「最期の戦士」とは、イギリスの出版社「ペンギン・ブックス」から出版されていたゲームブック「ファイティングファンタジー」シリーズの第31弾「BATTLEBLADE WARRIOR」の日本語版タイトルである。出版社は社会思想社。
作品解説
アランシアのどくろ砂漠を南下した地点に、国境丘陵があり、その南に斧頭平原が、そしてその南には、城塞都市ヴィモーナがある。
ヴィモーナは、現在包囲されていた。南にあるのはシルアー・チャ沼沢地であり、そこは強大な勢力を持つトカゲ兵団の占領地なのだ。
ヴィモーナは、崩れかけた防壁で街を囲い、六年以上も籠城戦を行っていた。
君の父親、アレキサンドロス二世は、トカゲ兵団との戦いで落命した。現在は君の母親、べリエル女王がヴィモーナを率いている。兵士たちも、一般市民の女子供でさえも勇敢に戦い続けているものの、戦況は圧倒的に不利だった。
敵の策略で、慢性的な睡眠不足にも苛まれていた。そのため、判断力も奪われかけていた。それでも君は休み……そして、目を覚ました。
そこには、気高き姿の戦士……黄金の鎧と剣で武装した、戦の神テラクの姿があった。
テラク神は告げる。天上においても、神々はカオス神……暗黒と混沌の神々の軍勢と戦っていた。
神々がトカゲ王の不死なる守護者と戦い勝つためには、地上における秩序と混沌の戦いにおいても勝利が必要。つまりは、このヴィモーナと同じような状況に陥っているというのだ。
そのため、テラクはヴィモーナに手を貸すべく、タイタン世界に降りて来たのだという。
エメラルド色の瞳を輝かせつつ、テラク神は語る。ヴィモーナの北東の彼方、ライオン高地のデュルケラキン山にある武器を見つけ、手に入れよと。それは、君とヴィモーナの民が、悪の軍勢に立ち向かうため必要なもの。そのために、ラスカルという男を探せ。今や汝は、『最後の戦士(ラスト・ウォリアー)』だ……と。
そして目を覚ますと、いつものような喧騒が戻っていた。
君は母親にこの事を、テラク神に選ばれた事を告げる。べリエル女王は、夜明けの直前に出発し、敵の戦線を通り抜けるようにと助言するも、息子の事が心配だとも告げる。
自分は選ばれたのですよと、君は言い……冒険の準備に取り掛かった。
シリーズ31弾。
「モンスター事典」「タイタン」など、データベースおよび世界観の資料を作成・編成したマーク・ガスコインの著作である。
タイタン世界の基本的な構図……この世界は、巨大な遊戯盤のごとく、善と悪の勢力に別れ、戦い合っている……という構図の元に、一人の冒険者の任務が、世界の善悪の勢力に、善側にとって優位になる重要な出来事に直結するという内容になっている。
その悪側の象徴として、「トカゲ王の島」に登場したトカゲ兵の兵団を登場させ、人間側と激しく敵対し戦っている……という様子を最初に見せつけている。
そのため、スケールの大きな一大戦記の一編のような作風もある。ファイティングファンタジーはどうしても、主人公が単身であるために、集団戦や団体戦といったものは扱いづらかった。が、本作は一部、集団戦に近いものを描けるように処理されている。
内容も、伝説の武器を手に入れる事自体が、自身の街・ヴィモーナと、神々や善側の勢力の命運もかかっている、という状況に。
このような作品は過去には無いわけではなかったが、初期作品ではまだ世界観そのものが定まっていなかったためか、どこか散発的な点も見られた。
ファイティングファンタジーも多くが出て、タイタンという世界観そのものが構築され編成。その整った世界の上で、改めて善悪の戦いと冒険とを描いているのだ。言うなれば、タイタン世界の創成期から、成長期に入ったような作品と言える。
