概要
神経症の一種で、現代では主に興奮し、感情を抑制できない様子を指す俗語として使われる。ヒステリーを起こすさまを「ヒステリック」という。
元々は精神医学の分野において、転換症状(器質性の異常がないのに起こる体の麻痺や失神、失声などの症状)と解離症状(いわゆる多重人格や記憶の欠落、自分が自分でないような感覚になる離人感などの症状)の二型に分かれる神経症の一つとして定義・研究されていたが、21世紀となった現代ではそれぞれ転換性障害・解離性障害という別の障害として考えられており、単一の医学用語としてはめったに使われない。
「子宮」を意味する古典ギリシア語の“ὑστέρα”に由来する。脳や精神の機能(また、それらの疾患や障害)の存在が知られていなかった古代ギリシャには「いわゆる婦人病や女性の脳機能障害・精神疾患、またそれに類する感情の波は、子宮が正しい位置から外れて体の中を浮遊しているため起こる(さまよう子宮、wandering womb)」という考えがあった。
これは必ずしも当時のギリシャでは主流ではなかったものの、その後ヨーロッパの医学者や一般人の間に広まり、19世紀頃までヒステリーと呼ばれるものは「(子宮を持つ)女性特有の症状」「子宮、骨盤内の鬱血が原因」などと考える医師が大半であった。また、19世紀には神経衰弱(ノイローゼ)やヒステリーと診断された人に向けて、豊かな食事と極端な活動制限からなる安静療法が行われるようになるが、この時点でもあくまで女性特有かつ身体因性のものだと考えられていた。
その後、シャルコーによりヒステリーは心因性であることが発見され、フロイトやユングといった人物によって精神分析学の分野の研究が大いに進み、第一次世界大戦で戦争神経症を発症した男性の治療を行う中で「男女ともに精神的な原因で起こる」と定義された。
2020年代の今は先に述べたように精神医学の現場においては「ヒステリー」という病気のくくりはないという考えが主流であり、たんに「ヒステリー」というと癇癪のような、衝動的・発作的な(特に怒りの)感情の爆発などを指す俗語としての使われ方が多い。
余談
- 語源や歴史的な取り扱いからわかるように女性差別的なニュアンスが強いため、発言には注意が必要である。
- 韓国で言われる「火病」と共通点が多い。もともと「火病」は怒りを抑制することでめまいや頭痛、動悸といったストレス障害が起こることを指し、精神的なストレスから身体症状が現れることを指す「ヒステリー」と似ているといえる。また火病は抑うつなどの精神症状が現れるが、近年では真逆の「怒りが抑えられない」「感情がすぐに爆発してしまう」様子を表す形に変化して使われているという点でも似ている。
関連項目
もしかして→ヒストリー