概要
T-64をベースに開発され、T-72と同時期となる1975年に生産が開発された。後述する数々の新機軸を盛り込み、「ソ連戦車の中でも最も高度な戦車(Wikipediaより)」とされている。
一方でその高度さからソ連崩壊まではソ連軍のみに配備され、輸出等も行われなかった。
設計
兵装
特徴として、主砲である2A46M-1 125mm滑腔砲から射程約4000~5000メートルの9M119MレフレークスMレーザー・ビーム・ライディング誘導対戦車ミサイルが発射可能にした。この装備は後のT-90にも引き継がれることとなり、西側戦車の射程範囲外から攻撃可能な能力を得た。
また、125mm滑腔砲の通常砲弾は分離装薬式のAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)及びHE-FRAG(破片効果榴弾)を使用する。
装甲
T-80の装甲は砲塔最大410mm、車体最大420mmの複合装甲で構成されているが、その防御性能は未だに未知数である。その他、爆発反応装甲も追加できる。
機関
T-80ではT-64で計画中止となったガスタービンエンジンを採用している。
ロシアでは以前からガスタービンエンジンの開発に熱心な国であった。ガスタービンエンジンの特徴である小型軽量で大馬力なので戦車シルエットの小型化に全力を傾けてきたロシアとしては非常に重要なことであった。しかし、ガスタービンエンジンの開発は困難を極め、当初T-64シリーズにも搭載される予定であったが開発に失敗してしまった。
T-80ではガスタービンエンジンの搭載が至上命令となり、航空機用ジェットエンジンの開発の実績も豊富な、クリモフ名称化学生産合同企業に開発が引き継がれて開発に成功、実用化することができた。しかし、ガスタービンエンジンは燃費が非常に悪く、1リットルで400mほどしか走行できないとも言われる。そのため、ディーゼルエンジンを搭載したT-80UDも並行して調達されることになった。
電子装備
T-80はスタビライザー付きの125mm滑腔砲を装備し、新型の火器管制システムとトランスミッションを搭載している。自動装填装置はT-64の改良型で、装填トレイ上には28発の砲弾を搭載可能にした。NBC装置の他、夜間暗視装置も備え付けられているが、本格的に生産が始まる頃には、ソ連経済の失速もあって非常に高価なT-80は悩みの種となった。
燃費向上
急遽保険として開発されていたディーゼルエンジン搭載車も1985年に採用された。
戦車も引き続き調達され、ハイローミックスで運用されることになった。その後エンジンをパワーアップした型や爆発反応装甲を搭載したモデルなどの改良型が登場し、1985年にはT-80シリーズの決定版とも言えるT-80Uが登場、燃費と機動力も大幅に向上した。
実戦投入、しかし…
これにより、ソ連が当初目指していた究極の戦車としてT-80は完成した。
が、数々の新機軸を投じた結果、やはり元となったT-64同様複雑かつ高価な戦車となってしまった。それ故に生産数も約4000両と、ソ連国内だけで2万2000両が生産されたとされるT-72の5分の1程度と少ない。
そんなものなので配備はソ連軍のみに限られ、そのソ連軍の中でもNATO軍に対峙する精鋭部隊に集中配備されていた。特に東ドイツに駐留するソ連軍部隊に生産数の約半数が集中配備されたという。
また、T-80を補完する目的で開発されたT-72もアフガニスタン紛争や湾岸戦争など(その結果はさておき)数々の戦場に実戦投入されたのに対し、T-80は実戦投入されることなく温存され続けた。
結局ソ連崩壊までT-80は実戦投入されず、目立った活動もソ連8月クーデター時にクーデター側が投入したことくらいだった。
初の実戦参加はソ連崩壊後の1994年の第一次チェチェン紛争で、そこにロシア連邦軍のT-80が実戦投入されたが、主砲の俯仰角が小さいT-80には不向きな市街戦・ゲリラ戦が多く、特に激しい市街戦となったグロズヌイの戦いにおいて多数が撃破された。以来、ロシア軍はT-80の実戦投入を渋るようになってしまった。
しかも、T-80の開発拠点はウクライナにあったため、ウクライナ独立後は部品供給が困難になってしまった事も追い打ちをかけ、ロシア軍は主力戦車をT-80に一本化する事をあきらめ、T-72にT-80の技術を取り入れたT-90を主力とする事になる。結果2001年に新規生産は終了となり、以後は改修や改良がメインとなっている。
