ユーベン・ペンバートン
うえとやしんのおとこ
「超えられぬものが柵なのだ。」
「"王"になるのは、私だ。」
「君は君の王道を往きたまえ。」
ドミノ・サザーランド、日ノ元士郎と並び立つ、富士山噴火前からヴァンパイアである真祖の一人。
ヴァンパイアと化した人間達のみで構成された企業『ゴールデン・パーム』を率いている。掲げる理想は『金食礼賛』、望む世界の形は『飢えなき世界』。
作中では日ノ元陣営との決戦を前にしたドミノ達の前に第三勢力として登場し、ドミノ達と一時的な同盟関係を築いた。
豪華絢爛、海千山千、腰纏万金な第三の男。他の真祖の例に違わず神出鬼没の謎多き存在。
ストレートの長い黒髪を棚引かせ、瞳は黄金色。高く通った目鼻立ちから、どことなくアラブ・西洋系の血筋を感じさせる。
格式ばった言葉遣いやゆったりとした物腰の端々からは、一見王侯貴族のような優雅さが感じられる一方で、元々は一農家の出身であり、ドミノからは「田舎成金」とも揶揄されている。
彼の経営する企業『ゴールデン・パーム』は、ヴァンパイアの戦争を勝ち抜くための軍事組織であるのと同時に、表向きは農作物の輸出入や貧困地域への慈善活動を手掛ける貿易会社でもある。
彼の部下のヴァンパイア達は、全員がゴールデン・パームの「社員」としてユーベンに雇われ、雇用契約に基づいて戦いに参戦している。
この点では強い信頼関係によって少数精鋭の部下を率いるドミノや、カリスマ性と政治力によって玉石混淆の100人以上の部下を確保している日ノ元とも異なる。
部下達にはその能力と働きに応じて十分な報酬を与えており、多く者は彼の元で精力的に仕事に従事している。
性格は一見明朗快活で人当たりの良いが、こうした態度はあくまでも彼が処世術として身につけたものであり、青年期までは仏頂面が板についていたらしい。
飄々として掴み所がなく、息を吐くように嘘を吐き、相手を知らず知らずの内に自分の思い通りに動かす狡猾な一面もある。
現代では類を見ない極めて特殊な経歴の持ち主であり、かつては農奴の息子として生まれたが、そこから小国の王として自分の国を持つに至り、現代に目覚めた後は世界を股に掛ける貿易商となり、更には長年を鍛錬に費やした武術の達人でもある。
そうした経歴から来る老獪さと共に、どこか迂闊に信頼できない胡散臭い雰囲気をまとっている。
佐神善は彼と初めて出会った際に「安心するものと緊張するものを同時に感じる」という第一印象を抱いた。
自他ともに認める拝金主義であり、服装や装飾品は外観の美しさよりも「分かりやすく高級そうなもの」を好んでいる。
日頃から趣味(ゲン担ぎ)として中国製の金色の招き猫を大量に購入しているほか、仮住まいとして建てた南伊豆島の屋敷はまるで金閣寺のような一面金色の豪邸に仕立て上げている。
こうした彼の成金趣味について周囲からの評判はすこぶる悪く、特に南伊豆島の屋敷はドミノからは一目で呆れられ、水波や火防も返す言葉がなかった。
ただそうした審美眼とは裏腹に「価値(プライス)のある人間」を見極める力は確かであり、優秀な部下を増やす事に余念がなく、そのためには一切金を惜しまない。
育成力にも優れており、作中では阿久津や明が苦難を乗り越える後押しをして、その成長を心から喜ぶ姿を見せている。しかしその一方で、戦いへの覚悟に欠ける小鹿に対しては、恐怖心を植え付けることで「人格を矯正する」という非情な処置を取る等、単なる老婆心ではない、不要なものを切り捨てる経営者としての冷徹な一面も垣間見せている。
農奴としての過酷な少年時代から「餓えは人を獣にする」という経験論を持ち、彼自身も少年時代に餓えを凌ぐために父親を手に掛けたという凄惨な過去を持つ。
それは彼が生きるためにはやむを得ないことだったが、その出来事は彼の人間性の一部を生涯にわたって欠落させ、以降自分の力の及ぶ限り餓えを根絶するためにありとあらゆる手段を取ってきた。
彼が「金」と「食」を理想として掲げるのは、それが人を獣にしないため、人が人として生きるために必要最小限のものだからである。
劇中においてユーベンと対峙した日ノ元は、人間にとって本当に必要なものだけを追求するそうした姿勢を「慎ましい」と称賛し、同時に古い価値観に囚われた姿から「新しい時代の王にはなり得ない」と批判した。
