概要
伊号潜水艦とは大日本帝国海軍(以下日本海軍)が運用していた潜水艦の大分類における、基準排水量1,000トン以上の一等潜水艦のこと。
日本海軍は排水量別にランク分けし、排水量が大きい順に上からイロハでクラス分けした。
以下、排水量500トン以上1,000トン未満の潜水艦を呂号潜水艦、500トン未満の潜水艦は波号潜水艦とされた。(尚、呂号潜と波号潜は共に二等潜水艦とされた。)
アメリカ海軍や戦後の後継組織・海上自衛隊の潜水艦と違い、艦固有の名称は付与されず、ドイツ海軍の潜水艦同様番号で呼ばれている。
分類
伊号潜はその用途別に数種類の下位カテゴリーがある。
代表的なものは以下の3つ。
巡洋潜水艦
長大な航続距離を持ち、通商破壊作戦や偵察や哨戒任務に用いられる型。速度はあまり重視されていない。艦の性格としては、潜水する巡洋艦と言ったもの。しかし、乙型は水上最大速力23.6ノットとこれより後の海大7型より速く、水中最大速力も互角である。しかも騒音が問題だった当時の日本潜水艦としては列強並みに静かな潜水艦だった。
略称「巡潜」。
通商破壊の為、軽巡洋艦と同口径の中口径主砲である14センチメートル単装砲を装備する。
有名な米本土爆撃を実行した零式小型水上偵察機を発進させた伊号第二十五号潜水艦、米海軍ワスプ級航空母艦のワスプと米海軍のシムス級駆逐艦のオブライエンを撃沈し、米海軍ノースカロライナ級戦艦のノースカロライナを撃破した伊号第十九号潜水艦、原子爆弾の部品を輸送し終えた直後の米海軍ポートランド級重巡洋艦の「インディアナポリス」を撃沈した伊号第五十八号潜水艦もこの分類。
最下級分類として
「巡潜1型」「巡潜2型」「巡潜3型」「巡潜甲型」「巡潜甲型改1」「巡潜改甲型(巡潜甲型改2)」「巡潜乙型」「巡潜乙型改1」「巡潜乙型改2」「巡潜丙型」「巡潜丙型改1」
の11艦級に分けられる。
海軍大型潜水艦
主力艦隊に随伴できるだけの速力を求めた型で、艦隊決戦の補助戦力として計画・建造された。艦の性格としては、(運用思想の是非はともかく)潜水する駆逐艦。
略称「海大型」。
巡潜型のように通商破壊を目的としない為、中口径主砲は搭載せず、小口径砲に分類される単装砲や高角砲や機銃のみを搭載する。
しかし、前級の海大6型より攻撃性能などが向上した最終型の海大7型と巡潜乙型の性能を比較してみると速力は23ノット対23.7ノットと水上速力は乙型が上で、海大7型が勝てるのは潜航時の巡航速力のみで、最大潜航深度も魚雷搭載数も負けているため、海大型に発展の余地はもうなかったのかも知れない。
米海軍正規空母「ヨークタウン」を撃沈したイ168、同じく護衛空母「リスカム・ベイ」を撃沈したイ175もこの分類。
最下級分類として
「海大1型」「海大2型」「海大3型a」「海大3型b」「海大4型」「海大5型」「海大6型a」「海大6型b」「海大7型」
の9艦級に分けられる。
潜特型
「潜水空母」とも称される、伊号第四〇〇型潜水艦のこと。潜水艦と水上機母艦を足して2で割ったような能力を持つ。
しかも主砲の口径は14センチときたからたまらない。まさにチート潜水艦である。
これまでの日本潜水艦にも偵察を目的として小型水上偵察機を司令塔下部に格納する艦種は存在したが、潜特型は地上攻撃を行う為の専用の水上攻撃機をなんと3機も搭載する。
その「専用の水上攻撃機」とは「晴嵐」。
イ400と同時に開発が進められ……と言うよりはイ400の為だけに開発が進められた様な飛行機である。
尚、前述の巡潜甲型改2(伊13型)は潜特型計画縮小を受けて巡潜甲型(伊9型)とほぼ同型の船体に伊400型に準じた航空艤装を施した物で、外見が酷似している。(尚、航空機搭載数は2機。)
他にも、機雷敷設艦の役割を持った機雷潜型、輸送艦(陸戦隊や、陸上火器、そしてそれらを揚陸する上陸用舟艇を運搬する艦)の能力を持った潜輸小型、潜輸大型、補給艦(他艦に燃料・弾薬・糧食等を供給する艦)の能力を持った潜補型等の小分類が存在する。
