贋物
にせもの
本編ストーリー全般のネタバレを含みます。
「東方ダンマクカグラ」のストーリー第2章に登場する存在。このストーリーにおいて根幹を握る概念である。
名前の通り、幻想郷の少女達をそっくりそのままコピーしたように全く同じ姿で現れる、いわば「もうひとりの誰か」。
人格は本物と独立しており、話すことも弾幕ごっこをすることも、果てはダンマクカグラを行うこともできる。外見で判別は不可能な上、一個人に対して一人というわけでもなく複数出現することもある。
本物と贋物が揉めている場所ではユメミタマが絡んでいる事も多いが、ダンマクカグラによる浄化ではユメミタマは消せても贋物は消滅しない。例外的に、人物でなければユメミタマごと消すことができる(魔理沙の霧雨魔法店に出た木など)。
個体の中には本物より少しだけ性格が異なる者もいたり、本物と普通に馴染んでしまっていたり、などということも。
この贋物による一連の騒動を、魔理沙命名の「贋物異変」と呼ぶ。
第2章の冒頭、いつもの紫のお部屋に突然乱入してきた、紫……のような、女の子。
なんと幼女サイズまで(色々と)小さくなってしまっており、言動も若干幼くなってしまっている。
何も知らないプレイヤー(=ロカ)はもちろん、紫自身も困惑していた。
しかしそんなロカに対して
「私は八雲紫。私がほんものの八雲紫よ!」
「このままいけば、あなたの幻想郷は……大変なことになる」
という、意味深かつ無視できない忠告を残して去っていく。
その後はどうやったのか不明だが幻想郷に降り立ち、霧雨魔法店に出現した「木の贋物」をダンマクカグラで浄化するように霊夢と魔理沙に助言。
無事に浄化した2人だったが、紫と名乗り去っていくその少女を見て驚愕する。
そしてその直後、博麗神社にて霊夢は自分の贋物に遭遇するのだった……
実は、贋物かと首を傾げてしまうこの少女の存在が、今後超重要になってくるのだが……それはこの時の霊夢や魔理沙は知らない。
パルスィと心象断片
増加の一途を辿る贋物に手を焼く霊夢達。
その中で、何故か毎回パルスィが現れ、邪魔をしてくること……つまり、今回の異変の裏でパルスィが何かしら絡んでいることがわかる。
霊夢と魔理沙はパルスィを探すことにするのだが、突然崩壊したどこかのビジョンを見る2人。
そして、何かに取り憑かれたかのように「…………のために………グ……ラのために……」と呟きながら、強い妖力を伴って現れたパルスィと共に、景色が一変し先ほど視た崩壊した場所になってしまう。
そこへ現れた小さな紫はダンマクカグラを行うことを提案。
それに乗った霊夢達は、ダンマクカグラによってパルスィと周囲の景色を浄化してもとに戻すことに成功する。
そしてカグラによって出現した結晶を取り込む小さい紫。
彼女いわくこの結晶は「心象断片(マインドフラグメンツ)」というもので、彼女が元の姿と記憶を取り戻すために4つ必要なのだという。
最初の一つ「魂魄のフラグメント」を得た紫は、心象断片のことと贋物とは別に異変の黒幕である「幻想郷の本当の敵」がいることを思い出し、名前はわからないまでも、贋物もまた被害者である可能性を示唆する。
境界のほつれ
復興したはずの幻想郷の各地で、「境界のほつれ」と呼ばれる現象が頻発する。
復興スポット周辺の空間が割れ、景色が乱れてしまう現象で、訳あって博麗大結界の存在しないこの世界の幻想郷にとってはかなりの一大事である。
「幻想郷の本当の敵」とされる存在は、世界の境界を弱めて破壊することを目的としており、そのためにほつれを生み出している、という。
上述の小さい紫が言うには、復興同様に「修繕」することでほつれを正し、スポットを回復させることができるようになるらしい。
もう一つの理想郷
