概要
『ソニックカラーズ』以降、ファミリー向けと海外受けを中心に考えた結果、ソニックのシナリオは日本人ライターではなくアメリカ人ライターを選ぶことに決定。
その時、担当することになったのがケン・ポンタック(以下ケン)とウォーレン・グラフ(以下ウォーレン)である。
元々ソニックのシナリオ評価は(ゲーム性の面で)クソゲーと名高い『新ソニ』ですら日米ともに低いわけではなかった(ラブロマンスなど一部は除く)が、シリアス色が強く内容としては日本で言えば小学生高学年以上向けのものになっていた。
しかし『新ソニ』によるブランドイメージの損壊により、次なる手を打たないといけなかったセガは挽回の方法を模索。
この間に発売された『ソニックワールドアドベンチャー(ソニワド)』やストーリーブックシリーズもシナリオの評判は悪くなかったが、ゲーム評価としてはソニワド以外はまちまちであった。
こういった迷走を続けている末に、メインユーザー層のアメリカ向けに路線を転換することが決定。
というのも当時のソニックはシナリオ評価こそ高かったが、ソニアドシリーズに見られるようにシニカルな展開が多く、新ソニでそのシニカルさが極まってしまった。
対するマリオがファミリー向けとして幅広く普及していく中、ソニックは海外ではミッキーマウスと並ぶ国民的人気キャラであるのにもかかわらず、そのイメージとは異なる作風となっていた。
これを打開するため、アメリカ人ライダーをメインに迎えて『カラーズ』から本格的にこの布陣になったのだが、シナリオの評価は散々であった。子供向けにした結果、それに合わせるためのキャラクターの性格変更が行われていることもマイナスに働き、この時期のソニックを暗黒期と称する声も多い。
なお、メインライターの「ケン・ポンタック」という名前が日本人には特徴的な響きだったことから、「ケンポン」として悪い意味で浸透。本記事のように「ダメ脚本を書いた代表格」として扱われるようになってしまう。
その作品と問題点
カラーズ・ジェネレーションズ
『ソニワド』も比較的万人向けのシナリオだったが、同作のシナリオはそれに輪をかけて薄味になってしまった。
そのうえソニックが微妙なジョークを飛ばすキャラになってしまい、多くのファンから不評を買った。
いや、それでも海外で人気なら仕方ない……
……と思うかもしれないが海外は海外でこの方向性の変化は大ブーイングを受けている。
ゲームの評価自体は高い一方、このシナリオだけが実に残念な結果になってしまった。(ただしシナリオと関係ないエッグマンの遊園地アナウンスは大好評である。恐らくこれはシナリオライターが書いたものではなさそうだが)
だが当時は少なくとも日本ではそこまで危機感は漂っていなかった。
何故なら当時のソニックは作品ごとにシナリオの空気感やムービー演出を変えていたからである。
それでも「ソニックはどんな時でも前向きで、絶望的な状況であってもちょっとキザだがクールに対応するかっこいいヒーロー」というイメージだけは概ね共通していた。
続く『ジェネレーションズ』でもその今までのソニックとは違う空気感は変わらずで、シリアスさに乏しいものであったが、ゲームの評価がシリーズ屈指だったこともあり『カラーズ』と同じ評価に落ち着いている。
ロストワールド
事態が変わったのは次の『ロストワールド』からである。同作はソニックシリーズ随一のキャラ崩壊作品として有名であり、この脚本の評価を大きく落とした。
- 軽率な行動を取りまくるうえ、いつもではないような余裕のない怒り方をするソニック
- 神経質になりソニックに当たり散らし、あまつさえエッグマンに厭味を言うテイルス
- カラーズで分かれたはずのウィスプが何故かいる(後に補足された)、アイテム扱いで酷いとこちらも不評に
と、これまでのシリーズではあまり見られなかったような描写が目立った。
ついでにあまり突っ込まれていないがエッグマンもいつも以上に陰険な物言いが多い。
これが日米問わず世界中のファンからの反感を買った。
ゲーム内容自体は決して悪いものではなく、メガドライブ版を元にしたモダンソニックとしてかなり作り込まれているのだが、当時大人気だったブースト路線を捨てたものであったこともあってかそれと合わせて駄作という評価が定まってしまう。
三作品シナリオ面での評価が得られず、『ロストワールド』に至ってはハードの売上不振もあってセールスを大きく落とした。
トゥーン
より子供向けとして最初から世界観を作り込んだ『ソニックトゥーン』も、アニメまで放送した。アニメの方は海外を中心に好調だったが、ゲームの売上の方は内容が微妙だったせいでぱっとしなかった。
こちらは純粋にアクションゲームと化した作品で、ソニックヒーローズをよりスタンダードな3Dアクションとしたもの。しかしソニックらしからぬただ敵の殴り合うだけのゲームだったため、総じて評価が低いのだが。
