ジェットカーとは、阪神電気鉄道が所有する各駅停車専用の車両である。
車体がクリーム+ウルトラマリンブルー(5500系・5550系はアレグロブルー+シルキーグレー)に塗装されているため、「青胴車(あおどうしゃ)」とも呼ばれる(8000系・2000系などは車体に赤系の色が使われているので青胴車に対して「赤胴車(あかどうしゃ)」とよばれる。)
特徴
強烈な加減速度
ジェットカーの売りは、何といってもその高い加速度・減速度である。初めて乗った人は、その「後ろに引っ張られる」「前につんのめる」感覚に面食らうだろう。
5001形・5131形・5331形は起動加速度4.5km/h/sを誇り、車齢が高い故に内装が他の車両に比べてはるかに見劣りするものの、現在も各駅停車の主力として君臨し続けている。
5500系・5550系は、起動加速度は4.0km/h/sと上の3形式には劣るが、高速域の加速度が向上され、滑らかな加速を実現した。
減速度に関しては、5001形・5131形・5331形は常用最大で5.0km/h/s。5500系・5550系は、常用ブレーキで4.5km/h/s、非常ブレーキで5.0km/h/sとなっている。
低出力モーター・オールM編成(5550系は除く)
ジェットカーの加速力の高さの理由は、低出力モーターと、それをすべての台車に2つずつつなげて駆動する「オールM構成」である。
モーターの容量は、5001形で90kW、5131形・5331形で75kW、5500系でも110kWと、平均的に低くとられている。それがすべての台車に2つずつついているが、編成出力(一つの編成についているモーターの総容量)は5500系で1760kW。5500系が阪神のオールMジェットカーで最もモーター容量が大きいため、これを超えることはないだろう。
なお、5550系はモーター出力が1000系と同じ170kWに上げられたため、構成が3M1Tとなり、元町寄り先頭車がジェットカーでは唯一の付随車(厳密には制御車)となっている。
実は稀少な存在
ジェットカーは高加減速車両の代名詞的存在だが、元祖近鉄の“ラビットカー”をはじめ、他の鉄道会社・路線でも導入された実績がある。が、その多くは現在では後続もなく絶滅している。普通列車(各駅停車)専用の高性能車を保有・維持するのは、運用上もコスト面からも困難が多かったためである。
ジェットカーは阪神の駅間距離が短い、車両数が少なく、普通列車と優等列車(急行・特急)と棲み分けができているなどの好条件とマッチして生き延びた、いわゆるガラパゴス的存在であり、その阪神内でも、運用されているのは本線系統のみで、近鉄と直通運転しているなんば線には乗り入れない。本線系統が乗り入れる山陽電鉄にも姿を見せない。
1998年に某アイドルグループとバラエティ番組でリレー対決したり(1勝1敗、阪神5500系使用)など、全国的にもそこそこの知名度を誇る割には、けっこうなレア車両なのだ。なので、見かけた際には「たかが普通列車」と見下げずに、ちょっとくらいはリスペクトして欲しい。
なお、2015年にも番組20周年を機にリレー対決を再び実施(2015年11月8日放送分、阪神5700系使用)。1戦目は某アイドルグループ側はバトンパスを早くした一方で、スタートダッシュの失敗が響いて破れたが、2戦目は改善・挽回して勝利。
車両は新型になる一方、アイドル側は17年の歳月には勝てず、それぞれ50m走タイムが1秒前後延びてしまっている中での大健闘であった。
5700系「先輩からお噂は聞いていましたが、あなた方もなかなかやるじゃないですかw」
……さしずめこんなところだろうか。
最近の車両
5001形
オールM構成の車両。「5001」という形式を名乗る車両はこれが2代目。
抵抗制御車で、外見と性能はかなり古そう。2015年4月現在、4両編成8本が在籍。
5131形
量産型の電機子チョッパ制御のジェットカー。14両製造され、2015年4月現在、4両編成3本が在籍。残りの2両は、5311形と連結して走ったが5550系に置き換えられ廃車に。
5311形
単車で走行できる車両として4両製造された、電機子チョッパ制御のジェットカー。2両編成の両方の先頭車前部にパンタがある、いわゆる「前パン車」だった。5311、5312号の編成は1998年に廃車、5313、5314号の編成は前述の5131形と編成を組み、5550系に置き換えられるまで活躍。引退まで方向幕を装備しなかった。
5331形
電機子チョッパ制御車。10両製造され、2両が阪神・淡路大震災で被災し廃車となり、2015年4月現在、4両編成2本が在籍。
5500系
1995(平成7)年に赤胴車の9000系とともに登場。
同年1月17日に起こった阪神・淡路大震災によってひどく被災し、廃車せざるを得なくなった車両との入れ替わりで、まず2編成が登場し、だんだんと本数を増やしていった。現在は4両編成9本が在籍。
阪神初のVVVFインバーター制御車で、制御装置は三菱電機製。起動加速度が4.0km/h/sに落とされたが、高速域での加速が向上されており、乗り心地が向上されている。
また、塗装も変更されており、上半身が「アレグロブルー」(アレグロは音楽用語で「速い速さで」という意味)と呼ばれる淡い青、下半身が「シルキーグレー」と呼ばれるほぼ白に近いグレーに塗装されている。車体や車内構造は8000系の4次車をベースに、車内は青系で統一されている。また、阪神初となるマップ式案内表示装置(スクロール表示機付き)も装備されている。
5550系
2010年12月28日に営業運転を開始したジェットカー。4両編成1本のみの在籍でレア車。
基本的な構造や、加減速度は5500系に合わせているが、モーターが1000系と同じ170kWのものを使用しているため、MT構成が3M1Tとなり、元町寄り先頭のTc5562号がジェットカー唯一の付随車(制御車)となった。また、制御装置も1000系と同じIGBT素子のVVVFインバーター制御となっているほか、車両前面・側面の種別・行き先表示機が従来の幕式からフルカラーLED式となった。
車内は5500系と同一だが、5500系と異なり、マップ式案内表示装置はなく、スクロール式案内表示装置のみとなっている。
車体はアルナ車両で製造し、ぎ装は阪神車両メンテナンス(旧:武庫川車両工業)が担当する、阪急阪神ホールディングス内での製造となっている。
5700系
2015年8月24日に営業運転を開始。
近畿車輛製で、ジェットカーでは「ジェットシルバー」の5201・5202号車以来55年ぶり(オールステンレス車では史上初)となるステンレス製で、愛称も「ジェットシルバー」を踏襲する。
車体構造は1000系に準じているほか、押しボタン式半自動ドアの機能も追加。MT構成は5550系と同じ3M1T相当であるが、両方の先頭車を連結面よりのみモーターの「0.5M0.5T」としたため、全車両が電動車に。