概要
立見七百人を団長とするサーカス団で、彼が長年の親友であるトミーと共に1997年に旗揚げした。2017年が舞台である『逆転裁判2』の作中では、めでたい事に創立20周年を迎え、世界最高峰のマジシャン・マキシミリアン・ギャラクティカとの専属契約にも成功した事で、かつてない大盛況を迎えている。約500人を収容するテント内で興行が開催される。時折、長期滞在を折り込みながら、全国各地を巡業している。今でこそ大繁盛しているが、十数年前には経営難に陥った時期もあった。
アニメ版第1期の2つ目のOP『人生は素晴らしい』では、サビの部分でタチミ・サーカスの面々が登場している。
関係者
ステージネーム(括弧内は本名)の順で表記。
立見七百人
団長にしてサーカスの創設者。興行では司会進行を担当する。若い頃は猛獣使いの担当者で、その役職は技術と共に娘のミリカが受け継いだ。温厚で誠実な心を持った、万人に愛される人格者として、団員達から大いに慕われている。過去に財政難に直面した時は、身銭を切って団員達に給料を支払った事さえある。人から恨みを買う様な人物ではなかったのに、何故か殺害されてしまった。それは奇しくも『タチミ・サーカス』20周年の節目の年に当たる、2017年の年末であった。
マキシミリアン・ギャラクティカ(山田耕平)
通称マックス。上記の正式名称は「マックス・ギャラクティカ」と省略される事も多い。当団では最大の花形で、看板役者を担うマジシャン。マックスの「空中飛翔マジック」は興行の大トリを飾る程の人気を誇る。正確には当団とは専属契約関係にあり、元からサーカスにいた他の団員達とは違い、彼と後述の猿代草太は数年前に加入して来た団員である。世界的な天才マジシャンとして著名で、サーカスの興行収入の大半はマックスが稼いでいる。『国際マジック協会コンテスト』でグランプリを受賞した事で、世界中から「今世紀、最高の魔術師」と称賛される様になった。ただしマックス本人は、すっかり天狗になっていて、サーカスの団員達を常に見下す言動を取っている為、世間の評判とは真逆にサーカス内では徹底的に嫌われている。例外なのは、マックスの才能とプロ意識を高評価している団長とアクロ、マックスに好意を寄せられているミリカ位しかいない。
派手好きで高飛車な性格をしているが、本性は東北弁を話し、人の優しさに感動を覚える、田舎生まれの純朴な青年である。就職の動機も「故郷の父親の借金を返したいが為」であった。普段の団員達に対する高慢な態度には「努力家の自身から見て、向上心が感じられない」という本心が隠されていた。故郷の田舎を思い出す事で精神を落ち着かせているのか、本番前には必ず牛乳を飲んで緊張をほぐしている。ミリカに惚れ込んでいて、彼女の父親の団長にはプロポーズの相談もしていた。団長からは許可されたものの、その矢先に肝心の彼が亡くなってしまい、この話はお流れになってしまった模様。
ミリカ(立見里香)
団長・七百人の一人娘で猛獣使い。『逆転検事2』では『タチミ・サーカス』が企業化している為に『興行部・猛獣使い課』の課長に就任している。サーカスの看板娘で、団員からも観客からも「サーカスのアイドル」として扱われている。父親から溺愛される余り、一般社会とは隔絶されたサーカスの中だけで育てられた為、極度の世間知らず。「童話のお姫様」を彷彿とさせる金髪碧眼の美少女だが、内面までもが「童話のお姫様」じみた無邪気な性格の持ち主。浮世離れした独特の美貌と魅力を兼ね備える、彼女に恋する男性団員も多い。
トミー(富田松夫)
団長の親友で共にサーカスを創設し、ピエロの担当者となった男性。団長の側近と言っても良い立場だが、持ち芸が寒い事この上ない親父ギャグ(駄洒落)なので、観客からも団員からも受けが悪く、下に見られる事が多い。誰も笑ってくれない自分のギャグを「あひゃあひゃ」と声を上げて自分で笑う、哀しい癖が身に付いている。頻繁にピエロへの適正の有無、ギャグセンスの欠如に思い悩む事もあるが「如何なる時でも笑いを提供する事を意識し、芸を磨く為の挑戦を怠らない芸人魂」を持つ。根本的には善良な人物だが、空気を読めない一面を持ち、法廷でもピエロの服装と親父ギャグを引っ提げて証言を行ったのが仇となり、裁判長からは「ユーモアなど、もってのほか」「職業は見れば概ね解る」と一蹴されてしまい、歴代証人の中でも屈指の辛辣な対応をされた。妻と娘と親子3人で暮らしていたが、サーカスが経営難にあった時期に離婚されている。
ベン(木住勉)
腹話術師。気弱で口下手な男性で、自分とは正反対に、強気な毒舌家である相方の人形リロと漫才を繰り広げる。リロとコンビを組んで会話するのは興行だけでなく、何と日常生活でもリロに通訳をして貰わないと、まともに会話が出来ない。当然ベンの心境をリロが代弁していると思われがちだが、2人は殊更に「自分達は別個の存在」と主張している。ベンはミリカが苦手と語っているが、リロは本気で彼女に惚れていて結婚願望まで豪語する。マックスとはミリカを巡る恋敵なので犬猿の仲。
