「だがその恵まれたオマエらが 呪術も使えねえ俺みたいな猿に負けたってこと」
「長生きしたけりゃ忘れんな」
「あー、恵って そうだったそうだった。俺が名付けたんだった」
プロフィール
概要
「術師殺し」の異名を持つ殺し屋で「天与の暴君」とも称される。伏黒恵の実父。
「懐玉・玉折」編のラスボスとして、高専時代の五条悟・夏油傑の前に立ちはだかった。
呪術界御三家・禪院家の出身で現当主・禪院直毘人の兄の息子。しかし、家を出て婿入りした事で「禪院甚爾」から「伏黒甚爾」に改姓している。
人物
賭け事を好むが、運はあまりなく、結果金がないので女性のところを転々としているヒモ。
詳細は後述するが、生まれつき全く呪力がないため、術式至上主義の禪院家での扱いは非常に悪く、子供の頃から呪霊の群れの中に放り込まれた事もあり、口元の傷もその時についたもの。
こうした扱いもあってグレて実家を出奔し、恵の実母となる人物と出会った事で一時期は性格が丸くなるも、恵を生んだ後に彼女が亡くなった事で再び荒れてしまった。恵が小学1年生の時に津美紀の母親と再婚したが恵と津美紀を置き去りにして共に蒸発し、以降は女の家を転々とするヒモとなった。津美紀の母親がどうなったのかは不明。
その後は暗殺等の荒事で報酬・賞金を得るアウトローへと身を落とす事になる。
能力
極めて特殊な天与呪縛の持ち主で、呪縛で強化された身体能力を活かした肉弾戦を主体に呪具や拳銃などの武器を駆使して戦う。
呪力を全く持たないため、呪具無しでは呪いを祓えないが、逆に呪具さえあれば特級呪霊すらも祓うことが可能。2級術師程度なら呪具抜きの徒手空拳のみで圧倒するなど、対人戦闘では術式を持つ術師相手でも無類の強さを誇る。
その圧倒的な戦闘力は未だに多くの禪院家関係者の記憶に恐怖と共に刻まれている。「今の禪院家が存在するのは甚爾の気まぐれ」との発言もある等、その気になれば禪院家の抹殺も容易かったと認識されていた。
その実力は一目見て分かるほどだったらしく、次期当主候補として子供ながらに評価されていた禪院直哉は見ただけでその実力をとてつもないものと評価し、内心では「絶対的な強者」の象徴として憧れを抱いている。
禪院家では非術師である事と圧倒的暴力から恐怖の対象として恐れられていたためか若年層(禪院真希等)は甚爾のことを知らなかったようだ。
天与呪縛・フィジカルギフテッド
生まれながらに肉体へ強制的な「縛り」が課される特異体質。
甚爾はその中でも特異な完全に呪力から脱却した存在であり、呪力を全く持たない事と引き換えに常人離れした身体能力と五感を有し、呪いへの耐性も獲得している。
呪縛で強化された肉体は覚醒直後とはいえ五条の「赫」を受けて致命傷にならず、身体能力でも水面を駆け、目視での捕捉が困難な速度で動くことができる。強化は内臓にも及ぶため、常人には猛毒である呪霊を飲み込んでも問題なく過ごすことが可能。
呪縛で強化された五感は人間の残す臭跡や足跡のみを頼りに追跡可能なほど研ぎ澄まされ、呪力がないにも拘らず、呪いを認識できる。逆に甚爾自身は敵の呪力探知を掻い潜ることが可能。
甚爾自身に呪力はなくとも天与呪縛自体は呪術的な要素であるため、呪縛の内容を開示する縛りによって能力を底上げすることも可能。
その肉体の特異性から、降霊術で肉体の情報だけ降ろされた際も使用者の魂の情報を肉体の情報で上書きして体を乗っ取ってしまう。
呪力を全く持たないため、自身の意思で結界に侵入しない限り、領域展開で閉じ込めることが出来ず、領域内の必中効果が認識出来ない為、領域に対して絶対的な優位性を持つ。
