小宇宙通信(こすもつうしん)とは
- そもそもどういうものなのか
原作マンガ・アニメ・その他の派生作品をふくむ「聖闘士星矢」の劇中世界では、女神アテナに仕える聖闘士、またはその他の神の配下である戦士たちは、人間の体内に宿る生命の力「小宇宙(コスモ)」を爆発させることで超人的なパワーを獲得し、物体の根本である原子を砕き、敵を殲滅する。
この小宇宙は破壊的パワーだけではなく、
- 傷病の治癒
- 遠距離での救命行為(アテナがスニオン岬の岩牢にいるカノンに小宇宙を送って溺死を防いでいる。)
- 戦場で互いの現在地の探知、ならびに健在か否かの確認(仲間と離れた場所で戦っていた聖闘士が戦死した場合などに、別の地点にいる戦友が「○○の小宇宙が消えた…」と察知するシーンがある。)
- 小宇宙それ自体の個性による仲間の接近の察知(一度でも接触した相手は、「この小宇宙は○○の!」と識別できるようだ。)
…などにも用いられるが、その「破壊以外の使用法」のひとつが、ここで述べる
5.「小宇宙による聖闘士同士の遠距離テレパシー会話」
である。
ただしこれは第六感を越える感覚・第七感(セブンセンシズ)以上の小宇宙に覚醒している者、すなわち黄金聖闘士または女神アテナ自身でなければ使いこなせないようで、白銀聖闘士、青銅聖闘士ともに劇中での使用例は見当たらない。主人公とその盟友である青銅一軍メンバーですら、第八感(エイトセンシズ)まで覚醒した後も、会話シーンは互いに顔を合わせている時のみである。また、原作中での使用例は、なぜか聖域十二宮内のみである。
- 基本性能とその限界
どういう理屈で黄金聖闘士とアテナしか使いこなせないのか、また十二宮内の会話しか成立しないのかは作中ではいっさい説明されていないので不明であるが、その彼らにしても、話しかけたい相手の所在が明確でなければ使えないらしく、使用できるシチュエーションは非常に限られている。
(ただしアテナのみは例外的に自力で通信したい相手の居所を知ることができるようで、ハーデス編の十二宮戦においてサガにとどめを差しかけたミロをアテナ神殿から制止するなど、随所に「聖闘士たちに一方的に話しかける」場面がある。また彼女のみは十二宮以外の場所でもテレパシー通信が可能である)。
これはひとつには、原作が執筆された時代が1980年代後半であり、まだ携帯電話や電子メールが現実社会に登場しておらず、「電話機を用いない通信手段」にはそれだけで「すごい超能力」感があったことによる設定ではないかと思われる(当時はオカルトブームの時代でもあった)。だが2020年代となった現在では、相手の所在がわからなくても繋がる通信手段の発達により、「互いにスマホ持ってたほうがよっぽどマシなんじゃないの」という程度のものとなってしまっている。
(ただし地上にある聖域はともかく、海底神殿や冥界で電子機器による通話が可能かどうかは現代においても未知数であり、pixivファンアートにおいて海界または冥界が登場する場合は、それぞれの世界で独自に戦士間の通信手段が発達している設定にされることが多い。また海皇ポセイドンや冥王ハーデスは、アテナと同じく、それぞれの配下の闘士に直接テレパシーを送れるようだ。神によって周波数が違うのだろうか?)
