チャイヨー・プロダクション
ちゃいよーぷろだくしょん
1960年代
- 1962年
- のちにチャイヨーを興すソムポート・セーンドゥアンチャーイが映画産業勉強のため日本へ留学。彼は東宝で研修を受け、そこで円谷英二に師事し、また円谷皐とは同年代として意気投合する。
- 1963年
- タイ王国に帰国したソムポートが「チャイヨーフィルム(チャイヨー・プロダクション)」を起業。
1970年代
- 1973年
- タイ初の本格的な特撮映画『ターティエン』を制作。
- 1974年
- 円谷プロとの合作映画『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』(原題「ハヌマーンと7人のウルトラマン」、日本では1979年公開)、『ジャンボーグA&ジャイアント』を制作。
- 当時怪獣ブームが下火になるにつれ深刻化していった円谷プロ倒産の危機が、この企画によって盛り返したとか。
- 円谷プロとの合作映画『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』(原題「ハヌマーンと7人のウルトラマン」、日本では1979年公開)、『ジャンボーグA&ジャイアント』を制作。
- 1975年
- 『ハヌマーンと5人の仮面ライダー』を制作。
- 『五人ライダー対キングダーク』の配給権を買い付けたチャイヨーは、もらったフィルムをそのまま上映すればいいところを、勝手にハヌマーンと仮面ライダーが共演する新撮映像を接ぎ足して魔改造したため、極めてクオリティの低い作品が出来上がることになった。当然、無許可でフィルムを改ざんしたことに激怒した東映から著作権侵害で提訴されて呆気なく敗訴し、賠償金を支払わされる。下記の円谷との争いも含めその存在は東映にも強い印象を残したらしく、後の作品で彼等を揶揄するような事をしている。
- 『ハヌマーンと5人の仮面ライダー』を制作。
- 1976年
- 当時の円谷プロ社長・円谷皐と日本以外におけるウルトラシリーズの使用権、いわゆる76年契約書(後述)を交し、東南アジアで円谷作品を使用したビジネスを開始。
1980年代
- 1984年
- 『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』に『ウルトラマンレオ』や『ウルトラマンZOFFY』などからの映像を円谷プロに無許可で付け足し編集したリメイク映画『ハヌマーンと11人のウルトラマン』を制作。
- その後この作品は違法であるとする判決が下り、映像ソフト化はされていないはずだが、この作品の英語版と思われる作品が『Space Warriors 2000』のタイトルでYoutubeにupされている。
- 『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』に『ウルトラマンレオ』や『ウルトラマンZOFFY』などからの映像を円谷プロに無許可で付け足し編集したリメイク映画『ハヌマーンと11人のウルトラマン』を制作。
- 1985年
- 『エリマキトカゲ一人旅』を制作。
- これがチャイヨーが制作した最後の劇場用作品となる。
- 『エリマキトカゲ一人旅』を制作。
1990年代
- 1995年
- 円谷皐が死去。それを受けてか、突如として「ウルトラマンの海外展開権はチャイヨーにあり、契約書も存在する」と主張し始め、円谷プロとの係争が始まる。
- 1997年
- 日本国外(主にタイ王国)でウルトラシリーズ関連事業を展開し始める。
2000年代
- 2001年頃
- 円谷プロに無断でオリトラマン『ウルトラマンミレニアム』『ウルトラマンエリート』『ダークウルトラマン』を創作。
- 2005年
- 前述のオリトラマンを主役にしたテレビドラマ『PROJECT ULTRAMAN』の制作に着手。これをめぐり、円谷プロがチャイヨーを提訴。
- 2006年
- タイ・アユタヤに約10億バーツ(2022年現在の日本円で約33億円)をかけ、ウルトラマン博物館なる施設の開業に着手。
- 現在は一部が廃墟として残っている。
- タイ・アユタヤに約10億バーツ(2022年現在の日本円で約33億円)をかけ、ウルトラマン博物館なる施設の開業に着手。
- 2007年
- 2008年
- 76年契約書について、タイ王国の最高裁が「契約書の原本がない」「サインの筆跡が違う」「作品名の英語タイトルが違う」「ライセンス料の記載が欠けている」といった不自然な点を理由に偽造されたものであると認定。ソムポートがかねてより行っていた「自分がウルトラマンの共同創作者である」という主張も却下し、キャラクタービジネスの停止と損害賠償金1000万バーツ(2022年現在の日本円で約3000万円)およびその利息の支払いを命じる。
- これを受け、日本のユーエム社に76年契約書で権利が譲渡された作品の海外展開権を譲渡。
- 76年契約書について、タイ王国の最高裁が「契約書の原本がない」「サインの筆跡が違う」「作品名の英語タイトルが違う」「ライセンス料の記載が欠けている」といった不自然な点を理由に偽造されたものであると認定。ソムポートがかねてより行っていた「自分がウルトラマンの共同創作者である」という主張も却下し、キャラクタービジネスの停止と損害賠償金1000万バーツ(2022年現在の日本円で約3000万円)およびその利息の支払いを命じる。