アクロ(木下大作)
アクロバット芸人で、弟のバットとコンビを組んで活躍していた。団長の弟の息子なので、団長の甥にしてミリカの従兄弟に当たる。少年時代、両親に弟と共に捨てられた所、伯父の団長に引き取られた。元は一般人だったが「父親代わりになってくれた団長への恩返し」として、兄弟揃ってアクロバット芸人になった。ミリカとは正反対に、年相応に落ち着いている寛大な好青年。誰に対しても親切で礼儀正しい。サーカス内では「団長と比肩する人格者」として評判が良い。半年前の練習中の事故で下半身不随となってからは、車椅子を使用してのリハビリ生活に専念している。
バット(木下一平)
兄のアクロの相棒を務めるアクロバット芸人。半年前の事故が起きる以前は、兄と共に活躍してはサーカスに花を添えていた。アクロ曰く「明るく誰からも好かれる性格の持ち主」だったという。従姉妹のミリカへの恋慕の裏返しから、よく彼女にイタズラをしては場を盛り上げていた。半年前の練習中の事故で兄と共に負傷し、現在は意識不明となって入院中の身にある。
猿代草太
『逆転検事2』で初登場した新米団員。新米だからかステージネームは持っていない。企業化されたサーカスの中では『猛獣使い課』に所属していて、課長のミリカの直属の部下に当たる。猛獣使いとしては見習い扱いされているので、上司からは雑用係まで押し付けられている。草太曰く「会社で言えば平社員に当たる立場で、サーカス団員だって立派なサラリーマン」との事で、自身の職業を聞かれると「サラリーマン」と答える様にしている。一応ショーには出演しているが、大体は脇役や悪役を任されている。ショーではピエロの様な衣装を身に纏う。最近のショーでは「ラトーとアジゾウの異種族間の恋愛の邪魔者として登場し、最後にはアジゾウから仕返しを受けて派手にぶっ飛ばされる事」を持ち芸としている。
虎のラトー
ミリカのパートナーにして、動物達の中では看板役者として扱われている。彼女からは「レオンが亡くなってからは、ミリカの一番のお友達」と呼ばれる程、可愛がられている。オス。作中では「ミリカが成歩堂と真宵にラトーをけしかけるイタズラする場面」が描かれている。『タチミ・サーカス』の動物達は基本的に「種族名を逆転させた名前」を付けられるのが習わしとなっている。近年では後述の「ゾウのアジゾウ」等、あくまでも「種族名の捩りである名前の持ち主」も増えて来た。
猿のルーサー
青い帽子と衣装を身に着けた猿。オス。サーカス団の動物としては珍しく衣装を着ている。「サーカスのトラブルメーカー」として有名な猿で、光り物を盗んでコレクションに加えるのを趣味としている。団長殺害事件でサーカスの捜査中だった成歩堂は、ルーサーに弁護士バッジを奪われる被害を受けた(後に奪還)。本来はミリカの管理下にいるが、彼女も手を焼いている。ミリカの言う事を聞かない反面、アクロと草太とは仲良しで彼らの言う事ならよく聞く。『裁判2』ではアクロの部屋に住み着いていて、盗品コレクションの集積所にも使っている。『検事2』では名実共に草太のパートナーに就任していて、仕事でも私生活でも側を離れない位、懐いている。草太の髪を引っ張る等のイタズラも時々する。その光景は「草太がルーサーに良い様に操られている」と周囲に認識される。
ライオンのレオン
先代のミリカのパートナーで、本編の半年前に死去している。オス。ルーサーを除くサーカスの動物達とは総じて仲が良い、ミリカにとって生前は最愛の動物であったが、今ではその座にラトーが着いている。半年前「練習中の団員に怪我を負わせる不祥事」を起こした罰として殺処分された。それでもミリカは未だに愛情を抱いており「レオンの舞台衣装」を彼の形見として大切にしている。トミーには「メスだったら“オイラン”って名前にしようかと思っていた」という、とんでもない裏事情を暴露されている。
象のアジゾウ
『逆転検事2』で初登場。興行ではサーカスの象のお約束・玉乗り等の曲芸を披露している。ミリカよりも草太と行動を共にする事が多い。未だにミリカの最愛のパートナーはラトーで固定されている為、アジゾウも草太の方に強く懐いている模様。その割には、毎回必ず自分の主演舞台に悪役として出演した彼を、演技の一環とは言え容赦なくぶっ飛ばしている。名前は種族名の「アジアゾウ」を短縮化したもの。男性の様な響きを持った名前なので解り難いが、実はメスで表舞台に登場する動物達の中では紅一点。
上記の関係者とは他に、大道芸人らしき男性、食堂の眼鏡を掛けた調理担当者がおり、アニメ版では彼らを始め、オリジナルキャラである複数の男女の団員がモブとして登場している。
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以下ネタバレ注意