ファイヤー&アイスのみ、初期二作の反省点を活かしたことでそこそこ評価の高い作品となったが、それでも不調を覆すほどにはならなかった。
フォース
危機感を覚えたのか、セガは『ソニックフォース』においてシナリオ面の大改善を大々的に訴えた。
『アドベンチャー』並との宣伝もあったため、ファンも期待していた。
発売前にはシリアス感を煽るエッグマンらの警告PVが公開されたり、コミック版が展開されるなど、シナリオ面にある程度力を入れる姿勢も見られた。
が、蓋を開けてみれば『カラーズ』から『ロストワールド』までのそれとそう変わらない内容であった。
- 盛り上がらないムービーの戦闘シーン(終始)
- 事前会話の情報と噛み合わないソニックの状況
- 「ソニックが長い間酷い目に合わされている」とメニュー画面の会話シーンでは騒がれていたのに直後のムービーシーンではケロッとしている。傷つけられた描写も疲弊した様子もない。レジスタンス軍に状況が誇張して伝わっていた可能性もあるが、あくまで考察であって補完はされていない。
- また長い間拘束されているのにもかかわらず疲弊した感がまったくないのは不自然で、いくらソニックが余裕のある性格だとしても緊張感を薄れさせるだけになっている。せめて「余裕があるように強がっているだけ」という描写にして疲弊感を出したり、見た目的に芋毛やトゲがボサボサかよれよれになるとかぐらいは出来たのでは……。
- 世界の99%が支配されているわりには外の状況が描写されていないので実感が薄い
- 戦闘シーンの描写が全くない訳では無いが、ほぼ背景や無線上でのみ展開されており、プレイヤーも戦っているという実感が無い
- 「というかGUNはどうした?」という疑問に対してはソニックの世界観がいつの間にか獣人世界と化していたという衝撃の展開に(これは後にテイルスチューブで「GUNはエッグマンが一瞬で蹴散らした」として後付で補足されて整合性を取られている)
- 全体的なキャラ崩壊&無能化とアバター持ち上げ展開
- アバターのプレイング自体は面白いのにもかかわらず、彼(彼女)を立てるためのシナリオになっているせいなのか、せっかくのジェネレーションズ以来の既存キャラ大集合なのに「置物・無能化」しがちに
- やたら張り切っているが肝心な時に限ってすぐに絶望するナックルズら
- ほとんど何も手を打たないため、レジスタンスの中核にいる理由に乏しいカオティクスの面々
- シャドウ・シルバーはあまりキャラ的にイメージを下げたところはほとんどない。ただしシルバーは新ソニとマリソニ以外の国内展開は乏しいかちょい役なため、イメージ崩壊が起きにくかった側面がある。
- アバターのプレイング自体は面白いのにもかかわらず、彼(彼女)を立てるためのシナリオになっているせいなのか、せっかくのジェネレーションズ以来の既存キャラ大集合なのに「置物・無能化」しがちに
- 鳴り物入りで登場したインフィニットの台詞が三下のチンピラのようなものばかり
- 戦えない相手を「ゴミ」などと見下すなど、やたらイキったチンピラのような台詞になってしまっている
- しかも何故か毎回自分が超有利な状況で特に理由もなく見逃す
- なのでチートとしか言いようの無いファントムルビーを使用していながらも強キャラ感が皆無(そもそもカオス0を量産している時点で……)
- ネタバレなので詳細は伏せるがその最期もプレイヤーを悪い意味で驚かせた。
- テイルスが安易にへたれ化し、カオス0相手に即座に怯える有り様
- 『ソニワド』でもソニックに助けを求めるシーンはあったが、相手とある程度交戦や対話を求めた形跡はあるし、震えて頭を抱えるようなことはしていない
- ソニックへの信奉も過剰になりすぎている、『アドベンチャー』での精神的成長はどこへやら(目の前でソニックの完全敗北を見てしまったからだろうか)
- カオスをボスとして登場させるかのような広告をしておきながら登場はムービー内のみで実際に戦う事はない
- 『ジェネレーションズ』でもそうだったが、過去作との繋がりを意識しながらもその拾い方が非常に曖昧、それどころかなかったことにしたような展開(先のテイルスで顕著)。同じく過去作との繋がりをネタにしていた『暗黒の騎士』はゲーム内の台詞で軽く触れる程度だが、プレイヤーからは非常に納得されていた。
と、ストーリー面に力を入れたと掲げておきながら内容としては「『ロストワールド』よりマシだがそれ以外よりは酷い」という散々な結果となった。
なお、ゲーム自体は順当に進化を遂げており、「ステージのボリュームが(シリーズ経験者からすると)物足りなさすぎる」、「難易度がヌルすぎる」という問題点さえなければ不満は少なくなった筈であった。
だが、『新ソニ』の時と違いシナリオ面でも愛される要素のなくなったソニックシリーズは、『ロストワールド』から『フォース』に至るまで大きくそのセールスを落としてしまう。結果、シリーズ存続の危機に陥ることとなった。
原因?
