概要
日本の円谷プロダクションから独立したスタッフと、上海の中国企業が共同制作した巨大特撮ヒーロー作品。基本スタッフは日本で、それ以外はすべて現地のキャストやスタッフとなっている。
諸事情により未放映のまま打ち切られたが、2014年にはメイン監督の原田昌樹氏が監督を務めた撮影が終わっていたフィルムから第1話から第3話までを収録した日本語字幕付きのDVDが発売された。
なぜ製作が打ち切られたのか
今作は、『ULTRA N PROJECT』の打ち切りに端を発した社内クーデターから始まったお家騒動の末に円谷プロダクション社長職を解任された6代目社長・円谷英明が設立した映像会社「円谷ドリームファクトリー（大本は休眠会社となっていた円谷コミュニケーションズという会社）」が中国の映像会社「上海メディアグループ」と共同で現地の児童向けに放送を目指した作品である。(よって平成ウルトラマンのスタッフが多数参加しているが円谷プロ作品ではないので注意)
出資金集めから早速躓く
2006年に上海メディアグループの本拠地である上海に製作会社を設立し、上海は51%、日本は49%出資でスタート。
資金集めとしては、一番最初にウルトラシリーズのメインスポンサーたるバンダイに出資を期待し、ほかの投資家もバンダイが出資するならばと条件付きで前向きな姿勢を見せた。
ところが、無情にもバンダイからは「出資見送り」という回答が来る。理由としては当時ウルトラシリーズのスポンサード契約が一年ごとの更新だったため、その間にほかの会社にウルトラシリーズの権利を奪われる可能性があること、そしてもし仮に『五龍奇剣士』がヒットした場合に日本のバンダイとなによりも円谷プロの立つ瀬がないというものだった。
バンダイからの出資が得られず、ほかの投資家たちも次々と出資見送りを決断した。しかしすでに企画が動き始めており、後戻りができない状態にあるとして英明は見切り発車的に企画を動き出してしまった。
中国と日本の違いに泣かされる
最初に5分のパイロット版を製作。当初制作スタッフの90%が中国人の予定だったが、中国側は特撮の制作に素人であるため、日本からスタッフを招集し、日本側が制作、中国側は技術製作を学ぶこととなった。 中国では特撮に使用するハイスピードカメラが不足しているため、日本から急遽取り寄せたが中国での特撮の映像合成方法が未熟なため、日本側で映像合成を行い、中国側は現場で映像合成を学習しながら製作することとなった。
パイロット版の製作終了後は4クール全52話の放送を目指していたものの、中国ではテレビ番組を作るためには「国家広電総局」という専門の機関に申請しなければならず、最初の申請から半年たった2007年2月に申請が通ったものの、中国の番組制作には期間が設けられており、既定の期間内にすべて製作し終わるか、それができないなら再申請する事になってしまう。さらには全話国の検閲を受ける必要がある。
当初は最初のいくつかのエピソードを製作してから残りを撮影する方針だったが、1年放送を想定していた今作に与えられた期間は半年と物理的に不可能な期間だった。早めに制作するためには複数のエピソードを同時に撮影する必要があるため、日本から30名以上の制作スタッフを追加募集したが、日本の制作スタッフは中国の制作スタッフを指導する必要があるためどうしても撮影の効率が悪く、加えてメイン監督の原田昌樹が死去。とどめとばかりに9話まで製作したところで資金が底をつき、やむを得ず一旦製作を凍結し、ほぼ完成している9話と合わせて少しの新規撮影と過去の映像を切り張りすることとし、全13話に短縮を余儀なくされた。そのために契約内容は次々と替わり、ギャラの値切りまで行われていたという。
こだわりを貫いた結果、編集会社のクーデター。そして打ち切りへ
中国の協力企業から資金を得ることもできないため英明は残り4話を撮り足すための資金集めのため一時帰国。だが当時は中国国内で横行する偽物ビジネスのリスクを心配した投資家が出資に二の足を踏んでしまい、さらに円谷プロの社長職を失った英明に社会的信用が無く、十分な制作費を集めることはできなかった。