サーカスの舞台裏
半年前の事故
この『タチミ・サーカス』は一癖も二癖もある人物が多い一団だが「団長を筆頭に善良な人々によって構成された、理想郷とも言える夢の世界」であった。それだけに極一部の問題を除いては、理想的な巡業生活を送っていたサーカス団だったが、半年前に途轍もない悲劇に見舞われる事となった。
半年前バットからのイタズラの仕返しに、ミリカは彼に「多量の胡椒を振り掛けたスカーフ」をプレゼントし、バットのクシャミを誘発させようとした。ミリカの真意も知らず、好きな人からのプレゼントに歓喜したバットは、彼女に危険な誘いを持ち掛けた。それは普段はミリカ専用の持ち芸「ライオンのレオンの口内に頭を入れて、無事生還する曲芸が成功したら、一緒に映画館に行こう」という内容だった。バットはスカーフを巻いたまま無謀な挑戦に走り、レオンは彼の頭を口に入れた瞬間、スカーフの胡椒が原因でクシャミを起こし、バットの頭に深く噛み付いてしまう。弟である彼の救助に向かった兄のアクロも、胡椒でのクシャミから混乱したレオンに両足を噛み付かれた。レオンに負わされた深手によって、兄弟揃って2人は重度の障害者になってしまい、芸人生命を断たれる事となった。アクロは下半身不随の車椅子生活となり、バットは脳髄損傷で植物状態となり、現在も入院先で昏睡が続いている。レオンは全責任を押し付けられ「人身事故を引き起こした害獣」の烙印を押された挙げ句、団長に銃撃されて殺処分される最期を遂げた。
この大事故は元を辿れば、ミリカの幼稚な精神によって発生したのだが、団長は溺愛する娘を苦悩させたくない余り、事情説明も責任追求も放棄して「レオンはお星様になった」の一言だけで説明を済ませ、一切のお咎め無しとして事後処理を終えた。「恩人である団長の意志を尊重しよう」と悲惨な日常を耐えて過ごしていたアクロだったが「父親の団長による庇護下で、罪悪感や贖罪とは無関係でいられる平穏な日常を享受するミリカ」を毎日見る内に彼女への激しい憎悪や復讐心を抱く様になった。サーカスの多忙な大人達と違って、精神年齢の低さ故に仕事が少なく、アクロとは幼少期から同居して来た従姉妹だからと、ミリカが彼の主な介護人に加えられたのも火に油を注いだ。
団長・立見七百人殺害事件
悲劇の連鎖は、これだけでは終わらなかった。事故から半年後、マックスがマジシャンの世界大会の優勝賞品である、自分を象った胸像を持って帰って来た。この『マックスの胸像』をルーサーが盗んで、同居人の自分の部屋に置いたのを見て、アクロは「これを使ったトリックでミリカを暗殺しよう」と思い立つ。彼は「標的のミリカに脅迫状を送り付け、所定の場所に誘き寄せた所で、宿舎の自分の部屋から『マックスの胸像』を頭上に落として撲殺する計画」を企てる。だが脅迫状を見つけた団長が、娘の身代わりとなって所定の場所だった宿舎前広場に来た所、誤って殺害されてしまう。アクロは下半身不随が原因で、自室からは標的の姿を確認出来ない為「最悪の人違い」をしてしまったのだ。団長殺害事件では『マックスの胸像』が凶器で、それをマックス本人だと誤解した目撃者のトミーがいた事が主因となって、マックスが容疑者として逮捕されるが、彼の担当弁護士となった成歩堂の奮闘によって、事件の真相が白日の下に晒され、真犯人のアクロが逮捕されたのだった。
サーカスには「団長の非業の死、犯罪者に身を堕としたアクロの離脱」という、新たな不幸が降りかかる事となった。閉廷後、成歩堂と真宵は控え室にて、被告人だったマックス、傍聴人だったミリカとトミーと「サーカスの今後」について話し合う。『タチミ・サーカス』に所属していたばかりに、深刻な冤罪被害を受けたマックスは当初「サーカスを離れても良い」と考えていた。彼に配慮したトミーも「これ以上、うちの厄介事に巻き込む訳には行かないから」とマックスに契約解除を言い渡す。そしてサーカスを再興させ、昔から団長と共に抱いていた夢を叶える為にも「自分が団長の遺志と役職を受け継いで『タチミ・サーカス』を世界一のサーカスにする事を目指す」と力説した。
裁判の傍聴を経て「自分の罪の重さ」を痛感して改心したミリカも、その夢を実現させるべく協力者に名乗りを挙げると同時に「アクロの代わりにバットの目覚めを待ち続ける」と誓う。「2人の崇高な理想を掲げる宣言」に感化されたマックスは「世界一のサーカスには世界一の魔術師が必要」と語り、その言葉通りの理由で『タチミ・サーカス』に一生残留すると決めた。こうしてマックスと他の団員達は一連の事件を通じて完全に和解を果たし、一致団結して「世界一のサーカス」を目指して活動する様になった。「過酷な苦難を乗り越えて再起を遂げた『タチミ・サーカス』なら、いつかきっと夢を叶えられる」控え室での団員3人との会話の時点で、その未来予想図を浮かべた成歩堂と真宵は、一連の事件に確かな救いを見出だすのであった。