なお、九十九由基によると真希のように一般人並みの呪力しか持たない天与呪縛は他にも例があるが、完全に呪力がない例は甚爾しかいなかったという。
装備
- 格納型呪霊(名称不明)
口から入れた物を体の中に無限に格納する能力を持った呪霊。見た目は赤子頭部と芋虫のような長い体を掛け合わせたような見た目をしている。また、ウロボロスのように自身の身体を格納させることで小さくすることができ、普段は甚爾がそれを飲み込んでその呪力ごと体内に隠している。
作者曰く、本来呪霊を身体に取り込むというのは猛毒を摂取するのと同義であるが、甚爾は天与呪縛によって内臓も強化されたことで問題なく過ごしている。
戦闘時は甚爾の体に巻き付けられ、口から四次元ポケットのごとくあらゆる武器を即座に取り出すことができる。
かつての戦いでは夏油が奪い取ろうとしたものの、甚爾との間に主従関係が成立している事から失敗する。しかし、甚爾の死後に彷徨っている所を確保したようで、内蔵していた呪具も一緒に奪取した模様。ちなみに、まさかの商品化を果たしている。
空想呪物図鑑によると武蔵坊弁慶に協力した術師の北斗雷紋が同じような芋虫状の不気味なものの怪を連れており、敗者の刀を丸呑みしていった記録があるそうだ。
特級呪具の一つ。
十手に似た特徴的な形をした短刀。刀身に触れた発動中の術式を強制解除させる効果を持つ。万里ノ鎖を連結させることでリーチを補って使用したこともある。
作中ではこれで高専時代の五条の無下限呪術による防御を突破し、彼の喉から腰にかけて深く掻っ捌き、加えて右脚を滅多刺しにしている。尚、ダメ押しに頭部を突き刺すトドメの一撃をお見舞いするが、この最後の攻撃のみ別の武器を使用したため、五条の死に際での反転術式覚醒と復活を許すことになる。
戦闘後は五条が回収し、海外で処分(封印か破壊)したとされている。
五条からすれば一度殺されかけた以上処置するのは当然であるが、後に獄門疆へと封じられた五条の開放に必要となったため、その対応を非難される事になる。また空想呪物図鑑によると甚爾はこの天逆鉾を借りパク状態であり、刃を欠けさせたのも甚爾ではないかとされている…
名前の由来は、日本神話に登場するニニギノミコトが天照大神より授かった同名の神器。
- 万里ノ鎖
特級呪具の一つ。鎖状の呪具で、一方の末端にはフックが付いている。もう一方の末端の形状は不明。形状不明な方の末端を観測されていなければ際限なく鎖が伸び続けるという効果を持つ。
甚爾は一方の末端を格納呪霊に飲み込ませておくことでこの条件を満たし、もう一方の末端に付いたフックを天逆鉾に繋げて使用した。
- 釈魂刀
甚爾が好んで用いた等級不明の呪具刀。あらゆる物の硬度を無視して魂を切り裂くことが可能。ただしその効果を十二分に発揮するためには、無生物の魂すら観測する目が必要となる。当時の夏油が保有する呪霊の中で最高硬度を誇る虹龍をも容易く切り伏せてみせた。
作者曰く、価格は5億円。
現代では真依が同型のレプリカ品を作り出しており、真希がそれを用いて破竹の大活躍を見せている。
特級呪具。赤い三節棍。
術式効果が付与されていない代わりに圧倒的な破壊力を誇る。純粋な力の塊であるが故に、威力が使用者の膂力に大きく左右されるという特徴を持つ。
様々な事情があり、甚爾から夏油に持ち主が移る。夏油の死後は呪術高専の武器庫に保管され、主に禪院真希が使用するようになったが、何の因果か復活を遂げた甚爾は真希から游雲を奪い取り、驚異的な身体能力と戦闘技術が合わさった結果、特級呪霊をも圧倒した。
