概要
フランス共和国(フランスきょうわこく、フランス語:République française、読み:レピュブリク・フランセーズ、英語:French Republic、通称:France)は、西ヨーロッパに位置する共和国。本土を示す名称はフランス・メトロポリテーヌである。国名については987年7月にフランス王国が成立したと言うが、これは後世の歴史家が便宜的にそのように区別して命名しているのである。その時代のフランス王は中世ヨーロッパに存在したフランク王国の正当な王と称して、フランク王あるいはフランス王と名乗っている。その証拠に歴代の国王の代数は、フランク王国の時代から数えている。
フランスは百年戦争・フランス革命・ナポレオン戦争といった歴史的事象の主要な舞台であった。他にも数多くの世界遺産を抱えており、世界で最も観光客の多い国の1つである。
フランスは政治・経済・文化において強力な影響を及ぼす列強の一角に数えられており、ヨーロッパにおける「ビッグ4」の1つでもある。
フランスは世界第7位の経済力を有する国である。国際連合安全保障理事会常任理事国であり、公式核保有国の他にもG7及びG20参加国・NATO加盟国・パリクラブ及びフランコフォニー国際機関参加国・ヨーロッパ連合加盟国である。
フランスの隣接国は北東からベルギー・ルクセンブルク・ドイツ・スイス・イタリア・モナコ・アンドラ・スペイン・イギリス(ドーバー海峡を隔てている。)である。南アメリカ大陸・カリブ海の島嶼部にある海外領土でも、オランダ・スリナム・ブラジルと陸上で国境を接する。
フランスでは政府が定める公式の国花は存在しない。非公式ではあるが、フルール・ド・リスが表しているアイリス、国旗を表している矢車菊・マーガレット(ヒナギク)・ヒナゲシが国花に当たると言われている。
歴史
地理
東側のスイス・イタリアとの国境沿いがアルプス山脈であり、ロシアを除いたヨーロッパ地域の最高峰でもある4810メートルの標高を有するモンブランを有する。しかし本土全体としては低地や平地の割合の方が多い。
寒冷でやせ地が多いヨーロッパの中では、全体として比較的温暖で豊かな土壌を持ち、古くから食糧生産が盛んな土地柄で知られる。そのためヨーロッパ連合の中でも農業関連が発達しており、小麦・牛肉・豚肉・鶏肉・肉類・乳製品全般・ワイン・果物・野菜などの産地としても知られる。世界史においても工業化が早くから進んでおり、現在も自動車・宇宙航空・兵器などの開発や輸出が盛んである。
経済
政治・経済両面で首都のパリに一極集中している。他方で文化的には地域によって、小麦の栽培が盛んな北部からワインなどの栽培を中心とする南部まで地域による多様性が大きい。パリ以外の主要都市としては、マルセイユ・リヨン・トゥールーズ・ニース・ナント・ストラスブール・モンペリエ・ボルドーなどが挙げられる。その他、フランスの地名・地域名の詳細については、フランスの地域一覧参照。
社会
文化
フランス文化は近世近代では新古典主義から印象派に至る美術・高級料理の代名詞であるフランス料理などに代表される。現代では映画が盛んでありフランス映画は世界的な注目を集める。モネ・ゴッホ・ロートレックなどフランス美術が「ジャポニスム」として日本美術を熱愛していた事は知られているが、現代でも日本文化の人気は高い。特に日本のマンガは高い人気を誇り、『ドラゴンボール』・『NARUTO』・『鬼滅の刃』などが定番である。スポーツではサッカー・ラグビーなどが好まれている。
フランスは大陸国として古くから様々な民族による移動や侵攻などのあった地でもあり、中世から現代に至るまで様々な地域や人種の移民を受け入れ続けている。20世紀前半には外国出身者の比率が同時代のアメリカを上回り、現代では4人に1人の祖父母が移民であるともいう。ポーランドの作曲家フレデリック・ショパンやスペインの画家パブロ・ピカソなど、フランスで活躍した著名人にも他国の出身者が多い。
地酒
シャンパニュー地方にはフランス政府の保護団体が管理するワインの酒蔵がある。詳しくはシャンパンを参照して欲しい。
フランス人
フランス人(les Français)というのは民族では無い。どちらかというと「フランス共和国の市民」という意味に近く、それはこの国の歴史的背景と関係する。「フランス」という名はフランク族の国であるフランク王国(Royaumes francs)に由来する。歴代のフランス王は初代フランク王クローヴィス1世の正当後継者を自称し、政治的にはフランスとはゲルマン人フランク族の国になる。だが、住人の遺伝子的にはいわゆるケルト人の血筋が濃く、ゲルマン人の後継であるドイツ人とはやや異なる。そして主要言語であるフランス語は、イタリアのローマ帝国で用いられていたラテン語から変化したロマンス諸語の1つである。しかもこのフランス語はフランス国内ではオイル語と呼ばれる主に北部で用いられる言語の1つに過ぎず、南部にはオック語、東部にはアルピタン語といった独自の言語がある。このようにフランス人には民族的な意味の統一的アイデンティティは元々薄かった。
次の歴史でも触れるが、現代でいうフランスは中世には無数の諸侯が分立する地域であって、統一国とは呼び難かった。百年戦争の後にはフランス王はほぼ全土を支配するようになっていくが、これも国王の所領という意味が強く、統一国では無いが、フランス革命で状況が変わる。対フランス大同盟が結成されて全ヨーロッパからの武力侵攻に晒されたフランス議会は、民衆に国というまとまりへの忠誠を求めることで一体的な防衛をなそうと試みた。
