アポロ計画
あぽろけいかく
これは個人にとって小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である
(ニール・アームストロング)
1950年代以降、弾道ミサイルの技術実証競争でもあった米ソの宇宙開発競争は熾烈を極めていたが、その到達段階に於いてはソビエト連邦がアメリカ合衆国に先んじており、人類初の衛星軌道投入、そして人類初の生物の宇宙到達と生還、そして人類初の有人宇宙飛行、宇宙開発における多くの人類初をソビエト連邦に持っていかれていた。
そして、今後も当分の間追い越せる見込みのなかったアメリカ合衆国が、ソビエト連邦に対抗すべく考えた目標が人類初の月面到達である。
1961年5月25日、アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディ大統領は連邦議会を相手に「人類を10年以内に月へ送り、そして生還させる」と発表し、NASAで立案されていたアポロ計画の支援を表明した。
一か月前にマーキュリー計画にて有人宇宙弾道飛行を達成したばかりのアメリカ合衆国では現実性を疑問視する声も多かったという。
実際、ケネディ大統領がアポロ計画の支援について連邦議会を相手にぶち上げた時、NASAの内部においては漠然と「月へ人を送り込むのもいいんじゃね?」レベルの話だったのである。
一方、ソビエト連邦においても、この発表を受け、アメリカ合衆国を出し抜いてやろうとばかりに有人月面着陸のプロジェクトが秘密裏に開始された。
月に至るまでの方法が検討され、月周回ランデブー方式が採用されると、それまで行われたことのなかった宇宙空間でのランデブー、ドッキングの技術等、月面に到達するまでに必要な様々な要素を実証するジェミニ計画がスタートした。
ジェミニ計画で得られたデータは、アポロ計画を遂行するにあたり、資料収集の飛行からではなく、実機の試験を目的とした飛行からという半ばぶっつけ本番で進めることができた。
10号までで複数回の無人・有人テストが行われた後、1969年7月16日、月面着陸を目的とした11号の打ち上げが行われる。
1969年7月20日、宇宙飛行士ニール・アームストロングおよびバズ・オルドリンが月着陸船で月面へ着陸したことにより、その公約は実現された。
ソビエト連邦が有人月面着陸計画用のロケットとして造ったN-1ロケットの試験飛行失敗から17日後のできごとであった。
そして、11号の船長であったニール・アームストロングが月面に人類初の一歩を踏み出した瞬間、これまで宇宙開発競争において苦杯を飲まされ続けてきたアメリカ合衆国はソビエト連邦を追い越し、11号の司令船が生還を果たした瞬間には、ソビエト連邦にとって追いつくことのできない距離を引き離したのである。
11号に続き、事故で月面着陸を断念した13号を除いて6回の月面着陸が行われ、11号の有人月面着陸成功が偶然ではないことをソビエト連邦に見せつけ、1972年に17号をもってアポロ計画は終了した。
1974年、ソビエト連邦は、正式に有人月面着陸計画を中止した。
2008年5月20日にJAXAが打ち上げた月探査衛星かぐやにより、「ハロー」と呼ばれるアポロ15号の噴射跡を観測・確認された。
その後、2009年と2011年の2度にわたって、NASAの月探査衛星ルナー・リコネサンス・オービターによって、月に着陸した6機のアポロ宇宙船全ての痕跡が公開された。
アポロ宇宙船
- 司令船(Command Module:CM)
操縦装置であり、乗組員の主たる生活の場でもある。
大気圏への再突入に際しては、この部分が再突入ユニットとなって、乗組員は地球に生還する。
機内正面にあるコントロールパネルは左から飛行制御、誘導コンピュータ制御、燃料電池とバッテリーの制御及び通信機の順で配置され、3名の乗組員がそれぞれに役割を持っていた。
