解説
1992年に公開されたアメリカ映画で、DCコミックスの『バットマン』の実写映画化作品。
1989年公開の映画『バットマン』の直接の続編であり、前作から引き続きティム・バートンが監督を、マイケル・キートンが主演を務め、主要スタッフもそのまま引き継いでいる。
配給はワーナー・ブラザース。
前作以上にティム・バートンの作家性が顕著に反映された作品であり、彼の持つ世界観やフリークス(畸形)への偏愛、美学が込められ、バットマンを狂言回しに配置しヴィラン達に比重を置いた作りとなっている。
その結果、ヒーロー活劇というよりは、バットマン・ペンギン・キャットウーマンの3人の「怪人」を通して、同じ人間でありながら生まれ持った性質や見た目のせいで集団や社会に馴染めずに排斥される異端者たちの孤独と悲哀を描いたダークファンタジー色の強い寓話的な作品として完成した。
当時は実写作品でもまだ珍しかったCGが導入された他、ドルビーの技術を用いた初の5.1チャンネルサラウンド(ドルビーデジタル)作品でもある。
また、ヴィランを二人登場させるというスタイルは以降のシリーズのスタンダードになった。
バットマンのシリーズ関連作品の中でもかなり異色の雰囲気を持つ作品だが、多くのファンや評論家達からは前作以上に高く評価され、本作を90年代四部作シリーズ最高傑作と推す声も少なくない。
制作費8000万ドルに対し、最終興行収入は2億6000万ドルと商業的にも成功し、第65回アカデミー賞ではメイクアップ賞、視覚効果賞にノミネートされた。
しかし、単純に数字だけ見ればヒット作と言って差し支えない興行成績ではあったものの、いわゆる「ヒーロー映画」とするにはややクリーピーでマニアックな作風が災いしたためか最終興行収入が前作の4億1100万ドルに及ばず、これはワーナー社としては期待はずれの結果であった。
また、陰鬱な世界観や暴力的で性的な要素が子供も観る作品としてはふさわしくないとも批判されたことで、続編である『バットマンフォーエヴァー』はファミリー向けを意識した明るい娯楽ヒーローアクション作品へと大きく方向性を転換することになった。
あらすじ
ある雪の降る夜。名家コブルポット家に畸形を持った赤ん坊が生まれた。
赤ん坊の両親は相談し、彼を乳母車ごと真冬の下水の川に突き落とし、捨ててしまった。
両親はきっと生き延びることは無いだろうと思っていたが、赤ん坊は廃棄された遊園地の地下の下水道へと流れつき、そこに住んでいたペンギンたちによって育てられた。
それから三十三年後。
クリスマスを迎えようとする冬のゴッサム・シティでは、ペンギンと名乗る男がサーカスギャング団を従えて大暴れしていた。彼こそがかつて捨てられた畸形の赤ん坊の今の姿であった。
陽の当たる地上で人々から尊敬されたいと願うペンギンは、野心溢れる実業家マックス・シュレックをさらい、シュレックの会社が隠蔽してきた不祥事をネタに恫喝、自分が地上に上がるために協力するよう要求する。
一方、シュレックの傍に仕える内気な秘書セリーナ・カイルは彼の原発建設計画の裏にある真の目的を知ってしまったことで、ビルから突き落とされてしまう。雪のクッションで命を取り留め、猫の魔力で甦った彼女はキャットウーマンとして、社会とシュレックに対して復讐を誓う。
ペンギンの目論見とシュレックの計画、そしてセリーナに惹かれつつも彼女の悪行を阻止するために、バットマンは戦いへと繰り出す。
主な登場人物
我らが主人公だが、本作ではどちらかというと狂言回し役の一人。
ゴッサム・シティ随一の大富豪にして、闇で犯罪者を裁くクライムファイター。
シュレックとペンギンの動向を訝しみ、調査を進める中でシュレックの秘書であるセリーナに惹かれていくが…。
