Elster
えるすたー
『SIGNALIS』の主人公。正式名称はLSTR-512。
作中世界で軍や企業に運用されている量産型アンドロイド(レプリカ)の一体。エルスター(LSTR)は種類を示す用語で、人間ではないため名前はなく識別用の型番とセットで呼ばれる。
レプリカは兵士、指揮官、作業員など用途別に違う個体が用意されており、エルスター型は単独任務が得意な工作員として製造された。工作員らしくあらゆる銃火器を使いこなし、忍び足といった隠密行動も得意。耐久性はそこまで高くないがアンドロイドなので多少の負傷は平気で、システムダウンさえしなければパーツの換装などで破損や欠損といったトラブルにも対応できる。
主人公のLSTR-512はその中の一体で、宇宙探索任務ペンローズプロジェクトに臨むアリアーネのため、技術者として彼女と同じ船に配属された。当初は部下として淡々と作業をこなすだけだったが、紆余曲折あって人間らしい感情が芽生え、アリアーネと恋仲になる。人間とアンドロイドという歪な関係だったがお互い気にせず、二人だけの世界でロマンスを謳歌していた。
しかしある時、機材トラブルによって宇宙船はどこかの惑星に墜落し、一緒にいたはずのアリアーネも行方不明となる。墜落時、エルスターはスリープモードに入っていたため当時の状況が分からず、彼女は残された手掛かりからアリアーネを探すため宇宙船の外へ出る。
主人公ではあるが行動指針があやふやで、非常に謎の多いキャラクターとなっている。
作中ではアリアーネを探しているはずがアリーナ・ソウという別人の行方を追ったり、山積みにされた自分(と同型)の死体を見ても動じなかったり、落ちたら即死不可避の大穴に迷わず飛び込んだり、何の説明もなしに別の惑星へワープしたり等、度々不可解な行動を見せる。ほか探索中の施設やダンジョンの構造が非現実的だったりと突っ込み所も多い。
しかしながらエルスター本人は終始真剣な表情で、作中では鏡を見つめながら決意を固めるシーンがあり、他のNPCの言動にも一切惑わされない等、確かな目的があるようにも見える。また過去にアリアーネと何らかの「約束」を交わしていたことが同じく作中で示唆される。
これらの謎に対する公式の回答はない。実はエルスターは複数人いたのか、時系列がバラバラなのか、夢や妄想の中の出来事だったのか、超常的な力が働いていたのか等、答えはプレイヤーの中だけにあると言える。この辺の詳しい事情はアリアーネ・ヤンの記事も参照のこと。
最終的にアリアーネと再会するのだが、そこでエルスターが取った行動とは...
時間だ 残ったのはここだけだ
>帰りますか?
そして物語終盤で明かされる真実、それはアリアーネは死亡もしくは危篤状態にあり、エルスターは恋人を助けるため必死に治療や延命措置、宇宙船設備の修理を行っていたという事実だった。
最終的にエルスターはもう答えを後回しにはできないという結論に至る。そして冷凍睡眠装置の中でひとり死を待つアリアーネと向き合うことを決める。
記憶
あなたのために、戻って来た。
私だよ。エルスター...
...エルスター?
ごめんなさい。覚えてないわ。
長い困難を乗り越えアリアーネのもとへ戻って来たエルスターだったが、当のアリアーネは恋人のことを忘れてしまっていた。お互い何のためにここまで来たのか分からず、徒労とも失意とも取れる静寂が流れる。しかしエルスターは「いいんだ」と微笑み、アリアーネの側でゆっくりと眠りにつく。
攻略情報なしでプレイすると高確率で到達するエンディングで、パッと見では分かりづらいが「戻って来た」という文言から、エルスターは最近までアリアーネの看病をしていたと推測できる。何らかの事情でアリアーネを置いていかざるを得なくなったが、しかし約束通り戻って来た。つまり「約束」は何があっても見捨てないという意味だったと思われる。
たとえ恋人が自分を忘れても約束を守ってそばに居続けたのか、あるいはふと目を離した隙に容態が悪化し記憶障害に陥ったのか、果てはエルスターの心情を察したアリアーネが自分のことを諦めさせるためにあえて知らないフリをしたのか。
それまでの時系列も舞台設定も破綻した物語は、アリアーネの容態もしくは精神状態を表現していたと取れる。作中に登場するエネミーはアリアーネの身体を蝕む病を揶揄しており、エルスターは恋人を救うために日々戦っていたのだろう。実際、隅々まで探索を行い、敵を倒しまくったり回復アイテムを大量に使ったりすると、ほぼ確定でこのルートに入る。
なお画面がフェードアウトする際の両者の位置はゲーム後半のある状況に重なるため、このエンディングは物語がループしていることを示唆しているとも言える。もしそうなら「約束を思い出して」という言葉は何度も物事を繰り返すエルスターへ向けた願いで、エルスターは「約束」を破って / 忘れて恋人の治療や延命を続けていたという別の解釈ができる。
約束
...私にはできない。
それがあなたの義務よ。もう終わらせないと。お願い。
ごめんね...