大気圏再突入後の減速に使用するドローグシュート2基、メインパラシュート3基(内予備1基)とこれを引き出すパイロットシュート3基があり、着水時に転覆した場合は機体上部で浮袋が膨らみ浮力により機体をひっくり返す。
底面には、大気圏再突入に際して機体の過熱を防ぐ耐熱シールドが装着されている。
姿勢制御スラスターは12基取り付けられていて、大気圏再突入時に機体を制御する。
- 機械船(Service Module:SM)
メインエンジン、燃料タンク、酸化剤タンク、バッテリー等が収まっている。
バッテリーとして搭載されている燃料電池の副産物として飲料水も供給している。
メインエンジンのほかに姿勢制御スラスターが16基取り付けられていて、あらゆる方向への並進と回転が可能。
13号の事故では、この機械船の酸素タンクが爆発した。
- 月着陸船(Lunar Module:LM)
実際に月に着陸する部分。
月への往復の方法として月周回ランデブー方式が採用されたことでグラマン社にて製造された。
打ち上げ時は、司令船、機械船の下に覆いが付いた状態で収納されている。
上下段に分かれており、月面離脱時には下段を発射台として上段のみが打ち上げられる。
エンジンは上下段に1基ずつと、上段に姿勢制御用スラスターが16基装着されている。
下段は大型機材用の格納庫になっており、アポロ15号以降は有名な月面車も下段に収められて月に向かった。
めちゃくちゃ窮屈な上、機材の作動音がうるさく、やたら光るということで寝心地はかなり悪く、大半の乗組員が適切な睡眠をとれなかったようである。
また、13号の事故では、司令船とのドッキングが完了していたため、乗組員の退避場所として機能した。
打ち上げ用ロケット
- サターンIB
アポロ計画の初期、無人機での飛行、アポロ7号の有人地球周回飛行に供され、月着陸に向けてアポロ宇宙船の運用に必要なデータ収集に貢献した二段式ロケットで、12機が完成、2機が製造途中で放棄された。
サターンVの完成によって置き換えられ、後のスカイラブ計画では乗組員の連絡用ロケットに使用されている。
- サターンV
21世紀の現在に至るまで、史上最大の実用に供された宇宙ロケットで、15機が造られた。
三段構成になっており、エンジンは全部で11基(第一段5基、第二段5基、第三段1基)。月周回軌道に50t近い物資を投入できる。
後には、さらなる打ち上げ能力の向上が図られたことで、月着陸船の能力が強化され、月面における滞在期間を延長した他、月面車を搭載できるようになった。
アポロ計画の有人飛行は、7号を除き、すべてがこのロケットで行われた。
後のスカイラブ計画では、予備機が改造されて最初の宇宙ステーション部分を打ち上げるのに使用されている。
ちなみに、ソビエト連邦では、同等の打ち上げ能力を持つロケットとして、第一段に小型ロケット30基を束ねたN-1が造られている。
→ サターンV
方法の検討
NASAでは、アポロ計画における月への往復と月面への着陸について、いくつかの方法が提案された。
直接降下式と、その派生が大半を占めるのは、当時のアメリカ合衆国の宇宙技術では月周回軌道上でのランデブーやドッキングが無理と考えられていたためであった。
- 直接降下方式:打ち上げ、月への着陸、地球への帰還までを単体の宇宙船で行おうというもの。
- 地球周回ランデブー方式:直接降下方式の亜種。複数機のロケットで各部を打ち上げ、地球周回軌道上においてドッキングして1機の宇宙船にし、月面へ直接降下する。
- 月面ランデブー方式:直接降下方式の亜種。燃料を積んだ無人ロケットを先に月面へ送っておき、その付近へ有人の宇宙船を着陸させようというもの。帰還時は無人ロケットに積まれた燃料を補給する。
- 月周回ランデブー方式:月着陸船を別に用意し、メインの宇宙船と一体にして打ち上げ、月へ着陸した月着陸船の回収には、月周回軌道におけるランデブー、ドッキングを利用して地球との往復を果たそうというもの。この案が採用された。
採用された方法の詳細
- 打ち上げ~地球周回軌道投入~月遷移軌道への移行
