概要
八百長とは真剣に勝負をせず、片方がわざと負ける行為(故意の敗退行為)を指す。またそうした敗退行為による試合(ゲーム)や、その結果のこと。「無気力試合」と呼ばれることもある。
双方の合意(または暗黙の了解)のうえで行われることも多いが、負ける側のほうが賭博あっせん者などから予め金を受け取る約束などを交わしているパターンがほとんどだ。
サポーターが納得のいかない敗北試合を勝手に「八百長」と決め付けるといったケースは多々あるが、本当に八百長行為が行われたことが明らかであった場合は、ほとんどどの競技では法律に違反する犯罪行為として、永久追放や・除名といった厳しい処罰が行われる。
語源
八百屋の長さんという人物が、相撲の親方と囲碁勝負をしたが、いつも負けてばかりだった。ところがこの長さんは囲碁名人と勝負して勝ったこともあり、親方相手にはわざと手を抜いていたことが明らかになった。
ここから故意に敗退することを「八百長」と呼ぶようになった。
歴史
相手に金を支払うだけなら、互いに合意の上での経済行為だが、身分制度の厳しい時代や、マフィアや暴力団が絡むと、権力や暴力による脅迫で負けを強要することもあった。
「八百長」は日本語だが、古来より世界中で存在する敗退行為である。というか、何らかの八百長行為が全く存在しない国などないと言える。権力と金は、いつの時代にも存在するからだ。
本来の意味あいとは異なるが、審判などを買収し、自軍に有利な判定に導く行為なども八百長と呼ばれることがある。
特にサッカーやテニスのように、賭博で大金が動くプロスポーツにはつきものというか、競技人口が多いとプロとしての収入だけでは生活していけない人間の方が多いこともあり、現実問題として切り離せない行為だ。
合法的八百長
罪には問われない、ある種の合法的な八百長行為もあり、片八百長(片八百)や談合試合ともいわれる。
リーグ戦における消化試合や、決勝トーナメントを有利にするための戦略、共食い阻止、としての敗退行為だ。
- 消化試合:既に決勝トーナメント進出が決まった後、無駄な疲労や怪我を避けるために手を抜いたり、(チーム競技の場合は)2軍を起用したりで、結果的に負けるパターン。
- 2軍起用に関しては「若手に実戦経験を積ませるため」と大義名分で言い訳することも多い。
- 戦略:予選最終戦で勝つと決勝トーナメントの1回戦で強豪や苦手な相手と当たってしまう、第2次予選で強豪ブロックに放り込まれる、などの場合に手を抜いて負けるか引き分けるかして対戦カードをずらす。
- 共食い阻止:戦略の一種。主に個人戦において、予選最終戦で勝つと決勝トーナメント1回戦でチームメイトと当ってしまいそうな場合に態と負ける・引き分けるなどして対戦カードをずらす。道義的に問題はあるが、これらの行為は処罰の対象にはならないため、合法的八百長と言える。
- タンキング:主力選手の放出、あるいは試合に出さないなどの行為により、直接的ではなくともある程度意図的に試合に負けることでチームの順位を下げ、翌年のドラフトにおいて高い順位の指名権を狙いに行く行為。中途半端な順位で燻り続けるよりも一度派手に順位を下げてスターの卵を指名した方が長期的にプラスになると判断した際に行うこととなる。
- ただし行われることの多いNBAでは、ドラフト指名順は前年度の順位の逆順に「なりやすい」ようになっているだけで「必ず」最下位チームが1位指名権を貰えるわけではないため、タンキングをしたとしても必ず狙っている選手が指名できるとは限らない。
また「引退試合」などで、主役(引退する選手)に花を持たせる演出としての八百長なども、何ら問題なく見過ごされている。
しかしながら、戦略としての「無気力試合」で失格となった卓球の中国チーム及び韓国チーム等のような例もあり、時と場合により責任を取らされるケースも存在する。
また、スペインのサッカーチーム・ビジャレアルFCのマルセリーノ監督は「消化試合に見せかけて、対戦相手である(古巣の)ヒホンを一部リーグ残留させるために態と負けた」と見なされて解任されている。
テニスにおいて
2017年に三橋淳(元世界ランク296位)が永久追放の処分を受けたことで、日本人の八百長という不祥事が明るみに出たが、ノバク・ジョコビッチなどもかつて「負ければ11万ポンド(約1870万円)払うと持ちかけられ断った」ことがあると明かしている。
不正監視団体「テニス・インテグリティ・ユニット(TIU)」が存在し、八百長の審査を行っているが、複数のマフィアや賭博シンジケートが絡み大金が動く競技であることから、八百長の撲滅は困難をきわめる。
なお、テニスプレイヤーとしての収入だけで食べていける選手は現在わずか10%にとどまる。もっとも、テニスに限らずゴルフなどでも該当する。
野球において
メジャーリーグでは、ホワイトソックスの主力8選手が賄賂を受け取ってわざとレッズに負け「ワールドシリーズを金で売った」とアメリカに衝撃を与えた「ブラックソックス事件」などが有名。
韓国では2012年に明るみに出たKBO八百長事件で2名が永久除名処分となった。
台湾では1996年に起きた黒鷹事件と呼ばれる時報イーグルスでの事件と2008年に起きた黒米事件と呼ばれる米迪亜ティー・レックスによる球団ぐるみによる2つの八百長事件が大きな社会問題となっていた。
日本のプロ野球では「黒い霧事件」が有名。複数の球団の主力投手に金銭を渡し八百長をもちかけ、敗退させたとされる。裏には暴力団の関与があり、野球の違法賭博が資金源となっていた。賭博に参加したものは逮捕され、八百長に絡んだ選手も逮捕こそされなかったが、球界からの永久追放処分となっている。
