概要
一般的には、ノッチバック型の3ボックス(後部のトランクルームが出っ張っている)4ドアタイプの乗用車を指す。同じノッチバック型の「クーペ」とは通常、ドアの枚数で区別される。しかし、かつては2ドアのセダンもあった。近年は逆に4ドアノッチバックでも「セダン」を名乗らず、「4ドアクーペ」を称することが増えている。セダンと4ドアクーペの区別は曖昧だが、ルーフが平らなものが「セダン」、なだらかな曲線を描いているものが「4ドアクーペ」と呼び分けられているのが現状。また、ハッチバックボディの車でも「ファストバックセダン」「2ボックスセダン」としてセダンを称することがあり(詳細は後述)、軽自動車では全高1550mm以下の乗用のハッチバックを軽トールワゴンや軽ライトバンと区別してセダンと呼んでいる。
英国ではサルーン、ドイツではリムジーネ、フランスではベルリーヌ(ベルリネット)、イタリアではベルリーナ(ベルリネッタ)もしくはクワトロポルテ(4つの扉)と呼ばれる。自動車におけるセダンとサルーンは同じ意味であるが、日本においてサルーンはセダンモデルの上級グレード名として用いられる事が多い。
かつては、大半の人が単に「クルマ」と聞かれたら思い浮かべるであろう、スタンダードなボディタイプであった(今でも中高年はそうかもしれない)。近年は、世界的にクロスオーバーSUV(クロスオーバー車)が乗用車のボディスタイルの主流となっており、日本の子供たちも「クルマ」と言えば馴染みがある軽自動車やミニバンをまず思い浮かべるようになっている。タクシー、ハイヤー、パトカーなども近年までセダンが定番であったものの、ジャパンタクシーなどのミニバン・トールワゴンやクロスオーバー車を採用する例も増えている。
FR方式のクーペやセダンは、後述する過去のヒエラルキーの名残と、走行性能・快適性・安全性のバランスが取れているとして、昔ながらの車好きからは根強い支持がある。またセダンボディはスポーツカーとしても採用されることがあり、こちらはクーペやオープンカーのスポーツカーに比べて実用性や長距離での快適性に重きを置いたグランツーリスモ寄りになる事が多い。
歴史
オープンボディが当たり前であった時代の「セダン」は、密閉ボディの乗用車全般を指していた。第二次世界大戦前のセダンは背が高い箱型ボディであり、またトランクが独立していない2ボックスであって、今日イメージされるセダンとはまるで別物である。背の低い4ドアセダンは1940年型のウィリス・セダンが草分け。今のような「背の低い3ボックス」スタイルのセダンが定着したのは第二次世界大戦後の1950年代になってからである。
日本のモータリゼーションが一気に進んだ1960年代は、(現代風の)セダンがすっかり主流になった時代である。高度経済成長期末期から安定成長期の日本車各メーカーは、トヨタ・日産の二大メーカーを先頭に高級セダンから大衆セダンまでのセダンの序列(ヒエラルキー)を作って消費者の購買意欲を掻き立てた。
例えばトヨタの1990年のラインアップを見てみると、(概ね上級車種から)センチュリー/セルシオ/クラウン/クレスタ/マークⅡ/チェイサー/カムリ/ビスタ/コロナ/カリーナ/カローラ/スプリンター/ターセル/コルサと、(兄弟車込みとはいえ)これだけのセダンを豊富に取り揃えていた。さらにセンターピラーレスで背が低く「4ドアハードトップ」を名乗るカリーナEDもハイソカーブームに乗ってヒットしていた。
新興メーカーのホンダは軽自動車から徐々に上級に展開し、1985年にレジェンドを出してフルラインアップを完成させた。企業規模の小さなスバルやスズキはフルライン戦略を展開できず、スバルは4WDのステーションワゴン(ワゴンの派生でセダンも作っていたが)、スズキは軽自動車とニッチ分野に特化する戦略をとった。企業規模が中途半端な三菱はフルラインを指向したものの、実質ミドルセダンのギャランが最上級であり、数の出ない高級車であるデボネアはモデルチェンジがままならず、初代モデル末期には「走るシーラカンス」と化していた。マツダやいすゞは外国メーカーとの提携で高級セダン(ロードペーサー、ステーツマン・デ・ビルなど)をラインアップに加えたが、トヨタ・日産に到底太刀打ちできるものではなく、短期間で撤収を余儀なくされた。
日本経済が爛熟しバブル期に差し掛かる1980年代も末になると、陳腐化したセダンのヒエラルキーが飽きられるようになり、欧州車のコンパクトカーを選んだり、クロカン車(今で言うSUV)を街乗りするのが粋であるという風潮も生まれた。