前作で長年の因縁に決着をつけた影響か、その頃よりも幾分か社交的になっており、自らブルース・ウェインとして表立って街のために市長に協力を申し入れるなど積極的に行動する。
その甲斐あってか、ゴッサム市民からは前作でのミステリアスで胡散臭い大富豪ではなく、街の名士の一人として認識されている。
- ペンギン(オズワルド・コブルポット)
本作のメインヴィランだが、本作では実質的な主人公の一人。
33年前に奇形と凶暴な性格を持っていたために両親に疎まれて捨てられてしまった赤ん坊がペンギンたちによって育てられ成長した姿。
ペンギンのような体躯と水かきのような手を持ち、ベビー服を纏い、様々なギミックが仕込まれた傘を武器とする。
水鳥少年としてサーカスの見世物にされて生きてきたが、サーカス仲間たちとともにサーカスギャング「レッドトライアングルギャング団」を結成し、ジョーカー亡き後のゴッサムの裏社会を牛耳るようになった。
シュレックを恐喝して協力させ、自作自演によって悲劇のヒーローとして地上に帰還することに成功。そして、ある計画のために、両親を探すという名目で戸籍謄本を調べ、ゴッサムの上流階級の長男の名前をピックアップしていく。同時にシュレックに唆されて今度はゴッサム・シティの次期市長の座を狙い、目下の邪魔者となるであろうバットマンの排除へと動き出す。
ティム・バートン監督の持つ「異形への愛」が炸裂したキャラクター。
「人気者として人々から尊敬される存在になりたい」という切なる願いを持つが、生まれ持った見た目と凶暴性ゆえにこれまで誰かに心から愛された経験が無かったため、人間の心や倫理観を理解することができないというあまりにも哀しいジレンマを抱えた異形者である。
原作のペンギンはいわゆる犯罪紳士的なヴィランだが、ティム・バートンがあまり原作版や60年台の旧ドラマシリーズのペンギンに魅力を感じなかったため、独自の解釈でアレンジされた。
演:ミシェル・ファイファー(吹替:田島令子)
マックス・シュレックの秘書。
要領が悪くいつも落ち着かないダメOLだが妙な所で気が利く面があり、それが原因で殺されかけてしまい、猫の魔力によって鬱屈していた感情と狂気が開放され、女怪人キャットウーマンとして生まれ変わった。
キャットウーマンに変貌後は、普段のセリーナである時も以前とは打って変わって妖艶で蠱惑的な魅力のある女性に変化した。
超人的な軽業と鞭を使いこなすが、原作とは違い訓練で身に付けた物では無く、文字通りに変身した結果の物であろうと思われる。
アメリカに伝わる「猫は九の命を持つ」という言い伝えからか、致命傷を負っても死なない。
ちなみに小鳥を飲み込むシーンは実際に演じるファイファーが披露している。
- マックス・シュレック
演:クリストファー・ウォーケン(吹替:小川真司)
マックス・デパートのオーナーで、ブルースを差し置いてゴッサムで一番の大金持ちとして君臨するもう一人の狂言回し。
野心溢れる実業家で酷薄な守銭奴であり、ゴッサム・シティの原子力発電所建設計画にかこつけて、発電所に細工し、街の生命線を一手に握ろうと目論んでいた。
ペンギンに自社の不祥事をネタに恫喝され、彼の計画に加担させられるものの、やがて彼を市長に推薦し背後から操ることを考え…。
日頃からあくどく稼いでいたが、そんな自身の庇護下で育ったとは思えないほど善良な性格をしている一人息子のチップとの関係は至って良好な模様。
本作最大の悪人である一方でチップへの愛情も本物であり、原子力発電所を利用した街の生命線掌握を企んだのも、彼により多くの財産を遺したいがためであった。
関連タグ
バットマン・リターンズ:表記ゆれ
ティム・バートン&ジョエル・シュマッカー版四部作
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