本稿では、植物のタバコについて説明する。
その植物から製造される嗜好品については「煙草」を参照。
概要
ナス科タバコ属に分類される植物は南アメリカに37種、北アメリカに8種、オセアニアに20種、アフリカに1種が自生する。
栽培は主に煙草の製造用であるが、ニコチアナ・アフィニス(花タバコ)が草花として栽培される。
ニコチアナ・タバカム
ニコチアナ・タバカムはアンデス山脈に分布する二つの野生種(ニコチアナ・トメントシフォルミス、ニコチアナ・シルベストリス)が交雑して生まれた。アメリカ先住民によるタバコ栽培が始まったのは、およそ5,000年前と考えられている。
1年生草本で、全体に繊毛があり、植物体に独特の甘い臭気がある。
生育の適温は20~25℃で、日当たりの良い半乾燥地域を好む。
種子は直径0.5mm、重さ0.08mgほどで、一見コーヒーの粉のようだが、草丈250cmまで成長する。
葉は細長い楕円形で互生し、長さは20cmから60cm。茎の上層の成長点に近い葉ほどニコチン含有量が多くなる。
初夏に総状花序を出し、漏斗状で先端が5つに開いたピンク色や黄色などの花を咲かせる。
果実は1つ当り3000粒程度の種子を内包する。
日本では1月中旬から2月下旬にジョウロを使って種蒔きが行われ、3月中旬から4月中旬に苗を畑に植える。6月の開花時期に花穂を摘み取り、6月上旬から9月中旬に適熟に達した葉から順次収穫する。
栽培品種の主な系統
栽培品種は葉巻葉、黄色葉、バーレー葉、オリエント葉が主な系統で、他にローカルな品種である在来葉がある。
葉巻葉
葉が大きく弾力があり、窒素やニコチン、樹脂を多く含む。3段階の発酵と2年前後の熟成を経て、葉巻の原料に使用される。この過程でニコチンやタールが減少し、芳醇な香りとふくよかな味わいが加味される。
バージニア葉
紙巻煙草の原料として代表的でオレンジ色やレモン色に仕上がる。バージニア州で良質のタバコ葉が採れたため、産地名が黄色種のタバコ葉に冠せられた。熱処理倉庫で1週間かけて乾燥させる。軽快で澄んだ喫味、紅茶のような甘い香りが特徴。
バーレー葉
葉巻用品種から突然変異でできたと言われる。多孔質で膨張性に富み香料をよく吸着するため、香料を添加したタバコ葉として使用されることが多い。倉庫で2ヶ月かけて空気乾燥させるが、その間にタバコ葉の糖分が失われ、「バーレーキック」と呼ばれる辛味がある。褐色に仕上がり、チョコレートのような穏やかな香りがある。
オリエント葉
別名トルコ種。乾燥した気候、痩せた土壌というタバコにとって厳しい条件下で栽培され、葉は小さく繊毛が長く艶がない。品種によっては最大葉長が10cm以下。屋外で日干乾燥され、黄色く仕上がる。窒素やニコチンが少なく、樹脂や糖分が多い。甘い芳香と鰹出汁のような喫味を有する。
日本在来葉
松川、備中、だるま、秦野、阿波、遠州、南部、国分、水府など。葉肉が薄く、ニコチンが少なく、喫味が柔らかい。乾燥後は褐色に仕上がるものが多い。日本の国内総生産量の1%前後を占める。だるま葉はJTの煙草「セブンスター」に使用されていることが有名。
ニコチアナ・ルスチカ
ニコチアナ・ルスチカ(丸葉タバコ)もかつては気候条件の厳しい地域を中心に広く栽培されていたが、喫味が劣るため現在は中央アジアやインドなどの極一部で喫煙用に利用されるのみである。
ニコチアナ・タバカムの9倍以上のニコチンを含有し、有機農薬としても使用される。
ニコチン
ニコチンはカフェイン、コカインなどと同様にアルカロイドの一種で、植物が食害からの防御のために生産する有毒物質。名前はフランスにタバコをもたらした外交官、ジャン・ニコに由来する。
精神に対し「覚醒(興奮)」と「鎮静(抑制)」の二相性の効果を持つ依存性薬物である。