概要
2001年から2003年にかけて刊行された電撃文庫のライトノベル。
迷宮神群と呼ばれる存在とそれによって異能を手に入れた人々の物語を描く。1巻から3巻が第1部で4巻から6巻が第2部となっており、各巻ごとに主人公が異なっている。
第6巻から10年後の2013年に続編作品ストレンジムーンが刊行している。ストレンジムーンにも今作のキャラが登場している。
あらすじ
- 第1巻「風見鳥の巣」
人の感情の色が見えると言う不思議な力を持った希崎心弥は幼馴染である露草弓の里帰りへ同行し、彼女の祖父が暮らす「徒帰島(ときしま)」へ向かう。だがそこで二人は恐るべき事実を知る事となる。その島には波谷様と呼ばれる神が存在しており、弓の祖父を始めとする島民達はそれを信仰し、特殊な力を持っていたのである。その波谷様は迷宮神群と言う人間に異能をもたらす謎の存在の一つでそれを狩らんとする異能者達の組織キャラバンが島へ上陸していた。そして心弥の力もまた迷宮神群によってもたらされたものであった・・・
- 第2巻「鼠達の狂宴」
国内有数の製薬会社・真名井製薬の研究所で爆発事故が発生する。事故の犠牲者は同社の研究員水元美春ただ一人であった。それから2ヶ月後、美春の妹でタレント兼業する女子高生の水本冬華はその現実を受け入れずにいたがある日を境に迷宮神群の一つレブルバハトを巡るキャラバンの抗争に巻き込まれていく。
実は美春は迷宮神群の研究者でキャラバンの一員であったがキャラバンを裏切った為に事故に見せかけて殺害されてしまったのだ。
- 第3巻「百年画廊」
徒帰島での事件の後、異能者となった心弥と弓はキャラバンの援助を受けつつ再び日常生活をしていた。
しかしレブルバハトの事件が起こる最中、弓が消えてしまう。それは心弥の力を利用しようとする異能者満月のフェルディナンの仕業であった。
そしてその事件により心弥に異能を与えた絵画の作者グランレイスの謎が明かされる事になっていく・・・
- 第4巻「甲院夜話」、第5巻「水中庭園の魚」、第6巻「迷宮の迷子達」
かつてキャラバン内部で非人道的な人体実験を行っていた甲院派の実験室で生体改造を受けた子供達の一人である乾真砂は甲院派壊滅後は山之内派傘下の神群部隊である東都まごころファイナンスに属していたがレブルバハトの一件で社長が死亡し、組織再編によりリストラされ、迷宮神群の研究者・榊糾の警護と言う仕事をする事になった。そこで彼は実験室時代の仲間である少女碑文谷由姫と再会する。だがその頃、甲院派の大幹部であった仙崎竜太郎は、ある存在の指示のもと、榊の持つ「アラクナ聖典」を手に入れようと企む。そして彼にアラクナ聖典奪取を命じた者こそ死んだはずの甲院派首領甲院薫であった。彼女は紆余曲折を経て由姫の肉体を乗っ取り、旧甲院派再建を開始した。甲院復活と言う事態にキャラバンは混乱し、山之内派は甲院派殲滅へと乗り出す。由姫さえも抹殺するようなそれに反発するように真砂達はかつての仲間たちと共に由姫を取り戻すべく独自に動き始める。
登場人物
- 希崎心弥
人の感情を「色」として読み取るという異能の持っている。絵を描くことが趣味でいつもスケッチブックを持ち歩く。中学時代には市の展覧会では銀賞を取るほど。
徒帰島での事件で迷宮神群やキャラバンの存在を知る。
彼が持つ異能は異能者であったグランレイスの描いた絵画の影響で得たものだが後にこの能力は『虹の屍・オルタフ』の影響を受けた能力であることが判明する。
- 露草弓
心弥の幼馴染の少女。小学生時代から心弥に好意を抱く。
祖父である勘之介に呼ばれ、心弥と共に徒帰島へ行ったがそれは彼女を波谷様ことハタニアスの巫女にしようとする祖父の罠であった。
異能はハタニアスと直接触れあったことで開花し、昔からあった背中の痣に沿ってトンボの様な翅が生え、風を操る力を得ている。
- 翁居夢路
キャラバン創設メンバーの一人。見た目は青年のように見えるが実年齢は150歳くらい。
と言うのも神群である封印の鬼神・シャパニアを背中に宿しており、その影響で歳を取らず、また全ての異能・神群の影響を無効化する。
涙もろく、また情に厚い。その人生経験からか、やや世の中に無常感を持っている節がある。
普段は紅街で「点心華心」という点心とケーキ屋と言う変わった店を運営しておりケーキも作る。
創設者ゆえか、キャラバン内部でも最高位の影響力を持っており、現在の幹部たちも彼が育てた。いくつかの事件で動き回っているほど行動力を持つ。
- 詩乃
夢路と行動を共にする少女。普段は首輪をはめている。
元は甲院の実験室出身の少女で夢路に助けられてから恩義を感じて彼の従者を気取るようになった。
実験によって喉にケンツィアの目を移植されており、それによって他の異能者・神群・神具を感知するという異能を持っている。普段はその目を首輪で隠している。