どうしてこうなったのか?
まず原因として挙げられるのが脚本のソニックシリーズへの無理解であるという点であろう。
ケンがソニックシリーズをよく知らないで書いたと発言して世界中からバッシングを浴びたのは有名な話だろう。
ただしウォーレンが後に語ったところによると、「自分達は提供された資料を吟味して様々なアイデアを出したが、制作側によって決められた内容をリライトするだけの役割に押し留められ、発言権はなかった」とのことである。
ただ、そもそもゲームを作るのはソニックチームである以上、シナリオの大枠を決められないのは当然ではある。
大枠だけ決めてそこをリライトしたり詰めていくうえで、ソニックという作品との相性が二人は良くなかったのかもしれない。
実際、後任として起用され、IDW版で活躍していたシリーズオタクでもあるイアン・フリンに交代して以降、シナリオ評価はぐっと上がっている。
なおイアンもウォーレンと同じ証言(大枠はセガの決定)をしているが、これだけ評価に差が付いているのは考慮に入れるべきであろう。
後の『フロンティア』は日本版のみ翻訳問題(と言っても上記と比べたらかなりマシ)で評価を落とし続けてしまったが、『シャドウジェネレーションズ』にてゲームの不満点を含めて解消された。
当時はファミリー向けソニックとしてイメージを変えようとしていた時期だったが、いささかやり方が強引だったことは否めない。
特にアニバーサリータイトルである『ジェネレーションズ』での世界観はかなりあやふやな感じで描かれており、ファンに混乱を産んだだけになってしまっている点も大きい。
また、ソニックのイメージが日本では馴染みの無い旧作やアメコミ等で(上記のキャラ崩壊が霞んで見えるレベルで)異なっており、それありきで考えるならキャラ改変の問題はそもそもなかったという意見もある。
ただし、これらは俗に言うマルチバースであり、ゲームの世界観とは原則無関係な話である。この前後に公開された実写ソニック含めて、この点は考慮するべきであろう。
あくまでゲームだけで言えばケン&ウォーレン時代の前において大きく世界観が変わったのはクラシックからモダンに移る時期くらいで、それ以外は一定のイメージは保ち続けていた。
以降『ソニワド』に至るまである程度の性格の違いはあれど、モダンシリーズにおけるイメージ崩壊はほとんど取り沙汰されることはなかった。
失敗の原因は、これまで未就学児よりは上の層を狙った、言わば背伸びした子供向けの作品として大人にまで人気を広めていたソニックを、突然子供向けとして路線転換しようとしたことで、これはジェネレーションズでクラシックソニックを復活させておきながら、こちらのIPを別路線として上手く扱えなかったことが全ての原因である。
つまり、ソニックフロンティア以降から始まるモダンとクラシックの棲み分けをこの時点でやっておけば問題なかったのであるが、それを怠ったことがソニックブランドを大きく貶めることとなった。
誰が悪いのか
これらの裏事情を受けて、ケン&ウォーレンは悪くないとして謝罪するファンも多く増えているが、この時期のソニックの迷走が成功とはいえないのは誰の目にも明らかである。
最も非難されているケン&ウォーレンには、立場上同情するべき点はかつてより明らかになり、諸事情を鑑みて同情の余地は十分ある。が、ただ彼等にまったく責任がないかと言われればそれも違うだろう。
それほどまでに不満がありながら行動を起こさなかったのも事実だし、内部機密ということで言えないこともあったであろうことは推察できるが、それならそれで契約期間中にケンが「ソニックを知らない状態で書いた」と発言し、言い訳じみた責任逃れをした事実を鑑みると機密の話とはいささか矛盾してしまう。
