概要
東方Projectに登場する綿月依姫と稀神サグメのカップリング。
依姫は『東方儚月抄』(書籍作品)、サグメは『東方紺珠伝』(STG作品)にそれぞれ初登場した。それぞれが初登場した際の二つ名は、依姫が「神霊の依り憑く月の姫」、サグメが「舌禍をもたらす女神」。
二人はともに月の「結界の裏側」にある「月の都」に住まう者たちであり、この社会で立場のある身である。それぞれの初登場作品においてはそれぞれかたちでもたらされた月の都の危機に対処すべく、各々のやり方で影に日向に奮闘した。
東方Projectにおける月の物語が語られた『紺珠伝』時点では両者の関係性などは語られていないため、二人の交流の様子は主に二次創作において様々に想像されるものとなっている。
月を守る者たち
依姫とサグメは作中でいずれも「月を守る者」としての姿が語られている。
例えば依姫は「 月の都の防衛部隊 」を率いており、サグメは『紺珠伝』時点において外部からの攻撃に対処すべく凍結した現実の月の都に一人残り、後に「 八意様 」の意図が背後にある地上からの者(『紺珠伝』自機の面々。チーム紺珠伝記事を参照)に出会うのである。
東方Projectにおける月の都は、有史以前、過酷な生存競争によって地上に「穢れ」が蔓延しそれが生命に悪影響を与えることを察知した「 賢者 」たちが「穢れ」の影響から逃れるために月へ移住したことに始まる土地である。今日でも「穢れ」がもたらされる事は忌避されており、月の社会の内部においてそれを生み出すものは管理下に置かれるなど強い処置が行われる。
一方月の都は外部から何らかの脅威が訪れる事があり、作中では『紺珠伝』でそ最新の「 知恵比べ 」の様子が描かれた純狐との抗争、『儚月抄』における月への侵入者の騒動(地上側の呼称では「 第二次月面戦争 」等とも)、さらにはそれ以前における地上の妖怪たちによる月面侵攻などが語られている。
地上からの介入については今も警戒が続けられている(『儚月抄』)。
この内前二者のエピソードでは、侵攻者側がその主たる手段、または騒乱の一部において「穢れ」を行使しており、今なお「穢れ」が月の都の弱点であることが具体的なシーンを通して語られている。この前二者の騒動の内、依姫は後者(『儚月抄』)、サグメは前者(『紺珠伝』)でそれぞれの形で対処にあたっている。
例えば依姫は地上発の弾幕ごっこによる決闘において博麗霊夢の行使した「大禍津日」(※)の厄災を纏った弾(御札)を一つ一つ切り祓い落してそれを無力化し、厄が月に落ちないよう奮戦している。
サグメは穢れの象徴である妖精たちによって月の都が包囲されて以降ドレミー・スイートによる夢の世界に月の民たちを本人たちの自覚もないうちに密かに退避させて「 月の都遷都計画 」を進めた。
依姫とサグメの二人は各々の形でもたらされた「穢れ」への対処にも尽力しているのである。
また月の守りと月の民である玉兎との関連も通して二人を見る時、依姫は戦闘要員の玉兎の鍛錬も行い、物理的な侵攻があった場合にも対処できるよう事前の準備も重ねている。『儚月抄』時点での依姫の言うところの「 先の戦い 」など、玉兎たちの力を必要とする事態もあるようである。
サグメについては、サグメが関わった「 月の都遷都計画 」において地上に調査部隊として清蘭や鈴瑚ら玉兎の部隊が派遣されている。
※「オオマガツミ」。別のシーンでは「大禍津日神」(オオマガツミノカミ)とも。
日本神話における厄災の神である「大禍津日神」(オオマガツヒ)に系する神にあたるか。
「禍津日神」はイザナギから生まれた神格で、黄泉の穢れ祓いから生まれた。今日では厄除けの神とされることもあるが、その神格の性質については肯定的なものであるか否定的なものであるかについて研究者によって複数の意見がある。
霊夢はこの神がその身に溜めこんだ厄を御札に込め、「穢れ」を忌避する結界の内側の月でこれを弾として放出するという、荒技にして月の絶対的な弱点を突いた弾幕を展開した。この有効打ながらも禍々しい弾幕を行使した霊夢について、依姫と霊夢の戦いを観戦していた霧雨魔理沙は(霊夢の方が)「 まるで倒して然るべき妖怪みたいだ 」と冗談をこぼしている。
八意永琳
二人は八意永琳とも関連があり、それは永琳が地上へと隠れた今日に至っても結びつきが続いている。依姫は姉である綿月豊姫とともに今なお永琳を敬愛しており、永琳への信頼は揺らいでいない。永琳は依姫らの幼いころも知っているようで、『儚月抄』では永琳が依姫と豊姫に書簡をしたためた際、それが永琳のものであるとの信頼性を高める意味も込めて依姫や豊姫との思い出も綴っていた様子である。
サグメもまた永琳の智に一目置く様子が見られ、純狐の攻撃の最中に突如月の都に現れた予想外の要素である地上の民の背後に永琳の意図があることを察知するとこれが事態を一変させる要素として利用し得るものであると判断、自らの能力も応用しつつ永琳の意向に乗じた。
