月の都
つきのみやこ
次の記述は同人サークル上海アリス幻樂団の作品に登場する「月の都」である。
同サークルの作品である東方Project全般をはじめ東方Projectで語られている主たる作中時間・作中空間との接続性や接続性の在り方が明示されていない「ZUN's Music Collection」作品にもその語が登場している。
月の都自体の歴史は古く、生命の創生当初にまで遡る。
東方Project原作者であるZUNへのインタビューによれば、月の都は「 竜宮 」にも相当し、月人だけでなく天人とも関係性をもって語られている(『東方求聞口授』)。
『東方儚月抄』(小説版)においては、「 竜宮 」に関連した人物にまつわるエピソードも展開される。 詳細は「綿月豊姫」記事の「地上人との関わり」項などを参照。
なお本記事ではその親記事(記事間のツリー状の接続の直接上位記事)を本項目の地理的特性から、便宜上「幻想郷」の項目に設定してあるが、東方Projectにおける「月の都」は実際には幻想郷に属するものではなく、地上や幻想郷に並存する存在であるところの「月」に属する場所あるいは都市である。
場所
月の裏側。
ただし、「月の裏側」は東方Projectで言うところの結界で隔てられた表裏、という意味もあり、単純に物理的な裏側、というわけではない。
『儚月抄』ではその所在地を月の裏側としたうえで、「結界の内側」を裏側と表現している。
しかし稗田阿求による「幻想郷縁起」(『東方求聞史紀』)には単に「 月の裏側 」とだけあるので、実際に物理的にも裏側である可能性もある。
八雲紫によれば、「 月における月の都は地上での幻想郷と同じ関係 」である(『儚月抄』小説版)。
即ち、出入りに特殊な要件を持つ大結界によって隔てられた幻想郷と同様に、月の都もまた何らかの性質をもった結界によって「表側の月」と隔てられているということである。
同時に、表側の技術による「ロケット」では月の都にはたどり着けないが、「 幻想郷のロケット 」ならばあるいは結界を超えて辿り着けるのでは、とも考察している。
なお、「表側の月」には月-地球間の距離測定のために「 人間が置いていった大きな鏡 」(アポロ11号などの設置によるコーナーキューブ型レーザー反射鏡などを指すか)があるのだが、綿月依姫曰くこれは「 霊験もな何もない鏡 」で、「 心ない兎たちがよく位置をずらしたりして遊んでいる 」。
その場に居合わせた玉兎たちが判り易く視線をそらしている様子が描かれているので、どうやら事実のようである。
特性
ただ、地上から行った人間など(博麗霊夢や魂魄妖夢)の様子や、地上に降りてきたレイセンが月の都と地上の双方で違和感なく呼吸をしていたり、あるいは月の都の通りを息を切らして走るなどの描写もあることから、呼吸に関しては何ら問題ないようである。
周辺地理においても呼吸には問題ないようで、月の都以外の豊かの海等で呼吸も会話も成り立っている他、スペルカード戦という息の切れる活動をしても大丈夫だったことからもそれは窺える。
ただしこの効果が月の都の特性なのか結界による効果なのかは不明。
また、月は一種の浄土であり、穢れのない土地である。
穢れとは生命現象における生と死によるもので、月の民はこの穢れを嫌う。
同様の理由で「生命エネルギー」の象徴である地上の妖精なども忌避される傾向にあるようである。
なお豊姫らが楽しみにしている桃が「熟れる」という変化やお酒が醸成されるという変化などがあるため、月の都は種々の状態が静止的というわけではなく変化を有するものである。その変化の質が地上とは異なるということである。
住人
いつから住みついたのかは不明(「幻想郷縁起」、『求聞史紀』)。
『儚月抄』に描かれたものによれば、住人の服装は様々な洋服を着ており多様であるが、総じてレイセンに似たうさみみが付いている。
一方、兵士の玉兎にはブレザーとプリーツスカートにネクタイ、耳の出るリボン付きヘルメットなどからなる制服があり耳も鈴仙・優曇華院・イナバのようにぴんと立っている(ただし、場面や感情によって変化している)。
また後述の門番(月の都の門番)もこれとは異なる対応した装備がある。
なお、月の民から見る地上とは「重大犯罪を犯した者が堕ちる監獄」である。
綿月豊姫曰く、「地上に住む 生きる 死ぬ それだけで罪なのです」。
ZUNによれば、「プライドの高い」住民たちであるようだ。
また先述のように「穢れ」を嫌っており、月の民が長寿なのはこの「穢れ」がないためでもある。