問題となった『76年契約書』とは、ソムポートの主張によれば、1976年、当時の円谷プロおよび円谷エンタープライズ社長・円谷皐から、日本国外(つまりタイを含む全世界)での『ウルトラQ』~『ウルトラマンタロウ』までのウルトラシリーズと『ジャンボーグA』の独占的な使用権を譲渡されたという契約書である。
ソムポートによれば、
- 高温多湿のタイでは保管が難しいので、『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』のネガフィルムは日本に預けていたが、円谷プロが無断で複製し、香港・台湾など複数の国・地域に売却してしまった(ソムポートは『怪獣軍団』は円谷プロとの共同製作品であり、チャイヨー側にも権利があると認識していた)。
- ソムポートは皐に損害の補償を要求したが、手持ちの資金が無かったため、埋め合わせとして国外でのウルトラシリーズの使用権を譲渡した。
との経緯でこの契約が交されたという。
詳細は安藤健二によるルポ『封印作品の憂鬱』に詳しいが、契約書の存在が発覚した当初から、
- 内容の重大性に釣り合わない、紙1枚という極めて簡素な書式。
- 「控え」だけで「本書」が発見されていない。
- 『ウルトラセブン』を『ウルトラマンセブン』と記すなど、基本的な間違いがある。
- 押印された会社印が円谷プロダクションではなく、円谷エンタープライズ(関連会社だが、円谷プロの当時の筆頭株主であり、事実上の持株会社)のもの。
- サインの筆跡が皐のものと微妙に異なる。
- 当事者である皐の死後、1995年になって初めて表に出た。それまでチャイヨーもソムポートも当契約書の存在すら明らかにしていなかった。
など、数多くの疑義が囁かれていた。
しかし、書面の会社印が円谷エンタープライズの真印であると認定されてしまったため、日本の最高裁判所では円谷プロ側が敗訴してしまう。
(円谷プロではなく、皐個人が自由にできる円谷エンタープライズの印が押されていた点から、業界人や円谷プロの社員ですら「皐の独断」と見る向きが少なくないという)
一方、タイの法律では「ハンコ」は意味がなく、「サイン」が契約の締結の印とされる。このため、サインが偽造と認定されたタイの判決ではチャイヨー側が敗訴という「ねじれ現象」が生じたのである。
(とはいえ、日本国外における権利に関する争いであるため、日本国内における判決は実質的な効力が無い)
その後、76年契約のユーエム社への譲渡、チャイヨーとバンダイの間で交された訴権放棄の合意(通称「平成10年契約」)などもあり、各国の裁判所で勝訴・敗訴が入り乱れ、非常に複雑な状況となっていた。
(「平成10年契約」もチャイヨー・バンダイ間の合意であり、円谷プロとの和解ではない点に注意)
一方、遡る2013年には中国最高裁で前述の「ハンコ」が日本同様に真印と認定されて、円谷側が敗訴。
さらに2017年に円谷プロに無断で「中国版ウルトラマン」の制作(制作者側は上記のユーエム社から許諾を得て制作としており、円谷一族の円谷英明氏もこの作品に関して支持している)が発表され裁判を行っていたが、こちらは2020年に中国の最高裁で「ユーエム社が持つウルトラシリーズの利用権が仮に正当なものであったとしても、その権利範囲に『キャラクター(または一定の改変を加えたキャラクター)を用いた映画の撮影』は含まれていない」という判決が出され、円谷側が勝訴している。
(ただし、これも上述の『PROJECT ULTRAMAN』問題における「過去の作品の権利譲渡と、新作の制作は別」の判決・判例を踏襲した内容で、新味は乏しい)
76年契約書はすでにタイ国内では効力を失い、チャイヨーも事業を停止している現状だが、同契約が全世界でのウルトラシリーズの展開をソムポート側に許す内容である以上、今後ウルトラシリーズを世界展開しようとする上で訴訟リスクを抱え込む格好となり、依然として円谷プロには大きな足かせとなっていた。
(大きな例として、小説『ゲームウォーズ』の劇場映画化作品である『レディ・プレイヤー1』において原作には登場するウルトラマンが登場できなかった原因がこれである)
2018年、アメリカ・カリフォルニア州地裁で76年契約書の無効が評決され、アメリカ国内でのウルトラシリーズ展開の障壁が取り除かれた。
ユーエム社は控訴するも、2019年の控訴審でも円谷プロが勝訴。ユーエム社は2020年までの期限までに連邦最高裁へ上告せず、契約書の無効が確定した。
また、ユーエム社は中国においても2019年に訴訟を取り下げ撤退。チャイヨーの権利を認めていた日本でもその権利はすでに消失、2020年にはタイにおいてもソムポートとの最後の損害賠償請求訴訟が終了し、ウルトラシリーズの海外展開に対する足かせはなくなった。
そのため、円谷プロはMARVELとのコラボや海外出身のウルトラマンを起用した映像作品シリーズの配信など、積極的な世界展開を進めている。