作中、阿久津はユーベンの部下の人間を2パターンに分類しており、ひとつがユーベンが掲げる理想の社会に賛同した者、もうひとつが彼の下で得られる大金を求める者である。
いずれも共通するのは、彼らはみなユーベンに対して「見返り」を求めていることであり、それゆえに彼の部下達は作中の登場人物の中では比較的凡庸で一般的な感性の持ち主が多い。
ユーベンと部下達との繋がりは金銭による利害関係に基づいていたが、それと同時に彼らの多くはユーベンの清濁併せ持つ人間的魅力に惹かれていた。
彼の部下の多くが善性の人間で、彼自身が破れた後に残党の多くがドミノと共に決死の戦いに挑んだことからも、本質的な部分で彼が非情な人間ではなかったことが窺える。
彼の出自は古く、封建制度が敷かれた中世のヨーロッパに農奴の息子として生まれた。
正確な年代は不明だが、現代の戦争に参戦した真祖の中では最も古い時代の人間とされている。
現代では真祖の特性で不老となっており、整理すると「数百年前に生まれて78年の人生を歩み外見上は38歳」という少々複雑な時間の中で生きていることとなる。
その時代、彼らは家や土地、金銭を所有する権利さえも持たない領主の所有物であり、農奴としての過酷な生活を強いられてきた。
特に彼が16歳の頃は酷い不作であり、食料の少ない冬を越すため父親を殺害し、その後保身のために反乱を企てた農奴たちを領主に密告した。その一件が切っ掛けで彼は領主に気に入られることとなり、彼の下に雇い入れられ、そこで教養と処世術を学ぶこととなる。その過程で彼の能力を見抜いた領主は、彼に貴族の名と爵位、つまりは「人として生きる権利」を与えた。これ以降「ユーベン・ペンバートン」となった彼は、不変の価値を持つ黄金の魅力に取り憑かれていく。
領主はユーベンの能力を高く評価し、彼に人として生きる術を授けたが、ユーベンが心の奥に秘めた餓えた獣のような貪欲さを見抜くことは最期までできなかった。
更に8年後、ユーベンは領主とその息子を暗殺して領地を乗っ取った。その後は戦争を続けて領地を広げていったが、戦争を終えた38歳の時、かつて密告した農奴の生き残りの手で討ち取られてしまう。
柵は越えられないと諦めようとしたものの、彼の心には父を殺した日から穴が開いていた。いくら満たそうとしても乾き続ける空洞があった。そうして彼は崖下から這い上がり、農奴の生き残りを石で撲殺。しかし胸に受けた傷は致命傷であり、静かに息を引き取ろうとしていた。だがその時現王ゴアが現れ、彼の手で真祖化、今から40年前まで仮死状態で眠らされる。目覚めてから富士山の噴火までは戦闘力を高め見聞を深めてきた。
ヴァンパイアの頂点に立つ真祖なだけあり、並のヴァンパイアとは比にならないほど高い戦闘能力を持つ。
その変身体は黄金色の鎧を纏った騎士の姿になり、瞳は赤、髪も銀色に変化する。
身に纏う「黄金」は普通の金と違って超硬度を誇り、並の攻撃では全く有効打にならず、真祖の中でも特に防御に秀でている。
『小麦操作』(正式名称不明)
彼のヴァンパイアとしての固有能力。身に纏う鎧と同質の「黄金の小麦」を生み出し、自在に変形させる。
これは並のヴァンパイアでも持ち得る能力であり、類似能力者には日ノ元明や芭藤などがいる。だが真祖である彼の能力だけあって規模が桁違いであり、剣や盾、巨大なドームから大掛かりなトラップまでありとあらゆるものを創造可能。
この能力を用いた戦闘スタイルは非常に多彩。作中で初めて戦闘が描写された際は剣を用いた白兵戦を行っていたが、これはドミノとの直接対決を想定して力を温存していただけであり、まるで本気を出していなかった。しかしこの状態でも目にも留まらぬ速度で移動し、長年の鍛錬で得た「一切の無駄がない」と言わしめるほど精巧無比な攻撃・回避動作を行い、善と明を圧倒していた。
剣術に優れている一方で徒手空拳には疎いそうだが、純粋に身体能力が高すぎて“押しただけ”で善の胴体を真っ二つにしてしまった。
日ノ元との決戦では、熱線を軽くいなしつつ大掛かりなトラップで手傷を負わせ、彼の身体の可動領域に黄金を仕込み任意のタイミングで動きを阻害するという戦い方を見せた。
Re・ベイキング(戴冠式)
