禪院扇
ぜんいんおうぎ
「遅いぞ 何をしていた 実の父親が峠を彷徨っている時に……!!」
概要
呪術界の御三家の一つである禪院家の呪術師で、特別一級呪術師。
長い髪をポニーテール風に後ろで束ねた、痩身の壮年男性。
禪院家26代当主・禪院直毘人の弟で、禪院真希、禪院真依姉妹の実父。
禪院直哉・禪院甚壱・伏黒甚爾の叔父で、伏黒恵の大叔父にあたる。
本人の登場は渋谷事変終了後だが、それ以前にも真依の回想で名前のみ登場していた。
人物像
御三家である禪院家を束ねる幹部の一人。直毘人による遺言の開示の際には直哉、甚壱と共に立ち会う事が指定されていた。遺言においても直哉が当主になった場合には、財産の運用に甚壱または扇の承諾が必要とされていた。親子などの上下関係にはこだわりがある模様。
当初こそ欲望丸出しな直哉とは一見すると正反対な振る舞いから冷静な判断が出来る人物だと思われていた。
しかし、その本性は禪院家での立場や財産に執着しつつ自分を顧みる事なく全ての非は他人にあると責任転嫁する異常なほど強い自己愛、自己憐憫の精神の持ち主。
初登場時から問題のある言動だらけであった直哉に比べると初登場時はまともに見えた扇が本性を表した際の落差は激しく、読者に衝撃を与えた。初登場時に娘の真希の安否を気にしないばかりか一言も言及しなかった時点で、既にその兆候はあったとも言える(上記の直哉への発言もほぼブーメランである。)。
親としては控えめに評しても毒親であり、実の娘である真希・真依の事を自らの出世の道を阻んだ「出来損ない」「我が人生の汚点」と激しく恨んでおり、挙げ句後述する通り「自分と兄は互角だったが、子供の出来が悪いせいで当主になれなかった(意訳)」とまで言い放っている。
が、ファンブックでは直毘人が当主に選ばれた理由は「単純に直毘人の方が術師として強いから」と作者から明言されており、更に2022年秋のジャンプGIGAに掲載された作者への質問記事では「(直毘人と扇の実力差は)余裕で直毘人です」「扇は直毘人の本気を知らないと思います」とダメ押しと言わんばかりに断言されてしまった。
これによって娘達への恨み節や仕打ちが単なる逆恨みであることが(読者の誰もが予想出来ていたとはいえ)ほとんど確定となってしまった。
当然ながら、娘達からも愛されてはいなかったらしく真希からは「子供を殺せるクソ野郎」と軽蔑されており、父を殺す事を躊躇う様子もなかった。ただし、さすがに表には娘達への殺意までは出していなかったようで娘を父である扇自身が殺すという計画を聞いた際には、直哉ですら「でもそれでええん?扇のオジさんは」と確認していた。
自身の妻とどのような関係を築いていたのかは不明であるが関係は冷え切っており、妻が直哉を自分がいる部屋に案内していた際には仕事中という事もあってか互いに会話はおろか目を合わせる描写すらもなかった。加えて彼女が今際の際に見た「幸せな家族のイメージ」の中でも、そこにいたのは彼女自身と娘の真希・真依の3人だけであり、扇は一切存在していなかった。
下部組織である躯倶留隊のレビューによると、評価は星1.0と直哉に次いで低い。彼等曰く「ずっとちょっとキレてる」 「急に忌庫を空にするとかで駆り出された、嫌だった」 「嫁怖すぎ」とのことであり、かなり苦手意識を持たれていた模様。
過去には全く呪力を持たない人間である甚爾に対して激しい恐怖を抱く程の実力差を見せられた経験がある。しかし、甚爾自身を認めたり見返そうとするような気概はないようで、逆に甚爾の恐怖はあくまで忘れて無かった事にするように努めていたという。その恐怖もあってか、それに近い真希の天与呪縛についても受け入れようとはしていなかった。
活躍
初登場は第138話「禪院家」。父親が危篤の状態であるにもかかわらず遅参した直哉に苦言を呈していた。その後、開示された直毘人の遺言に異論を挟まなかった事から、直哉には「よお知らんガキが当主になっても俺よりはマシやとなんもせん気」と思われていた。
「何故前当主が私ではなく直毘人(あに)だったか知っているか?」
「それは子供のオマエ達が 出来損ないだからだ…!!」
しかし、扇が直毘人の「(外様にあたる)伏黒恵を当主にする」という遺言に異議を挟まなかったのは、呪術界における禪院家の立場を危めずに、むしろ家の立場を上げつつ伏黒を抹殺する計画を練っていたからであった。
計画とは、『伏黒恵・禪院真希・真依を五条悟解放を企てた謀反人として誅殺する』というもの(皮肉な事に伏黒・真希に関してこの濡れ衣は事実であるが)。恵に加えて扇自身が真希・真依という実子を殺す事で(謀反人を殺したという)信憑性を増し、伏黒を狙った事に対して疑いの目を向けられないようにしつつ、呪術総監部からの信用を上げるという狙いがあった。
「来い!!! 出来損ない!!!」
計画は実行に移され、禪院家忌庫にて真依にあらかじめ致命傷を負わせた後、戦力強化の為に呪具を求めて忌庫に来た真希と対峙。自らがかつて当主に選ばれなかった理由を真希に問いかけ、居合の体勢をとる。
