概要
愛称はハスラー。
「マッハ2級の速度で飛行し」「モスクワに核爆弾を落とす」という2点のみに特化したため、いろいろな意味でピーキー極まりない機体となってしまった。
まあ、こいつを作ったのは飛行機界のSUZUKIとも言えるコンベアだという点で、致し方ないとも言えそうだが(褒め言葉)。
開発
B-58の開発のきっかけとなったのは東西冷戦。
「もしもソ連が戦略爆撃機なり弾道ミサイルなりでアメリカ本土に核攻撃を仕掛けてきた場合の大量核報復」のための機体として開発された。
そういう意味では同じくピーキーな機体に(結果的に)仕上がってしまったXB-70とは兄弟分と言える機体でもある。
本機に与えられた役割は、ソ連及びワルシャワ条約機構の防空網を超音速・高々度巡航で突破し、敵の本陣であるモスクワに核爆弾による攻撃を加えること。
今ならともかく当時の技術でこれを実現するためか、様々な点で異様な機体に仕上がっている(後述)。
機体
機体はハニカム構造を取り入れることにより大幅に軽量化を実現。
胴体はエリアルール(機体の断面積変化を抑え、空気抵抗を減らすために敢えて機体の一部を太くしたり細くしたりする設計)に基づき、中央部が若干くびれた形状となっている。
主翼はコンベアが得意としたデルタ翼。角度はマッハ2での巡航に有利な、60度に設定。
エンジンは主翼にゼネラル・エレクトリック J79 ターボジェットエンジンを合計4台ぶら下げる。戦略爆撃機としては異様にコンパクトにまとまった機体と、J79が4つ主翼にぶら下がっているその形状はある種の異様さすら感じさせるものがある。
兵装は自衛用のバルカン砲を除き、すべて機外に搭載するという方法を採っている。機体が小型すぎて機内に兵装を搭載できなかったためである。
ただしこのスタイルをとったため、爆弾槽に収まるかどうかを考慮せずに(マッハ2での空力性能をもちろん考慮した上で、という条件こそつくものの)どんな兵装でも積めてしまうという利点も生み出している。
固定の兵装としては、自衛用のバルカン砲を機体尾部に装備する。
ここで面白いのは、マッハ2で巡航中にバルカン砲を発砲すると機体の速度>バルカンの弾速となるため、バルカンの弾が(結果的に)B-58を「追いかける」ように飛んでいき、追跡してきた敵機は「自分から」バルカンの弾に突っ込むような形で命中してしまうという点がある。その姿はさながらSF作品などで出てくる空中機雷である。
ステルス性は特に考慮していない(レーダー?そんなもんは高々度・高速飛行でたとえ見つかっても振り切ってやらあ!)ものの、機体そのものを小型化することによりレーダーに映りにくくするような配慮はされていた。
で、どうだったの?
いきなりですが実戦投入すらされていません。
その理由には以下の点が挙げられると言われている。
- 「弾道ミサイルで核報復」に方針が変わった
方針転換により、「撃墜されたら貴重なパイロットが乙になる爆撃機よりも、打ちっ放しで済む核ミサイルのほうがいいじゃん」となってしまった。
もちろん、地球の裏側まですっ飛んで核攻撃を加えられる長距離ミサイルなんてのもめちゃくちゃ金と技術が要求される(ほぼ宇宙ロケットと変わりないからね)けど、そんでも打ちっ放しで済む分「もしも」の時には爆撃機よりも損害は少ない(一番金かかるのはある意味パイロット)とかの利点を考えればミサイルぶっぱのほうが圧倒的に安上がりである。
「じゃあ爆撃機なんてもういらないじゃん」と言われそうなので一応念の為に言っておくと、国vs国のどつきあいとなる「正規戦」ではなく、国vsテロリスト・犯罪組織・工作員etc...となる「非対称戦」の場合は、爆撃機はミサイルなんかよりも有効とも言われている。相手の「本丸」や「基地」がはっきりわかっている国ならともかく、どこにアジトを構えているかすらわからないテロリストや犯罪組織が相手ともなれば、「ミサイルでピンポイント爆撃」なんかよりも「居そうなところに爆弾ばらまいてあぶり出す」ほうが有効なのである。ミサイルはあくまで「目視でもレーダーでも地図でもなんでもいいので何らかの形で相手の位置がはっきりわかっているのが前提」という兵器である。
- 搭載量が少なすぎること、それ故の汎用性の悪さ
戦略爆撃機としては異常にコンパクトにまとまった機体のB-58。
さらに機銃以外の兵装に至っては全部機外のパイロンに積むという設計。
これはB-52などの「一般の」戦略爆撃機と比べると、搭載量でどうしても劣ってしまうということも意味する。
そりゃあ、ソ連に核爆弾落としてほなさいならという「本来の任務」であれば核爆弾だけもってけばいいので搭載量なんて「核爆弾1発積めればいい」で済むけど、その任務が核ミサイルに取って代わられたんで「普通の」戦略爆撃機として使うとなると、搭載量の少なさは致命的なものとなる。
- 低空進攻に向いてない特性
さらに「普通の爆撃機」として使用する場合、B-58の「低空での使い勝手の悪さ」も致命的となる。
B-58の翼面荷重は高速・高々度での巡航を前提として低く設定されており、低空では速度が上がらずさらに横風にも弱い。
このことが(当時の)爆撃機において流行していた「低空侵入して狙って爆撃」には使い勝手が悪い(というかほぼ無理)結果を招くことになってしまった。
- 打たれ弱い
B-58は曲がりなりにも「モスクワに直行して核爆弾と落とす」ために開発された機体である。
このため航続距離を伸ばすために、主翼内にどでかいインテグラルタンクが入っている。
このことが「主翼に被弾したら即アウト」につながることを指摘された。ある意味でに日本における一式陸上攻撃機に近いといえるかもしれない。
- 整備性の悪さ、スクランブルに対応できない
B-58は最初に書いたとおり、いろいろな意味でピーキーな機体である。
整備性まで含めて。
まず整備には専用の地上設備が必要とされる。このことは事実上アメリカ本土以外では整備・維持ができないということを意味していた。
機体自体も50年台の技術でマッハ2を目指し、しかも長距離を飛んでモスクワに核攻撃…というある種の「全部入り」を目指したためか複雑なものとなり、整備性をより悪化させていた。
また外装ポッドと地上のクリアランスを確保するために着陸脚が長く(おや?ソ連にも確かこんな旅客機があったような…)、乗り降りにはやたらと長いタラップをのぼりおりする必要がある。これは「スクランブル発進に対応することが難しい」ということも意味していた。
折しもその頃、ソ連の戦略原潜がアメリカ近海にも出没するようになり、スクランブル発進に対応できないという点はさらに問題視された。
…ただしB-58の名誉のために書き加えておくとするならば、外装ポッドに偵察用のカメラをつけて「偵察機」に転用された機体がキューバ危機の際に偵察活動をしていたり、あるいは「おいソ連とその愉快な仲間たち!こっちにはモスクワに核爆弾を直!接!お届けします!ができる飛行機があるんだぞ!」ということで防衛予算を割かせて財政的に圧迫するという「嫌がらせ」ができたという点では有用な存在であったとも言われている、とは念のため。