ユーベン自身は所謂「天賦の才」を持つ人物ではなく、本人もそれを自覚しているため、どんな戦いでも事前の準備を怠ることはない。
その彼の切り札が「Re・ベイキング」。ヴァンパイアの能力を一定時間使用しない「溜め」を条件に発動。
姿が大きく変化し、スピード、再生能力が大幅に向上する。さらに、能力も強化されており、超巨大なドームの形成や、ドームそのものから槍の雨を降らせる等、能力の幅が広がっている。
容姿の変化としては、鎧がより重厚になり、背部にはマント、頭上には王冠型の発光体が出現する。
この形態では同じ真祖である日ノ元をまるで寄せ付けない程の戦闘力を発揮する。
この能力の正体は「ステータスの再分配」。
本来真祖とは生物の到達点であり、血を飲もうが真祖以外のヴァンパイアの心臓を食らおうが成長することはない。
よって真祖のスペックを仮に数値化するならパラメーターこそ異なるもののその合計値は全員横並びである。
しかし、Re・ベイキングによってステータスを1vs1に特化させることにより、ユーベンは戦闘で大きなアドバンテージを得ることがでたのである。
当然デメリットもあり、
・ステータスを削られた要素は当然弱体化する。
・溜め時間に比例した時間制限がある。
・一度Re・ベイキングしてしまうと解除後元の能力に
不具合が生じる。
・タイマン特化の仕様のため、他のヴァンパイアの横槍に弱くなる。
等と、決して低くないリスクを抱えている。
日ノ元を追い詰めていたユーベンであったが、葵洸のD・ナイト『招来跳躍』により集結した燦然党上位陣によるD・ナイトの一斉攻撃を喰らい、ユーベンは重傷を負ってしまう。絶体絶命の状況の中、彼が回想していたのは自身の父を手に掛けた瞬間であった。
「…なぜ、私を殺そうと?」
彼の父殺しの真相は冬を越すために殺されそうになった際の返り討ちであり、父が今際の際に語った「飢え」という言葉を“柵(しがらみ)”として今も抱えて続けていた。
領地を増やそうとしたのも、ヴァンパイアの王を目指すのも、人を獣に変えてしまう「飢え」を憎み、それを取り払おうとしたからに他ならない。真祖として活動を開始してからも、飢えを根絶するために食物の輸出を手掛ける『ゴールデン・パーム』を起業し、日々世界中に蔓延る「飢え」と戦ってきた。
だがそんなある日、
「足りている?」
取引先の国で小麦が豊作だったようで、ゴールデン・パームからの買い取りは不要だと伝えられ、それをきっかけに『この世界に飢えはあるが、随分減った』ことに気付く。彼の心に空いた穴も、飢える人間が減りつつある現代社会を過ごす中で徐々に埋まっていった。
つまり、彼はドミノや日ノ元と異なり、『死に物狂いで手段を選ばず勝つ』という勝利への『飢え』が足りなかった。そのことを敗北後、日ノ元本人の口から伝えられた際は穏やかな表情で満たされつつあったことを悟る。
『田舎者でね。
どうだ、素晴らしいと思わんかね?私の、理想の全てだ。』
最期まで自分の理想を信じて飢えと野心の男は、灰の中へと消えていった。
自身の右腕。彼の能力と傭兵としての割り切ったスタンスを高く評価しており、重要な場面では常に側に侍らせていた。誰かに情を抱くことがまずない火防にしては珍しく、ユーベンには思い入れがあったようで、最後まで彼こそが王に相応しいと信じていた。
ユーベン本人も彼への理解は深く、もしも自身が敗亡した場合は彼が拗ねて破滅的な行動に走ることまで予測していた。
部下たち。彼らとは金で繋がっただけの関係ではあるが、両者ともユーベンを慕っており、彼もまた彼らのことをよく見て理解していた。
自身と同じ親殺しの道を歩もうとしている似た者同士で、彼女に対してはシンパシーを感じている。期待値が高い分「私は君の未来の一つだ」とアドバイスを送ったりと、特に気に掛けている様子。ドミノが気付けなかった彼女の本当の長所についても見極めており、明にとっての最大の理解者であった。
同盟相手。給料を与えるユーベンと、無賃労働させるドミノでは正反対であり、更にいずれ殺し合う関係ということで完全に信頼してはいなかったようだが、それでも彼女の生き様を『美しい』と称していた。
そしてお互いに『彼/彼女なら王に相応しい』と最大級の敬意を持っていた。
この先物語終盤のネタバレを含みます!
