パイプ
ぱいぷ
喫煙道具の「パイプ」
元は南北アメリカ大陸で先住民族たちによって発明され、大陸発見と開拓によってヨーロッパに伝わった。
アメリカ先住民にとって煙草とパイプは「霊的な法具」としての側面も持ち、和平の象徴ともされた。これについてはスー族の「白いバッファローの乙女(The White buffalo woman)」の逸話で知られる。
スペインから喫煙文化とともに欧州全土に波及し、その後市民の喫煙道具として普及する。
現在は葉巻や紙巻き煙草に押されているものの、そのクラシカルな雰囲気に惹かれて愛好する人は少なくない。
コナン・ドイルが自身の推理小説『シャーロック・ホームズ』の主人公・ホームズの愛用品として登場させたことから、探偵を象徴するアイテムとしても認知されている。
構造
火皿(ボウル)と吸引口(マウスピース)の二段構造となっており、内部にヤニ止め(フィルター)と呼ばれる針状の気孔を備えている。内部構造としては煙管よりもやや複雑。
火皿は木製、もしくは陶器製が一般的で、凝ったものでは美術的な彫刻を施しているものもある。
メンテナンスに少し手間がかかり、数回に一度は管内のヤニを取り除き、燃えて固形化した灰(カーボン)となった煙草を適度に削ったりと、長く使うには小まめに手入れをしてやる必要がある。
火皿は使用後にしっかり乾燥させないと、短期間でひび割れて破損してしまうため、一度吸った後に連続して使用するのは良くないとされる。
主に使用されるパイプ用の葉タバコは紙巻き煙草のものにくらべてしっとりと湿っており、全体的にラム酒やレーズン、バニラ、チョコレートといった甘めの香りづけがなされたものが多い。
パイプ愛好家の中には複数種類の製品を自分で組み合わせて、オリジナルのブレンドを作っている者もいる。
吸い方
一般的な紙巻きタバコに比べると、喫煙には少し慣れが必要。
1.煙草を詰める
煙草の葉を火皿の8割ほどまで隙間なく詰め込む。
複数回に分けて詰め込むのが理想だが、熟練者は適切な量を一度に詰め込む場合も多い。
このとき詰め具合にムラがあると、燃えが早くなったり煙がいがらっぽくなったり、逆に息の通りが悪すぎて途中で消えたりしてしまうので、適度な硬さに詰めていく必要がある。
詰めるには指で押し固めるか、「タンパー」と呼ばれる耳かき状をした専用の道具を用いる。
葉の量は一般的な紙巻き煙草3~4本分と、結構な量をつめることになる。
2.火を点ける
ライターのガスや油の臭いが煙草の風味を損ねるとして、マッチを愛好する人が多い。
その後吸いながら火をさらに熾し、燃焼を着火部から煙草の上部全体に広げていく。
広がってくると煙草の葉が膨らむので、タンパーで再度押し固めながら炭化して被熱した煙草を広げていくことで、より効率的に着火していく。タンパーの使用は口から離しておこなう。
3.吹かす
火が点いてきたら、まずゆっくり吸ったり吹いたりして火種を保つ。
火が回って紫煙が立ってきたら、ゆっくりと燻ららせながら喫煙し、火種を絶やさないようやさしく火を熾し続ける。紙巻きと異なり、2、3吸いに1度は呼気を吹き戻して火種を安定させる必要がある。
また、時折タンパーで火皿の内部を固めて煙の量を一定に保ち、また燃え切っていない他の部位に火種を移し、最後まで吸い切るよう心がける。
火皿の温度を確認しつつ、熱いと感じればしばらく放置するか、吸うよりも吹かす回数を増やして放熱してやることで、パイプを長持ちさせることができる。
愛好層の変遷
現在でこそ、時間と金をかけられる人が行う趣味性の高い喫煙方法とみなされるパイプだが、本来は手っ取り早く喫煙する必要のある労働者階級のものだった。金銭に余裕のない彼らにとって、加工や入手に出費と手間暇のかかる葉巻や、貴族特有のフォーマルさが求められる嗅ぎたばことは異なり、器具さえあれば葉っぱを詰めるだけで喫煙でき、自分で吸う時間と量をコントロールできるパイプは親和性が高かった。
また、時の権力者やブルジョワ趣味に反感を持つ芸術家や一部の貴族層なども敢えて愛好した。シャーロック・ホームズやジョースター卿のパイプ愛好もこの類なのであろう。
20世紀に入ると紙巻きの大量生産が容易になったことで、労働者の間にも喫煙方法と携行がパイプより簡単な紙巻きが普及した。
ちなみに4年に一度(当初は3年に1度)「世界パイプスモーキング選手権大会」なる催しが開催されており、世界各国からパイプ愛好家が集い、如何に一回の喫煙を長く続けられるかを競う。
一見ただの珍競技に思えるが、2018年開催で既に14回を数える歴史ある大会で、全日本選手権に至っては45回を数えるほど。
ちなみに日本は第2回大会以降、団体の部では上位入賞の常連となっており、2018年大会では念願の団体優勝を果たしている。