永琳は蓬莱山輝夜にまつわる一件で輝夜とともに月の都の社会から追われる身であるが、依姫とサグメの二人はいずれも永琳について「 八意様 」と敬称で呼びかけており、それぞれの想いのあり方が伺えるものともなっている。
加えて依姫、サグメの両者とも今日の永琳に密かに接触する様子も語られている。
今日の地上との出会い
依姫、サグメはいずれも月の都の存在であるが上記のようなそれぞれの経緯を経て今日の地上との出会いも果たしている。
例えば二人はともにそれぞれの作中で霊夢、魔理沙と出会っており、依姫の場合は『月のイナバと地上の因幡』も含める場合、地上の兎となった鈴仙・優曇華院・イナバとも再会した。
また依姫は『儚月抄』での騒動の中で月で妖精(紅魔館で働くメイド妖精)とも出会っており、サグメにとっては『紺珠伝』で語られた純狐の攻撃がクラウンピースをはじめとした地上(地獄)の妖精を用いたものであったなど、自然の輪廻の象徴にして月では「 排除 」(『紺珠伝』)される存在である「妖精」という要素を通しても依姫とサグメにはそれぞれの出会いがある。
神話の女神
東方Projectにおける月の都に関連したキャラクターについては、何らかの神格に連なるような要素がその背景に見られる事がある。例えば先述の永琳は日本神話に登場する「オモイカネ」(思兼神、八意思兼神)の要素と重なる部分をもち、スペルカードなどでもそれを表現するなどしている。
これをみるとき、依姫に関連しては日本神話に登場する「オオワタツミ」(大綿津見神。海の神)の子である「タマヨリヒメ」(玉依毘売命)にその関連を見る事が出来る。
「タマヨリ」とは「霊依」または「魂憑」(いずれも「たまより」)に由来するとされ、神が依り憑く巫女(または乙女)という、依姫とも多分に重なる謂れを備えている。
またタマヨリヒメには姉として「トヨタマヒメ」(豊玉毘売命)があり、こちらの神格は依姫の姉である豊姫が共感する。
タマヨリヒメは後にトヨタマヒメの子と結ばれて四名の子を産み、その末弟には後に初代天皇となる「カムヤマトイワレヒコ」(神倭伊波礼毘古命。後の神武天皇)がある。このカムヤマトイワレヒコがそれまで神話で語られてきた「神代」と「人代」の境界であり、これは例えば『古事記』などでは上巻の結びとなる物語である。
タマヨリヒメ自身は「神代」の存在であるが、その子によって、アマテラス(天照大神)以降続いてきた「神」の時代から「人」の時代へのシフトの入口が拓かれている。
サグメに関連しては、「アメノサグメ」(天探女または天佐具女)があり、アメノサグメは動物の声を聞く巫女(女神とも)であった。
神話内での物語としてはタマヨリヒメよりのエピソードよりも古い物語である。
当時地上平定を命じられながらも長らく高天原への報告を行わなかった「アメノワカヒコ」(天稚彦)に対してその真意を問うべく、オモイカネの智恵を受けたアマテラスが一羽の「雉」(「鳴女」)を派遣した。雉は地上に降りアメノワカヒコにその意思を問うアマテラスの言葉を告げるもののこの場に同席したアメノサグメがこの雉の言葉の意味をアメノワカヒコに告げず、それどころか記事の鳴き声を不吉なものとして排除するようアメノワカヒコに進言するのである。
アメノワカヒコもまた不快に思う鳴き方をする雉を、かつて地上へ降りた際に託された神聖な弓矢を用いて射るのであるが、これがアメノワカヒコが抱く高天原への翻意を露見させるきっかけとなるのである。
アメノサグメには二通りの捉え方があり、一つはアメノワカヒコにアマテラスの言葉を告げず悪意ある手段を教唆した「悪の女神」、もう一つは高天原に対するアメノワカヒコの邪心をアマテラスに伝えるためにあえて悪逆を行わせたという「義を成す女神」である。二面性を見出し得る性格は天邪鬼のルーツとなったともされている。
またアメノサグメはその出自がはっきりしておらず、女神としての神格のあり方もまた不明瞭であるという点も表裏のある天邪鬼的な存在である様子である。
なお、稀神サグメについては『紺珠伝』においてサグメ自身の「 天津神の部分 」から月の都に至った鈴仙・優曇華院・イナバに言葉を投げかけるシーンなどがある。サグメの性質については『東方外來韋編』でも原作者ZUNによる言及がある。
「 これは勅命よ 私の天津神部分からの 」(サグメ、『紺珠伝』。鈴仙に対して)
さらに先述のように依姫は豊姫とともに今なお永琳を敬愛し信頼を寄せており、サグメもまた「 八意様 」の智恵について信頼を置く様子が語られているなど、永琳本人、またはこちらもその謂れと共感するオモイカネとの関連をみることができるのである。