一方月の住人たちに実際に接触した霊夢は帰還後の射命丸文からの取材に、月の住民について「 みんな明るくて 」と答えている。また「 月の兎 」達の前で神降ろしを披露した際も最後には拍手とおひねりの小銭を受け、あたたかい雰囲気であったことが窺える。
飲食や飲酒、宴の文化もあり、依姫や豊姫などによるテーブルでの会話の場面がある。
作中では、地上の者ながら月の料理を現地で味わった人物もある。
その興りは元々は地上からの移住者たちによる建設による。
原始、地上は弱肉強食による生存競争が展開されたことによって「穢れ」が蔓延した。
数多の死者と絶滅を糧に残った僅かな勝者も「穢れ」によって寿命が生まれ、その寿命も短くなる一方であった。
そんな中、「穢れ」による生命への悪影響を見出した「賢者」が「夜と月の王」である月夜見(つくよみ)である。月夜見は自身が信頼のおける者ともに「 全く穢れて居なかった 」(『儚月抄』)月へと移住し、「月の都」を興した。そして「穢れ」から逃れた月に移住した生き物は寿命を捨てることとなった。
なお、豊姫によれば月の都の建設に際して月夜見は八意永琳を「 最も頼りに 」したようである。
『東方紺珠伝』では、月の都全体が穢れを持ちこまれる危機に晒されたため一時的に都全体が「凍結」させられており、併せて住人たちも「 夢の世界 」に退避している。「夢の世界の月の都」は稀神サグメの命を受けたドレミー・スイートによって構築されている。
ただしこの退避は住人達が自ら意識的に行ったものではなく、月の都の管理者たちによって秘密裏に行われた。住人達たちも状態が変化していることについて特段の意識は無く、「夢の世界」に設置された仮の月の都でいつも通りの生活を続けている(という夢を見ている)。
ただし月の都の凍結も住人達の夢の世界への退避も一時的な処置であり、特に後者について、サグメは住人たちの精神の安全について「 長い夢は精神を蝕みやすい 」として懸念を示している。
実際に夢の世界の住人達の間にも今ここにあるはずの月の都の実在にまつわる懐疑の「 噂 」が立ち始めていた。そして夢の世界の月の都もまた、危機をもたらした者に共鳴した者の手引きによって「穢れ」に包囲されていた。
月の民は地上の人間が月に来る事(穢れが持ち込まれる事)を恐れており、地上の科学力の向上によって地上から月へとやってくる可能性が拓かれた際には月夜見も驚いた様子であったことが豊姫の回想を通して語られている。月では地上への警戒も続いているようである(『儚月抄』)。
一方で『紺珠伝』では月の民ならではの弱点を突いた「 敵 」による攻撃に正面から立ち向かうことが出来たのが地上からの民だけであり、引き続き月の都からも地上の民に密かに支援が求められるなど、月の都と地上との関係は今日では単純なものではなくなっている。
作中に登場する月の都の関係者については「月都組」記事も参照。
『東方外來韋編』でZUNが語ったところによれば、有史以前からという長期にわたる歴史をもち、なおかつ超閉鎖社会でもある月の都は「 長いこといろいろあって病んでるんです 」。
月の民は幻想郷を含む地上に対して一方的な「 敵対 」の意識、あるいは侮辱の意識が根強く、徹底的に「 嫌い 」な相手である。月側から「 絶対会いたくない 」「 穢れてるよね、エンガチョ 」などといった意識を向けられているため、地上側も必然的に月を嫌うようになった。
その「嫌い」の程は互いを意識することすら忌避するようになるもので、衝突を以て相手を制圧なり破壊なりしようという意欲にすら向かない。ただ隔離あるのみである。
一方で『紺珠伝』後に永遠亭を訪ねるサグメなどその意図は不明ながら地上との縁が繋がり続けていることもあり、これまでの歴史にはない新しい可能性が一部で開かれ始めている(『紺珠伝』、『東方文果真報』)。
建築様式
柱や窓、扉、照明他調度品などの細かな意匠が中華風である。
また、『儚月抄』(漫画版)の作中に登場する門番(月の都の門番)が装備している帷子のような鎧は古代中国で用いられたものに似ている。
これについてZUNは、『儚月抄』漫画版巻末にて「 昔の日本の都は大陸の都を手本にして造ったものが多いですから、これでいいんです 」とコメントしている。
『紺珠伝』では凍結(制止)した状態の都の一部が登場し、石畳や何らかの建築物の塀が描かれた。
塀は白の壁面に瓦組みの屋根と特徴的な丸窓とをもち、いずれも黒系統の色合いをもつ。
丸窓のにはめられた互い違いの縦板による格子は『儚月抄』漫画版及び小説版挿絵における綿月邸のものとは意匠が異なるシンプルな物。
屋根からは裾から丸い柱が伸び、こちらは朱色である。塀同士の境目の柱(または装飾)も朱色。
同作中ではステージの進行とともに背景角度が変わり、より塀の正面の様子が見えるようになる。
