「ヒート」と記される。
- 化学エネルギー弾の一種。本稿で解説
- アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ主演の映画。
High Explosive Anti Tank
砲弾等の対戦車兵器に用いられるモンロー/ノイマン効果で装甲を侵徹する化学エネルギー弾の一種。
爆薬にくぼみを作ることで密着爆発時に爆発力を集中させる事が出来るモンロー効果と、くぼみに合わせて金属のライナーを取り付けたうえで対象と爆薬とを密着させずに少し離した状態で爆発させることで金属のライナーが液体のように振舞うメタルジェット化して装甲とライナーの両方に塑性流動を起こして侵徹するノイマン効果を組み合わせたもの。
(モンロー効果のみではメタルジェットで侵徹する効果は無く、組み合わせずにモンロー効果単体での使用も行なわれている為、HEATではモンロー/ノイマン効果といった風に併記するのが望ましいと思われる)
徹甲弾等の運動エネルギー弾と違い弾速は不要のため、砲弾等以外に対戦車ミサイルやロケット弾、対戦車手榴弾、魚雷、不発弾処理機材、金属切断用爆破線などにも使用されている。
侵徹力はライナーの直径の12倍だが、これは理論値のために実際には5~8倍程度。
またライナーの素材は現状は鉱産資源としてコストも低く扱い易い銅製が多いがタンタルなど他の鉱物による物も研究・開発されている。
また、爆発のエネルギーは殆どが周囲に散ってしまうため、周囲に飛散するワイヤーなどを砲弾に備えることで榴弾も兼ねるHEAT-MP(High-Explosive Anti-Tank Multi-Purpose:多目的対戦車榴弾)も開発されている。ただしHEAT-MPは同じ砲で使用する純粋な榴弾に比べ若干性能が落ちる(85%程度の性能比になってしまう)との事。
対策としては
- 金網やチェーンのカーテン、シュルツェン等の空間装甲、土嚢やコンクリートブロックなどの障害物を設置してスタンドオフ距離(最適な距離)を外す
- 鋳造時にセラミックを鋳込む、ユゴニオ弾性限界の高い劣化ウラン等の重金属、拘束セラミックやガラス繊維等を用いた複合積層装甲にすることで装甲側に塑性流動を起こさせずに侵徹を阻害する
- 爆発反応装甲で爆発により金属板を弾き飛ばすと共に高い圧力を発生させる事でメタルジェットの貫徹効果を減少させる、または砲弾を破壊する
- 非爆発性反応装甲で爆発はしないが高い圧力を発生させる材質によりメタルジェットの収束を阻害する
- 金網や金属繊維製ネット等により砲弾自身の運動エネルギーを用いて砲弾や信管を破壊して無力化する
- アクティブプロテクションシステムにより砲弾を迎撃して無力化する
などがある。
HEAT弾側も対応したものが出ており、弾頭を2段3段としたタンデム弾頭、デコイロケットの搭載・HEAT弾の性能向上などが行われている。
タンデム弾頭はスタンドオフ距離が異なるHEAT弾頭を複数搭載する事で反応装甲や障害物等の無効化、複数侵徹することで複合装甲の特性を弱めることが出来る。
デコイロケットは先に撃ち出したデコイをアクティブプロテクションに迎撃させ、連続迎撃ができない隙を付いて本命のHEAT弾頭を撃ち込むというもの。
性能向上により多少のスタンドオフ距離の狂いでは侵徹効果が阻害され難くなっており、空間装甲の優位はほぼ消えている。
ヒートというものの熱による破壊ではないため、耐熱素材で防ぐことは不可能。
セラミックなど耐熱性のある素材を用いるのは耐熱性目的ではなく前述のように侵徹を阻害するためである。
ちなみにメタルジェットの侵徹に加えて侵徹後に開けられた穴から爆風等が噴き込む事での破壊も行われるため、原理を知らずに破壊されたものを見ると熱による破壊に見えてしまう。