なお、ロシアによるウクライナ侵攻の際はロシア・ウクライナ両軍がT-80を投入し、ウクライナがロシアから鹵獲したT-80を再整備して投入するという事態も起きている。ウクライナ侵攻で多くの戦車を失ったロシアは、T-80に自爆ドローンのトップアタック対策となる「コープケージ(鳥かご)」と呼ばれる屋根型の装甲を追加したほか、2001年に生産終了したT-80の生産を再開しようという動きを見せている。
市場売買
ソ連崩壊後はT-80も輸出商品の目玉として盛んに海外への売り込みが図られており、パキスタン、キプロス、韓国などへ輸出され、5ヵ国で約4000両の戦車が運用されている。
ただし複雑・高価な事もあってかT-72やT-90ほど広く輸出されるには至っていない。
韓国に対しては債務支払いの代わりであり、韓国軍では当初朝鮮人民軍を模したアグレッサーとして運用されていたが、現在はK1等と共に実戦配備されている。
韓国の国産戦車がK1A1、K2と色々アレなせいで実質的に韓国軍で唯一マトモな戦車であるといえる。
またウクライナでは、独立後も自国で運用するT-80UDの改良作業を続行し、国産部品を使用したT-84、そしてオプロートへと発展。その一過程として、前述の通りパキスタンへ輸出された車輌の一部にはウクライナ製の新しい溶接砲塔が採用された。
主なバリエーション
T-80
最初の量産型。T-64ベースに、1100馬力のガスタービンエンジンを搭載している。
T-80A
寿命と整備性に難があったガスタービンエンジンを新型に換装した改良型。
最初の改良型だったが少数の生産に留まり、設計はT-80Uに引き継がれた。
T-80B
T-80Aの開発で得たノウハウを元に開発された大幅改良タイプ。射撃管制装置と複合装甲を新型に更新している。指揮官用のモデルではナビゲーションシステムと通信機能が搭載され、T-80BKとして区別される。
ただ、相変わらず経済性と整備性には難を抱えていた。
T-80BV
T-80Bの派生型。コンタークト1爆発反応装甲を装備している。
T-80BVM
2017年登場した最新改修タイプ。爆発反応装甲を新型に換装し、主砲も新しいものになっている。主に北極圏での運用が想定されている。
T-80BVM Obr.2022/2023
2022年以降の生産タイプ。ウクライナ侵攻による経済制裁で西側から光学系機器が輸入できなくなったため、T-64などの旧型に使われている国産機器を搭載しているモデル。そのため性能が低下している。
T-80U
T-80Aから派生した改良タイプ。砲塔を新型に換装し、ガスタービンエンジンも出力アップした新型になっている。
砲塔の内張りには水素吸蔵合金が使われ、中性子爆弾の対策も行われているとされている。1997年以降のモデルはアクティブ防護システムの装備も可能になっている。輸出用モデルはアクティブ防護システムを持たない。韓国に配備されているのもこのタイプ。
T-80UD
T-80Uに搭載する新型ガスタービンエンジンの開発に失敗した際の保険として開発されたディーゼルエンジンのモデル。出力が劣る代わりに燃費や価格、整備性に優れる。
T-80UM
火器管制システムを新型に換装した改良型。これを元にした改良モデルは販売に至っていないが、ウクライナ侵攻に投入されたといわれ、ウクライナ軍が撃破したと主張する写真を公開している。
チョールヌィイ・オリョール
1台しか作られなかった試作戦車。
車体を延長しているほか、弾薬庫の配置を改めブローオフパネルを備えるなど西側の戦車に近い設計思想だったが、開発中止。
T-84
ウクライナで開発されたT-80UDの改良型。
砲塔やその内部機器が新型に換装されており、機動力ではT-90をも上回る。その後もウクライナ独自の改修が続けられており、砲塔を西側の仕様としたモデルも登場している。
諸元性能
全 長 :9.66m
車体長 :7m
全 幅 :3.6m
全 高 :2.2m
重 量 :46 t
懸架方式:トーションバー方式
最高速度:65 km/h(整地)~45km/h(不整地)
航続距離:335km~600km(外部タンク搭載時)
発動機 :GTD-1250 ガスタービン1250馬力
乗 員 :3名
主 砲 :125 mm滑腔砲 2A46M-1
副武装 :12.7mm NSVT機関銃、7.62mm PKT機関銃