丸窓の奥には薄紫色の光源が見られるが、手前側にも同種の光源があることもある。
そのカラーパターンは『紺珠伝』の前作である『東方深秘録』でとあるキャラクターが多用した光のパターンにも類似している。パターンに更にパープルが強くなるとサグメの服のカラーとも共感する。
技術水準
八雲藍がレミリア・スカーレットをある計画に勧誘した際の発言によると、月の都には「 幻想郷にはない珍しい物や技術 」があり、それは「 今みたいに毎日遊びながら無限のエネルギーを得られるような技術 」であるとのこと。
実際に登場した技術の成果物である「月の最新兵器」は、幻想郷から見てもオーバーテクノロジーそのものの代物であった。
『紺珠伝』では「 妖怪達には見えない 」・「 人間で無いと見えない 」という「 金属製の蜘蛛 」(「 地上探査機 」)が地上で活動している。
その技術の一端や成果物は蓬莱山輝夜などによって地上にも持ち込まれており、永遠亭の解放以後に輝夜らによって開催された「月都万象展」によって公開されたものもある。また鈴仙は月で培った技術や知識を応用して独自のアイテムを生み出している(『東方鈴奈庵』)。
また輝夜は「 月の賢者の誰かが作った 」ものとして「 優曇華の華 」についても挙げている(『儚月抄』)。
「月都万象展」で公開された物品の数々の具体例もさることながらイメージとしても地上から見て「月」は高い技術性が連想されるものでもあるようで、例えば阿求は永琳が提供する高度な医療について、いずこからか月の医療技術や知識などを入手したものなのではないかと考察し、それならば不思議はない、としている。
ただし実際には永琳の行使する月の技術が優れている、というものではなく、優れた永琳の天才によってかつて月の技術が進歩した歴史がある、というものかもしれない。
この他月の民は昔から「可能性による世界の形成」という量子論的な世界観を見出しており、永琳もまた地上から月への移住に際して量子論的な「 どんな事でも起こりえる 」可能性世界の視点を応用している。永琳の量子論的な教えは特に豊姫に引き継がれ、今日では豊姫は地上と月を自在に行き来できる能力としても結ばれた。
必ずしも本人の意思の制御下のものではないとはいえ、「 言葉 」によって可能性を操作することで事象を「 逆転させる 」という意味では、月の都ではサグメもまた量子論的な世界観の能力を持つ。
具体的な技術の現れとしては、永琳が開発した「量子印」(印鑑)があり、作中では『儚月抄』において綿月姉妹への手紙の封印に使用された。これは封を開けると量子の特性によって「 中身を読んだ人の数 」が分かるというもので、開封とともにその数が中空に舞い上がり、やがて封筒の片隅に自ら印字される。この印字によって封を開けた回数が封筒を裏返すだけで一目でわかる仕組みである。
この技術は今なお永琳だけが行使できるもので、「量子印」による封印はそのまま永琳本人による封印を意味する「 本人証明 」ともなり得る。
地上との往来
個々の能力や道具を用いるなど複数の方法がある。
- 境界を操る能力
紫などによる行き来の方法。
紫が用いた方法として具体的に解説されたケースとしては、「 湖に映った幻の満月と本物の満月の境界を弄り湖から月に飛びこめるようにする 」方法(『儚月抄』)。
- 見えている月を追いかける
かつて月の民が往来の際に用いた方法。
また、幻想郷から飛び立ったロケットもこの方法と同様である。
- 月の羽衣
「月と地上を行き来できる道具」として「月の羽衣」が登場している。
作中、レイセンが使用した。
- 「秘密の連絡通路」
月の都と地上の間には特殊な「 通路 」があり、『紺珠伝』では「 第四槐安通路 」が登場した。「夢」を介したルートであり、ドレミー曰く両世界の連絡通路は「 精神世界 」である。鈴仙によれば同通路は「 兎しか使わないはずの連絡通路 」であるが、『紺珠伝』ではサグメからの依頼を受けたドレミーが待機していた。
「槐安」は「南柯の夢」の故事の異称である「槐安の夢」に由来するか。同物語はある人物が酔って古い「槐」(えんじゅ)の木の下で眠った際、「大槐安国」に行きその国の要職となり、20年の栄華を享受した、という夢を見た、というもの。しかし目覚めてみればそれはただの夢であり、自身が枕にした現実のその木の下にあったのは、大きな蟻の穴だけであった。
ここから物事の儚さの例えとして「南柯の夢」「槐安の夢」「槐夢」などの語が用いられる。
このように月と地上を行き来するための方法はあるのだが、いずれも誰しもが任意のタイミングで自由に利用できるというようなものではない。阿求は「幻想郷縁起」にて「 実際に月に行く事はほぼ不可能 」としている(『求聞史紀』)