更に末端同士をぶつける(アニメではすり潰すように研いでいた)ことでわざと破損させ、両端を鋭利な槍のように研ぎ澄ませて牙突めいた攻撃を披露するなど、殺傷力を飛躍的に高めて運用している。
上述した呪具以外にも、呪力の無い刀や拳銃といった通常の武器も使用している。これらは殺傷力こそ呪具に劣るものの、本人同様に呪力で感知されないというメリットがある。そのため状況に応じ、死角からの不意打ちや奇襲、トドメの追撃などに用いられる。
活躍
懐玉・玉折
ビジネスパートナーである孔時雨を経由して盤星教から星奨体・天内理子の暗殺の依頼を斡旋された事で、天内の護衛任務に当たっていた当時高専二年の五条悟と夏油傑と戦う。
「五条へ正面切って挑むのは無謀」という判断から、天内に賞金を懸ける事で金目当ての呪詛師たちに襲撃させたり、彼女の従者・黒井美里を拉致したりと、狙いを掴ませない立ち回りで二人を精神的に消耗させ、高専に戻って油断した所に自ら襲撃を掛ける。
巧みな策で五条を一度は戦闘不能に追いやり、天内を殺害した後は夏油も下し(呪霊操術の持主ゆえに殺すと面倒なのであえて生かした)、天内の遺体を届けた事で報奨金を手にする。
だが、死の淵から復活し覚醒した五条の襲撃を受け、虚式「茈」で左半身の大部分を消し飛ばされ敗北。最も本人は普段なら即逃走するような「金にならない戦い」を受けた時点で、心理的に負けていたと評している。
最後に2~3年後に自分の息子が禪院家に売られることを告げて死亡した。
渋谷事変
それから約十数年後、渋谷事変でイタコのオガミ婆の降霊術によってオガミ婆の『孫』が変身する事で姿だけ復活。猪野琢真を打ち負かした。
しかし、虎杖達が呪詛師達の帳を解いた直後…
「帳上がっちゃったね…どうする?婆ちゃん」
「…ど ど ど どど ど ど どうする………」
オガミ婆「五条悟は居らんに越した事は無い。お前は下に降りて術師を殺せ」
オガミ婆「……孫?」
「……誰に命令してんだよ」
「ババア」
降ろしていなかったはずの甚爾本人の人格が復活。
本来であれば、「肉体」の情報のみでは降ろされた人間の人格は一切反映されないようになっていたのだが、彼はその特殊性ゆえか元の人格が発現。依代役の孫の魂は甚爾の肉体の情報に勝てずに消滅してしまう。予想外の事態に「あり得ん」と狼狽えるオガミ婆の間合いに一瞬で詰め寄り「テメェも術師だろ」と命令を皮肉るように自分を降ろしたオガミ婆を文字通り瞬殺。
オガミ婆の術式はそのまま消えるはずだったが、天与呪縛で呪力を一切持たないが故に術式発動中も呪力を一切消費せず肉体を維持できるというイレギュラーな現象が発生。依代である孫の肉体が破壊されない限り顕現し続ける状況に陥り、術式は終了の契機を失ってしまう。
その結果術式が暴走し、甚爾は自我を失い誰にも制御できず常に強者に戦いを挑む殺戮人形へと変貌した。
そうして特級呪霊・陀艮の戦いに突如乱入。
恵が開いた陀艮の領域の穴から無理矢理割り込んで参戦すると、真希から強奪した游雲で陀艮を一方的に叩きのめす。遊雲同士をぶつけて破損させ刃状に研ぎ澄ませ、そのまま陀艮を滅多刺しにして殺害した。
最終的に息子の恵と対決するが、戦いの中で相手が自分の息子である事に気づく。
「お前 名前は」
恵「……?」
「伏黒……」
「……」
「禪院じゃねェのか」
「よかったな」
名前を聞き息子が禪院家ではない事に安心すると「よかったな」と微笑み自害。息子に疑問を持たせてしまいながらも再びこの世を去る事となった。