日ノ元に敗北後、彼は遺灰物に宿る幻影として度々登場するのみで物語からはフェードアウトしていた。
だが物語の最終盤で、善のゴアとしての覚醒や最愛の妹を目の前で失い「流石に疲れた」と弱音をこぼすドミノのパソコンへとあるメッセージが表示された。その送り主の名はユーベン・ペンバートン。
「ファハハハハハハハハハ!やあ。久しいね、ドミノ。」
なんと彼は自身が敗北した際に備えて、ドミノへのエールをビデオメッセージという形で遺していた。
ユーベンはこのメッセージが届いている頃には自分が死んでいること、ドミノが勝ち残ること、そしてゴアに挑むころである事を予期していた。実際に現実はその通りになっており、最終決戦を前にドミノが悩み苦しんでいることまで読んでいた彼は心ばかりのエールを送る目的でこの映像を撮影していた。
いつもの余裕たっぷりな物腰で不要な話をし始めるユーベンだったが(勿論この部分は早送りされた)、本題に入ると彼はドミノの理想である『誰も殺し合わない世界』を美しいと評価しつつもその若さを指摘する。
「救った者に裏切られることもあるだろう。それによって悲劇が起こり、そのツケは 自分以外にまで及ぶ。
君程の者でも悩むね。世界の王、自分はその座に相応しいのか…と。」
ドミノが抱えていた悩みを的確に言い当てると、ユーベンは直後その悩みを「知らんね。」と笑顔と共に一蹴する。
その真意は真祖など所詮ゴアという怪物に気に入られただけの人間であること、そして王とは本来自分から望んでなるものではなく、掲げる理想の中から最もその時代にフィットしたものが民から選ばれるべきものというものだった。
ユーベン自身も『飢えのない世界』を掲げて戦って来たが、フードロスなど飽食が問題視されるほど豊かな現代では標榜するには自分の理想は古すぎた事を自覚していた。だがそんな古い彼だからこそ、最古の王たるゴアの理想にも一定の理解を示し、彼を偉大な王だと認めていた。それを全く理解出来ないドミノに対して彼は『それでいい。』と語る。
「古き者は消え、若き者が走る。それが世界というものだ。
その世界の中で不変の王などと…黒く濁っていくだけだ。ゴアは世界を滅ぼすところまでいくだろう。
その時、民は何を望むか?ゴアの理想の対極にあるもの。白く美しく、若い理想ではないかね?
初めて会った時から思っていた。今、この世界で、民が選ぶのは、きっと君だ。」
ユーベンはドミノの勝利を信じて、餞別として自身の所有していた財産の全てを彼女に譲った。(なおこの際、自分が死んで火防が拗ねていることを予想しており彼にも少し金を握らせておくことを頼んでいた。)
「世界を変えていくのは、若者の仕事だ。君の勝利を信じている。
民を、飢えさせんようにね。」
そう締め括って、ユーベンのビデオレターは終了した。メッセージの最初でドミノは一人でも立ち上がると語っていたが、彼の後押しでドミノは完全に立ち直り自身の王道を征くことを改めて決意するのだった。
そしてゴアとの決着がつき、ドミノが勝利した直後。真祖4体分の力を無理やり宿しさらにそこへRe・ベイキングを行い崩壊しつつあったドミノの肉体だったが、その瞬間、心臓に宿っていた真祖たちの力が消滅しドミノの身体は崩壊を回避することが出来た。
「少々傷跡は残してしまうがね。だが、年をとるとはそういうことだ。許してくれたまえ。」
こうして、ユーベン・ペンバートンという存在はその力も含めてこの世から消滅した。最後の最後まで、老手として若者の進む道の手助けをしていたのであった。
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