概要
『艦隊これくしょん -艦これ- 陽炎、抜錨します!』は、『艦隊これくしょん』のノベライズ版の一つでエンターブレインの発行する『ファミ通文庫』より刊行。
現在3巻まで出ている。
陽炎を中心とした第十四駆逐隊の笑いあり涙あり成長譚。ゲーム中では凡庸な性能の駆逐艦を主人公に据えた点で、他のノベライズ作品とは一線を画する。
通称は「陽炎抜錨」。単に「抜錨」とも。
あらすじ
横須賀鎮守府着任編(一巻)
呉鎮守府から横須賀鎮守府に異動となった陽炎は、着任早々第十四駆逐隊の嚮導艦(きょうどうかん。艦隊の指揮や指導を行う艦のこと)に任じられる。しかも第十四駆逐隊は横須賀鎮守府の問題児を寄せ集めた落ちこぼれ艦隊であった。
陽炎は体当たりで彼女らとコミュニケーションを取り合い、艦隊を纏めていく。しかし前任の高雄ですら手を焼いた曙とはどうしても馴れ合えず、愛宕の企画した合同演習の日を迎えてしまう。
南方海域進出編(二巻)
横須賀鎮守府では周囲の鎮守府から艦娘を集め、大規模な作戦を開始しようとする動きがあった。派遣された艦娘の中には、呉鎮守府における陽炎の心強い同僚、不知火も含まれている。
旧友との再会に浮かれる陽炎だが、第十四駆逐隊の僚艦たちの胸中は複雑だった。しかも不知火は陽炎に呉鎮守府への復帰を勧めてくる。
リンガ泊地派遣編(三巻)
南方海域での功績から知名度を増した第十四駆逐隊は、リンガ泊地への一時転属を命じられる。
しかし向かった泊地の規模は圧倒的に小さく、配属された艦娘は叢雲とあきつ丸の二人だけという有様。いつまでもバカンス気分ではまずいと訓練を始める陽炎たちだったが、そこで彼女らはリンガ泊地を狙う深海棲艦の強襲揚陸部隊を目撃してしまった。
登場人物
レギュラーメンバー(ほぼ全巻に登場)
「深海棲艦をここで食い止める! 曙がやったことと同じよ。今度はあたしたちの番だ」
所属:呉鎮守府→横須賀鎮守府
本編の主人公。
異動となった横須賀鎮守府で、第十四駆逐隊の嚮導艦を半ば無理やり押し付けられた。
明るく前向きな性格。よく言えば怖いもの知らず、悪く言えば無鉄砲。
呉鎮守府で叩きこまれた駆逐艦のイロハを元にド派手な突撃戦を展開し、時としてそれが大戦果につながることあれば命に関わる事態になることもある。
嚮導艦として彼女が伝える駆逐艦戦術は徐々に第十四駆逐隊へ浸透し、やがて寄せ集め集団だった駆逐隊を横須賀を代表する部隊へと押し上げていくことになる。
「これは駆逐艦(おんな)と駆逐艦(おんな)の勝負です。手出しは無用」
所属:呉鎮守府
呉鎮守府における陽炎の同僚。
陽炎が艦娘になった当初からの付き合いであり、最も信頼できる相棒としている。
艦娘としての素養は陽炎よりも高く、また一時期は呉鎮守府の秘書艦を務めたこともあった。
しかし一旦キレさせると抑えがきかず、怒らせた相手が泣こうが喚こうが海に叩き込んだという。
横須賀鎮守府に一時転属した時期を除けば登場機会はあまり多くないが、陽炎のために甲斐甲斐しく行動する様はまさに女房役。
「この間抜けども! あんたたちの相手はあたしがしてやるんだから! 十分感謝するのね!」
所属:横須賀鎮守府
第十四駆逐隊の一人。
陽炎の着任日に執務室へ砲弾を撃ち込み騒ぎを起こした超問題児。
誰に対しても喧嘩腰で陽炎とも初日から衝突するが、捻くれたのには相応の理由がある。
一巻での事件後も刺々しさは残るものの、かなり丸くなった。
理想的ツンデレ状態に移行しており、陽炎抜錨のヒロインと呼ばれることも多々。
陽炎とのツーショットではかげぼのタグが使われることも。
「いいんです、私だって駆逐艦です! ちゃんと戦ってみせます!」
所属:横須賀鎮守府
第十四駆逐隊の一人。
曙の最大の理解者。
普段は気弱だが、有事には率先して行動立案し発言する隠れた参謀格。
「ボクは鍛えてるんだ。こういう時のために、鍛えたんだ!」
所属:横須賀鎮守府
第十四駆逐隊の一人。
筋トレ大好きっ娘。陽炎も初対面で腕立て合戦に巻き込まれる羽目になった。
鎮守府では陽炎と同室。ツーショットになることは曙に次いで多い。→かげさつ
「この間も言ったが、意外と人を見る目がない」
所属:横須賀鎮守府
第十四駆逐隊の一人。
警戒心の強い堅物で、霰のことを異様に気にかけている。
その様子は姫を守る騎士のようだとも作中で称される。
とある事件を経て陽炎と打ち解けた後は、持ち前の気質からリーダーシップを発揮するようになった。
有事の嚮導代理として、曙と並び陽炎が挙げる存在。
「間に合わせる……。長月も皐月も、大切な友達。死なせたくない……」
所属:呉鎮守府→横須賀鎮守府
第十四駆逐隊の一人。
元は呉鎮守府で陽炎、不知火、霞と共に第十八駆逐隊を組織していた艦娘。陽炎よりも前に横須賀へ異動した。
無口で考えていることが分かりづらい。部隊への割り振りを決める時も自分の意見が言えずにいつのまにか第十四駆逐隊へ配置させられていた。
長月のことはまんざらでもなく、相互依存の関係であったことを後に告白している。
