概要
バンイップとは、アボリジニの間で恐れられていた、「内陸部に住む水陸両棲の怪物」の名前である。スペルが「Bun yip」なので日本ではバニイップとかバニップ、ブンイップ、バニヤップなどと書かれる。現地では恐れられているので、どういう形をした生き物なのかは全く分からない。19世紀後半に「本物」とやらが捕獲され、毛皮などが博物館に行ったという新聞の記事はあるが、現在は残っていない。
越智道雄が、それの正体について「アザラシか川で水に脚を取られたウシ(ブーあるいはモーって鳴くから)」ではないかとした上で、可能な限りの先住民の描写をまとめたところによれば、高さ約13フィート、頭は鳥で、目は異様な光を放ち、胴体がワニ、毛が生え、人間の女性を好んで襲い、凄まじい吼え声を上げる。陸上では二足歩行し、卵はエミューのそれの2倍ほどの大きさであるという。また卵は食べると不味いそうである。
発見史その他
1845年に、オーストラリア南東部で、白人がなんぞの骨を発見、現地の人に見せたら、「Bun yipだ」と言った、という記事が新聞に載る。
19世紀の白人の見解としてはへんないきものの宝庫であるオーストラリアなので、そういう生き物が実在するのであろうと、それから「Bun yip捜し」が一応ブームになり、ついでにその辺の先住民が称するコニカトニーだかカテンパイだかトゥルーダンだかムルヤウォンク(Mulgewanke 藤川隆男はこう書くが南方熊楠は「ムルゲワンケ」と書く。なお越智道雄は『オセアニアを知る事典』のバニップ項で「モールゲワンケ」と呼ばれる赤いかつらを被った人魚を紹介している)が、「バンイップの現地名」ということになり、いろいろな形で広まる。
それ以降、怪物バンイップそのものは豪州の知的共有財産となる(児童文学でよく登場するほか、サンカノゴイがバンイップの正体だとする説が出たのでそれをバンイップバードというなど)が、本物の発見そのものは、出たと思ったら牛だった、ユーカリだった、という物が大半なのでかなり萎えだし、1883年に「元祖捕獲」の記事が新聞に踊るものの、こちらへは「もう見た」という反応が返される。さらにその捕獲された標本はかなり早い段階で紛失したらしい。
なお「バンイップの正体」に外来種である牛と、奇形の馬の子供(フレッチャーという人がマランビジー川の辺でカテンパイと呼ばれるバンイップに遭遇し、射殺して頭蓋骨持って生物学の先生に見せたらこう言われたそうな)が挙げられるが、河童などのユーラシア系の水の精霊と牛馬の関係とは多分偶然。