概要
藤沢周平が 1976年9月に別冊小説現代新秋号に発表した時代小説で、原題は「狐はたそがれに踊る」だったが翌年1月に単行本化されたさいに改題された。
川端にひっそり佇む赤提灯でいつも閉店間際まで飲み続ける四人の男が、盗賊だと名乗る怪しい男の誘いに乗って「逢魔が時」に押し込み強盗を働いたことにより、各々だけでなく周囲の女達の運命が大きく変転していく様を描く。
藤沢小説の初期に見られる陰鬱で救いのない作風から「用心棒日月抄」に代表される明るめの作風に変化する過渡期の作品であり、登場人物の悲劇を描きながらもラストシーンは僅かながら救いのあるものになっている。
あらすじ
恐喝を生業とする左之助。浪人の伊黒清十郎。元職人の老人弥十。問屋の若旦那、仙太郎。
各々生い立ちは異なるが、いつも川端の赤提灯「おかめ」で閉店間際まで酒を呑んでいる。お互い口を利くことはなかったが、奇妙な親近感を抱いていた。
各々がそれぞれ異なる理由で大金を欲していたところ、四人の心を見透かすかのように愛想笑いの得意な中年男・伊兵衛が現れる。
伊兵衛は四人に押し込み強盗の手伝いをしてくれれば、一人百両(弥十は六十両)の大金を分け前として渡すという。場所は中くらいの繰綿問屋「近江屋」。結構は人通りが絶え、逢魔が時と呼ばれる夕暮れ。
五人の男達は首尾よく金を盗み出すことに成功するが、思わぬ出来事から歯車は狂っていく。