初撃を真希に捌かれ、返す刀で刀身を折られる。さらに攻めようと迂闊に間合いを詰めた真希に対し、術式を使用し炎で刀身を修復、真希からの一閃を僅かな傷にとどめ、逆に腹と右目を斬り裂く。そして倒れ伏す真希に、自らがかつて当主になれなかった理由を「子供のオマエ達が出来損ないだから」と言い捨て、涙を流した。
瀕死となった姉妹を、纏めて2級以下の大量の呪霊を飼っている修練場に放り込んで殺させようとするも、結果として真希は真依の死によって完全な天与呪縛となって復活。
扇は真希にかつて骨の髄まで恐怖した甚爾の面影を見て即座に術式を開放。全力をもって焼き殺そうとするが、一瞬にして頭部を両断。反応すらできないまま絶命した。
戦闘能力
戦闘の際には刀を用い、呪力で強化した剣術で攻め立てるスタイル。
周囲に呪力を纏い触れたモノを迎撃する、領域対策「落花の情」を居合に転用する事により、超高速の抜刀術を扱う。後述の術式を用いる事で戦闘の要である刀を一時的に修復する事もできる。
当時一級推薦を受けていた真希を下した事や領域対策を会得している事、さらに二級以下の呪霊達が彼に怯えて出てこなかった事など、特別一級なだけあって決して弱くはなく、落花の情と術式を利用した堅実な戦い方が特徴。
一方でリカバリー出来る範疇とはいえ覚醒前の真希に刀を折られて顔に傷を付けられたり、「強い術師は素手で戦う」という思想が根付いている御三家の人間でありながら刀に頼っている等、その実力に疑問符がつく点も見受けられる。
呪術界の腐敗の改革を目論む五条ですら「頼ると呪力操作がおろそかになる」として術式とは無関係な武器を積極的に使用することには懐疑的であり、上記の「強い術師は素手で戦う」という持論を持つ直哉からは「パッとせぇへん」と酷評されている。
また、劇中で披露した術式は全て良く言えばシンプルで扱いやすいが、悪く言えば単純かつ地味で特筆するような能力の無いものばかりであり、全体的に1対1での戦いに特化したような構成をしている。
それ故『癖は強く扱いは難しいが、使いこなすことが出来れば凄まじく強力な直哉、直毘人の投射呪法』や『大規模かつ広範囲を破壊出来る甚壱や長寿郎の術式』と比べるとシンプルに纏まっていることが仇となり、火力、射程範囲、機動力、応用力等、全ての点で見劣りしてしまっている。
上記の通り劇中で直哉から受けた「パッとせぇへん」という評価が、彼の術式や強さを端的に顕していると言えるかもしれない。
また、本来格下である筈の躯倶留隊の隊長からも死を知らされた際には「寝込みやトイレを狙えば真希でも勝てるだろ」と軽く流されており、(甚一や直哉は一応困惑しており、そもそも寝込みやトイレで襲われて対処できるだけの実力者など限られているとはいえ)家の幹部である彼の死を聞いても下部組織のメンバーから軽く流されてしまう辺り、彼らからの評価も低かったのは間違いない。
術式解放
焦眉之赳(しょうびのきゅう)
刃全体に炎を纏わせて敵を焼き斬る大技。作中では刀から激しく炎を放出して、大きく間合いを伸ばしているほか、周囲にも余波のように炎が発生していた。詳しい性質や威力などは不明。
由来はおそらく「焦眉の急」。これは「危機が差し迫っている」という意味のことわざであり、かつて恐怖した天与呪縛、甚爾と同じ領域に至った真希が眼前に迫っているという状況とも合致している。
余談
- 扇の立てた誅殺計画については、単に信憑性を上げるために彼女らを殺害しようとしたというだけでなく、他の家族達から不審に思われることなく、もとから当主になれなかった理由として恨んでいた娘達に積年の恨みを晴らすという動機の元でも計画を立案したと考えられる。
- 術式については相伝のものではないため、ファンブックの記述によれば禪院家において「落伍者として人生を始め」たことになる。
- 151話での直哉の回想にて幼少期(恐らく10歳前後)の直哉の発言に「皆言っとる 父ちゃんの次の当主は俺やって」というものがある。この台詞は当時の当主が直毘人であってもその前当主(甚壱・甚爾の父)であっても成立し、また当時既に真希が産まれていたか、天与呪縛が判明していたかなどは不明であるが、既に直毘人が当主であり真希・真依が産まれていないor産まれていたとしても天与呪縛や術式の有無が分かっていなかった場合には、扇の主張は成り立たなくなる。
- 兄である直毘人、甥である甚爾が相対的に株を上げているのに対して、逆に物語が進む毎に株を下げ続けている人物。特に真希が真依の死によって自身の天与呪縛を強め、結果としては禪院家を全滅にまで追いやっている事から、禪院家壊滅の戦犯として名指しされる事も多い。娘を殺すにしても呪霊に殺させず、自分で最初から殺しておけば真希が天与呪縛を強める時間は無かった筈である。当然だが後のエピソードで新たな呪霊が誕生する元凶でもある。
- 禪院家編にあたる16、17巻には炳のメンバーの書き下ろしも数枚収録されているが、直哉と甚壱は勿論、出番の少ない蘭太なども掲載されているにもかかわらず、扇は殆ど台詞も無かった長寿郎と並んで、相関図やレビューでの顔アイコンを除いて書き下ろされていない。