- サターンVロケットによって3人の宇宙飛行士が搭乗したCSM(CM及びSM)とLMを打ち上げる。
- 2段目までの全てと3段目の一部燃料を使用して高度190kmの地球周回軌道へ投入する。
- 地球周回軌道上にて点検を兼ねて地球を周回した後、3段目に再点火して加速、月を目指す軌道へ移行する。
- 月遷移軌道への移行~LMとのドッキング~月周回軌道への移行
- 月を目指す軌道への加速が終了するとカバーが分離してCSMが解放されるので、CSMは反転してLMとドッキングする。
- LMとのドッキングが完了したCSMは、LMを3段目から引き抜き、微調整をしながら月へ向かう。不要となった3段目は、12号までは残った燃料で太陽周回軌道に退避させていたが、13号以降は月面に衝突させて月面に設置された地震計による構造観測に役立てられている。
- 月に最接近した宇宙船は2度の噴射で月周回軌道に入る。
- 月周回軌道への移行~月面着陸~月面離脱
- 月周回軌道へ移行した後、2名がLMに移乗する。
- 月周回軌道上にてCMSとLMのドッキングが解除され、LMは月面へと向かい、下段底面の降下エンジンに点火して降下軌道に入り、最接近する高度15kmから更に減速する。14号以降は15kmまでCSMのエンジンで降下することによってLMの燃料を節約している。
- CSMは月軌道上にて待機する。
- 分離したLMは、高度15kmで降下エンジンに再点火して高度と速度を落とし、高度2kmから着陸地点の状態を確認しながらアプローチに入る。基本的に着陸は誘導システムによりほぼ自動で操縦されるが、予定外の事態に備えて手動操縦も可能になっており、アポロ11号でも手動操縦が行われた。
- LMが月面へ着陸する。着陸脚には、梯子が取り付けられている1本以外の3本にセンサープローブが取り付けられており、これが地面に接触すると操縦士に接地が知らされ、エンジン停止のタイミングをとることができる。
- LMにおける月面活動。14号までは2日間程度であったが、15号以降は月面車が用意された上に3日間以上の活動が可能になった。
- 月面活動が終了したLMは、上昇用エンジンに点火、下段を月面に残し、月周回軌道へ向けて打ち上げられる。
- 月面離脱~月周回軌道~月周回軌道ランデブー
- 月面から打ち上げられたLMは、月周回軌道に入る。
- LMの月周回軌道でCSMとランデブーしてドッキング、乗組員と回収したサンプルをCSMに移動させる。
- LMが切り離される。11号では月周回軌道上に投棄された(その後月面に落着)が、12号以降では残燃料を使用して月面へ衝突させ、これも地震計のデータとして役立てられている。この部分の流れが「月周回ランデブー方式」と呼ばれる所以である。
- 月周回軌道ランデブー~地球遷移軌道への移行~大気圏再突入~着水
- LMの乗組員の収容等を終えたCSMのエンジンに点火し、地球へ向けて加速する。
- 再突入直前にSM(機械船)は投棄され、CM(司令船)は反転して底面を前方に向ける。SMは燃え尽きるが、CMは耐熱シールドによって圧縮熱から守られる。大気圏に再突入するとプラズマ化した大気により数分間通信が遮断される。CMはスラスターにより着陸地点を制御する。
- 高度7300mで耐熱シールドが投棄され、ドローグシュートが展開して速度を時速201kmまで落とす。高度3300mでドローグシュートが投棄され、3基のパイロットシュートにより3基のパラシュートが引き出され、更に時速35kmまで減速して着水する。
(Wikipediaの表を簡略化)
計画名 | 使用ロケット | 乗組員 | 発射日 | 目標 | 結果 |
---|---|---|---|---|---|
アポロAS-201(アポロ1A) | サターンIB | 無人 | 1966年2月26日 | 弾道飛行 | 一部成功 |
アポロAS-203(アポロ2号) | サターンIB | 無人 | 1966年7月5日 | 地球周回飛行 | 成功 |