そして1990年代に入ると、「RV」と総称されたクロスオーバーSUVやミニバンが台頭する。車高の高い前輪駆動のクロスオーバー車は運転席からの見晴らしがよく、また車内も広々として乗り降りも楽なので、昔ながらのヒエラルキーにとらわれない合理性を重んじるユーザーはクロスオーバー車を好んだ。保守的なユーザーからはセダンの需要も根強かったものの、21世紀に入るとクロスオーバー車に圧迫されてセダン市場は徐々に縮小していく。この傾向は日本だけでなく、北米や欧州でも見られた。
さらに日本ではトールワゴン(軽トールワゴンを含む)、アメリカ合衆国(米国)ではピックアップトラックが新たな定番となったこと、電動化を推進した欧州では車高が高いクロスオーバー車と電気自動車(EV)の相性がよかった(床下にバッテリーを敷き詰めても車内高に余裕がある)ことなどがセダンの衰退に追い討ちをかけた。今や、米国ビッグスリーのラインアップからセダンはほとんど姿を消し、新車で買えるアメ車ブランドのセダンはテスラやキャデラックのセレスティックといったEVしかない。米国トヨタはカムリやカローラなどガソリン車・ハイブリッドカーのセダンも幅広く取り揃えているが、最量販車種はクロスオーバー車のRAV4である。
2025年時点の日本国内の日本車ブランドではトヨタ・レクサス・ホンダ・日産・マツダがセダンをラインアップしているが、米国・中国向けのモデルを日本でも売っていたり、古いシャシーをマイナーチェンジを重ねながら延命しているようなケースも多く、トヨタ/レクサス以外はそれほど力が入っているとは言えない。
しかし、今でもメルセデス・ベンツ、BMW、ジャガーなど欧州のプレミアムブランドではクロスオーバー車と並んでセダンや4ドアクーペも幅広く揃えており、日本、米国でも人気を博している。大衆車がハッチバックボディばかりになってしまったために、ノッチバックのセダンやクーペの高級イメージが際立ってきたわけである。
なお、セダンに代わって主流となったクロスオーバー車の「背が高くホイールが大きい2ボックス」というスタイルは、戦前のセダンを彷彿とさせる。実質、クロスオーバー車が昔のセダンのポジションに収まり、セダンがクーペ化しているとも言える。中にはクラウンクロスオーバーのように3ボックスの「背が高いセダン」のようなスタイルのクロスオーバー車もある。
一方、中国などの新興国では廉価なコンパクトセダンもまだ人気があり、日欧ブランドは本国では生産していないサジター(フォルクスワーゲン)、サニー(日産)などのコンパクトセダンを新興国向けに生産販売している。
主な性能・機能上の特徴
メリット
- 車高と重心が低く空気抵抗が少ないので、旋回時や高速走行時、強風時でもブレにくく走行安定性が高い。
- ボディの前後が出っ張っていて重量のバランスが取れており、ハンドリングや加減速のしやすさも優れる。
- 機械式駐車場や低い高架下など全高制限のある所をクリアしやすい。
- 長いエンジンルームとトランクルームがクラッシャブルゾーンとして機能しやすく、後方からの衝突時の耐久性が強く安全性が高い。
- 一部のモデルでは後部下部が出っ張っており後方の距離感がわかりやすいので、目視でのバックがしやすい。
- 座席と荷室が独立しているのでマフラーを介したエンジンの騒音や路面の振動を拾いにくく、静粛性が高い。
- 前面投影面積が小さく重量も比較的軽く仕上がりやすいので、実用燃費が良い傾向にある。
- 大型タイヤが必要かつ重いSUVに比べると、タイヤの本体価格・維持コストは安く抑えやすい。
- 歴史的に高級車・フォーマルな場面に合う車としてのイメージが強い。
デメリット
- 5名以上の定員を増やせない。
- 頭上空間が狭くなりがち。
- 車内での移動がしづらい。
- ステーションワゴンやミニバンと比べると荷室用スペースを確保しづらい。
- 後部座席の角度調整ができない又は僅かしかできない。
- 車高が低いので、小柄な人以外は乗り降りの際に頭上に注意を要する。
- 全長が長くなりがちになる。
形状の種類
主に(リア後部)の形状によって複数のカテゴリーにわけられる。
- ノッチバックセダン
後部の独立したトランクルームの間に車室を持つ。
前部のボンネット、中央のキャビン(居住空間)、後部のトランクルームの3区分が外から見てハッキリ分かる形状である。
「3ボックスセダン」とも呼ばれ、セダンでも最も基本的なスタイルとなっている。
- セミノッチバックセダン
ノッチバックセダンのうち後部が極端に短いタイプ。
「セミノッチバックセダン」や「2.5ボックスセダン」とも呼ばれる。
- ファストバックセダン
ルーフからトランクにかけてなだらかに傾斜したタイプ。
後述のハッチバック構造とは、リアハッチの形状が少し異なる程度である。
- 2ボックスセダン(ハッチバックセダン)
リアデッキを持たないハッチバック型タイプ。
一般には単に「ハッチバック」のみと呼ばれ、ノッチバックセダン等とは区別される傾向にある。