概要
『沈黙の艦隊』は、漫画家かわぐちかいじの作品であり、『モーニング』(講談社)にて、1988年~1996年まで連載された。1990年に第14回講談社漫画賞一般部門を受賞している。
潜水艦戦がメインという作風や核戦争と平和、政治問題などの様々な要素が含まれており、各方面から注目を集め、国会でも話題になるなどの社会現象を起こした。
連載時は冷戦の頃で、物語でもそれに即した設定であったが、連載途中でソ連崩壊や冷戦集結となり、色々な変更があったという。
サンライズ製作でのアニメ化(TV特番とOVA)もされており、北極海の海戦までのストーリーまでが描かれている。
あらすじ
千葉県犬吠埼沖で、海上自衛隊の潜水艦「やまなみ」がソ連原子力潜水艦と衝突し沈没、艦長の海江田四郎二等海佐以下全乗員76名の生存が絶望的という事故の報道は日本に衝撃を与える。しかし、海江田以下「やまなみ」乗員は生存していた。彼らは日米共謀により極秘に建造された原潜「シーバット」のメンバーに選ばれ、事故は彼らを日本初の原潜に乗務させるための偽装工作であった。
アメリカ海軍所属となった日本初の原潜「シーバット」は、海江田の指揮のもと試験航海に臨むがその途中、海江田は突如艦内で全乗員と反乱を起こし海江田を国家元首とする独立戦闘国家「やまと」を名乗る。さらに出港時「シーバット」は核弾頭を積載した可能性が高い事が発覚するがアメリカ合衆国大統領ベネットは海江田を危険な核テロリストとして抹殺を図る。海江田は天才的な操艦術と原潜の優れた性能、核兵器(の脅威)を武器に日本やアメリカやロシア(ソ連)、国際連合に対抗してゆくこととなる。
主な登場人物
海江田四郎
本作の中心人物。海自始まって以来の英才と呼ばれ、卓越した潜水艦戦闘スキルを持つ。その操艦能力は敵対する海軍に「海の悪魔」「モビーディック(白鯨)」などと呼ばれ恐れられるほど。また、政治や国際情勢にも明るく、自らが宣言した「独立国家:やまと」の国家元首として各国の首脳とも会談や交渉で渡り合うほど。クラシック鑑賞が趣味でお気に入りはモーツァルト。
「やまなみ」の乗員とともに死んだ事にされ、秘密裏に「シーバット」の艦長として着任し、アメリカ海軍の指揮下に入るが、逃亡。潜水艦を領土とする独立戦闘国家「やまと」を宣言する。
その後、迫り来るアメリカ、ソ連海軍の猛攻をその鬼才とシーバットの性能を駆使することで退け、自らの思想表明とその実現に向けて「やまと」を世界に発信していく。
深町洋
海上自衛隊二等海佐で潜水艦「たつなみ」の艦長。
海江田とは[[防衛大学校時代からの同期で、昇進も一緒だったが「やまなみ」事件で海江田が殉職したことにされたため2階級特進しており、追い抜かされている。
操艦技術は演習で海江田に並ぶ程であり、海自、アメリカ海軍上層も認める確かなものであるが冷静沈着な海江田とは逆に大胆でぶっきらぼうな性格。(そのため、シーバットの艦長候補に挙げられていたものの、冷静さを求めたアメリカ海軍によって選択から弾かれた)海江田とはライバル関係だが、深町自身は海江田のことを友達であるとしている。
ニコラス・J・ベネット
アメリカ合衆国第43代大統領。タカ派で「強いアメリカ」「世界の中心のアメリカ」を信念とする人物。当初は海江田を捕まえ、シーバットを沈める事を第一に考え、アメリカ海軍を動員し対シーバット作戦を執拗に行ったが、そのうちに海江田という人物とその思想に興味を持ち、国連総会で対談する事になる。作者はこの作品の中で一番好きなキャラとしてこのベネットを挙げている。
竹上登志雄
日本国内閣総理大臣。「外交オンチ」「「ボケガミ」などと酷評されていた人物だったが、「やまと」事件をきっかけに政治家として成長し、首相としての力を身につけていく事になる。反対論が強い中で「やまと」との友好条約を結んだ上、「やまと」に浮きドック「サザンクロス」を提供するなどした。さらには国連決議で「やまと」独立が承認されるまで陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊及び原潜「やまと」の指揮権を国連に委ねるといった外交策をも採るなど、大胆さを持っている。英国風ではあるが、英語が堪能で通訳無しでの会談ができる(なお、現実の外交においては要人の会談は、たとえ外国語に堪能な人物でも通訳を介するのが普通である)。
主な登場兵器
シーバット(やまと)
スペック
外殻材:チタン合金/無反響タイル
全長:120m 全幅:13m 喫水:10.5m
機関:S8G加圧水型原子炉×1 7翼スキュード・スクリュー×1軸
出力:60000ps/80000ps
速力(水上/水中):35kt/55kt
乗員:76名
安全潜行深度:1000m
最大潜行深度:1250m
発射管:533mm魚雷発射管×8門
装填弾種:対艦・対潜攻撃用Mk48魚雷(通常弾頭/核弾頭)、ハープーンUSM
水中排水量:9000t
建造ドック:河島重工造船所(長崎県佐世保市)
日本初の攻撃型原子力潜水艦(SSN)として日米の最新技術の粋を集めて建造された世界最強の潜水艦。建造は日本、所属はアメリカ、乗員は全て日本人という構成になっている。
形状的には一般に見られる戦闘用潜水艦の外見だが、外装に用いられたチタン合金無反響タイルのお陰で潜航可能深度1000mという作中ではトップクラスの潜航深度をとることができ、エンジン音は他よりも静かで隠密性に優れ、魚雷の格納数も従来艦より向上されているなど、あらゆる意味でハイスペックな機体になっている。
機体の性能も去る事ながら、操艦する海江田の力量もあって一隻で艦隊を撃退・壊滅させる程の驚異的な戦闘能力を誇る。
シーバットとはその通り「海の蝙蝠」という意味であり、米軍がつけた蔑称であるが海江田自身は「潜水艦に相応しい」として気にしていない発言している。しかし、シーバットよりも相応しい艦名として海江田により「やまと」と命名され、独立国家として宣言されることになる。