概要
ドイツ第三帝国時代の重戦車。一般には「ティーガーの愛称で知られる。
当初採用されたVK4501と、大戦末期に生産されたVK4503の両者を合わせてVI号戦車とされている。
VK4501 ティーガーI
フランス陸軍のルノーB1bisやソミュアS35はIII号戦車のように無線機などを搭載しておらずドイツは戦術においてフランスを破ったものの連合軍の戦車は装甲が厚く正面から突破するには大変苦戦を強いられるという問題が浮き彫りになった。
1941年5月に距離1,400mで100mm厚の装甲を撃ち抜く能力と、前面装甲100mmの防御を有する重戦車の開発がヘンシェル社とポルシェ社に下された。
当初は30t級、並びに36t級戦車として開発されたが、1941年6月の「バルバロッサ作戦」においてソ連軍のT-34やKV-1などの重装甲を備える戦車に遭遇して以降は、ますます重戦車の開発、生産に拍車がかかることになった。
1942年4月20日、2社がそれぞれ開発した試作車両がヒトラーの査閲と面前での直進走行試験が行われた。その結果、車体はヘンシェル社のVK3601(H)の拡張版であるVK4501(H)のものが、砲塔と主砲はポルシェ社のVK4501(P)のものが採用された。
1942年に完成した先行量産型は8月にレーニングラード近辺の戦線へ投入され、先年ドイツ軍兵士が受けたT-34に対する衝撃を、今度はソ連軍兵士に味わせることとなった。対戦車砲としても非常に優れていた8.8cm高射砲を改良した8.8cm KwK36戦車砲は高い防御力を誇っていたソビエトのKV-1も撃破でき、前面装甲厚100mmを誇る重装甲にT-34の持つ76mm砲では歯がたたなかったのである。
大戦中期から終戦までに約1,400両の本車と約500両のB型(ティーガーII)が生産されており、戦況が悪化していたドイツの生産力でこれだけの数の重戦車を量産したことは、この重戦車に賭けていた意気込みの高さを示すものであろう。
なお、通常の装甲師団には配備されず、その多くが独立重戦車大隊に配備された。独立重戦車大隊自体は陸軍総司令部直轄であるが、軍団の直轄部隊として運用されたり、中隊単位に分割されて戦車連隊に配属されたりし、主に戦線の火消し部隊として活躍した。
VK503 ティーガーII
装甲や主砲の威力では、大戦中に実用化された戦車の中では最強と言われる。
アメリカ、ソビエトなど連合国軍のあらゆる戦車を、2000mの彼方(当時は正確な射撃すらおぼつかない距離!)から一方的に撃破することができた。
一方で重量70トン(正確には69.8t)に達する巨体のため機動力が低く、その上エンジンはティーガーⅠと変わらなかったので慢性的な出力不足に悩まされた。
常に全力で回さなければならず、オーバーヒート等のエンジントラブルは日常茶飯事。
トランスミッションも頻繁に故障した。もちろん燃費も最悪クラス。
『走れば壊れる』という代物が多かった第二次世界大戦中の戦車のなかでも、(特にドイツはその傾向が強い)特に信頼性に問題があった戦車である。
大戦末期の敗走の中で隊列から脱落する個体が相次ぎ、また故障により爆破・放棄される車両も多かった。
大戦末期の防衛戦ではその能力を遺憾なく発揮したが、生産数が少なかったこと(485両~492両だとか)、敗色濃厚の情勢での実線投入だったことから、戦局に大きな影響を与えることは無かった。
ただし防御力は折り紙つきで、正面で150mmに及ぶ装甲はもはや撃破不可能である。
側面や後面も80mmの傾斜した装甲で覆われており、これでも撃破は至難だった。
巨体にトドメを刺したのは機関故障・放棄であり、もしくはヤーボ等による空襲だった。
発展型88mm砲(kwk43 L/71)の威力も抜群で、2000mの彼方からIS-2の正面すら貫通する。
当時のドイツ製照準器は優秀で、そのような距離での砲撃も可能にしていた。
また、熟練した砲手の手にかかれば遠距離での命中も訳ない芸当だった。
ただし戦況の悪化は弾薬の生産にも悪影響を与えており、『戦車はあっても砲弾が無い』という状況も多かった。
以上の要件が絡み合い、また戦車回収車も不足していたので故障したら即放棄となる事も多かった。
中でも機動性の悪さは味方への嫌がらせになるレベルで、これでさらに遅いヤークトティーガーまで存在したのだからたまらない。
ちなみにヤークトティーガーには、『戦後、街路の真ん中で各坐した車両を回収しようとしたが、肝心の改修車が重量に耐えきれずに故障。結局は手作業でガスバーナーを使い、細切れにしてやっと除去した』という逸話が残されている。
ティーガーはドイツ語で虎の意味。正式にはVI号戦車B型である。ただし、外見的にはパンターを巨大化したようなデザインになっている。
以上、”第二次大戦中最強”と呼ばれる戦車ではあったが、如何ともしがたい信頼不足とあまりにも少ない生産数のため、戦況を覆すまでには至らなかった。
ただし、真に特筆すべきは、このあまりにも実用性に乏しい兵器を、各部に改良を加え、調整し、なだめすかして、苦しい戦況を戦ったドイツの戦車兵たちである。
補記
現在、世界各地に展示されているティーガーIIが数両あるが、そのうちアルデンヌのラ・グレーズ村にSS第501重戦車大隊所属の車両が屋外展示されている。この村へは曲がりくねった急勾配の坂道を通らねばならず、この事は、ティーガーIIが熟練した操縦手を確保し、十分なメンテナンスを与えられ、駆動装置の改良を受ければ、満足な走行性能を発揮することができたことを証明している。
派生型
シュトゥルムティーガー
既存の車両を改装して生産された突撃臼砲。主砲として38cmロケット砲を備える。生産台数は18両。
ベルゲティーガー(ティーガー回収戦車)
主砲を取り外し、クレーンを砲塔に取り付けた回収車。生産台数は3両。
登場作品
泥まみれの虎 宮崎駿監督が手がけた、ドイツ戦車エースのオットー・カリウスの戦いを描いた戦記絵本。登場人物が「擬人化した豚」として描かれている。
ガールズ&パンツァー 黒森峰女学園が使用する
余談
ティーガーIのキャタピラは1枚およそ30kgあり、片側で96枚、約3tもある。
また幅も広かったため貨車で輸送する場合、横幅が外にはみ出してしまい、列車の運行に支障をきたす有様だった。そこで幅の狭い輸送用のキャタピラに交換する必要があった(もちろん戦場に着いたら、通常のキャタピラに戻さなければならない)。その交換には熟練した乗員が総掛かりでも約25分を要した。
とてもではないが、女子高生が運用できるようなシロモノではない