概要
アメリカのピックアップトラックを起源に持つSUVや、堅牢なはしご形のラダーフレームを持つ本格的オフロードカー(クロスカントリー車)に対し、通常のモノコックをベースにそれらの自動車"風"に仕立てた乗用車のこと。
2000年代頃から徐々に世界的な人気を獲得し、2010年代以降勢いのあるジャンルである。
しかしながらかなり新しく確立してきた分野であり、なおかつサイズや規格などの幅が広く他の車両タイプと比べても非常に曖昧さの多い概念である。
このため当記事ではクロスオーバーSUVをクロスオーバー車(CUV)と呼び、本来のSUVやクロカン車と区別する。
クロスオーバー車は、SUVやクロカン車から同一系統上で発展的に派生したジャンルではない。
本来のSUVが浸透しておらず、近年は輸入車も含めた純粋なクロカン車も見かけなくなってきている日本においては、各メーカー店が付加価値をつけるためにオフロード仕様車に似せたこのタイプを「SUV」と銘打って売り込んだ事もあってか、あたかも「SUVの一種」であるかのような間違った認識が広がってしまっている。
繰り返し言うがクロスオーバー車はボディの見た目をそれっぽくしただけで、例えるなら決してカニではないカニカマのような存在である。
開発背景
1970年代以降、銃猟やキャンプなどのアウトドア向けでオフロードにも強いSUVやクロカン車が日米で人気を集めるようになった。
そしてそこから市街地での日常的な使用にも対応できるような新しい性能・スタイルのSUVが開発されるようになる。
「モノコック構造のSUV」としては、1980年代のジープのチェロキーXJがはじまりとされている。
日本ではその頃から1990年代にかけてトヨタのRAV4、日産のテラノ、ホンダのCR-V、スバルのフォレスターなどが登場した。
いずれもモノコック以外については、オフロード車と同等のデザインやパワートレイン、4WDシステムなどが採用されていた。
しかしそうしたルーツとは別に、2000年代以降は単に車高を高くしただけのスタンダードなハッチバック車が「クロスオーバーSUV」として出回るようになり、性能はおろか外観もオフロード車とは全くの別物となってしまっている。
80〜90年代のRVブームの影響もあってか日本でも本来のSUVを知る人は少なくはなく、ジムニーやパジェロのような純粋なオフロード仕様車を愛好する層からはクロスオーバー車を「なんちゃってSUV」などと揶揄する風潮もある。
特徴
基本的にトラクションやサスペンションなど強固な足回りではないクロスオーバー車には、本来のSUVやクロカン車のような悪路での走破性は期待できない。
現代では生産コストや後部座席の足元空間確保の優先などからFF車が多く、雪道や舗装された急坂などでは脆弱な車種も多い。
中には優秀な4WDシステムなどを装備して、雪道や荒れた路面での走りやすさを評価されているモデルもあるにはあるが、現在では欧州車の現行車などを含めても少数派となっている。
通常のセダンやクーペと比べると車高と重心が高いため高速走行や強風時での安定性、滑らかな旋回性、車内への騒音や揺れの遮断性などが劣り、どっしりとしたミニバンやステーションワゴンと比べると人員・荷物の搭載量などが劣る。
その一方でドア口や頭上空間が高めになり、乗り降の時姿勢を屈めなくて良い、かさばる荷物が載せやすいなどのメリットがある。
また、車種にもよるが、セダンやハッチバックのコンパクトカーに比べ運転席の目線が高いため、先が見通しやすく、サイズの割には車体感覚が掴みやすいため、長時間の運転でも疲れにくいとされるが、運転者の向き不向きの問題もあるので個人差が大きい。
同様の利点があるミニバンと比べるとアクのないスタイリッシュな高級感を演出しやすく、セダンやクーペ程までとはいかない毛の生えた程度だがオンロードでのスポーツ走行性能も組み込みやすいということで、近年は各メーカーがこぞってこのジャンルの車を手がけている。
良く言えば様々なジャンルの要素の組み合わせではあり、悪く言えば個々の機能が中途半端でどっちつかずになりやすいジャンルである。
もっともメーカーにもメディアにも、従来のSUVやクロカン車とは全く別物である事を啓蒙して頂きたいところではある。