そのため英明は家族の猛反対を押し切って府中市にあった唯一の資産である自宅を売却。さらには2009年にフジテレビの理解を得られたことで3000万の融資金を得ることに成功。売却金と融資金を手に中国へ戻ったものの、その間に1年以上の製作遅延という先行き不透明な製作状況に業を煮やした業務委託していた中国の現地スタッフがクーデターを起こし、「最初の契約通り全52話分のギャラを前払いしなければ使わせない」と完成していた映像素材を差し押さえてしまった。
中国側は「自分たちが映像を抑えているのだから好きに改変して放映できる」と主張。13話分で収めてほしいという懇願も聞き入れられず、交渉の間に売却金も融資金も底をつき2010年、あえなく製作は打ち切り。今作は日の目を見ることなくお蔵入りとなった。その影響は製作スタッフにまで及び、当時製作に関わっていた塩川純平が当作品の非公式フェイスブックで明かした情報によると、スタッフの多くがギャラ未払いの上、私物私財を撮影所に差し押さえられているという。
英明はこの作品の影響で家を手放したばかりか、交渉を続けたいというスタッフの意向で会社こそ畳まなかったものの社長の座から退き、さらには自身が関係していたチャイヨー・プロダクションのウルトラマン海外版権がアメリカの司法で二度の裁判の末に否定され、文字通り全てを失うこととなった。
差し押さえられた映像は現在も上海の倉庫に保管されているらしい。
総評
以上の事から総評すると今作が打ち切りとなったのは
- 中国の事情を知らなかった円谷英明の見切り発車な企画
- 祖父譲りのマネジメント能力の欠如
- あきらかな制作費不足での相次ぐ契約内容の変更で4クールだったところが1クールに短縮された時点で中国側スタッフを怒らせたため
といえる。
予算不足であるにも関わらずこだわりを貫いて放送期間を短縮させた結果スタッフにクーデターを起こされ失脚するという過去に日本国内にて『ULTRA N PROJECT』を失敗させた時と同じ失敗を繰り返したばかりか、円谷プロ創業時から行われていたどんぶり勘定でどうにかしたという方法論を過信し、それが現在でも通るものだと思い込んでいた点は否めない。加えて中国では賃金・予算が日本より安く組めるという安易な考えを常に掲げていた丸投げお気楽思考だったことがうかがい知れる。はっきり言えばまるで成長していない、自業自得な結果と言える。
事実日本から呼ばれたスタッフですら中国側を擁護しており、英明の味方はいない有様である。
挙句の果てに、英明はかつてウルトラの権利問題で話題となったチャイヨー・プロダクションのソムポート家と行動し、現行のウルトラシリーズを商業しか考えていない、スピリットがない批判しているが、そもそも円谷一族が追放されたのはマネジメント能力の欠如が原因であり、特に番組を作るための制作費回収に必要不可欠な商業を軽蔑しすぎたことが大きい。それに加えて、英明が当時社長だったころにやろうとした採算とクオリティの両立が現行作品ではできていること、現行スタッフの努力を評価する声も多いことから、現行の作品を楽しんでいるファンにはことごとく嫌われており*商業的失敗から何も学んでいない様である(彼の発言に便乗して現行作品を批判する声もある程度存在するが、現行作品に対する批判内容は過去作にも該当することが多く、鵜呑みにしてはいけない)。
加えて一連の事情が書かれた彼の暴露本もまた、発売当初は局地的に話題にはなったものの現在の観点から見ればほぼトンデモ本と言っても過言ではない内容であることが明白となっており、過去に円谷プロに何があったかを知ることはできるもののその内容は第二期ウルトラシリーズと平成ウルトラシリーズへの批判と保身と自己弁護、自己肯定に満ち満ちたものであり、英明自身の問題発言や引き合いに出している作品への理解の無さもあって資料としての信憑性・価値はほぼ絶無になり果てたと評して間違いない。
