ノルウェイの森
のるうぇいのもり
主人公のワタナベは、37歳の時にハンブルク空港に到着した飛行機のBGMでビートルズのノルウェイの森を聞き、学生時代のことを回想する。
1960年代末の学生運動の盛んだった時代を背景に、ビートルズの楽曲を始めとして、『グレート・ギャツビー』や『卒業』などの当時人気だった海外の映画や音楽、文学などが多く登場する。主人公は作者と同世代(団塊の世代)で、東京の私立大学で演劇を専攻していることなど多くの点で共通するが、自伝的小説というわけではない。
本作は、ビートルズの楽曲であるノルウェーの森から取られているが、元々は村上春樹はドビュッシーのピアノ曲である雨の庭からちなんだ雨の中の庭を想定していたが、本書の原稿を読んだ妻を始めとする周囲の人々から「ノルウェイの森の方が良い」と言う後押しを受けて本作のタイトルが決定したと言う背景がある。
新進気鋭の作家だった村上春樹を一躍ベストセラー作家に押し上げた作品であり、『人間失格』、『こゝろ』と並ぶ日本文学の中でも累計発行部数が700万部を超えた作品。
内容的には三作品とも、人間不信が故に女性に振り回される男性主人公の、破滅的な恋愛模様を描いた作品と言う共通点がある。
本作は1987年に刊行された小説であり、その2年後に平成が始まることから、本作は昭和最後の大ヒット小説と言える。『こゝろ』が、明治の終わりと大正の始まりにヒットし、『人間失格』が戦後の始まりにヒットしたように、本作は昭和の末期にヒットした小説という、一時代を象徴する作品としての側面を持っている。
『こゝろ』では明治天皇と乃木希典の殉死が、作品の中核に関わる大きな要素として取り上げられ、『人間失格』では、終戦直後の荒廃した時代背景が色濃く描かれている。本作も、バブル景気当時の風俗とともに記憶されている(しかし、作品の主な舞台は刊行当時から更に20年ほど遡った1960年代末である)。