本作でも、色々と実験的・試験的に、特異なシチュエーションを入れたり、新たな設定や存在を組み込んだりしている。
最初にトカゲ兵が展開している前線突破のため、三つの方法が提示される。
一つは夜明け前に単身こっそり前線突破、一つは波止場にこっそり向かい、ボートを盗み河川から遡る……という、主人公一人が隠密行動で脱出するものであり、今までの作品にも見られた方法だった。
が、残る一つは、戦士の一隊を主人公が引き連れ、戦闘を行いつつ前線を突破するという派手なもの。これは「トカゲ王の島」でのクライマックスにおける、『奴隷たちを率いて戦う主人公vsトカゲ王率いるトカゲ兵団』といった状況を彷彿とさせる。
内容も、戦場から荒野・森林・山岳地帯のオープンフィールドを経て、地下迷宮に続く。ある意味、今までの作品の魅力を、バランスよく取りまとめた作品である。
ガスコインその人が作っているため、アランシアの一角でありながら、タイタンの世界観そのものをより良く楽しめる作品であるともいえる。
難易度もほどほどなので、初心者向けとも言えるが、できればタイタンの他作品をプレイしクリアしたうえで楽しんでほしい一作である。
主な登場人物
主人公=君
本作では、ヴィモーナの王、アレキサンドロス二世の息子、同・一世の孫となっている(ゆえに、アレキサンドロス三世という名である可能性もある)。
剣を携えるのは既存作品通りだが、最初に父親の遺品三種類(弓矢、光源となるガラス球、治療薬入りの瓶)を二つ選び、冒険に臨む。他にナイフと軽装の鎧にマント、ハンティングナイフを携えている。
べリエル女王
主人公の母にして、現ヴィモーナ軍の総司令官。ライオンの心臓を持つと呼ばれる女傑で、戦場で毒矢に倒れた夫に代わり、6年の間指揮を執り戦っている。夫の死と戦いの年月は、彼女を信じられないほど逞しく変えた、との事。
ジュリアス・レカルテ
冒険者にして商人。平原にて主人公と出会う。毛皮の服とマントを身に付けている。
二つ名は「正真正銘の」レカルテ。数年前に姿を消した探検家の父・タディウスを探しつつ、ペットのサーベルタイガー・スナッグを連れて旅をしている。
剣や弓の腕もたち、トカゲ兵およびトカゲ兵が乗騎としているお化けトカゲを弓で射殺す事も出来る。商人から、火を起こす道具を手に入れ、選択によってはそれを用いてトカゲ兵たちを罠にかけ生きたまま火あぶりにする事も(この方法は、流石に主人公も良心の呵責に苛まれたが、レカルテ自身は気にしていない様子だった)。
ホワイト・アイ
けばけばしい馬車で旅している老人。乳白色の目をしているが、盲目ではない様子。
商人で、自身の馬車の中には数々の品物が積まれている。曰く「助言、隣国或いは遠国の珍品、治療、安心、食料それに休息、どんなものでもわしが取り扱わんものはない」。
ただし、戦いは好まず、襲撃を受けても守護霊が出てきて守ってくれる(他にも、多くの友達が守ってくれている、との事)。そのためか、武器は取引の商品としては取り扱っていない。
主人公が出会い、道中手に入れたものと引き換えに助言をくれる。他者の話を聞く時には熱心に聞き入ってくれる。また、レカルテとは知り合い。
ラスカル
デュルケラキン山に住む老人。非常に年老いたみすぼらしい老人に見えるが、威勢が良く頭の回転が速い。自身も夢で啓示を受け、主人公の事を助けるようにと夢の中で言われていた。
カチヤ
ヴィモーナの北、カッパータウンの女性兵士。