贋物どころかほつれも増えていく中、何かに取り憑かれた贋物パルスィを浄化し、2つ目「鼓動のフラグメント」、3つ目「微笑のフラグメント」の心象断片を回収、ほとんどの記憶を取り戻した小さい紫。
彼女によると、真の敵の名前は、シャングリ=ラ。
境界のほつれを起こして別世界線の幻想郷同士を融合させ、最終的に各幻想郷の境界を破壊し、あらゆる世界をまとめて滅ぼすことを目的としているようで、このまま行くと、他の世界との境界を失くした幻想郷は色んな別世界と融合し、いずれ全ての世界を消し飛ばす大爆発を引き起こしてしまうらしい。
そして、境界のほつれによって別世界からやってきてしまったのが、贋物なのだという。
つまり、この世界にとっての贋物は別世界の本者であることが発覚する。
さらに、シャングリ=ラは博麗大結界によって幻想郷が隔離される前、「幻と実体の境界」と「博麗大結界」により世界を閉じることで、幻想として忘れられても存在できるようにする……という賢者達の考えに賛同しなかった者達の作り出した幻想郷とは別の理想郷という事実が明かされる。
しかし上手く発展できなかったシャングリ=ラは、消えかかっている自分達とは真逆に、大きく発展を遂げた幻想郷を憎み、影から攻撃してきていたという。
これまでは紫が裏で対処してきたが、ある時油断してしまい、こうして小さな姿となって断片を散らしてしまったらしい。
虚と実
4つ目のフラグメントを探すため動き出そうとする3人だったが、そこへ現れたのは……
「あら、それは困ったわね。残念だけど、4つ目のフラグメントには辿り着かせてあげないわ」
これまでずっとロカの隣りにいた、八雲紫。
なんとこの紫が贋物で、今までフラグメントを集めていた小さな紫こそ……正真正銘、本者の八雲紫だったのである。
シャングリ=ラの妬みや恨みの感情は、嫉妬を糧とするパルスィを操るのにはもってこいだったらしく、そのためにパルスィ(とその贋物達)は彼女に操られ、各地で妨害をしてきたのである。
そして、誰も知らないシャングリ=ラに対し、菫子やユメミタマのように様々な形で“誰かに想われている”幻想郷だからこそ発展できたと確信したシャングリラは、幻想郷に対してしか機能しないその「幻想郷への想い」のエネルギーをユメミタマとして出現させダンマクカグラで浄化、ロカによって「純粋な」エネルギーに変換し、その一部をこっそり受け取り自分達に流す……という、幻想郷はおろかプレイヤーさえも騙す驚愕の手段を練った。
最大の障害である紫を上手く閉め出し、彼女が抜け出そうとした隙を攻撃して力を失わせることで無力化しつつ、贋物の紫となってロカを幻想郷復興に扇動することで、誰にも怪しまれずにエネルギー回収を行うことができたのである。
しかも既にエネルギーは溜まっているらしく、その上エネルギーの一部を自身に回せる贋物紫は3人を圧倒する。
絶体絶命の危機に追い込まれる3人を救ったのは……
真の敵を前に団結した贋物達、そして彼女達と共に駆けつけた紫の式神・藍だった。
彼女の手には、探していた4つ目のフラグメント「旋律のフラグメント」があった。
4つのフラグメンツが共振し、小さかった少女を、幻想を愛する賢者へと覚醒させる。
「……ご苦労様、藍。ようやく、元の姿に戻れたわ」
聞き慣れた声で、どこかで見慣れた紫のドレスで、紫は藍を労った。
「なっ……、4つ目の心象断片!? なぜ式神が、それを持っている!?」
「ふふふ。まだ勘違いしているのね。貴方が私に勝ってた、なんて」
「仕方がありません。このようなまがい者に、我が主の深謀を推し量れる道理もなく」
藍は紫が断片を切り離す直前、予め「旋律のフラグメント」を回収し、来るべき時まで守るように言われていたという。