「次やったら、もう私のことをお姉ちゃんって呼ばせてあげませんからね」
所属:横須賀鎮守府
横須賀の秘書艦。
やたら駆逐艦娘たちに自分のことを「お姉ちゃん」と呼ばせたがる。駆逐艦娘たちからはえらく不評。
しかし、本人もそのことを利用している節がある。秘書艦としての段取りも優秀なやり手。
「私は一番艦です。二番艦には聞かせられません」
所属:横須賀鎮守府
陽炎が着任する前に第十四駆逐隊の仮嚮導艦を務めていた。
気苦労の多い性格。そのせいか行動に余裕がない。
半ば押し付ける形で陽炎に嚮導艦を譲ったことに、若干の負い目を感じている。
横須賀鎮守府提督
「……なに? 返せ? 馬鹿言え、もう横鎮の水に馴染んでいる。返せったって返せないぞ」
陽炎を横須賀に呼び寄せ、第十四駆逐隊嚮導艦に任じた張本人。
表向きは典型的なスケベ提督。よく他の艦娘からしばかれているらしい。
ただ、そうした振る舞いにも彼なりの理由が存在している。
陽炎はもちろん、呉その他の鎮守府から一時転属してきた艦娘の復帰をのらりくらりと先延ばしにしていることから、借りパクの王者とも呼ばれているとか。
一巻
「駆逐艦は、私たちの誇りなんですから」
所属:呉鎮守府
呉鎮守府における駆逐艦娘の監督役。
気弱な物腰とは裏腹に駆逐艦娘たちへ吐くほどの猛特訓を課する鬼教官である。
所属:横須賀鎮守府
第十四駆逐隊による射撃訓練の立会人として見学に訪れる。
最前線で戦う戦艦娘や空母娘は、駆逐艦娘たちの畏怖の対象である。
陽炎もどうにかいい所を見せようと意気込むのだが……
二巻
「守るべき人のためなら誰でも必死になるものですよ。私にも覚えがあります」
所属:横須賀鎮守府
艦娘たちから母のように慕われる横須賀最古参の艦娘。
戦闘からは半ば引退気味。
不定期に軽食コーナーを借りて居酒屋を開いている。
高雄らの出撃前祝いにも場を提供した。
所属:横須賀鎮守府
南方海域の強行偵察任務のため、高雄、不知火と艦隊を編成する。
三巻
「あいつらを沈めてやるの。二度とリンガに来ないように!」
所属:リンガ泊地
リンガ泊地の秘書艦を務めている。
一見平穏なリンガ泊地で怠惰を貪っているように見えるが……
「自分は陸(おか)の人間であります」
所属:リンガ泊地
元は陸軍所属だったが、艦娘の適正があるとされてなし崩しにリンガに派遣された。
操艦は不得意で、陽炎たちとの艦隊訓練にも出遅れを見せる。
しかし深海棲艦揚陸部隊との戦闘においては自らの特性を活かし、獅子奮迅の活躍をすることになる。
MI作戦(艦これ2014年夏イベント)における活躍を予見していたとして話題になった。
リンガ泊地提督
「わしも死ぬことになる。現実から目を背ける人のために」
引退間近の老提督。
叢雲とは古くから上司部下の関係。
釣りの時以外は泊地から出てこないらしい。
「わたくしたちが道に迷うことなど、よくあることです(熊野)」
所属:呉鎮守府
不知火と共に横須賀鎮守府に派遣された艦娘たち。
呉に戻る前に、陽炎、曙、潮と北方海域の深海棲艦掃討任務に参加した。
「戻ったらちゃんと直すから、横須賀まではあて舵をしててください。缶は……今直しちゃいますか」
所属:呉鎮守府
陽炎の異動後に呉鎮守府に着任した艦娘。
南方海域進出で傷ついた艦娘たちを修理するため、横須賀を訪れていた。
曙を冷やかし半分、趣味半分で彼女に応急修理の知識を叩き込む。
独自設定
ゲーム内の単語や明文化されていない設定など、当小説内部での独自解釈が散見される。以下はその一部である。
艦娘の出自
当ノベライズの艦娘は、適性のある人間という設定である。
そのため、重油を飲んだりボーキサイトをかじったりしない。
艦娘志望者は検査の後に、甲種、乙種等の適性に分類される。
その後、艦娘としての名前と艤装を与えられる。
元の名前は秘匿されるが、特に仲のよい艦娘などには本名を明かすこともある。
羅針盤
艦娘固有の現象として取り扱われている。
海域の特定位置においてどういう理由か方向感覚が狂い、目的地に辿り着けなくなる。
これが艦娘たちの間で「羅針盤が狂う」と呼ばれている。
(現実の提督たちと同様に)神頼みに走る艦娘も多いらしい。
疲労度
疲れ具合を「赤」「黄」などの色で表現した、艦娘独特のスラングとして用いられている。
目の充血など、具体的な兆候として現れる現象もあるとのこと。
余談
- 艦これメディア展開の中では随一とも言える肉体言語の語らいが多いのも当小説の特徴だったりする。訓練中のコミュニケーション不全から洋上で喧嘩をおっぱじたり、演習で双方の砲弾が尽きても決着がつかないので「紅の豚」ばりの殴り合いをおっぱじめたり、戦線に踏みとどまろうとする大破艦をぶん殴って黙らせたり仕返しに殴り返されたりする彼女らの男よりも男らしい様は必見。
- ノベライズでは唯一、特装版が刊行されている(三巻)。表紙絵が曙&潮の特別版になったことに加え、NOCO氏によるコミカライズを含む小冊子が特典として追加された。見所は曙の顔芸といっても過言ではない。