地上とのつながり
『儚月抄』本編の数百年前(別の場面では「千年前」とも)、八雲紫らが月の都を侵攻したことに始まる衝突。
藍がレミリアに話したところによると、技術の奪取が目的。
その様子と結果について「幻想郷縁起」(『求聞史紀』)によれば、「 増長した妖怪を集めて行ったが、月の近代兵器の前にあえなく惨敗 」した。
藍は先の対談の際にこの敗走について「 不慮の事故 」としたが、レミリアからは「 月の民にコテンパンにされて逃げ帰って来たんでしょ? 」と返されている。
なお位置づけは不明ながら、西行寺幽々子が「 この戦いを見たことがある 」。
- 第二次月面戦争
『儚月抄』で語られた一件。
ロケットを使用して数名の地上の人間や妖怪、妖精などが月へと侵入した。この月への侵入者は依姫らが迎撃し、鎮圧。地上へと送還された。
地上からはもう一つの侵入者があったが、こちらも豊姫によって相手方が開いた地上から月へ至るルートを操作することで月への侵入そのものを防御した。
本件は綿月姉妹と配下の玉兎の働きによって月の都が危機に晒されることなく決着した。
綿月の両名がいずれもその迎撃に成功した背後には、今日では地上に堕ちた永琳が授けた月の都を守るための智恵がある。加えてその智恵は月の都を秘密裏に守るといくものだけではなく侵入者の一人である神降ろしを行う地上の巫女を利用することで月の都における綿月家の信頼を向上させるというアクティブなものも含まれており、永琳もまたこの機を利用して元の教え子たちである綿月姉妹が有利になるような策略を展開している。
ただし地上の一団にはもう一つの動きがあり、月の都には大きな影響こそなかったもののその動向は後に綿月の二人と地上の永琳には一刺をもたらしたようである。
永琳に関連して、紫の言うところによる「 住民税 」が徴収された模様(『儚月抄』小説版)。
- 幻想郷遷都計画 / 月の都遷都計画
『紺珠伝』で語られた一件。「 幻想郷遷都計画 」「 月の都遷都計画 」などの呼称がある。
語としてはそれぞれ「幻想郷へ遷都する計画」と「月の都が遷都する計画」といったところで、両者は等質のもののようである。
月の都の「 賢者達 」の立案によるもので、月の都に迫っていた喫緊の課題に対する「 保険 」の策。月の都の機能を地上へと移し住人もそちらにうつす計画で、関連して玉兎の調査部隊が地上に派遣された。その過程には地上における「穢れ」の排除があり、その排除は「穢れの元となる生と死の排除」がある。
生まれる事と死ぬ事の排除は生きる者と生み出す者の排除によって執り行われるもので、即ちここで言う「 浄化 」とは、幻想郷世界に対するジェノサイド的な「 殲滅 」を意味する。
幻想郷を「 穢れの無い 」土地、即ち「 浄土 」にする行為である。
「 月とは穢れの無い浄土、つまり死後の世界と同じだったのかも知れない 」(豊姫、『儚月抄』)
ただし前線に通達された計画の意図と計画の主幹部分に存在する人物の意思とではその目的や危機感をはじめ大きな差があり、両者の立場と接触することとなった元月の兎である鈴仙は相変わらずの上層部の「 隠蔽 」の体質、秘密主義に憤慨している。
鈴瑚などはその役職上月の都の実情を知り得る立場にあったが、月の都がどうしてそのような状態にあるのについての理由までは判らなかった。
本計画については『紺珠伝』以前、あるいは更にそれより前の『深秘録』以前の時点からサグメがこの計画の実務的な方法を検討し、実行していた。
しかし一方で、この計画が誰も望まない事である事も理解していた。
具体的な方法については「オカルトボール」記事も参照。
『紺珠伝』作中でサグメによって計画の失敗が「宣言」されたが、これは同時に計画の起点となった危機が取り除かれることがほぼ確約されたものでもあったため建設的な破棄といえるものでもあったようである。遷都計画を不要なものとしたは永琳の「奇策」であり、本計画に携わった永琳を除く誰しもが、この「奇策」は予想外だった模様。
ただし幻想郷への侵攻は大本の問題が除かれた後も継続されていた。
計画の破棄にかかる真相と現在の月の都の置かれた状況の両者の実情を知るサグメが引き続き火急的に対処にあたり、今度はサグメ本人が地上へと降り立っている。
なお、上記二種の「月面戦争」が地上側(幻想郷側)が月の都にアプローチしたものであるのに対し、本計画は月の都が地上へと介入したものである。
近年の動向
『東方儚月抄』
新勢力が誕生して月支配を企んでいる(鈴仙・優曇華院・イナバの情報)。
