまともに喰らってしまい、場外に撃墜される。試合自体は善の勝利となったが、阿久津はこの試合で傷一つ負っておらず、その底知れなさを見せつける形となった。
試合後、善のことは気に食わないままだが、少しは彼への認識を改めたようでユーベンとの戦いで善が暴走し、活動停止した際には「立てや…。」と小声ながらエールを送っていた。
御前試合の後、燦然党との決戦までの期間、ドミネコに魚をあげたり、七原を足で抱えて空を飛んだり、と相変わらず良好な関係を築いており、善とも七原と3人でサウナに入るなど多少なりとも関係は改善されていった模様。
来る燦然党との決戦、阿久津は海老湖、象場と共に第6班として待機していたが、ドミノの作戦失敗の報告を受けるとユーベンの指示で前衛部隊の援護に向かう。その途中で火防から七原の敵前逃亡を知り、北ノ城が放った毒ガスを止めるついでに七原を捜索。彼の窮地を救うと、そのまま北ノ城を瞬殺。彼から毒ガスの消し方について情報を聞き出そうとするが、直後に風見のチャフによって日ノ元に捕捉されたことを悟り、七原の加速もありその場を離脱。
2人は無事だったものの、七原は立花に加えて大勢の民間人を目の前で殺されたことで完全に戦意が折れてしまう。泣き言を漏らし続ける彼を見て、阿久津は激昂。
七原の能力『加速』は戦況を大きく左右する強力な能力であり、彼無くしては同盟側の作戦は全て破綻する。
「お前負け犬でえーんか?七原。やんのかやんねーのか、どっちじゃ?」
その言葉で七原を再起させ、彼と共に戦場に復帰。日ノ元士郎を民間人の側から引き離すための作戦に参加。そのため、ドミノが渾身の力で日ノ元を拘束したタイミングで、善の作成した分裂体に紛れて接近し、D・ナイト『無限降下』を発動。役目を果たしたことで撤退をしようとするが、七原は頭から腰にかけての右半身を貫かれており、退路を確保するための要である彼の加速能力を失い日ノ元からの攻撃を受けそうになるが自身のD・ナイトの効果もあり、すんでの所で回避に成功する。
だがここまでしても戦況は芳しくなく、依然燦然党が優勢であった。阿久津はこの戦いは負けだと判断し、死にかけの七原を連れてこの戦いから降りようとする。
しかし、彼は七原の援護もあって参戦に復帰。
ドミノが日ノ元に押し負けていた原因である柱をダメージを負いながらも破壊し、ドミノと共に日ノ元に特攻を仕掛ける。彼らを下がらせようとするドミノだったが、状況は予断を許さないものであったこともあり、七原の加速の力を借り全力で日ノ元を石切り場へと押し切った。
だが並のヴァンパイアである彼が真祖のフルパワーに付いて行けるはずもなく、石切り場の手前にあった渓谷のような場所に墜落してしまう。七原はただでさえ大きく負傷していたことに加え、真祖の加速も行ったことでミンチのようになっていた。阿久津は通信でユーベンに作戦の成否を尋ね、彼らの尽力によって日ノ元を石切り場に押し込むことに成功し、当初の見立てより遥かに多い生存者を残す事ができた。そのことを賞賛するユーベンだが、阿久津は彼の言葉を遮る。
「…まあ、アンタが見上げさせてくれた場所は、結構気に入ってましたよ。悪かったですね。いつも不機嫌な顔してて。オレは自分の好きなようにやりました。社長も…そうでしょ。」
と言い残し通信を切る。
『星…随分…久しぶりに見た気がするの…。たいぎぃ…。』
彼は既に日ノ元を押し切った際に心臓を撃ち抜かれていた。心臓を失ったことで彼の肉体は崩壊し、死亡した。
ーー見下ろしすぎていつしか見えなくなっていた、満天の星空を最期に眺めながら、阿久津潤という少年は灰に還っていった。その際の姿は、白い翼がまるで天使のようであった。
余談
彼の遺灰物は七原に受け継がれ、彼の背中を押す原動力となった。その後の立花との戦闘では、七原の降下する攻撃の威力が増すなど彼の中で生き続けている。
『よおやったの、七原。』
七原「阿久……津…。ありがとよ。』
関連人物
自らの雇い主。彼の導いてくれたゴールデン・パームという居場所が阿久津にとっては救いであり、恩義は感じていた模様。最期に「アンタの見上げさせてくれた場所は、結構気に入ってましたよ。」と語っていた。
上司の一人。傭兵の彼を『プロ』と称しており、回想シーンでも火防と共に戦闘を行なっていた描写が確認できるため、関係は良好であった様子。
上司の一人。自分を弟のように思って世話を焼いてくれていたため、憎からず思っていた様子。水波も阿久津の死を知った際は激昂していた。
無二の親友。付き合いがあった期間は短いが、互いを真に理解し合えた仲であり、その関係性は善と京介のものに似ている。水波曰く、彼といる間だけは本当に楽しそうに笑っていた。