このときサグメに関連しては、アメノサグメは天から下されたオモイカネの智恵による使者である雉を(その本意については諸説あるが)射るよう仕向けたが、サグメは永琳の智策によって地上からやってきた「 関係者 」たちを利用することで月の都を救う可能性を見出したという神話とは逆の形で刺激がもたらされ、今回は別の形でこれに応じた格好ともなっている。
昨今の月では先の「穢れ」とも関連して、霊夢と依姫がそれぞれの神々を通してイザナギの神話にまでさかのぼる穢れと清めの対峙を月で再び再現し、後には穢れに包囲され窮地に陥った月の都へと昇ってきた「月の頭脳」による叡智と策の一矢を具体的な運命へと翻訳し、新しい可能性を拓こうとしたサグメが描かれた。
東方Projectにおいては、依姫とサグメの女神二人はいずれも同じ神話の系列にも結ばれ得る存在にして神話時代の神格または巫女的存在とも共感するのである。
一方で
依姫とサグメの二人には上記のような関連し得る要素もある一方、先述のように『紺珠伝』時点では両者の直接の接触の様子や社会の中でのそれぞれの関わりといった語られていない点も多い。
この他の要素としては、月の都においては例えば永琳にまつわる以後の処置に関連して異なる立場がある事が語られている。依姫、豊姫は地上へと隠れた永琳を追跡する立場ながらそれを行っておらず、月の都の社会にはその姿勢を訝しむ意見が存在する事が語られている。
また『儚月抄』以前、何者かによって神降ろしが行われていた際には、月の都において神をその身に降ろす事の出来る依姫に疑いの目が向けられていた。月の都も一枚岩の世界ではない。
『紺珠伝』の段階ではサグメが月の都において「 高い位置 」に居る事は語られたが組織内部における具体的な立脚位置や月の都にかかわるサグメ個人の心の内などは同作品時点では語られていない部分も多い。
依姫とサグメの二人を見る場合、例えば個人同士としての依姫とサグメ、あるいは月の都で共に立場のある身としての二人としての依姫とサグメの間柄はどのようなものであるかなどは『紺珠伝』時点では依姫への登場及び言及が無い事も相まって不明である。
加えて両作品時点では先述の玉兎たちをはじめ「 月夜見のお姉様 」(依姫、『儚月抄』)や「嫦娥」(ただし幽閉中)など依姫とサグメと同じく今日の月社会にある存在たちについても、それぞれサグメや依姫に対して具体的にどのような姿勢であるのかなども語られていない。
二次創作では
先述のような原作(『紺珠伝』時点)における様子などから、接触は見られないながらも縁深く捉え得る「依サグ」について、二次創作では多様な想像が展開されている。
例えば共に月の都を守る同志としての二人などのあり方では、それぞれの形で月を大切に思う姿が描かれたり、あるいは共に月社会の立場ある身であるため様々な軋轢に難儀しているといういわば苦労を心から分かち合える両者として描かれる事もある。
プライベートで一緒にストレス発散をしたりする姿も「依サグ」の一つである。
また依姫とサグメが意見を異にするというアプローチのあり方もあり、例えば『紺珠伝』で月の都にもたらされた騒乱について同作ではサグメが本人もまた本意ではないながら「遷都計画」を準備したが、「地上の浄化」(「 殲滅 」)へと至ることともなり得るそれに依姫が反対する、というストーリーもある。今日の地上には永琳をはじめ『儚月抄』で縁を結んだ人々があるため、現地に触れた依姫がこれに反対し、しかし「 賢者たち 」の命もあって「 保険 」である遷都計画を手がけなければならないサグメと対立するのである。
意見の対立という点では永琳に関連した点においても想像が拓かれる事があり、例えば永琳に対する依姫のスタンスをサグメが快く思わなかったり、あるいは依姫を大切に思う故に、永琳への依姫の想いを汲んでサグメがあえて依姫らに反対する側に廻って「綿月」への反対派の意見を自身に集約しつつ反対派の代弁者となって依姫に向けられかねない糾弾または攻撃等を最小限に調整する、と立ち回る姿もある。こちらは本意を胸に隠して二面性に身を置く天邪鬼としての姿をサグメに見るアプローチとも言えるだろう。
この他依姫とサグメの出会いを想像するアプローチも様々あり、二人がどのように縁を結びあってきたのかが多様に想像されている。例えばその能力の影響もあって寡黙である事が多いサグメと真面目な依姫がどのように交流してきたのかなどがアプローチのあり方の一例である。
さらに依姫とサグメの共通の縁である永琳や鈴仙、または豊姫や玉兎たちといった二人を取り巻く環境にある存在たちを通して「依サグ」が見出される事もあり、例えば月の都に広く関連した月都組などの捉え方を通しても、そこに関連した人間関係・カップリング関係の一つとして「依サグ」が想像されることもある。
関連タグ
参考文献・参考サイト
- 「神話の女神」項
- 日本神話 神々の壮麗なるドラマ 2003 戸部民夫 新紀元社
- Wikipedia 天探女(外部リンク)
- 日本の神様辞典 やおよろず 玉依姫(タマヨリヒメ)項(外部リンク)