ソ連戦車の脅威
現在、アメリカ陸軍はこのAH-64を主力と位置づけている。
開発のきっかけは、1970年代のワルシャワ条約機構(ソビエト含む)戦車隊の大幅増強であり、NATO軍は数の上での劣勢が予測されたからである。
そのため、AH-64は『空飛ぶ対戦車砲』としての機能が期待され、
最初から「撃ちっぱなし能力」を持つAGM-114の運用能力を持つ事が決まっていた。
当時の陸軍主力戦闘ヘリであるAH-1には、有線誘導であるTOWミサイルを運用していた。
これは『命中するまで照準スコープで狙い続ける必要がある』という欠点があり、
発射して自分の位置が露呈しても、照準スコープを覗き続ける危険を冒さなければならなかった。
しかし新型のAGM-114「ヘルファイア」は違う。
地上の兵士や他のAH-64が照準用レーザーの照射を行っているのであれば母機は発射すればそれだけで良く、後は隠れるなり逃げるなり自由に動けるのだ。
また、発射後にロックオンをする事も可能であり、機首部のTADS/PNVSのみを露出させての照準も可能なので高い生存性を持っている。
(複数目標の同時照準は不可能であったが、後述のアパッチ・ロングボウではその能力を獲得している)
この能力で「神出鬼没の対戦車砲」として戦場を駆け回り、
戦車隊の脅威を小さくしようという訳である。
AGM-114「ヘルファイア」
「ヘルファイア」とは『HELicopter Launched FIRE-and-forget』の略であり、
『ヘリコプターから発射できる撃ちっぱなしミサイル』の意味である。
(少々強引だと思うが)
殆どのモデルは母機または地上の兵士によるレーザー誘導を必要とするミサイルではあるが、L型ロングボウ・ヘルファイアでは完全な撃ちっぱなし能力を得ている。
アメリカ陸軍の主力戦闘ヘリ
・・・と、当初はこのような目論見であった。
結局『アメリカとソ連の最終戦争』は起こらず、AH-64は活躍の場を失ったかに見えた。
国連は事態の鎮静化のために多国籍軍(国連軍ではない)の派遣を決定する。
いわゆる1991年の湾岸戦争勃発である。
第2世界でも随一の軍備を誇るイラクだったので、
アメリカをはじめとする多国籍軍はドイツに集積していた『最終戦争』用の装備を持ち出した。
それは主にM1エイブラムス戦車の精鋭部隊だったのだが、その中にAH-64もあったのである。
この戦争でAH-64は本来の能力を存分に発揮し、
他にもレーダー施設や防御陣地の攻撃に投入され、大きな戦果を記録した。
反面、砂漠用のヘリでは無かったので故障が多発し、すぐに整備し直さなければならなかった。
また2003年のイラク戦争では、
戦争初日にAH-64の集団(30機)がイラクの防空陣地に接近しすぎてしまい、
全機が損傷し、1機などは不時着する被害を受けている。
また、農夫の目の前で不時着したAH-64が『農夫の撃墜』として報道された事もある。
テレビカメラの前で古い小銃を手に取材を受ける農夫の後ろには、ほぼ無傷のAH-64が映っていた。
実態はこちらも「エンジントラブル」だったようだ。
(パイロットは不時着後に徒歩で逃亡している)
兵器の定型
AH-64は『見た目の割にヤワ』というイメージが広まってしまった。
これはAH-64は複雑・高度な兵器であり、さらにヘリコプターである事も手伝っている。
ヘリコプターはローターの力でやっと浮いている代物なのである。
同じ価格の飛行機に比べても、速度や整備性は悪く、故障率も高い。果ては燃費まで悪い。
このような兵器の存在を許しているのは『戦術上の必要』であり、
これでも大分良くなった方なのだ。
(傍から見れば、やはり不完全なのだろうが)
派生型
AH-64A
最初の生産型。詳細は上記のとおり。
AH-64B
新型ローターやGPSなどの新型航法装置などが搭載される予定だったが、
計画はAH-64C/Dに引き継がれた。
なお海兵隊は整備の面倒なAH-64を嫌い、AH-1の改良型を採用した。
AH-64C
後述のAH-64Dからローターマスト搭載のレーダーを除いたもの。
これにより低価格で販売できる予定だったが、のちにAH-64Dに統合されている。
AH-64D
現在の主力生産機。
11か国で採用され、戦闘ヘリとして活躍している。
(ただし、日本は12機で調達中止)
愛称はアパッチ・ロングボウ。
機首部のTADS/PNVSが第二世代のM-TADS/PNVSアローヘッドに換装されているが、2005年以降は他のモデルも順次換装されている。
前述のとおりローター上のロングボウ・レーダーの有無にかかわらずD型と呼ばれているが、
基本的には、輸出機も本国同様にレーダー装備仕様となっている。
(オランダ輸出機だけレーダー未搭載:AH-64DN)
ブロックIIではC4ISR能力を付与されている。
なお、陸上自衛隊に納入されたブロックIIをベースとしたAH-64DJP(自衛隊での名称はAH-64D)は三重県の明野駐屯地や、佐賀県の目達原駐屯地に配備されている。
したがって近隣の市町村や県では、飛行する同機を目撃する事もある。
その際はAH-1Sとは違う機影・違うエンジン音などで識別する事ができる。
AIM-92 ATASの運用能力を得ている。
WAH-64
イギリス向けのAH-64Dは当初、WAH-64と呼ばれていた事があった。
この通称はライセンス生産をウェストランド社が担当したからである。
(実機の引き渡しが始まる頃には合併して「アグスタウエストランド社」となった)
正式な名称は「アパッチ AH Mk1」もしくは「AH.1」となっている。
もちろんイギリス独自の装備もあり、英国製の装備を搭載できるようにしたり、エンジンを英国産のものに換装したり、メインローターを畳める様にしたり、防潮加工を施して空母等で海上運用できるよう改修するなどをしている。
(他にも独自装備は数多い)
アパッチの英国面
運用方法は空母を拠点にできる以外は基本的には他国の攻撃ヘリとほぼ同様だが、中にはぶっ飛んだものがあり、特殊部隊員を機外にしがみつかせて輸送するというもので、曰く「この方が速くて安全だと判断された」との事。
アフガニスタン駐留部隊など、一部部隊では兵員収容能力を持つ小型強襲ヘリを保有していない為にこのようなことをしなければならない、といわれている。
AH-64E
AH-64D ブロックIIIを改名した最新型。
ブロックIIの強化に加え、無人機の運用能力などが付与されている。
採用国はアメリカと台湾のみ。
愛称はアパッチ・ガーディアン。
銀幕への道
主力戦闘ヘリとされている事もあり、映画での露出も多い。
だが主に脇役として登場しているのであって、主役として登場することは少ない。
その数少ない主役作品が1990年製作の『アパッチ』(原題:「Wings of the Apache」or「Fire Birds」)である。ただ「ミサイルと言いながらロケット弾を斉射する」といった描写は残念である。
ただし、若かりしころのニコラス・ケイジを拝めるのは良いところ。
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