概要
「ゴールデン・ドラゴン・ファンタジィ」とは、イギリスのゲームブックのシリーズである。
作者は、デイブ・モーリス、オリバー・ジョンソン。
日本では、86年に「スーパーアドベンチャーゲーム」のレーベルで、創元推理文庫より全六巻が刊行された。
作者二人が創造した「レジェンド世界」を舞台としている。
特徴として、一冊の項目数が約300程度という、「ファイティングファンタジー」シリーズの400に比べて若干少なめという事が挙げられる。
主人公=君のキャラメイク時に決める能力値は、体力の他はPSI(直感力)、および敏捷力。
PSIは勘や魔力的な能力を、敏捷は器用さや敏捷性を表す。
戦闘に関しては、技術(スキル)や攻撃力といった点数は設定されず、2D6を降り、それが敵の強さ(多くは6~7)以上の値なら攻撃成功し敵の体力を三点減少、以下だったら攻撃失敗し自身の体力を三点減少というシステムになっている。
体力およびPSIがゼロになると死亡する。
内容は、全てが一方通行で、双方向性ではない。また、難易度も全体的にそれほど高くはない。
独特の作風を有しており、「ファイティングファンタジー」とは異なる雰囲気と世界観とが感じられる。その点は魅力の一つであり、当時に日本で刊行されたゲームブック各作品と比較しても、引けを取らない。
登場モンスターも、チョンチョン、ナックラヴィー、血の悪鬼(直立したワニのような怪物)、機械仕掛けの戦士など、個性的なものも登場する。
ただし、ゲームブックの出来としては、悪くはないが若干の物足りなさがあるのも事実。良く言えば、ストーリーやルールの単純さなども含め「初心者向け」の作品群とも言えるが、悪く言えば「シチュがありがち」「やや物足りなさも感じられる」という点がある事も否めない(言い方を変えれば、「やり込み要素」が若干弱いとも言える)。
加えて、舞台となる世界は共通しているはずだが、それが描かれていないのも残念な点の一つ。同じ世界の上に存在するはずなのに、それらを示唆する描写がほぼ見られないのだ(なお、作者諸氏がデザインしたTRPG「ドラゴン・ウォーリアーズ」もまた、本ゲームブックシリーズと同一の世界観、とされている)。
そのため、ユニバースとしての魅力が全く伝わらず、散発的にすら感じられる。
ではあるが、ルールやシステムも平易かつ、すぐに覚えられるものであり、サイコロ二個あればすぐに楽しめる点は、他のゲームブックシリーズと同様である。
日本では、人気や売上の点でファイティングファンタジーシリーズのそれに至らなかったためか、再販や復刻などは行われていない。しかし決して駄作ではなく、むしろ「隠れた佳作」とも言える作品シリーズである。
刊行巻
吸血鬼の洞窟
デイヴ・モーリス著。
夕刻。ウィストレンの森で狼の遠吠えを聞きつつ、旅路を急ぐ剣士=君。
森を抜けられず、迷ってしまったが、森の中で巨大な屋敷を発見する。だが君は知らなかったが、この屋敷は『吸血鬼の洞窟』と噂される、かの悪名高い吸血鬼・テネブロンが住む屋敷だったのだ。そうと知らず、君はこの屋敷の門へと進んでいった。
最初の巻なだけあり、難易度はそう高くはない。タイトルに「洞窟」とあるが、舞台は巨大な「屋敷」である。屋敷内を歩き回り、最終的には最奥に潜む吸血鬼デネブロンを倒して屋敷を脱出……というのが目的。
デネブロンの屋敷は人の気配が無いが、様々なモンスターが徘徊、罠も仕掛けられている。
また、主人公は剣とランタンを装備しているが、劇中でその両方ともを使用して無くしたり、壊したりするシチュも多い。ただし、あちこちで新たに手に入れる事が可能。
最後のデネブロンとの対決も、よほど下手な事をしなければ、必要アイテムなど無しにクリアが可能である。
シャドー砦の魔王
オリバー・ジョンソン著
ヴァラフォール王が治める地・ララッサ。
しかし、王は7年前から行方不明に。現在は弟・アヴェロックが治めていたが、圧政を敷いていた。
