あらすじ
2人の主人公、青豆と天吾は孤独な10歳の少年少女として、誰もいない放課後の小学校の教室で黙って手を握り目を見つめ合うが、そのまま別れ別れになる。 そして相思いながら互いの消息を知ることなく長年月が過ぎた1984年4月、2人は個別にそれまでの世界と微妙に異なる1Q84年の世界に入り込む。
登場人物
広尾の高級スポーツクラブに勤務するインストラクター。30歳を迎えようとしている。「証人会」の熱烈な信者の家庭に育つが、11歳のとき信仰を捨てて両親と決別、叔父に引き取られる。スポーツの才能で奨学金を得て体育大学で学ぶ。スポーツ・ドリンクと健康食品の製造会社に就職するも、4年後に退社。大学時代の先輩の口利きで今のスポーツクラブに入った。筋力トレーニングとマーシャルアーツ関係のクラスを担当している。小説を読むことはあまりないが、歴史に関連した書物ならいくらでも読む。
予備校の数学講師。青豆と同じく30歳を迎えようとしている。千葉県市川市で生まれ育つ。少年時より数学、ドラム演奏、柔道で優れた才能を示し、高校・大学は父親から離れて柔道でのスポーツ特待生で自立。高校は市川市内の私立高校に進学し、食事付きの高校の学生寮で生活する。筑波大学の第一学群自然学類数学主専攻を卒業し、代々木の予備校で講師をしながら小説を書いている。編集者小松の勧めで新人賞応募作品「空気さなぎ」のリライトを行う。高円寺の小さなアパートで独居。
文芸雑誌の編集者。45歳。東大文学部卒。天吾の才能を評価し、無署名のコラム書きや新人賞応募作の下読みなどの仕事を与える。新人賞応募作品「空気さなぎ」を強く推してきた天吾にリライトしてさらに完全な小説にすることを勧める。8月の終わりに「さきがけ」の配下の人間に拉致され、17、8日のあいだ監禁された。
小説「空気さなぎ」の作者。17歳。両親とともにコミュニティ「さきがけ」内で育つが、10歳のときに逃亡して、父の友人・戎野のもとに身を寄せる。黒くて長い髪をもち、美しい顔立ちをしている。ディスレクシア(読字障害・読み書き障害)であるが、長い物語や外国語の歌をまるごと暗記してしまう能力を持つ。テープで聴くことによって「平家物語」を全文暗記しており、天吾の部屋で新人賞の記者会見の練習をした際に、暗唱を披露する。
ふかえりの父。学者であったが、七十年安保にむけての大学闘争に飛び込み、大学から事実上解雇された。そして手元の元学生10人ばかりと家族とともに「タカシマ塾」に入ってシステムのノウハウを得た後、独立して農業コミューン「さきがけ」を作る。そして武闘派を分離した後、「さきがけ」は宗教法人となり、深田の消息は途絶える。
戎野隆之(センセイ)
元文化人類学者。60代半ば。深田と同じ大学・学部で教鞭を執っており、深田とは親交があった。大学闘争の時期に大学を去り、現在は株取引で経済的な成功を収めている。7年前に「さきがけ」を逃亡してきたふかえりを預かり、青梅線二俣尾駅が最寄りの山奥で一人娘のアザミと3人で生活している。小説「空気さなぎ」の出版を利用して深田の消息を知る手段を探る。
老婦人(緒方静恵、マダム)
70代を迎えた女性。麻布の高台にある「柳屋敷」に住む。戦後まもなく夫と死別したあとも、事業経営の才で財産を殖やした。スポーツクラブで青豆を知り、家で出張個人レッスンを受けている。2人の子(息子と娘)がいるが、娘が36歳のときにエリート官僚の夫からのDVが原因の自死で失っている。私財を投じてDVに悩む女性の保護活動を行うとともに、加害男性に対し合法・非合法を問わず各種手段で隠密に報復を実施している。
タマル(田丸健一)
「柳屋敷」のセキュリティ担当。40歳前後。かつて自衛隊のレンジャー部隊にいたこともあり、空手の高位有段者。樺太へ労働者として送られた朝鮮人の息子として終戦の前年に生まれ、1歳のとき日本人帰国者に託されて北海道に渡った。それ以後 両親と会わず、孤児院で形だけの養子縁組で日本国籍を取り、14歳で孤児院を逃亡。趣味は、機械をいじることと、60年代から70年代にかけてのプログレッシブ・ロックのレコードを集めること。ゲイ(同性愛者)であり、美容師をしているハンサムな若いボーイフレンドと麻布で暮らしている。若いころ(20代前半頃)に間違いを犯し、女性を妊娠させてしまったことがある。その女性が堕胎していなければ、生まれた子は17歳になっている。
青豆の高校のソフトボールのチームメイトで無二の親友だったが、結婚後、夫のDVに悩まされ、26歳になる直前に自殺。
あゆみ(中野あゆみ)
青豆より4つ年下の警察官の女性。交通課所属。家族や親戚にも警察官が多い。バーで飲んでいる青豆に声をかけ、親しい友人となる。2人はチームを組んで、バーで男を物色するようになる。幼いころに兄や叔父から性的虐待をされた経験を持つ。
天吾の父
東北地方の貧農の三男として生まれ、満蒙開拓団に参加。ソ連軍の侵攻で日本に逃げ帰る。そのあとNHKの集金の仕事を始め、成績優秀で正規集金職員となって、日曜ごとに天吾を集金に連れ回す。定年退職後はアルツハイマー型認知症により南房総の千倉にある施設に入る。64歳。天吾とは血縁関係が無い(実の父親ではない)らしい。
天吾の年上のガールフレンド(安田恭子)
天吾より10歳年上。既婚者で小学生の娘が2人いる。毎週1回、金曜日に天吾の部屋へ来て念入りにセックスを行う。
女性教師(太田俊江)
天吾が小学校3年生から6年生の時の担任。3~4年時は、青豆の担任でもあった。公正で心のあたたかい人柄。天吾が父に日曜日の集金に付いていくことを拒絶して家を追い出されたとき、一晩泊めて、さらに天吾の父を説得してくれた。現在は津田沼市内の小学校に勤める。
元弁護士。「さきがけ」の表に出ない仕事を請け負う。埼玉県浦和市生まれ。40代半ばとおぼしく、顔が大きく、頭頂部が扁平で、容姿は醜い。全体的に特徴的な雰囲気をもっている。小説「空気さなぎ」に関して天吾への接近を計り、リーダーに会わせる前の青豆の身元調査をし、リーダーの不審死の後姿を消した青豆をねばり強く探索する。父親は浦和市内で医院を経営。母親はその医院で経理を務める。4人兄弟の上から2番目で、兄と弟はともに優秀な成績で医大を卒業した医師。妹はアメリカの大学を卒業後、帰国し通訳として働く。4人兄弟の中で、牛河だけが容姿が醜く異端の存在。結婚歴があり、かつては妻子(娘2人)とともに中央林間の一軒家で暮らしていたが、離婚し、現在は独身。元妻は、娘たちを連れて再婚し、名古屋で暮らす。
穏田(おんだ、坊主頭)
リーダーの身辺警護を行う「さきがけ」のセキュリティ全般の責任者。背が低く坊主頭。背の高いポニーテールの男を従えている。
天吾の父が入院している千倉の病院の看護婦。23歳。認知症が進んだ天吾の父を親しみを持って看護している。美容師の姉とアパートに同居。友人から貰った(インドで入手された)大麻を所有し、天吾をアパートに泊めた際に、ともに大麻を吸引する。
大村、田村
安達クミの同僚の看護婦。