その能力はあくまでも神群の影響を感知するもので、個人を視分けることはできず、対象が眠っていると感じることも不能、何らかの方法で身を隠されると感知できない。それだけに視えた時の信頼性は抜群である。
- 翁居幻三
キャラバンの神群研究者で夢路の息子。知識の量は随一でキャラバンにとっても重要人物である。
骨董品店・翁堂の店主で心弥、弓の知り合いでもある。弓から聞いた波谷様の伝承から新種の神群と思い、軽い旅行のつもりで徒帰島に来たが自分の素性を知った島民に拘束されてしまう。
不老である父と違って老人だが仕込み杖で戦ったりと行動力を持っている。
- 籤方刀至
元暗殺班の剣士。甲院の実験室出身の青年だが、どの影響を受けているのかは本人にも分からず、また資料も消失しているので全く不明。
自己というものを持っておらず、命令を聞かなければならないと教育されており、それに疑問を抱いていない。自ら判断せず他人の命令を遂行するだけのまさに道具のような男。
愛刀は神群の影響を受けた神具である真女。しかしこの真女にはとんでもない秘密が隠されていた。
美春抹殺の遂行者でもある。
- フローラ
点心華心の店員をしている双子の姉の方。彼女も甲院の実験室出身。
『蔦をまとった僧兵・ナシュレイ』と『双頭の女神の右・クティカ』と言う二つの神群の影響を受けている。
- ファウナ
フローラの双子の妹で同じく点心華心の店員。姉に比べて精神的に幼い。
思念の鎖・ラドゥーティの影響を受けた異能者。
- 水本冬華
十七歳の高校生にしてタレント。出演している時代劇ではそこそこの人気を得ている。実家は道場で、祖父から仕込まれた剣術は十分実用できる。
異能者でもなくキャラバンとも関わったこともないが、姉が起こした事件に巻き込まれ、華ヶ瀬に命を狙われることになる。
- 水元美春
キャラバン関連企業でもある真名井製薬の研究者で、冬華の姉。迷宮神群の研究者でもあり神群の影響を抑える薬の開発をしていた。
仕事一辺倒で、妹である冬華がいないと生活は酷くなる。
レブルバハトの研究中に神群の事を理解し始め、彼らを狩っていくキャラバンのやり方に腹を立て始め、レブルバハトを使ったキャラバンへの反乱を目論むが詩乃とファウナに察知されて失敗、そして籤方に抹殺される。
- 真名井紳士
真名井製薬の研究所の所長。歳は三十後半だが、童顔で、威厳というものはない。美春の上司で美春に好意を持っていた。パナンゾロンの影響を色濃く受け継いでいる真名井一族のものだが、彼自身は異能を持っていない。
しかし美春がキャラバンに反逆しようとした際に彼女の抹殺を籤方に命じた。その際の彼女の「冬華を守れ」という遺言を守るべく、誠二や夢路らと協力して冬華を東都まごころファイナンスから守ろうとした。
- 真名井誠二
紳士の弟で、異能を持たぬ兄と違ってパナンゾロンの異能を受け継いでいる異能者。
その異能は一般的なものではなく、肌から分泌した物質を軟化させ、自在に操り戦闘にも役立つ。また、特有の視覚も得ている。車や飛行機などを運転できる。
- 華々瀬清元
東都まごころファイナンスの社長である異能者。
東都まごころファイナンスは表向きは金融会社だがその実態は異能者による神群狩りを行う戦闘集団。彼は快楽殺人者と言われるほど人殺しが好きな残忍な男。
レブルバハトの事件の際に関係者である冬華さえも殺そうとした。
- 根黒桂
東都まごころファイナンスの異能者。フローラたちと同じく実験室出身。
- エスハ
- フェルディナン
他人に擬態できる変身能力を持った異能者。100年以上も生きている。
- 文槻香夜子
- 乾真砂
甲院の実験室の出身でその後は東都まごころファイナンスに籍を置いていたが華々瀬の死後、組織再編によりリストラされて榊糾の護衛をする事に。
千界の鍛冶師・ルールーブの異能を移植されている。
- 碑文谷由姫
真砂やフローラなどと同じく実験室の出身。
甲院派解体後は榊の家に居候している。
- 霧塚雅
東都まごころファイナンスの社員で華々瀬の秘書。
- 榊糾
迷宮神群の研究者で
- 仙崎竜太郎
甲院薫の側近の一人だった元甲院派の幹部で現在は山之内派のメンバーとなっている。表向きは高名な陶芸家で普段は私邸で土をこねたりしている。自ら実験に志願してクティカの異能を持っており、毒を混ぜた唾で攻撃する。
甲院派が壊滅した時に他のメンバーとともに山之内派に回ったが実はそれは主君である甲院の命令だった。太った老人に見えるが実は山之内と張れるほどの大物。
薫が幼い頃から仕えており、忠誠心は本物である。薫が復活するとキャラバンに反旗を翻し甲院派再建を開始する。
- 甲院薫