後に世界に広まるナショナリズムの誕生である。この戦争で台頭したナポレオン・ボナパルトはフランス・ナショナリズムを自らの権力の源泉とし、それを支える為に当時は半ば忘れられていた伝説に着目する。これが救国の英雄ジャンヌ・ダルクの伝説であり、実はジャンヌの名声はかなりナポレオンの再評価に依っている。
こうして現代に至るまで、フランス人のアイデンティティはフランス革命によって創出されたフランス市民の概念と不可分となっている。東ヨーロッパの民・アフリカの民・中東の民・誰でも共和国の理念に賛同しさえすれば「フランス人」となれる機会がある。フランスの国籍法では、例えば両親とも外国籍でも5年の滞在歴があって安定就労する成人はフランス語力や「共和国の価値への理解」によってフランス国籍を申請できる。だがこのような「フランス人」の理念は、後の節で触れるように彼らが出身地で保有していた文化と鋭く矛盾する危険性をも秘めている。
近年の情勢
第二次世界大戦以降も多くの移民や難民が集まっているが、文化や宗教的摩擦などもあって2015年1月以降テロ事件が度々発生している。同年11月には大戦後の同国最悪と言われた「パリ同時多発テロ」が発生し、これらの事件の影響から一部で反移民・イスラム的な活動・政策が増え、さらにこれに反対する勢力との対立が社会問題となった。
公立学校でのイスラム教徒の少女が宗教的理由でのスカーフ着用を禁止された事件のように注意を要する例もある。日本では一般には宗教差別と解釈されがちだが、フランス国内では別の論理が主張された。エリザベト・バダンテールらによると、この少女は政教分離に違反したというのである。つまり公然と宗教的スカーフを着用するのは、公立学校での宗教的行いを禁止する原則に反するというのだ。日本では政教分離は一般に学校側の義務だが、フランスは生徒にも厳しく求める。もちろんキリスト教徒はこっそり十字架などを隠し持ち込んでいるといった異論もあるが、日本とは人権の考え方が少し異なる事は、互いの価値観を認め合う上で重要であろう。
人口
2022年7月の推計では6789万7000人であった。
政治
政体は半大統領制の共和国である。半大統領制とは国民の直接選出による国家元首の大統領と、議会の選出による首相が併存するシステムである。事実上の行政の長が首相となっているドイツとは異なり、フランスはフランス共和国大統領が強力な権限を有する。フランスの首相は大統領が任命し、政府の各大臣を指名するが、議会に首相不信任権がある。この為、大統領にとっての野党が多数を占める議会では、野党から首相が任命される場合がある。これをコアビタシオン(Cohabitation)という。コアビタシオンでは大統領と首相は一定の協力を迫られるが、主に大統領が外交・安全保障、首相が内政を担当する。
フランスの社会の際立った特徴の1つは、その革命的サンディカリスムと呼ばれる直接行動主義である。フロンドの乱やフランス革命のような民主主義が発達する以前だけでは無く、民主主義が成熟した現代でも諸外国では類例が無い程にストライキなどの直接行動が行われる。労働者・医者・弁護士・教員・公務員もあらゆる職業でストライキが行われており、それは左翼政党・労働組合と言った要求実現のチャンネルとは別に、自分の事は自分でやるべきであるという個人主義の発露として行われるという。フランスでは要求の実現を政党・労働組合に任せてしまうのは他人に管理される事であり、他人任せにする事であると考えられているのである。
軍事
フランス軍の記事を参照して欲しい。
国際関係
アメリカ合衆国
1778年2月に外交関係を樹立し、アメリカと最初に同盟関係になった。この時に締結された両国間の同盟条約とその後のフランスからの援助は、アメリカ独立戦争でイギリスに対するアメリカの勝利に決定的な役割を果たした。
日本
1858年10月に外交関係を樹立し、この時に修好通商条約が江戸にて締結された。1951年9月にサンフランシスコ講和条約が締結され、両国関係は正常化した。外交上における摩擦が無い訳では無いが、衝突する事はほとんど無い。
イギリス
歴史上錯綜した関係にあるが、1904年4月に英仏協商が締結されて以来友好的な外交関係にある。第一次世界大戦では共闘し、第二次世界大戦では敗北寸前となった時にイギリスから連合国家の形成が提案された事もある。戦後はスエズ危機のように両国が協調する事もあるが、イラク戦争のように対応が分かれる事もある。
中華人民共和国
1964年1月に外交関係を樹立し、友好的な外交関係にあった。しかし1991年9月に6隻の護衛艦の台湾への売却を決定し、両国関係に大幅な損害をもたらした。1994年2月にモノリ上院議長が中国を訪問し、両国関係は正常化する。しかし2019年4月に台湾海峡を通過した時、中国は反発して国際観艦式にフランスを招待しなかった。
関連の架空キャラクター
フランスが舞台の作品
『ベルサイユのばら』 | 『怪盗紳士ルパン』 | 『オペラ座の怪人』 |
---|---|---|
『シャルルマーニュ伝説』 | 『三銃士』 | 『シンデレラ』 |
『巌窟王』 | 『邪竜百年戦争オルレアン』 | 『ファントマ』 |
『新剣銃士フランスファイブ』 | 『レ・ミゼラブル』 | 『ミラキュラスレディバグ&シャノワール』 |
文献
エリザベト・バダンテールほか.Le Nouver Observateur, 2-8, November 1989.
小田中直樹.2005.「第二の謎 何故いつでもどこでもストに出会うのか」『フランス7つの謎』文春新書.
曖昧さ回避
漫画『ヘタリア』のキャラクターについては「フランシス・ボヌフォワ」を参照して欲しい。
関連動画
【金平糖みたいに甘くて綺麗なフランス】