ただし地上の永遠亭に住まう元・月の民である八意永琳は、鈴仙の情報源をして「 兎達は大げさで嘘吐きだからどこまで本当なのかね 」と評している。
一方で、輝夜によればその新勢力と思しきものによって表側の月に立てられていた旗(アメリカ国旗)が引き抜かれ、地上に投げ返されている。この旗は森で妖精がおもちゃにしていたところを永琳が発見した。
また月の都においては、かつて地上から送り込まれた「 刺客 」であるアポロ計画の脅威は取り除かれたが、中国による月面探査計画である「嫦娥計画」は警戒している。
太陽神であるところのアポロは月とは相性が悪く月の都には至れなかったが、嫦娥は今なお月に幽閉される罪人である。そのため、その名を冠したプロジェクトである嫦娥計画は月の都で危険視されている。
さらに玉兎達の間には革命の噂もあり、そのリーダーとして名が挙がっているのが永琳である。
曰く、「 八意永琳の逆襲 」。
もちろん永琳にはそのような意思はなく、永琳はこれについて「その場にいないものを悪役にする」ことで民意を逸らし、混乱を避けるために誰かが流した噂なのだろうと分析している。
むしろ永琳は「 月の都を守りたい 」とし、地上から智恵で以て独自に活動している。
ただし月の都と幻想郷の二者の勢力関係にあって、今日、月と地上の双方に縁と関連を持つ永遠亭は両者の間において「 中立 」の立場をとっており、いずれの勢力にも一方的に加担することもないともしている。
そして、そんな情勢の中で起こったのが、第二次月面戦争なのである。
『東方深秘録』
『東方深秘録』にて、「月の都」のミステリースポット及びオカルトボール(同作のキーアイテムの一種。全部で七つあり、全て集めると何かが起こる、とされる)が登場した。
ゲームシステムとしてのミステリースポットとは弾幕アクションである『深秘録』独自のシステムであり、発動すると戦闘中に一定時間戦闘場面全体にかかる特殊なルールが追加される。「月の都」のミステリースポットの場合、発生とともに一部のものを除いて射撃弾速が低減される効果が一定時間追加される。
ストーリーにおいては「月の都」のオカルトボールは特殊な位置づけとして関与しており、七種類あるオカルトボールの内、ただ一つ正確な出所が不明なものである(『深秘録』時点)。
その由来は『深秘録』での異変に対応した霊夢をはじめオカルトボールを持ちこんだ本人にさえ判らず、その謎は謎のものとして持ちこされた。
「 でも月の都のボールだけ外の世界の石じゃないわ!
もしかしたらそいつも利用されて居たのかもしれない 」(霊夢、『深秘録』)
『深秘録』後のストーリーでは、とある人物がこの出所を捜している。
『東方紺珠伝』
先の『深秘録』における月の都のオカルトボールとの関わりが継続しており、幻想郷に流行した「 都市伝説 」等を含め、本作で様々な要素が語られた。
ゲーム作品本編中で具体的な月の都が描かれるのは本作が初である。
本作での月の都ステージの道中BGMは「凍りついた永遠の都」。
本作では先の遷都計画をもとに玉兎らの部隊が妖怪の山へと調査拠点を設置、地上の「 浄化 」に向けた調査活動を行っていた。一方で当の月の都自体はサグメらによって凍結し、住人もドレミーの手による「 夢の世界 」に退避していた。
先述のように前線部隊と月の都本都の間には状況に対する認識の隔たりがあったが、実際の月の都はサグメらが強い処置に出なければならないほど追い詰められた状況にあった。
月の都の凍結と住民の避難という処置は定期的に起こるという純狐との抗争(「 知恵比べ 」)に月の都側がなんとか対処したものである。
今回は純狐がクラウンピースをはじめとした「穢れ」の象徴としての妖精の一団を「 純化 」したうえで使用したことで「穢れ」を忌避する月の民は手が出せず、消極的な対応をとらざるを得なかったのである。
「 本当に侵略を受けているのは月の都なの
それも我々月の民には手が出せない方法で 」(サグメ、『紺珠伝』)
「穢れ」の浸食は、そもそも「穢れ」を忌避して太古に地上から「穢れ」の無い月へと移住した月の民にとって決して受け入れる事の出来ないものである。実例として『儚月抄』において月へと至った霊夢が依姫とのスペルカード戦・弾幕ごっこにおいてその弾幕として「穢れ」を纏った弾による攻撃を行っており、依姫はこれを全て打ち払わざるを得ない状況に追い込まれた。「穢れ」を生み出す「蓬莱の薬」の服用者も幽閉などの状況に置かれる。
『紺珠伝』では月の静かの海などはすでにクラウンピースら妖精で満たされた「 妖精ランド 」となっており、ここでの妖精たちのエネルギッシュな大はしゃぎがさらに月の都を追い詰めていった。その活動のほどは月の都側からの現地の観測もかなわないほどの濃度であり、現地に対処に行くことばかりか「 見ることもできなかった 」という深刻なものであった(『外來韋編』)。
