雪風は、陽炎型駆逐艦の8番艦。多数の艦が失われるような主要海戦にことごとく参加し、無傷ないしは小破程度で乗り切った。太平洋戦争に参加した日本駆逐艦の中でも最高の殊勲艦と称される。
戦後、中華民国海軍に引き渡され、台湾海軍旗艦「丹陽」としてさらなる波乱の艦生を送ることとなった。
概要
「呉の雪風佐世保の時雨」と並び称された幸運艦であり、毎回の出撃で大した損傷も受けずに帰還していた。主に戦艦や重巡洋艦が専任となる艦隊旗艦を(書類上ではあるが)3日間務めたことも。
「雪風以外の作戦参加艦艇の殆どが損傷や戦没したため、他艦の乗員からは死神と忌み嫌われ同航するのを嫌がられた」と扱われる事があるが、戦争中の記録や歴史評論家の調査によれば、同航した仲間が被害を受けた任務は雪風の全任務の1割程度と非常に少なかった事が判っており(詳細)、この説は創り話だと言う意見が有力である。雪風の元乗組員が戦後のインタビューで「あまりに運がいいと言われるものだから、厄神とか鬼神とか逆の噂を流す連中が出てきたらしい」と、実際の艦歴とかけ離れた悪評を着せられた理由を推測している。
太平洋戦争において日本の駆逐艦は「車挽き」と自嘲するほど酷使されたが、損傷が少なかった雪風はその中でも特に暇なく戦場を駆け回りつつ、激しい戦争を生き延びた功労艦だった。
戦後は武装を取り外し復員輸送艦として多くの日本人を復員させた(水木しげるも雪風によって復員した一人)。
復員輸送任務完了後は乗組員たちの整備が行き届いていた事から戦時賠償艦に指定され、抽選の末に中華民国に引き渡され、「丹陽」と命名されて中華民国海軍の旗艦任務に永く就いた。こちらでも数々の実戦に参加しているが重大な損傷を受ける事も戦没する事もなく、老朽化による退役という形で軍役を終えている。
その名前は海上自衛隊のはるかぜ型護衛艦の2番艦「ゆきかぜ」に受け継がれた。
エピソード
先述通り乗組員、艦長の練度、そして異常とも言える運の良さから数々のエピソードが残る。
・ミンダナオ島の明石にて修理工事中、空襲を受けるが、艦長の好判断により緊急発進し難を逃れる。
・南太平洋海戦では瑞鶴を護衛して勝利に貢献。戦闘後、多くの空母艦載機搭乗員を救助した。
・第三次ソロモン海戦第一夜戦にて味方からの誤射により小破。至近弾により機関室のボイラーに亀裂が入るなど危機に陥るが、急なスコールが発生し敵の空襲を回避する。
・ガタルカナル島撤収作戦に参加。海軍司令部が作戦決行を渋る中、遼艦の艦長らと共に作戦継続を訴え、ガタルカナル島の1万人の日本兵の撤収を成功させた。
・ビスマルク海海戦にて味方の駆逐艦8隻中4隻が沈む激戦の中を生還。しかも沈んだ時津風の生存者救助を無傷で完了し、更に取って返して荒潮の生存者を収容している。
・3日間、書類上ではあるが駆逐艦としては極めて珍しく艦隊旗艦として第八艦隊旗艦を務めたことがある
・コロンバンガラ島沖海戦にて新装備の逆探を使い、戦力、火力に勝る敵艦隊の待ち伏せを返り討ち。輸送作戦を成功に導く。
・損傷が少なかったため任務に忙殺され、とうとう雪風がどこで何をしているのか連合艦隊司令部でさえ判らなくなり、新兵を送り込めなくなる事態になった。予定の日程になっても母港に帰れなかったため雪風が沈没したと思わた事もあった。
・マリアナ沖海戦では補給船団を護衛。敵の空襲を受けたが探照灯を目くらましに使う奇策で敵3機撃墜。
・レイテ沖海戦では出撃直後にメイン機関のターボ発電機が故障したため、出力が低いディーゼル機関のみで作戦を完遂した。雪風の整備兵は戦闘中にディーゼル機関部のメンテナンスを行う離れ業を展開。
・龍鳳の護衛に指定されるが機関故障により出撃できず(出撃した浜風は座礁し時雨は撃沈された)。
・1944年3月19日の呉軍港空襲に遭うも、港に係留された状態で無傷で敵機2機(もしくは3機)撃墜。
・坊ノ岬沖海戦に参加、大和や矢矧が撃沈される中を寺内艦長は天井の窓から顔を出して操舵の指示を出し、微損のみで生還。戦闘中、魚雷1本が命中しかけるも、艦底を通過。更に食料庫にロケット弾が直撃したが、信管が作動せず不発(別の海戦での出来事との説もある)。
・終戦直後に舞鶴へ回航される道中、雪風が通過直後に機雷が爆発し九死に一生を得る。
・初代~終戦までの艦長6名のうち5名が終戦まで生存。戦後に座談会が開かれている。
・「丹陽」として中華民国海軍の旗艦に抜擢。その後は座礁や機関の不調などのトラブルにしばしば見舞われるが、ピンチ時に機関が突然本調子を取り戻すなどその幸運はしばしば発揮されている。
数ある帝国海軍艦艇の中で、これに匹敵する強運エピソードの持ち主は、他には特務艦「宗谷」しかない。
pixivにおいては、この2隻は戦前・戦後にわたって活躍した「異能生存艦」としてしばしば並び称されている。
駆逐艦雪風の擬人化(商業作品)
左は『艦隊これくしょん』の雪風、右は『BattleShipGirl_鋼鉄少女』の丹陽。
『鋼鉄少女』は『艦隊これくしょん』の原点ともなった台湾(中華民国)の漫画作品。この作品で丹陽が主人公となったのは、第二次大戦後の中華民国の旗艦を務め、中共との台湾海峡海戦で活躍したためである。