ここから先は重要なネタバレを含みます
天元、星漿体、六眼を持つ術師は因果によって繋がっており、偽夏油が星漿体と六眼の術師を前もって排除していても、同化当日にはその二人が再び揃って現れており偽夏油は天元と星漿体との同化を防ぐ目的を果たすことが出来ないでいた。
しかし「完全に呪力から脱却した存在」である甚爾は呪力によって結ばれた因果の外にいた。甚爾が星漿体の暗殺に成功したことで、星漿体・六眼・天元の因果が破壊され、天元は星漿体と同化する事が出来ずに、望まない肉体の進化を果たし、呪霊に近い存在となってしまう。
呪術界に疎まれ行き場の無かった彼は、皮肉にも呪術界の根幹を支える者の運命を変えてしまったのである。
読者評
登場以前から、息子である恵を置いて蒸発したことや、五条悟からも「自分が引くレベルのろくでなし」と明言されており、過去編で息子を禪院家に売り飛ばしたことからクズと評されることになったが、ストーリーが進むごとに甚爾は禪院直毘人と共に読者からの評価が相対的に上がり続けている。
そんなこんなで読者やファンからは、主要人物の伏黒恵の父親である事からパパ黒の愛称で呼ばれている。
初登場時には、適当に日々を過ごすような軽薄さと、殺し屋として無力な女子中学生を殺すのも躊躇しない冷徹さと、自分の息子である恵の名前すらも平然と忘れるような情の薄さが描かれていた。しかし実際には、彼が恵を禪院家に売り飛ばしたのも、「術式を持っていれば禪院家での扱いも悪いものではないだろう」という判断が下地にあり、渋谷事変で恵と対決した際も相手が自身の息子であるとわかった途端に自害するなど、基本的には息子への愛情が根底にある人間であることが随所で描かれている。
恵と名付けたことを思い出すシーンの描写から、この名前は「禪院という環境で呪力のなかった、恵まれなかった自分とは違う人生を。」という切実な願いと共に息子に与えられたものであることが読み取れる。彼のことなので、これが息子への愛なのか自分のコンプレックスの裏返しなのかその両方なのか断言はできないが、軽薄で冷酷なだけの人間ではないことは確かである。
そんな中、渋谷事変以降は、主に禪院家や呪術界上層部の腐敗と人間性のクズっぷりが描かれる展開に入り、特に禪院家の描写が男尊女卑の激しい当主の息子を皮切りに、実の娘すらも身勝手な理由で殺害しようとする人間や、遺産相続がらみで身内を殺そうとする人間など、「クズのインフレが止まらない」と読者に称されるほど多数のクズが登場し、むしろ実の息子に対して愛情のあった甚爾の方がまだマシな人間であったことが分かった。
また後に、真希が同じ天与の暴君の域に達した事で、前述の禪院家抹殺の件等、必然的に同じ能力だった甚爾の株も上がっている。
特に初見殺しもいいところの領域展開に対しお互いの同意無しでは領域に閉じ込められずそのくせ侵入も脱出も思いのままなうえ侵入されても術式の対象に(自動では)ならず挙げ句の果てにはその侵入にすら目視以外では気付けないという反則に等しい性質が判明した事もあり、暴君の異名に違わない底知れなさを退場後も読者に見せつけている。
後に五条が恵の義理の父の役割を担うからなのか、甚爾と五条は何気に色々と対比構図となっている。
関連イラスト
関連タグ
父親 ヒモ ︎︎毒親 ︎︎強敵 殺し屋 ︎︎諸悪の根源 愛すべき外道
禪院甚爾……婿入り前の名前で呪術界ではこちらの名の方が有名。
外部リンク
- 天与の暴君。「伏黒甚爾」のファンアート特集【呪術廻戦】 - pixivision(2023年8月18日)