かつての甲院派のリーダー。異能者への差別を無くす為に全人類の異能者化を目論み、その一環として非人道的な人体実験を行っていた。だがそれがばれてしまいキャラバンの決定で甲院派は壊滅、彼女もフェルディナンに殺害されてしまう。だがその意識は籤方の愛刀真女に宿っており、当初は籤方に取り付いて操り、そして今度は由姫に取り付いて復活を遂げた。
- 津雲白
実験室の子供の一人。
- シェーウェン
ガムナ教団の司祭をしている少女。
- 山之内謙
山之内派を束ねるリーダー。喋ろうとしないがそれは口を開くと衝撃波を放つからである。
- カーマイン
東洋のカーマイン派の首魁。マグマを操る力を持つ。
迷宮神群
人間に異能をもたらす謎の生命体。別の世界からやってきたもので、そこに存在するだけで生物に異能を持たせると言う影響を与えており、それは世代を超えて血に蓄積する。
決して神とは言えないがその力を活用するには宗教の形を取りやすく、一部の集落等では神と崇められている。その為、元々は西洋で「迷子の異邦人(ストレイ・ストレンジャー)」と呼ばれていた彼らを研究者の先人は和訳して迷宮神群と呼ぶようになった。
- 青雲の息吹ハタニアス
徒帰島の村民たちに古くから「波谷様」として信仰されていた。これの影響を受けたものは六枚三対の翅が生え、空を飛べるようになる。
- 黄昏の墓守レブルバハト
十一年前に海外で発見された神群。人には大した影響も及ぼさず、ただ水の中を器用に動けるようにするくらいである。しかし本体を触った者の願いを触った者とともに取り込むと、その願いを叶えるために動き出す。そこに明確な意志はなく、ただ死者=取り込んだものの安息を守り、また、願いを叶えるだけである。相手を溶かしてしまう。
数千年にわたる眠りについていたが山之内派に発見されて狩り出されようとした時、覚醒。その際に殺した山之内派の戦闘員の願いである「全ての神群と異能者の消滅」を実行、そして100人以上の犠牲者を出すほどの被害が出た。
- 瑠璃の都の鐘打ちレティスマ
どこかの村の土地神として祭られていたが山之内派に狩り出され、焼却された。
これの影響者は、喉の奥にビー玉のようなものを作ることができ、それを吐き出す。このビー玉は通信機のように使ったり、大きくして空に浮かべ、気球の代わりにすることができる。
実はもう一つのレティスマが存在しており甲院派が使用していた神具・マリアンヌの水中庭園の中で実験用の素材として使われていた。
- 虹の屍オルタフ
100年以上前に存在したとあるジプシーの守護精霊である神群。しかしそれを悪用しようとする異能者ブロスペクトに狙われて一族が壊滅した際に、一族の生き残りの少女リセルとともに逃走した。能力は「感情・記憶を周りの他人に共有させること」である。
画家のグランレイスもこのオルタフの影響を受けた異能者であり、彼の描いた絵が流出し、それを通じて何人かの人物に超能力をもたらした。
- 封印の鬼神シャパニア
他の神群を他の異世界へと送る神群。人間に影響を与えるのではなく、人間に直接寄生しており翁居夢路に寄生している。寄生された人間は歳を取ることがなくなり、また他の神群・異能者の能力の影響を受けなくなる。普段は眠っているが、時折神群のいる場所で目覚め、神群を他の世界へと送っていく。
- 長くのたうつ女神アラクナ
甲院の故郷の村で土地神として祭られていた神群。多数の神群の中でも上位レベルの力を持っている。
村人からただ一人を巫女として選び「言葉を使わず、接触による意思の伝達」と言う異能を与える。巫女はアラクナ聖典と言う本を使ってアラクナと交信する。
用語
- キャラバン
迷宮神群によって異能を得た異能者達による組織。100年以上前に創設されており、元々は夢路達が世間から「人外の者たち」とされた者たちが助け合って生きるようにする為に組織した相互互助組織であった。しかし様々な組織を取り込んでいった為に組織は肥大化、指揮系統の分裂した事もあって主義主張の異なるいくつかの派閥が出来ている。
神群の狩り出しを主とする山之内派、異能者は世界を良い方向へ導く者であると言う選民思想のカーマイン派、差別を亡くす為に全人類の異能者化を目論んで人体実験を行っていた甲院派、神群を神聖視する祭夏老派、異能者の為の医療研究やいくつかの事業を行う文槻派など多くのセクトが存在している。尚、甲院派は人体実験を行っていたことにより壊滅、その残党は山之内派に吸収された。
- 真名井製薬
国内有数の製薬会社で真名井グループの会社の一つ。実はキャラバンの関連会社の一つであり、会長は山之内派の首脳部の一人。異能者や神群を対象とした薬品の研究を行っている。
- 神具
迷宮神群により特殊な力を持った道具のことである。
関連タグ
関連タグ
オクトー~感情捜査官心野朱梨~:希崎心弥と同じような力を持ったキャラクターが登場する。