概要
アメリカのピックアップトラックを起源に持つSUVや、はしご形(ラダー)フレームを持つ本格的なオフロードカー(クロスカントリー車、クロカン車)に対し、通常のモノコック車体の乗用車をベースにクロカン車風に仕立てたハッチバック車のこと。
近年になってからジャンルとして確立してきた分野で、サイズや規格の幅も広く他の自動車タイプと比べても曖昧さの多い概念である。
そのためこの記事ではクロスオーバーSUVをクロスオーバー車(CUV)と呼び、本来のSUVやクロカン車と区別することとする。
クロスオーバー車は、元来は銃猟やキャンプなどのアウトドア向け仕様のSUVやオフロード専門仕様であるクロカン車から発展的に派生したジャンルであるが、近年は単に車高・全高を高くしただけのセダン/ハッチバック、2BOX化したトールワゴンやミニバンすらもクロスオーバーSUVにされており、性能はおろか外観もオフロード車とは全くの別物となっている。
本来のSUVがステーションワゴンやトールワゴンなどと一緒くたに『RV』(レクリエーショナル・ビークル)と呼ばれていた歴史があり、近年は輸入車も含めた純粋なクロカン車も見かけなくなってきている日本においては、各メーカーや販売店が付加価値をつけるためにクロカン車に似せたこのタイプを「SUV」と銘打って売り込んだ事もあってか、あたかも「SUVの一種」であるかのような間違った認識が広がってしまっている。
しかし1990年代から現在にかけての人気の拡大は国内外問わず急速的かつ圧倒的で、2020年の世界販売台数ランキングでは上位10車種中5車種がクロスオーバー車という状況である。
あまりに一般化してきているため、「将来子供が描く車は、セダンではなくクロスオーバーSUVになるだろう」とまで言われている。
特徴
基本的にクロスオーバー車には、本来のSUVやクロカン車のような悪路での走破性は期待できない。
現代では生産コストや後部座席の足元空間確保の優先などからFF車が多く、雪道や舗装された急坂などでは脆弱な車種も多い。中には、優秀な4WDシステムなどを装備して雪道や荒れた路面での走りやすさを評価されているモデルもあるにはあるが、現在では欧州車を中心に2WDしかラインナップしない車種も増えてきており、相対的に少数派となっている。
その一方でドア口や頭上空間が高めになり、乗り降の時姿勢を屈めなくて良い、かさばる荷物が載せやすいなどのメリットがある。
また未舗装路の多い新興国では、(駆動システムはともかく)最低地上高の高さが評価されることもある。
セダンやクーペ、ステーションワゴンと比べると高速走行や強風時での安定性、滑らかな旋回性、車内への騒音や揺れの遮断性、燃費や維持費などが劣り、ミニバンやトールワゴンと比べると人員・荷物の搭載量などが劣る。
しかし逆に言えばミニバンより上記の運動性能に勝り、セダンやステーションワゴンより積載性に勝る。良く言えばオールマイティ、悪く言えば中途半端なのが"クロスオーバー"という名に違わぬ性能と言える。
特にミニバンの所帯じみた感じが気に入らないが、セダンでは積載量が足りないというファミリー層にはウケるジャンルである。
メーカーには従来のSUVやクロカン車とは全く別物である事を啓蒙して頂きたいところではあるが、オフロード的雰囲気を売りにするのはもはや常態化しているため難しいだろう。
またスポーツカーを専門としていたメーカーすら「これが新しいスポーツカーの形だ」と嘯いてクロスオーバー車を作るのが当たり前になってきており、オフロードのみならずあらゆるジャンルを侵食している状態である。
歴史
『モノコック構造のSUV』というクロスオーバー車の定義から言えば、1980年代北米のジープ・チェロキーXJが起源とされる。
1990年代にはパジェロブームに端を発してSUVの開発に躍起になってた日本のメーカーがRAV4、CR-V、フォレスターなど同構造のクロスオーバー車をこぞって発売した。しかしいずれもモノコック以外についてはオフロード車と同等の外観や四駆が採用されるなど、オフロード車を強く意識したものであった。
現代的な「背を高くしただけのハッチバック」というクロスオーバー車で言えば、1997年のハリアー/RXが起源である。この大ヒットにより「クロスオーバー車は高級車としても通用する」と認識され、欧州の高級車メーカーも追随するようになった。