月の都は具体的な打開策の無いままに保険である遷都計画を進行せざるを得ない状況に陥っていたのである。
そんな折に、「穢れ」を忌避しない存在が(多くが本人の意図とは別に)月の都へとやってきた。本来ならそれを押しとどめるべき位置にある鈴瑚、ドレミーなどもそれぞれの理由から来訪者を夢の中の、あるいは現実の月の都へと通し、これが結果として遷都計画の実行を通して月の都の防衛にあたったサグメへと引き合わせることとなる。
そしてサグメは来訪者の背後に「 八意様 」の意図を感じ取ったことで別の可能性を発見。遷都計画を破棄しつつ、来訪者を今回の動乱の根源とも言える存在である純狐の元へと誘うのである。
本作の動乱には純狐の一団とその攻撃を受ける月の都の二勢力がまず存在し、ここに永琳の意図が背後にある地上からの一団が介入するという三勢力から成る構図となっている。主人公は第三の勢力にあたる。
第三の勢力の内、鈴仙はいわば故郷の地への再訪であり、霊夢は『儚月抄』以来の訪問である。霧雨魔理沙は『儚月抄』において月の静かの海までは至ったが、月の都を訪れるのは本作が初で、東風谷早苗は月そのものが初めての土地である。
なお永遠亭について鈴瑚によれば地上浄化を行う遷都計画の上では「 敵 」であるともしているが、永遠亭側は先の通り永琳の智慧を通して月と地上の両者にとって丸く収める方法を模索し実行してもいるなど両方が益となる道を探っている。
永遠亭は月と地上の両者が被害を受けるような事態になる様子であれば両者のために積極的に力を行使しており、このスタンスは『紺珠伝』では人間たちのサポート及び鈴仙の調査派遣にみられている。
PS4版『東方深秘録』
PS4版『深秘録』では『紺珠伝』後の物語であるEXTRAにおいて未だ収まらない都市伝説騒動の調査を続けていた霊夢をはじめオカルトボールが満月の夜に活性化する特異性に着目した聖白蓮、月の都のオカルトボールの特殊性に気づいた豊聡耳神子らが幻想郷において月との関係がある鈴仙に接触しており、特に白蓮と神子は永遠亭を直接訪ねてもいるなど月の都と永遠亭の関係性が認識されている様子がみられている。
先の技術水準の項とも関連して永遠亭に張り巡らされた永遠回廊の術について神子は「 微小な空間の隙間を無限に繋げる力 」とし、これを「 月の都の力だろうな 」と予想している。
本作においても『儚月抄』で語られた通り永遠亭は月と地上の両者に対して「 中立 」の立場をとるとしており、本作では鈴仙を通してそのスタンスが語られている。都市伝説騒動が月の問題から離れた際には以後の都市伝説異変については地上の力学に任せるべきとして永遠亭全体としては騒動の調査から身を引く判断も採った。
しかし一方で鈴仙は「 地上の兎 」となったことを自他ともに認めるようになっていたこともあり、引き続き大きな問題となることとなる都市伝説の怪異の調査を行うことに意欲を見せている。
『東方憑依華』
『東方憑依華』では神子がPS4版『深秘録』で語られたところの調査を通して知った「 幻想郷が月の都の騒乱に巻き込まれた 」ことについて月の関係者としての鈴仙に対して不快感を示しており、一部で幻想郷側から月の都に対する不信感が増している。
他方で比那名居天子(天人)などからは月の都について普段から珍重しているような言葉も見られており、月の都の評価は様々である。
茨木華扇など、鈴仙にそれ以後「月の都との因縁」がどうなったのかを問いかけるものもある。
『東方文果真報』
神子らは主に月の都の行い対する不信であったが、一方月に住まう存在達のメンタリティに対して明確な否定、「 敵対視 」を示すのがヘカーティア・ラピスラズリである。ヘカーティアは先の『紺珠伝』でも純狐と共に月の都への侵攻に関わったが、その後には月の民に対して自らその思う所を示している。
ヘカーティアは月の民について「 よく知ってる 」とした上で、月の民は「 色んな異世界の民がいる中で、最悪の部類に入る 」存在であるとした。
ヘカーティアは個人主義的な従来からの地獄の風潮と今日の幻想郷の両者に形は異なるものの「 自由 」や外部の存在を受け入れる開かれた姿勢があるとしてこれを「 超実力主義 」や(様々な「自由」を)「 受け入れる度量 」として高く評価しているが、一方で月の民は「 超排他的で選民思想の集団 」であるとし、さらに月の民が月のためならば「 幻想郷なんてどうなっても良い 」と考えているともしてこれに拒否の想いがあることを示した。
