概要
橿原丸とは、日本郵船が太平洋戦争直前に計画した大型豪華貨客船。姉妹船に出雲丸がある。
名称は、奈良県の橿原神宮に由来する。なお、同じ由来をもつものに、建造中止となった練習巡洋艦「橿原」がある。
海軍の肝煎りで、一朝ことあらば空母に改造する予定で、経済的にはとても引き合わないものを、多額の補助金をつけて建造させたが、対米戦争の機運が高まったため、商船としての姿を見せないまま海軍に買収・空母に改造され、隼鷹となった。
全長220m、全幅26m強と当時の日本客船としては破格の大きさを誇り(参考までに戦前の客船として最も有名な「氷川丸」で160m級でありその大きさがうかがい知れる)、カナダの「エンプレス・オブ・ジャパン」をも越えて太平洋最大の客船となる予定であった。
貨客船として作られたとしても採算が合わない、最初から空母に改装されることが前提で作られた船であったため、終戦後もその船体を何とか留めて沈没を免れたものの、そのまま旅客船に復することなく廃棄されてしまった。
その後・・・・・・・
開催中止となった東京オリンピックが20数年の時を越えて復活するに当たり、観光客の増加を見込んで北太平洋航路に新規旅客船を2隻就航させる計画があがった。
新船は実現すれば橿原丸・出雲丸に匹敵する大型船となる予定であったが、折しも伊勢湾台風の襲来とその復興で計画は吹き飛び、実現しなかった。時に1959年のことである。
これに伴い北太平洋航路の復権が潰えた日本郵船は、唯一の存命旅客船「氷川丸」が引退する1961年をもって旅客輸送から撤退。また破格の大型旅客機ボーイング747ジャンボジェットの太平洋線導入で航空旅客運賃が大幅に下がり、遠洋旅客航路の採算性が著しく低下。
日本郵船のライバルであったアメリカのアメリカン・プレジデント・ライン(APL)の「プレジデント・ウィルソン」なども代替計画が頓挫したまま引退し、南米航路を運航した商船三井客船が定期航路を廃してクルーズ事業に転換(後のにっぽん丸)、遠洋長距離航路を旅する豪華客船の時代そのものが終焉を迎えてしまったが、その夢は時を超えて引き継がれることとなる。
1991年、橿原丸と同じ場所(三菱重工業長崎造船所)で生まれた豪華客船「飛鳥」は、橿原丸を意識して建造されたのだという。また、子会社・クルーズ客船という形であるが、同船の就航によって日本郵船は旅客事業を復活させた。
なお「飛鳥」は2015年現在でも、船名を「アマデア」に変えて就航中。この代替船となった「飛鳥Ⅱ」も同じく長崎造船所建造である。
なお、長崎造船所が作成した中では最大となる民間客船は「ダイヤモンド・プリンセス」「サファイア・プリンセス」で共に全長290m、全幅41.5mものサイズを誇る。うち「ダイヤモンド・プリンセス」は2014年より日本発着クルーズに登用され、船内には大浴場(露天風呂付き)など日本船籍船に匹敵する日本型設備を多数備えている。
また「飛鳥Ⅱ」でも全長は249mになり、やはり同じく長崎造船所製作で、長距離フェリーとしては日本最速のスピードで航行する「はまなす」「あかしあ」で全長224m(国内フェリー最長)となるなど、現代日本においては橿原丸級を越える大きさの巨大船が実現している。
当時においてもより船舶航行需要が旺盛であった大西洋航路では全長300mを誇る超弩級客船がいくつか建造されており(初代クイーンエリザベスなど)、当時国内に200m越えの客船が皆無である故採算性に大いに疑問があったとはいえ、時代さえなんとかなれば、日本を代表する豪華客船として語り草になっていたかもしれない。
ところで、姉妹船の出雲丸(後の飛鷹)の方は自衛隊史上最大の艦船「いずも」(ヘリ空母)に使用されている。同級の二番艦については具体的な名前が未だ公表されていないが、「かしはら」が来る可能性も否定できない。一方で飛鳥Ⅱも建造25年を迎え代替船の話が出てもいい時期であるが、背景を考えると客船ファンとしては客船にこの名を使ってほしい旨もあり、今後の続報が待たれる次第である。
pixivでは
『艦隊これくしょん』の艦娘の隼鷹が、豪華客船(お嬢様)ぽい雰囲気を醸し出しているイラストにタグ付けされている。
漫画では、一定以上のお酒が入ると橿原丸化するという二次創作設定が多い。