漫画『キャプテン』の青葉学院は地方予選に2軍を出場させているが、こちらは消化試合扱い(地方予選程度は2軍で十分と言う自信の現れであり、負ける気は一切ないが、負けそうになると1軍に交代する)。
バスケットボールにおいて
アメリカでは大学バスケの名門セント・ジョセフズ・ホークスの3選手が3試合で八百長に加担した事件で、22大学37選手が逮捕されている。
NBAでは審判が仲間2名と共謀して八百長に関与した罪で逮捕された。
韓国バスケットボールリーグ(KBL)の試合において、わざとシュートミスをするなど、11人の選手がインターネットの違法賭博サイトを通じ八百長を行ったとして出場停止処分を受けた。賭け金は31億ウォン(約3億1000万円)にも上る。
サッカーにおいて
ほとんどの国では合法的賭博の対象となっており、欧州サッカーなどにおいては多数存在する。
イタリアリーグセリエA創始以来、インテルと並び一度も1部リーグから落ちたことのない名門クラブの1つであったユベントスは、2006年に八百長の発覚によりBリーグ降格という処分を受けている。
韓国では上述の野球八百長と関連した事件で、2011年にKリーグ選手が関わった八百長事件が発覚し、関与した41名がFIFAから永久追放処分を受けている。
中国では2013年に、スーパーリーグで大規模な八百長事件が摘発され、33人が永久追放となった。
日本のJリーグでの八百長の発覚は2023年シーズン終了時点ではない。但し、Jリーグの実質的な下部リーグにあたるJFLでは2022年に鈴鹿ポイントゲッターズで八百長未遂が発覚し、オーナーら3人がサッカー関連活動の禁止処分を受けている。
漫画「キャプテン翼」の中などでは、上述のような「合法的八百長行為」の一例を見る事ができる。
小学生時代の全国大会の予選で既に決勝進出を決めた明和FCは、南葛SCの決勝進出を妨害するため、花輪SSにわざと引き分けることで花輪に勝ち点を与え、南葛は最終戦で花輪に勝たなければ決勝進出不可能になった(花輪が明和に負けていれば、南葛は花輪相手に引き分けでも決勝進出できた)。
大相撲において
相撲は八百長の語源ともなっているが、本来は神事行為であり、プロレスのように興行的な側面が大きかったことから、昔はあまり八百長を問われることはなかった(特に一人相撲では、毎回「豊穣神が勝つ(人間が負ける)」ことになっている)。
相撲の八百長問題が問われるようになったのは、スポーツとして扱われるようになった近年で、週刊誌等で元力士が「八百長がある」と告発したからだ。
また、外国人力士が「わざと負けるように言われた」と涙ながらにメディアに訴えたことで話題になった。
それを抜きにしても、15日制の本場所において7勝7敗で千秋楽を迎えた力士の勝率が75%という統計結果もあり、いわばお約束扱いされている。観客も7勝7敗力士が勝つことについては、あまり問題視しておらず、落語等では人情噺(美談)扱いさることさえあった。
そもそも格闘技の試合を年90回(十両以上は1場所15戦×年6場所)も真剣勝負で行うのはアスリートの肉体的に無理であるため、生命・安全を守るために八百長で体力を節約せざるを得ないという意見もある。
相撲の八百長は星取りやカド番といった状況からある程度見抜くことがはできるが、1対1かつ一瞬で勝負が決まる格闘技なので内容から見抜くことは難しいとされる。
2008年の大麻問題や2010年の野球賭博関与問題を経て、2011年にはついに八百長問題が大きく取り上げられることになった。これまでも週刊誌の告発などで騒がれたが(相撲協会も名誉毀損で裁判で訴えて勝利してきている)、今回は野球賭博問題での警視庁の捜査から明るみに出たことで、物的証拠を伴うものだ。これを受けて相撲協会がついに本場所中止を決定する事態にまでなった。
なお後述する通り、日本の法律では相撲の八百長行為は禁じられていない。ただし、相撲協会内部の規則で八百長行為は固く禁じられている。
その他
日本において、八百長行為が日本の法律で罰せられるのは、競馬や競艇、競輪などの合法的賭博行為においてだ。
プロレスやプロ野球でも逮捕者が出ているのは、あくまで「違法賭博」に関わっていたからであって八百長行為そのものが違法だったわけではない。
合法賭博で態と負けた上で自身の負けに賭けをしたり、その情報を第三者に流せば違法となる。なお競馬での八百長行為は懲役3年および300万円の罰金とされている。
実際、2020年1月に元競艇選手の男(2019年9月引退)が知人と共謀し、競走中に故意に減速するなどして順位を操作するといった八百長行為を行い逮捕されている。
また企業による懸賞でも、その企業の社員や家族、CM関係者などの利害関係者が応募することは八百長(出来レース)疑惑防止の観念から禁止されている(あくまでも社内規定に過ぎないが)。
似たような言葉
出来レース こちらは主に主催者側が行うもので、勝者側はともかく、敗者側の合意は無い。
トス行為 ポケモンにおける八百長行為の呼称。公式大会予選(インターネットによるレーティング方式)において、複数のプレイヤーが特定の仲間プレイヤーを決勝進出させ、見返りを貰う行為。要は前述した「違反握手」と同じ。
発覚した場合、以後の大会永久参加禁止等の厳しい処分が下される。また、優勝賞金や世界大会渡航費が絡む場合は詐欺罪等の刑事罰に問われることがある。
関連タグ
反抗期…いい歳こいて稚拙な行為を働く点から「遅れた反抗期」とも言われている。実際に八百長をやらかしたプロスポーツ選手を含めた有名人のほとんどは反抗期が遅かったと思われる一面も見られる。