上記やり取りの後、エルスターはアリアーネの首を絞めて殺害、自分もその後を追うように倒れて機能停止する。このエンディングだと「約束」は助かる可能性がゼロなら安楽死させるという意味合いになり、だがエルスターはそれを拒んでいたことになる。
それまでの物語はエルスターの苦悩だったと解釈できる。どれだけ足掻いても結末は一つで、その現実から逃げるために何度も物事をループしたが、やはり受け入れるしかなく、最後は約束を果たすことを選んだ。
「ありがとう」
離別
結局、あなたを残して行くしかなかった。
もう一度会いたかったけど...私には無理だった。
ゆるして。
未開惑星に着陸した宇宙船ペンローズからエルスターが出てくる。上記文言からアリアーネを置いて一人で此処まで来たと推測できる。このエンディングだと「約束」はアリアーネがいなくなっても生き続けるという意味合いになり、エルスターはそれを守って恋人と別れた後も任務を続けたのだと解釈できる。
それまでの物語は、置き去りにされ孤独に死んでゆくアリアーネが見た夢もしくは走馬灯と取れる。急に時系列と場面が飛んでこのエンディングシーンに切り替わるのは、その瞬間にアリアーネが天国へ旅立ったことを示唆しているのかもしれない。
しかしエルスターは「もう一度会いたかったけど...私には無理だった。」というどこか不穏な言葉も残している。
遺物
約束を思い出して
難解な謎解きをクリアすると到達する隠しエンディング。このエンディングのみラスボスであるファルケとは戦わない。
アリアーネが大事にしていた白百合の花を手に取り、謎の空間で儀式を行うエルスター。周囲には自分と同じエルスター型のレプリカが、まるで生贄のように並べられている。持っていた花を捧げると、エルスター自身も他の生贄達のように倒れて機能停止する。
儀式の成果なのか、真っ赤な虚無の世界に「赤目」が現れる。見下ろす先には宇宙船ペンローズがあり、中ではエルスターとアリアーネの二人が手を繋ぎダンスを踊っている。
抽象的過ぎて意味不明なエンディングだが、離別エンドの「もう一度会いたかった」を考慮すると、禁忌の儀式でアリアーネを蘇らせたか、アリアーネのいる死後の世界へ行ったと解釈できる。コンプリート実績にも”儀式を完了する”という不穏な一文があり、ほか作中の至る所で儀式サークルと思わしき幾何学模様が見つかる。「遺物」は死者が遺した物品で、つまり持ち主であるアリアーネは既にこの世にいない。「赤目」は儀式のためにエルスターが頼った異形の存在、もしくはコズミックホラー的な未知と取れる。
二人が無事に再会するという望ましい結末でありながら狂気も感じさせる、異様なエンディングだと言える。「約束」はもう一度会いに行くという意味になるだろうか。それまでの物語はエルスターが儀式を成功させるために歩んできた道のりと表現できる。物語の舞台である非現実的な空間は、実は「赤目」によって崩壊した現実そのものなのかもしれない。
ただしこのルートだと上述の通りファルケと対峙せず、肝心のアリアーネ本人にも会えないため、見方次第では現実を拒絶して妄想の世界に走った、つまり「約束」を破ったとも取れる。もしそうなら約束を違えて禁忌に手を出すエルスターに、アリアーネが約束を思い出して(もうやめて)と願う構図になる。