概要
「聖童女」とは、民俗学者・吉野裕子が「大物忌」を表すに用いた造語。
大物忌とは、かつて存在した、神に食事を捧げる役を務める神職。
伊勢神宮や香取・鹿島・春日・賀茂などの大社に仕えた童女童男の神職「物忌」の一種である。
鹿島神宮(※)の伝によれば、物忌は一生独身で神に仕えたとされる。
大物忌は10歳前後の少女で、初潮が来ると交代となったという。
穢れのない身である必要があるため、常日頃から斎戒(一般には、酒肉や五辛[にんにく、ニラなど香りの強い食品]は摂らず、淫欲を断ち、頻繁に沐浴するなど)し、俗世から隔った生活をしていたようである。
フィクションにおいて
東方Project作品、『東方神霊廟』に登場するキャラクター、
物部布都の所持するスペルカード名(ラストスペルおよびOverDrive)に用いられている。
- 聖童女「大物忌正餐」 (Easy/Normal/Hard/Lunatic)
- 聖童女「太陽神の贄」 (OverDrive)
彼女のモデルと目される「布都姫」は、石上神宮の斎宮であったとされる(『先代旧事本紀』)。
そして大物忌(聖童女)は、神の側近く仕え祭祀を司る女性神職という点で、斎宮に似通った立場にあったとも言える。
実際、伊勢神宮においては斎宮の代理として祭祀を執り行うことが多かったようである。
他のスペルカードが直接的に物部氏にまつわる題材をとっているのに対し、
ラストとOverDriveという最も代表的な位置に、
物部とも道教や仙術とも直接的な関係がない題材のスペルカードが置かれていることは憶測を生むようだ。
そのため、元ネタを少女化するにあたって、
「斎宮(※基本的に成人女性)の布都姫」から「大物忌(童女)の布都」へと
設定上のアレンジを施したのではないか、という推測がされることもある。
ちなみに大物忌はじめとする「物忌」は明治初年に廃止されたが、その後も式年遷宮の職掌だけに物忌を残すことが許されており、今でも遷宮諸祭においては物忌役の童女の姿を見ることが出来る(7、8歳程度の少女がその都度選ばれて務める)。
その際の童女の装束は内宮と外宮とで異なり、外宮の童女は「白装束に紫袴」である(大物忌は伊勢の外宮で神に食事を捧げる童女)。
これは、布都の服装の上下の配色(白装束に紫のスカート)と一致する。
また、布都の服装に付属する「五色の紐」は、その色や、そのたなびく有様から、物忌の童女が執り行う祭祀において祭場に立てられる「五色の幣」に見立てられる、という見解もある。(※2)
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脚注
※余談だが、この鹿島神宮と、布都姫が斎宮を務めていたとされる石上神宮とそれぞれに、
「布都御霊剣」とされる剣が伝わっている
※2布都の紐の色は「黄・青(今で言う緑)・赤・白・(やや青みの)黒」。
そして五色の幣は「黄青赤白黒幣」とも呼ばれる(実際は濃紫だが「黒」とされる)。
「五色幣」と呼ばれる幣物自体は様々な神道行事において見られるが、
基本的には五色は1つのセットか束になっており、
材質も全くなびかぬ折り重ねた紙のものもあるなど、形態も様々。
「各色ずつ独立」の「紐状にたなびく吹き流し」という形式はかなり独特のものである。
(ちなみに五色幣の五色は、道教や風水にも採用されている五行の色でもある。
これはもともと神道側が大陸から影響を受けた物であり、
「物部の秘術(神道系)と道教の融合」を象徴するが如き要素、と見ることも出来る)