概要
人間は立ち上がる・起き上がる時、自律神経の一つである交感神経の働きで、重力により血液が溜まってしまった体の下側(足)の血管を収縮させて心臓に集まる血液を増やし、血圧を維持させている。しかし、交感神経がなんらかの要因でうまく働かないと血圧が下がってしまい、めまいや動悸、失神などの症状が起こる。これを起立性調整障害と呼ぶ。
英語ではOD(Orthostatic Dysregulation)という。
起立性調整障害は自律神経失調症の一種であり、特に小学校高学年〜中学生くらいの子供に多く見られる。第二次性徴の時期とも重なるため、体が大きく変化・成長する過程で、自律神経系が乱れることが関係していると考えられている。また、水分不足により血液の量が減ることや、日中の運動不足による筋力の低下、精神的なストレスも影響する。
現在、起立性調整障害のタイプは以下の4つが確認されている。
- 起立直後性低血圧…起立直後の血圧低下からの回復に時間がかかるタイプ。
- 体位性頻脈症候群…血圧の回復に異常はないが、起立後心拍の回復がなく上昇したままのタイプ。
- 神経調節性失神…起立中に急激な血圧低下によっていきなり失神するタイプ。
- 遷延性起立性低血圧…起立を続けることにより徐々に血圧が低下して失神に至るタイプ。
診断にあたっては、起立時の血圧低下、またそれに伴うめまいなどの症状が3つ、ないし強い症状が2つ以上見られる場合、貧血(鉄欠乏性貧血)や心臓疾患、てんかんのような神経疾患、甲状腺機能障害などの内分泌系の疾患といった他の要因がないか検査した上で、実際に起立時の血圧や脈拍を測定して起立性調整障害か調べられることとなる。
また、精神的なストレスが原因の心身症として現れることもあるため、ストレスチェックや(特に未成年の場合)家庭内の状況の調査なども行われる。
起立性調整障害は「決して怠けているわけではないが、自分の意思で体の動きをうまくコントロールできない状態」である。午前中、とくに朝起きる時に症状が出ることが多いため、「よく寝たはずなのに朝なかなか起きられず、そのまま学校や仕事を休んでしまう」という人の中には、実は起立性調整障害を抱えている…という可能性がある。
症状がひどい場合、思考力や判断力が低下してしまい、気持ちも塞ぎ込んでいき、さらにこのことでストレスが溜まって悪化してしまうことにも繋がりかねない。また、元々学校生活などでのストレスが強い場合不登校や引きこもりの原因になってしまうこともある。
治療にあたっては、薬物での治療よりも日常生活の改善(十分な水分補給を行う、適度な運動、急に起き上がらないようにしたり、長時間立ちっぱなしになるような機会を避けたりといった生活習慣の見直しなど)が指導されることが多い。精神的なストレスがある場合はその解消も必要となる。
また、症状の改善や復帰には周囲のサポートも重要なため、家族や学校が連携をとっていくことが求められる。