カッパータウンは現在、トカゲ兵団が山トロールとの波状攻撃を受けているため、援軍を求める使者として早馬を駆っていた。馬が疲れ切って立往生している際に主人公と遭遇するも、ヴィモーナの悲運を聞きがっくりとうなだれてしまった。
主なモンスター
トカゲ兵
本作では、メインの敵として登場。
お化けトカゲ(大トカゲ)に騎乗したり、翼手龍に乗って空を飛ぶものもいる。
- 四本腕トカゲ兵:大柄で、両刃のバトルアックスと、短剣(普通の人間が使う長剣より大きい)とを用い戦う。凄まじい戦闘能力を有する。
- 双頭トカゲ兵:老齢の神官。トカゲ兵団にとって双頭トカゲ兵はエリートであり、神官の全ては双頭である。
- 変異トカゲ兵:成長が止まった、奇形で変異したトカゲ兵。そのため、切り込み部隊の最前線攻撃兵として使われている。
※トカゲ兵団では、他にカラコルムの他、オークやゴブリンなども制服を支給され、兵団の一員として参加している。
- 女性トカゲ兵:貴人らしく、戦場の非戦闘員が使用するテントの中に入っていた。テント内には香料を効かせた泥風呂が用意されており、それに入っていた様子。
お化けトカゲ
トカゲ兵の騎乗用の動物として登場。馬代わりに用いられており、選択肢次第では主人公もこれを奪って跨り、操って戦場から逃走する。騎乗用のお化けトカゲも様々な種類が存在し、劇中に登場したのは二足歩行で疾走するタイプらしい。
豹戦士(パンサー・ウォリアー)
本作にて初登場、森林内で遭遇する。蔓をつたい高い樹上から襲い掛かってくるが、技量はそれほど大したことはない。
カアス(蛇戦士)
本作で初登場。お化けトカゲに騎乗して移動していた。出てきたのは四体だが、主人公は戦いを挑んでもかなわず、そのまま貼りつけにされてしまった。
イシュカリム
後半の迷宮内で遭遇する。骨ばったクモのような体の上に、人間めいた上半身を乗せた姿をしている。盾と偃月刀、上半身の鎧で武装。宝物庫のガーディアンとして、混沌の神々が作り出した生き物であり、その頑丈な身体は通常の半分しかダメージを与えられない(戦って、毎回一点の体力点しか奪えない)。
戦士王
かつてこの地に住んでいた、戦士たちの王。何者かが甦らせ、地下迷宮の守りに付かせた。エメラルドをはめ込んだ王冠をかぶり、長い投槍を武器に持つ。
オーク
タイタンのどこでも存在する悪の種族。本作では、選択次第で森の奥地に存在するオークの村に入り込む事が可能(さらには主人公が変装していた場合、オークに人間とばれずに、村のオークの葬式にも参加できる)。
舞台、アイテムなど
ヴィモーナ
主人公の故郷にして、トカゲ兵団に狙われている城塞都市。主人公の母親が現在治めている。
トカゲ兵団は北上して、西アランシア一帯(ポート・ブラックサンドとその周辺)に勢力圏を拡大するため、その一歩としてこの街を襲っている。他の都市や領土からは離れすぎており、食料も残り少なく、援軍を呼びに向かわせる余裕もない。また、夜になってもトカゲ兵団の出す騒音で、満足に眠る事すらできない状況に陥っている。
しかしこの街を明け渡すと、トカゲ兵団はここを足掛かりにして更なる領土拡大する事は必至。なので現在、逃げる事も出来ず籠城戦を余儀なくされている。
テラク神の剣(腕)
彫刻を施し、宝石がちりばめられた見事な剣(劇中では、「テラク神の腕」と記載)。
目の覚める装飾の他に、柄の先の部分には『テラク神の目』と呼ばれる宝石が取り付けられるようになっている。
テラク神の目
テラク神の剣に取りつける宝石。剣を隠されていたのと同じ地下迷宮内のどこかに隠されている。宝石を柄にはめ込む事で、剣の持つ力が解放され、千人の古代戦士たちを召喚できるようになる。