よって、彼等の自己弁護的な発言は、全てを鵜呑みにできない責任逃れ的なムーブと取られても仕方ないところは見て取れる。
そもそもアメリカでは自己弁護のために都合の悪いことを隠しつつ、相手に責任をなするようなムーブを取ることはままあるため、より鵜呑みに出来ないことが多いのも確かである。
ソニックはゲーム的な改善点を常に考えて、内容としては進歩を続けているが、シナリオ面においてはカラーズ(とソニジェネ)・ロストワールドの失敗を教訓にできておらず、この点も制約が多いとは言ってもファンから見ればベストを尽くしてくれなかったと思われてしまうのは仕方のないことだろう。
また、翻訳・リライトの質の悪さも指摘されている。事実、同じくケン&ウォーレンの手によって描かれた『チームソニックレーシング』のシナリオは、この時期の作品にしては珍しくあまり悪く言われておらず、それぞれのキャラクターのイメージがそこまで壊れていないと評判である。
ではソニックチームが悪いのか、と言うとインタビューを見る限り当時のソニックはかねてから海外のほうが人気であることもあって、アメリカ側の発言権が年月を経るごとに強くなっていった部分も見受けられる。
実際、かつて多くのソニックゲームの開発中止を決めてアメリカのスタジオを振り回してきたのは日本のセガであったが、ソニックの路線転換を推し進めたのは海外のマーケティングの影響が強いと言われている。
また、『ロストワールド』の際はボーカル曲禁止と厳命したのもアメリカ側であり、日本人のシナリオライターを外したのもセガアメリカ側の可能性が高い。
しかしこれで肝心のアメリカのファンから支持を受けられなかったわけなので、これは結局誰も報われない話に終わってしまった。
なお、セガやソニック関係者はこれについてコメントしておらず、あくまでケン&ウォーレンの証言であることは留意すべきである。
こういった暴露系について企業が行動を起こす場合もあるが、「行動を起こさない=認めた」、とは必ずしもならないことにも注意。
こうした裏事情を考慮すると、結局のところ脚本の二人にバッシングを当てるよりは方針を決めたと思われるセガアメリカ側の任命責任・方針転換をファンに納得させるためのルート作り不足の問題を問うほうが本来ならば建設的だったのかもしれない。
また、この期間のソニックは、カットシーンのクオリティも低めである。
映像自体は年々高画質&ハイクオリティになっているのが、グラフィックの綺麗さばかりでカメラワークや演出面がおざなりになっている。
『フォース』におけるボコボコにされているはずなのに砂埃一つ付いていない、拷問を受けたはずなのにピンピンしているソニックのシーンなど、演出面でのツッコミどころも多い。某サイトの記事ではレーティングの問題と苦しい擁護がなされているが、なんの表現もしていないのは手落ちと言わざるを得ない。
こうした幕間を埋めるための情報量が演出面でも不足しているため、よりシナリオの印象を悪くしていると言える。
総合すると、この暗黒期とされたソニックの低調を引き起こしたのは「シナリオライターの意識不足とモチベの低さ」、「会社自体のソニックに対する曖昧で風見鶏な方針決定」、そして「映像班の演出力低下」など、全てが悪く噛み合った結果がこの暗黒期なのかもしれない。
その後
ソニックはさらに方針転換を行い、ケンとウォーレンは契約満了でそのまま更新せずとなった。
後に就任したイアン・フリンは前述の通りソニックオタクということもあってシリーズを踏襲したキャラクター描写は多くのプレイヤーから称賛を受ける事に。
子供向けを目指したソニックも、モダンとの相性の悪さを考慮して直前まで進めていたクラシック路線とモダン路線の並行を考慮するようになり、幅広い層にそれぞれのニーズでアプローチすることを目指すようになった。