先述の現行批判も海外版権を巡るアメリカでの裁判でチャイヨー側の敗訴(チャイヨーは1996年にタイ以外の国での版権をバンダイに売却していることが2011年に発覚済み)を受けて慌てて自分の存在をアピールしているに過ぎない。結果は2020年に円谷プロの完全勝訴に終わり、英明は上記の通り全てを失ったのたが。
一番の被害者はこの失敗必須の作品作りのために住居を売却された英明の家族と私物をも差し押さえられた日本のスタッフ、そして今作のキャスト陣だろう。
あらすじ
西暦2056年の中国。この世にはびこる邪気の力は怪獣を生み出し、宇宙から地球侵略を目論む宇宙人たちの襲来を招いていた。
この危機に際し、仙翁に仕える妖精メイメイは、不思議な力を持つブレスレットを地球防衛組織SAMの隊員、エントンに託した。
エントンはブレスレットの力で巨人、青龍剣士へと変身し、怪獣や宇宙人に立ち向かう。
登場人物
- エントン
主人公。正義感の強い若者。
従兄の家に居候していたが、夢の中に現れたメイメイの言葉に従い、地球防衛組織SAMに応募。優秀な成績で隊員として入隊する。スピーダーフォックスのパイロット。
熱血漢だが、良くも悪くも思ったことを口にしがちでそれゆえにほかの隊員と対立することもある。
メイメイから与えられた青龍腕輪の力で青龍剣士に変身する。
- メイメイ
シェンワンの弟子である妖精。現世に現れた怪獣から人類を守るべく、シェンワンから腕輪を託されその一つをエントンに託す。
戦闘では青龍剣士の戦いをサポートしたり、新たな力を開放してパワーアップさせることができる。
- シェンワン
仙界の長老で、太古の昔から人類を見守ってきた。
昔と比べて自然破壊や争いを繰り返す人間たちにはややあきれていて現世に現れた怪獣が出現した時は助けようとはしなかった。しかし弟子のメイメイの懇願により腕輪の力を彼女に授け再び人類の力と意思を試し見ることにする。
- レイティン
地球防衛組織SAMの隊長。チーフと呼ばれている。
戦闘経験が豊富で、かつてはスピーダーフォックスのパイロットを務めていた。現在は基地に常駐し、隊員たちのサポートに回っている。
- ドンシャン
SAMの隊員。バーサークタイガーのパイロット。
レイティンに憧れて入隊したこともあり、スピーダーフォックスに乗りたがっていた。そのためフォックスを旧型と馬鹿にしたエントンに鉄拳制裁を食らわせたこともある。
厳しいが、エントンにとっては頼りになる先輩。
- ミーラン
SAMの隊員。アースドラゴンのパイロット。
男勝りで勝気。直観力に優れる。口癖は「泣けてくる」
- シェンチャン
SAMのメカニック担当。お調子者だが腕は確かで、各隊員からの信用も厚い。
- ヨウチー
SAMの副隊長。レイティンの片腕であり最新テクノロジーに精通している。
- ワン教授
SAMの科学顧問。レイティンの恩師。
登場怪獣
吸電怪獣エネスタン
月亮湖という湖に捨てられていたバッテリーなどの産業廃棄物や水銀の影響で原住生物が怪獣化したもの。シルエットはナギラに似ている。口からは火炎を吐き出し、角から電撃を放つ。
魔獣怨念
古代遺跡から発掘された石棺の中に封印されていたミノタウロスに似た魔物。自分を封印した青龍剣士に復讐を果たそうとしている。
弱点は首の後ろ。巨大な剣が武器。
侵略宇宙人カエラ
宇宙を放浪し、各地の惑星を攻め滅ぼしている凶悪な宇宙人。シルエットはザラブ星人に近い。胸からは惑星をも破壊する電撃を放つ。
青龍剣士を一度は倒したほどの強敵。作品が打ち切られなければシリーズを通しての敵になる予定だったらしい。
名前の由来は木村カエラ。鳴き声は後の虚空怪獣によく似ている。
宇宙難民フローグ星人
オリオン星系フローグ星の宇宙人で、カエラに母星を滅ぼされ流浪の民となった。
SAMに水・食料の提供と宇宙船の修理を依頼し、カエラが地球に向かっていると警告した。
各話リスト
関連動画
余談
差し押さえられた一部怪獣の着ぐるみは中国の恋愛ドラマ『愛情公寓』や特撮ヒーロー番組『鎧甲勇士』に流用されているらしい。