アポロAS-202(アポロ3号) | サターンIB | 無人 | 1966年8月25日 | 弾道飛行 | 成功 |
アポロAS-204(アポロ1号) | サターンIB | ガス・グリソム、エドワード・ホワイト、ロジャー・チャフィー | 発射中止 | 地球周回飛行 | 失敗(訓練中に司令船火災) |
アポロ4号 | サターンV | 無人 | 1967年11月9日 | 地球周回飛行 | 成功 |
アポロ5号 | サターンIB | 無人 | 1968年1月22日 | 地球周回飛行 | 成功 |
アポロ6号 | サターンV | 無人 | 1968年4月4日 | 地球周回飛行 | 一部成功 |
アポロ7号 | サターンIB | ウォルター・シラー、ドン・アイセル、ウォルター・カニンガム | 1968年10月11日 | 地球周回飛行 | 成功(11日間) |
アポロ8号 | サターンV | フランク・ボーマン、ジム・ラヴェル、ウィリアム・アンダース | 1968年12月21日 | 月周回飛行 | 成功(史上初月周回) |
アポロ9号 | サターンV | ジェームズ・マクディヴィッド、デヴィッド・スコット、ラッセル・スワイカート | 1969年3月3日 | 地球周回飛行 | 成功(10日間) |
アポロ10号 | サターンV | トーマス・スタッフォード、ジョン・ヤング、ユージーン・サーナン | 1969年5月18日 | 月周回飛行 | 成功 |
アポロ11号 | サターンV | ニール・アームストロング、マイケル・コリンズ、バズ・オルドリン | 1969年7月16日 | 月面着陸 | 成功(史上初有人月面着陸) |
アポロ12号 | サターンV | ピート・コンラッド、リチャード・ゴードン、アラン・ビーン | 1969年11月14日 | 月面着陸 | 成功 |
アポロ13号 | サターンV | ジム・ラヴェル、ジャック・スワイガート、フレッド・ヘイズ | 1970年4月11日 | 月面着陸 | 失敗(機械船酸素タンク爆発事故の後無事地球に帰還)『成功した失敗』 |
アポロ14号 | サターンV | アラン・シェパード、スチュワート・ルーズマ、エドガー・ミッチェル | 1971年1月31日 | 月面着陸 | 成功 |
アポロ15号 | サターンV | デヴィッド・スコット、アルフレッド・ウォーデン、ジェームズ・アーウィン | 1971年7月26日 | 月面着陸 | 成功(初の3日以上月面長期滞在、月面車使用) |
アポロ16号 | サターンV | ジョン・ヤング、ケン・マッティングリー、チャールズ・デューク | 1972年4月16日 | 月面着陸 | 成功 |
アポロ17号 | サターンV | ユージン・サーナン、ロナルド・エヴァンズ、ハリソン・シュミット | 1972年12月7日 | 月面着陸 | 成功(最後の月面着陸) |
当初は20号まで行われる予定だったが、予算の関係で17号までとなった。
宇宙開発 宇宙 宇宙船 ロケット アメリカ NASA 月 月面 ソユーズ
創作において
両津勘吉:「月は遠くで見るからきれいなんだよ、わしなど何度アポロになったかわからん」という迷言を残した。
ムーンサンダー:『スペクトルマン』においてアポロ22号が石と間違えて拾ってきた卵から孵化した怪獣。
天呪「アポロ13」:ゲーム『東方永夜抄』の登場キャラクター、八意永琳のスペルカード
「フェイクアポロ」:同じくゲーム『東方紺珠伝』の登場キャラクター、クラウンピースのスペルカード
「アポロ捏造説」:上記の強化版
ダークサイドムーン;トランスフォーマーシリーズの実写映画第3作。月面着陸は実行されていたが、その裏では更なる極秘調査が行われていた設定で、前述のバズ・オルドリンが本人役で出演した。
タイムボカン24:真歴史のひとつとして月面着陸に関して触れられる事になった。
月面奇譚:アポロ計画をモチーフにしたスマホノベルゲーム