- 登場の意義
この能力が劇中に登場した理由のひとつとして考えられるのは、「聖域十二宮においては黄金聖闘士は行動の自由を持たない」という設定である。
それと明確には語られていないが、アテナに仇なす敵が襲来している間は、それぞれの宮を守護する黄金聖闘士は原則として自分の宮から動いてはならないという不文律があるらしく、彼らはたとえ最寄りの宮で戦闘行為が行われていても、加勢に出向いたりはしない。(例外として、弟子の氷河を制止するために宝瓶宮から天秤宮にまで出向いたカミュや、冥王ハーデスに寝返ったかつての黄金聖闘士たちに激怒して天蝎宮を放棄し処女宮にまで降りてきたミロがいるが、どちらの行為も褒められたものではないらしく、他の黄金聖闘士からたしなめられたり咎められたりしている。)
互いに勝手に動けない上に、十二宮に置き電話があるというのも景色として締まらないので、離れた宮にいる黄金聖闘士同士が情報のすりあわせや話し合いをするためには、必然的にテレパシー会話をするしかなくなる。そうすると「常時第七感に目覚めている黄金聖闘士同士なら、小宇宙を通じて会話できるんじゃないか」という設定が生まれることになり、青銅一軍が真の女神アテナである城戸沙織を擁して偽教皇と戦った「聖域十二宮戦」において、初めてこの通信シーンが描かれた。(天蝎宮のミロから宝瓶宮のカミュに「お前の弟子がこんなこと言ってるぞ」という内容の通信が行われたほか、戦闘がひととおり終わった後、生き残った黄金聖闘士、ムウ・アルデバラン・アイオリア・ミロの間で、「お前、教皇が偽物だって知ってたのか!?」的な会話がリモート会議のように展開されている。)
- 存在の意義
なお上記十二宮戦に限らず、なぜか事態が悪化して後の祭りになってから慌てて使用される場面が多く、事前にミーティングくらいしておけよという気もするが、黄金聖闘士たちはなぜか互いにあまりコミュニケーションを取りたがらない傾向があり、たった12人しかいない黄金聖闘士間でイデオロギーの統一ができていなかったり、ちょっとでも事前に話し合っておけば避けられたことで主要キャラが死んだり、仲間に何の説明もなく不可解な死を遂げたりすることは、聖闘士星矢の世界においてはよくある悲劇となっている。
結果的にこの相互の情報交換の不足が黄金聖闘士の集団としての機能不全を招き、「限りなく神に近い存在」でありながら、実力的にははるかに劣るはずの青銅一軍やザコ冥闘士などにもろくも撃破される遠因となっている。つまり原作に限って言えば、存在意義はあまりない。(黄金聖闘士たちの使い方が下手すぎるせいもあるが。)
なお、蛇足になるが、このお前らもうちょっと話し合え!というツッコミどころは、黄金聖闘士たちの最後の戦いを描いた「黄金魂」に至っても見られ、12人中の年長者であり比較的作戦指導に長けた老師こと天秤座の童虎が、旧友の弟子であるムウの助けも借りつつ、てんで勝手に戦おうとしてどうにもまとまらない黄金聖闘士たちを、なんとかまとめ上げようと奮闘している。
- 原作以外での展開
このように原作においてはなぜかあまり活用されなかった「小宇宙を介したテレパシー」だが、派生作品またはファンアートの書き手にとっては非常に魅力的な能力であるため、むしろ原作ファンの手によって発展、または拡大解釈されて描かれることとなった。そしてファンによって命名された「能力名」が「小宇宙通信(こすもつうしん)」であり、原作またはアニメなどの公式媒体にはこの名称はいっさい登場しない。
派生作品中での使用例として、「聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話」外伝14巻において、五老峰にいる天秤座の童虎から、はるかギリシャの聖域にいる教皇シオンに対し、冥闘士の魔星を封じた塔から何か邪悪なものが聖域に向けて飛び立ったことを警告する小宇宙通信が行われている。このときふたりの間ではかなり綿密かつ長時間の通信が行われており、会話の内容としては、現代においてスマホで国際通話をするのと遜色がない(LCの時代設定は18世紀半ば)。
- ファンアートで多用される理由
小宇宙通信を行っている最中は、傍目には「ひとりでブツブツ独り言をしゃべっている痛い人」に見えてしまう可能性がある。この点を突っ込んだギャグ作品がpixivに多いのは必然であろう。