ヴァラフォール王が死んだという知らせが届き、王の近衛兵=君はララッサを離れる事に。だが、旅の途中の宿屋にて。行方不明になっていたヴァラフォールが生気を奪われた状態でかくまわれているのを知る。
7年前の遠征時。アヴェロックは「シャドー砦」に住む城主・アーケイン・ダークローブの手で、魂亡き奴隷こと、吸血鬼にされていたのだ。ヴァラフォールのみ辛うじて生き延びたが、ダークローブにより老いた姿にされてしまった。
ララッサを護るためには、シャドー砦に赴き、ダークローブを倒すしかない。かくして王の剣と、お守りの指輪をもらい、君はシャドー砦に向かっていった。
前作同様に、城の最奥に潜むラスボスを倒す事が目的になっている。
ただし、敵地であるシャドー砦に向かう直前に、湿地帯を抜けたり、宿屋に寄り道したりという、小さなイベントがある。
砦内にも、様々な住民が生活しており、個性的なキャラクターやシチュも多く見られる(魔術師とその下働きの舌ったらずなリザードマン、晩餐室で夕食会を行っているグールたちなど)。
炎の神殿
D・モーリス&O・ジョンソン著
かつて、<狂える魔道士>ダモンティール、ヴァレドール、そしてパラドスの《竜の騎士》こと君は、三人で墓所の財宝を発見した。
しかし、遺跡が崩れ、ヴァレドールは死亡、君も巻き込まれ、ダモンティールのみが財宝を奪い逃走していた。
現在、君は「炎の神・カタク」の神殿へと、水夫たちとともに向かっていた。偉大なるパラドスの首都・アクタンの図書館に隠されていた一冊の古文書に、その場所が記されていたのだ。だが、ダモンティールもまた同じ場所に先行していた。君は現場近くのジャングルまで船で進み、水夫たちを待たせて一人で向かう事に。途中でクモザルの子供・ミンキーを連れ、君はダモンティールも向かっているだろう、カタクの「炎の神殿」へと進むのだった。
本作では、「ジャングル内の遺跡」が舞台となる。
小猿のミンキーという同行者がいるのが特徴。ただし最初から連れているわけでなく、危機に陥っているのを見て、助け出したうえで連れて行く事になる(これを行わないと、冒頭で即座にゲームオーバーに)。
また、今回のラスボス「ダモンティール」は、過去に主人公と因縁のある人物として描かれている。そのため、復讐譚としての一面も本作には存在する。
失われた魂の城
D・モーリス&イブ・ニューナム著
商業都市リントン。そこに住む富裕層の一人、ジャスパー・フェイズは、とある戦士=君に依頼をしていた。
ジャスパーの父親ルーサーは、過去に「失われた城」の城主・悪魔スランクと取引し、自身の子供達に莫大な富を残して死んでいった。
だが、そのせいで父親の魂はスランクの城に未だ幽閉されている。スランクを倒し、父親の魂を解放して欲しいとジャスパーは依頼する。その報酬も糸目は付けないと。
ルーサーはジャスパーと交霊術で、スランクを倒すためには六種類のアイテムが必要と告げていた。
そのうちの一つ、エルヴィラ・フェイズの“乙女の涙”は既にジャスパーの手によって用意されていた。それ以外の5つの品物……立派な騎士の鎧の欠片、四葉のクローバー、水晶玉、尼僧の髪の毛、生者の灰……は、自身で手に入れねばならない。主人公は翌日からリントンの街を徘徊し、品物を集めて「失われた城」へと向かう事になった。
前半は街中でのアイテム集め、後半は「失われた城」に赴き、城内の探索およびスランクとの対決、になる。
うまく立ち回れば、アイテム集めはそれほど難しくはなく、戦う事も無く簡単に手に入る。
また、後半ではスランク本人も素性を隠して主人公へ接触する事が多々ある。
後半もまた、集めたアイテムを然るべき時に用いれば、最後のスランクとの戦いで簡単に勝ち、容易にクリアが可能。
ただし、アイテムを集められなくとも、そしてそれらを用いずとも、クリアは可能だったりする。アイテムが無いとゲームオーバーにならないだけ、易しい造りとも言えなくはないが。
しかしこの点に、若干の甘さも感じられる作品ではある。
ドラゴンの目