欠点
伊号潜を含め、日本海軍が運用する潜水艦に共通して言える重大な欠点が2つ存在する。
どちらも「究極のステルス兵器」ともいわれる潜水艦の長所を真っ向から殺す欠点である。
一つは騒音。
遣独潜水艦作戦にてドイツの港に入港した日本潜水艦はドイツ側から「水中でドラム缶を叩いているようだ」と形容される程酷い水中放射雑音を放っていた為、探知が容易だったと言う。
しかしこれは前述の巡潜乙型で解消された。
もう一つは水上機の搭載。
イ400型をはじめ、日本の潜水艦には偵察の為に小型水偵を搭載したものがあるのは前述の通りだが、これも騒音と同様、潜水艦最大の売りである隠密性を破壊することに繋がる。が船団護衛などでは浮上する必要があるため、水偵も索敵装備としては有効であった。
潜水艦が水上機を発進させ、回収する為には、
・浮上
・格納筒から飛行機を引っ張り出す
・翼を広げる
・暖機運転
・タイミングを合わせて射出(タイミングが狂えば海面に激突する為)
・潜航
・再浮上
・クレーンで飛行機を吊り上げ、甲板へ
・翼を畳む
・格納筒へ飛行機を仕舞う
・再潜航
と言うプロセスを経ねばならず、更にこの当時の飛行機は昼間しか行動できない為、被探知率が跳ね上がる。
ただでさえ装甲が薄く、無いに等しい潜水艦は砲撃や銃爆撃で容易く沈められてしまうのだ。
この欠点は海軍も把握しており、搭載機の組み立て時間などが短縮できるように改良も進められた。
(一例として晴嵐の場合、出撃前、飛行機を格納する時点で雷装・爆装を済ませていたり、格納筒内部では機体のすぐそばにフロートが置かれていたり、暖機運転の代わりに冷却水や潤滑油を温めてから注入したりすることで準備時間の短縮が図られた。また晴嵐はフロートや機体を破棄することも考えられていたらしい)
また、当時の潜水艦の潜航できる期間は短く、攻撃時や敵に発見された時や敵勢力下での航行、昼間以外は水上航行を行うことが多かった。搭載された水上機は太平洋戦争の中期頃まで要地偵察などで活躍した。
ちなみに当初半日を要したこの作業は日本海軍の涙ぐましい努力によって数時間~数十分にまで短縮されている。
余談
と、欠点ばかりが目立つように思える日本の潜水艦だが、あの米軍を驚愕させたことがある。
先述の伊400型の巨大さである。
当時のアメリカ海軍の潜水艦の船体長は長くとも95メートルだったが、伊400型の全長は122メートル。実に30メートル近くも差があるのだ。原潜時代に入っても戦略原潜が登場するまで世界最大の潜水艦であった。当然アメリカの調査団も「デケェ……」となるわけである。
2012年に中国海軍の潜水艦に排水量で抜かれるまでおよそ70年間もの間世界最大の通常動力型潜水艦であった。
因みに、水中放射雑音等、隠匿技術が未熟だったにも拘らず、大戦末期にパナマに向けて出撃した伊400型の2隻は往路では奇跡的に発見されることはなく、停戦命令受領後、浮上航行中の復路で接収されている。
そして、もう一点。
“何らかの飛翔体を搭載し発射する”と言う構想は米軍も注目し、その後実用化された弾道ミサイルや巡航ミサイルを発射する、弾道ミサイル搭載型潜水艦や、巡航ミサイル潜水艦を開発した。
一方で、「飛行機」を発射する物も計画されたが、乗り越えなくてはならない諸々の課題が障害となり、頓挫している。
現在も戦略原潜の存在意義向上の為に何度か同様の計画が進められている。
更に、それ以外の潜水艦に関する技術も米軍は関心を示す。
日本の潜水艦技術を独占したかったアメリカは、当時のソ連の要求を撥ねつけ、技術調査の後に実艦的とした他は、全て五島列島沖へ海没処分している。
フィクションにおいての伊号潜
[紺碧の艦隊]
もはや説明不要。チート伊号潜が主役の作品である。
[蒼き鋼のアルペジオ]
主人公一行がじょうかんするのは霧の潜水艦イ401
関連イラスト
投稿されているイラストは、艦船そのものを描いたものから各種擬人化まで様々。
通常の艦船
擬人化