月の民は「 他の世界の民を雑菌以下だと思っている 」とも。
これは先述の『紺珠伝』における地上浄化を前提とした先述の遷都計画も彷彿とさせるものである。
またヘカーティアによる月の民の思想の評価の一つにみる「 人を見下すのは得意だけど、自分が馬鹿にされることは我慢が出来ない 」という点については先述のような「 プライドの高い 」月の民の様子も見ることが出来る。
この一連のヘカーティアによる月の民評は文々春新報の単独取材に応じた際のもので、ヘカーティアは自ら話題として提起したなかに登場するものである。さらにヘカーティアは今の幻想郷には「 事実をねじ曲げて具現化する能力を持っている奴 」が紛れ込んでいるとして、インタビュアーの文に警句を発している。
「 言っちゃおうかな。貴方、月の民に利用されている可能性があるわよ 」
(ヘカーティア、文に対して『文果真報』)
その能力を持つ月の民とはサグメのことであり、実際にサグメが永遠亭を訪ねる様子を文々春新報も捉えている。ヘカーティアはクラウンピースに対して最近の「 大きな仕事 」の「 ご褒美 」(『紺珠伝』での月面侵攻を指すか)として幻想郷への居住を行わせているが、これは高い実力を持ち功績も成したクラウンピースに対する褒章であると同時に幻想郷に顔を出すようになったサグメら月の民の動向も視野に入れたものでもあるとしている。
ヘカーティアは今日の幻想郷があらゆるモノ、思想を受け入れていくことを非常に肯定的に捉えており、幻想郷との友好を望んでいる。極端に自由主義的かつ実力主義的な地獄の中には幻想郷に対する支配や破壊を企むものもあるが強大な力を持つヘカーティアが幻想郷と繋がることでそういった幻想郷に対する攻撃的な思想に対抗する「抑止力」になるともしている。そうした行動を通して「 隣人 」である異世界同士が共存の道を探る可能性を維持しようとしている。
ヘカーティアはそういった共存の姿勢を念頭において「 高い壁 」(※)や「 排除 」(※)をもって異世界と断絶しようとするものの末路について言及しており、これには同時に閉鎖と拒絶と他世界に対する侮蔑の社会である月の都に対する否定も込められている。
※「 高い壁 」、「 排除 」などはいずれも比喩表現であるとともに『文果真報』発表当時の2017年初頭周辺の時事にも由来する。当時はアメリカでメキシコとの国境付近に「壁」を建設して不法移民やメキシコ経由の犯罪の流入などを遮断しようとする政策が行われようとしたり、国際的潮流というだけでなくアメリカ国内でも移民排除とそれへの反発といった社会的動向などがあった。また『文果真報』発表後ながら2017年後半には日本でも政治の文脈で「排除」の語がクローズアップされることともなる。
その他の作品では
上記以外の作品でも月の都が象徴的に語られたり月の民たちのイメージが登場することがある。
例えば霊夢などは『紺珠伝』など月の騒乱に巻き込まれたことを辟易していたためか、フランドール・スカーレットの能力(ありとあらゆるものを破壊する程度の能力)を通して「 面倒くさいことばっかりやらかしてくれる月でも壊してほしい 」ともしている(『外來韋編』)。
『東方茨歌仙』や『鈴奈庵』、『東方三月精』などでは月の都や月の民などが語られたり『紺珠伝』での騒動に触れたりする際に依姫や豊姫をはじめサグメなどが描かれることもある。
月と「ルナティックキングダム」
『紺珠伝』などでは月の都は当時の現状も相まって「 ルナティックキングダム 」とも称される。『紺珠伝』の英字タイトルは「 Legacy of Lunatic Kingdom. 」であり、月の都がステージとなる面(「STAGE4 月の都 寂びの来ない街」)においてもその英字タイトルには「 Lunatic Kingdom 」と付されている。
「 lunatic 」は精神異常(あるいは「狂気じみた」といった異常性)を指し示す語であるが、その語源は「月」に関連する。古くは月は人間の精神に強く作用するものと捉えられており、月の力に当てられると狂気に至るとされる事もあった。
「 lunatic 」は「月に影響された」のラテン語を源とする。
東方Projectでは「月」について、『永夜抄』などで「 月の狂気 」の影響力についてそのバランスの乱れは人間と妖怪の双方を狂わせ、幻想郷の存続を危うくさせるものでもあるとも語られ、「 真なる月 」は狂気そのものでもあるとされる。
『紺珠伝』では月の都は狂人によって狂わされた狂気の都となり、その「 狂気の沙汰( ルナティック ) 」(ドレミー、『紺珠伝』)は幻想郷をも飲み込もうとしていたのである。