D・モーリス著
アクタン市の大学・真実の光アカデミー。エルダー王国の、12種類の魔法を心得た魔法使いである主人公=君は、そこの晩餐会に呼ばれていた。そして晩餐会が終わり、招いた本当の理由が語られる。
太古に栄えた都・タリオス。タリオスの遺跡は現在は大部分が水没しているが、まだ陸に残っていた海沿いの遺跡を調査していたところ、調査団リーダー・ジールー導師より連絡が入った。
それは、伝説の秘宝「ドラゴンの目」を発見したというもの。しかし、ドラゴンの目の周囲には罠や呪いが仕掛けられ、無事に持ち帰る事は困難。そのため、練達した魔法使い……君のような者の力が必要と言われる。
既に現場に向かうまでの手はずは整っている。なにより伝説の秘宝を目にする事ができるため、依頼を承諾する。
だが、海底都市に住む最凶の種族・ミューもまた、このドラゴンの目を狙っている事に、主人公はまだ知らずにいた。
今回は、舞台は「遺跡」。そして、海に面している場所の遺跡のため、海底の種族「ミュー」の一団が敵となる。ミューはサンゴそのものが人型になったような種族であり、邪悪の一族との事。
難易度は前に比べて上がっている。そのため、考えてプレイする事が重要に。
そのためか、本作では主人公側が12種類の呪文を用いるようになっている。
巻末では、訳者がこの点を「ソーサリー」を持ち出して強調。「12しかない呪文を、数が少なく物足りないと思うだろうが、魔法を使う際にはじっくりと考えて用いるべし」と書いている。
しかし、やはり若干の物足りなさは否めない。とはいえ、呪文は「治癒する」「強風を起こす」「目くらましの幻影を出す」といったものの他、「炎の虎を召喚する」「スズメバチの群れを召喚する」といった、個性的なものも存在する。
ファラオの呪い
0・ジョンソン著
主人公=君は、隊商に混じり、ケムの地の砂漠を旅してアルコス市に辿り着いた。
君は、カーフート大王の墓所が記された石板の欠片を有していた。これは大きな石板の一部らしい。そしてこれを譲ってもらった男から、石板はアルコスに住む古美術商ガバッドから譲られたと君は聞いていた。
君は酒場「とぐろをまいた毒蛇」で、ガバッドの店の場所を聞き探し始める。だが、同じ酒場にいた白マントの男も、街の門へと向かっていった。
タイトルからして「ファラオ」とあるように、今回は砂漠およびピラミッドが舞台に。現実世界のそれとは異なるが、ピラミッドにミイラと、エジプト風味の冒険が楽しめる。
町からピラミッドに赴くためには、ガバッドのガイド以外にもつぼ運びや、暗殺者に連れて行ってもらうといった方法がある。そのため、前半ではガバッド探し、後半では辿り着いたピラミッド内部を探索し、石板の欠片の謎を解く、という構成に。
難易度も、「ドラゴンの目」と同程度になっている。
余談
イギリス本国の最終巻は『失われた魂の城』。
(「吸血鬼の洞窟」→「炎の神殿」→「シャドー砦の魔王」→「ドラゴンの目」→「ファラオの呪い」→「失われた魂の城」の順)。
日本で出版する際に、「巻を追うに従って難易度が上がる」ように順番を決めたらしい(『失われた魂の城』解説より)。
開始前に主人公=君のキャラメイクを行う際、キャラに名前を書き込む欄がある。
その際に「あなたが好きな名前なら何でもいいのです」と記されており、それとともに、名前の一例として「ルーカス・スターキラー」「勇者バーガン卿」「レディ・アンジェラ・セントーリ」「黒竜のリー・チェン」といった名前が挙げられていた。
「シャドー砦の魔王」巻末には、井上尚美氏がイギリスに赴き、スティーブ・ジャクソン氏(英)本人と出会いインタビューした様子を、記事として掲載している。
関連項目
ドラゴン・ウォーリアーズ……デイブ・モーリスとオリバー・ジョンソン両氏がデザインした、TRPG。日本でも同じく創元推理文庫から、三巻まで邦訳され発売された。
スーパーアドベンチャーゲーム(ゲームブック)……日本国内で発売されたレーベル。