もちろん幻想郷の賢者が妨害を想定していないわけがなく、実はわざとやられて相手を騙し、確実に相手を倒すため、演技のために敢えて攻撃を受けていたのであった(記憶は思ってたよりも失われてしまったらしいが)。
完全に形勢逆転され、目が覚めたパルスィによるこれまでの仕返し弾幕を食らい、トドメに放たれた紫の一撃を受けた贋物紫は遂に倒された。
……しかし……
久遠妄執
「おおぁ……我ァが、シャングリ=ラよ……憎いィ……幻想郷が、妬ましいィィ……」
「なぜ……幻想郷だけ……憎い、憎いィ……何もかも壊れてしまえぇえあああ!!」
空っぽになった贋物の器を依代に、シャングリ=ラに重なった怨念の集合体・久遠妄執(くおんもうしゅう)が襲来。
一瞬のうちに幻想郷の境界が破壊され、世界同士が融合し、みるみるうちに崩壊していく事態となってしまう。
さらにはシャングリ=ラもろとも、文字通り全ての世界を破壊しようと暴れまわる久遠妄執を前に、紫の境界修復も間に合わなくなっていく。
ダンマクカグラでどうにかなるレベルをとっくに超えた世界は、紫が諦めかけるまでになっていった……
幻を想う者たち
そんな紫の元へ、不意にひとつのユメミタマが現れる。
戸惑う紫だったが、そこに込められていたのは……幻想郷の中で、日々を謳歌し、笑い合う、少女たちのいつもの風景があった。
それこそ、彷徨月の向こう側……緞帳の奥から世界を見守る、ロカが送ったもの。
“5つ目”の心象断片「愛念のフラグメント」。
カケラが変化したのは、紫がいつも肩に乗せている、傘だった。
ロカ……プレイヤーの想いを受け取った紫は皆を奮起させ、最後の決戦に臨む。
幻想郷を「憎む」相手がいるのならば。
幻想郷を「想う」心で太刀打ちすればいい。
想いを込めたカグラならば、歪んだ妄執を打ち倒せるはず。
「これなる儀式は……御霊鎮めし、清浄なる神楽。さぁ、始めましょう!」
あのミタマカードに記された、はじまりの言葉を再び告げる紫。
あらゆる「想い」が形になったカグラは、遂に久遠妄執を打ち破ったのであった。
すべてが終わり、平和を手にした幻想郷。
しかし贋物達……否、別世界の霊夢達は、結局まだ元に戻れないようだった。
だが、そんなことは今は気にすることはない。
いつものように、異変を終えて宴会を開く少女達。
紫も、ロカに感謝と労いを告げて去っていった。
こうして、想いに支えられた世界は救われた。
……だが、紫は呟く。
「……そろそろ、話さなければならないかしら。
余談
- 紫は当初「イラストではドレス姿」「ストーリー中は道士服」という謎の仕様だったのだが、第2章のことを踏まえると、このことは予め仕組まれていた伏線だったことがわかる。贋物と思われていた小さい紫もドレス姿である。
- ちなみにストーリー第2章を終えると、ミニキャラ用のドレス姿の紫のコスチュームがもらえる。
- もう一つの理想郷「シャングリ=ラ」の名前は恐らく「シャングリラ(シャングリ=ラ)」が元ネタ。元々は小説『失われた地平線』に登場する理想郷(ユートピア)の名称だが、ここから転じて一般的に「理想郷」と同義としても扱われている。
- 語源は標準チベット語の「ཞང་」(Shang/シャン、ツァン地方の一地域でタシルンポ寺の北)+「རི」(ri/リー、山)+「ལ」(ラ、山の峠)とされ、「シャンの山の峠」を意味する。
- 「失われた地平線」の著者ジェームズ・ヒルトンはチベットのある伝説における仏教王国シャンバラをモデルにしたといわれる。
- ストーリー第2章実装とともに追加された新しいテーマ曲「Resonance〜私たらしめるもの」は、まさにこのストーリーに相応しい歌詞となっている。
- 紫の最後のセリフは、ダンカグのサービス終了もあったとはいえ、次に繋げるためのものなのかもしれない。