一方で穢土である地上は月の狂気を穏やかにするものでもあるようで、ここに順応した価値観は月の都と異なるようである。
一言に「狂気」としてもそれは地上と月の二つの価値観の対比の文脈でもあり、一方に視点を寄せれば他方の見方も変わり得るものである。
月のその他の地理的構成
月人の住む月の都の他、それ以外の地として以下の海の名前が登場している。
作中では、「裏側」にあるものは名前の通り実際に水のある「海」であり、広大な大洋でもある。
またこれらはすべて実際に月面(作中では前述のように「表側の月」にあたる)にある月の海(濃い色の玄武岩で覆われた平原)の名称である。
なお、漫画版儚月抄第一話冒頭に紫の台詞として
「 神酒を手に 晴れを越え 雨を越え 嵐を越え そして賢者を捜しなさい 」とあるが、実際の月にも「神酒の海」「晴れの海」「雨の海」「嵐の大洋」「賢者の海」がある。
「月の都」との類似例
先述のように月の都へ至るためには特別な入り方が必要であるが、『東方求聞口授』掲載の巻末インタビューにて原作者ZUNが語るところにおいては、そこに至るために同様に特殊な手続きを要する場所として東方Projectにおける「 仙人の家 」が挙げられている。
このときの文脈上では「茨華仙の屋敷」についての言及がある。
加えて同インタビュー中では月の都の人々がどういった人々であるかについても言及されているなど、ZUNによる「月の都」がどのようなものであるかも語られている。
「ZUN's Music Collection」における月の都
東方Project原作者である上海アリス幻樂団主宰ZUNによる「 音樂CD 」のシリーズである「ZUN's Music Collection」においても「月の都」は語られている。
2015年11月現在、同シリーズにおいて「月の都」が主に語られるのは「ZUN's Music Collection」第五弾「大空魔術」である。同作では「ZUN's Music Collection」に登場する宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーン(メリー)の二人が「月の都」に関連した事柄について言及する場面がある。
二人の住まう世界では近年に「 月面旅行 」が一般向けツアーとしても解放されることが決定した模様で、そのニュースに触れた蓮子とメリーの二人が宇宙にまつわる話に華を咲かせる様子が描かれている。
収録楽曲である「大空魔術」のエピソードでは蓮子が結界の向こう側にある月の都や月そのものを様々な言葉で表現し、人間の忘却の向こう側にあるであろう絢爛と狂気とに想いを馳せている。
蓮子とメリーの世界の直接の延長にある「月」は「 荒涼とした無生物の星 」であり、「月の都」が存在するものではない。しかし実際には「 月面の結界 」によって隔てられた「 煌びやかな月の都 」が存在し、「魔術師メリー」には「 結界 」によって隔てられ隠された、「 結界の向こう側の姿 」が見えていた(「大空魔術」、大空魔術、向こう側の月)。
月面への憧れを語る蓮子に、メリーはある提案をする。
作中での二人の対話以外の場面でも「大空魔術」には月の意匠が様々に描かれており、例えば「大空魔術」のブックレットには月の満ち欠けを思わせるデザインや月を想像させる天空の巨大な天体がデザインされている。収録曲もまた月の要素に始まり月の要素で終わるものとなっており、トラックの最初は「月面ツアーへようこそ」、トラックの最後は「向こう側の月」となっている。
「大空魔術」以外で月にまつわる様子が語られるケースとしては、「ZUN's Music Collection」第六弾「鳥船遺跡」がある。同作は蓮子とメリーの二人の「 地上から38万km離れた 」衛星トリフネでの物語が語られるもので、「38万km」は地球と月の距離である約38万4400kmにも共感し得る。トリフネに関しては「衛星トリフネ」記事も参照。
この数値は東方Projectでも月に関連して登場しており、例えば『紺珠伝』にて登場する月面(静かの海、『紺珠伝』5面)のステージの道中曲は「遥か38万キロのボヤージュ」となっている。
東方Projectにおける月面と「ZUN's Music Collection」の衛星トリフネは同種の数値を通しても関連するものとなっている。
ただし衛星トリフネが存在する位置は「 地球―月系のトロヤ群 」、「 ラグランジュポイント 」であり、東方Projectで語られる月の都、あるいは「大空魔術」で語られる月の都そのものの位置にあるものではない。
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