J-31
じぇーさんいち
最新鋭ステルス戦闘機(?)
2014年の中国国際航空宇宙博覧会にて、「中国初のステルス戦闘機」と宣伝されていたJ-20に引き続き、新たなステルス戦闘機がお目見えした。
その姿はどこかで見たようなナニモノカによく似ており、しかも主翼に謎の段差(空力データ収集機器の配線と思われる)が見えている。その上エンジンは黒々とした煙をまき散らしており、旋回も過剰にエネルギーを失い続けているといった塩梅で、『最新鋭』とはいいながらも、完成度が低いのは明白であった。
どう見ても「よちよち歩き」に過ぎないこの戦闘機が、どのような経緯で開発されたのか。
公開資料、もしくは当時のニュース記事・考察などから追ってみよう。
第二弾の登場
最初は2011年のこと、「F-60」と銘打った模型の写真がインターネット上に掲載され、新型機の開発が明らかになった。この時はF-22のような雰囲気をよく残しており、現在から見ればエンジン配置や収め方に面影が残っている程度である。
次は2012年6月のこと、輸送車の荷台にカバーを掛けて固定し、詳細不明の航空機が陸送される様子が目撃された。この時はまったく不明だったこともあり、「新型のL-15練習機ではないか」という意見も見られたが、その後は徐々に全貌が明らかになっていき、2012年9月15/16日には組み立てが完了し、同10月31日には初飛行に漕ぎつけた。
その後は2014年の中国国際航空宇宙博覧会で、模型やシミュレータ等と共に公開されたが、「この機の機首には「31001」と大書してあり、このことから新型機の型番は仮にJ-31であるとされた。(実際には「開発計画:310工程」の第1号機という意味だった)
当時は「高価だが高性能なJ-20、性能は低いが揃えやすいJ-31のハイローミックスになるのではないか」、あるいは「J-20が空軍用なら、J-31は海軍用ではないか」と推測され、来る001型空母の艦載機になるのではないかと考えられた。
その製造
J-31は最新鋭の工学技術を動員して製造されているといわれ、同国製第4世代ジェット戦闘機(前作のJ-11だろうか)に比べると製造工程数は半分ほど、部品の数も4割ほどで済んだという。3Dプリンターも動員され、おかげで主翼と胴体は一体成型に出来た。もちろん継ぎ目が無いので強度も高くなる。しかし一体成型という事は分割が不可能という事でもあり、最初に目撃されたように、隠し様もなくトラックに荷台に縛り付けられた状態を人目に晒すことになった。
また、3Dプリンターも万能ではなく、多くの場合は成型した以外の部分、すなわちサポート材の除去が問題になってくる。この場合は内部を全てくり抜く必要があっただろうから、1機だけワンオフで製造するならともかく、この手間暇を考慮すると、将来この方法が一般的になるかは疑問の余地があるとも考えられる。最初のデモ飛行の際、配線を主翼上に這わせていたのも、これ以上内部をくり抜く事が出来なかったからでは無いだろうか。
アビオニクス等
コクピット等は先の中国国際航空宇宙博覧会などで展示されており、これはタッチパネル式ディスプレイにホログラフィックHUD、操縦桿はサイドスティック式など、最新鋭に恥じないものになっているようだ。中国製だからといって、目立って立ち遅れている訳ではないと思われる。
第二のステルスの現在
現在はJ-31ではなく、FC-31と呼ばれている。
中国では、制式化された機にJで始まる型番が与えられるため、メーカー独自に製作されたこの機には、単純に「中国製輸出戦闘機」を意味するFCの型番しか名乗ることが出来ないからである。
そう、この機は中国で未だ正式採用されていないのだ。
空軍ではそもそもJ-20とJ-10を主力のハイローミックスとしており、他にも最新鋭のSu-35に始まってSu-27・Su-30に、その国産化型J-11とJ-16、あとはJ-8ⅡにJH-7、退役中も含めれば更にJ-7とQ-5も含まれる。現状でも11機種と多いので更に増やす必然もなく、海軍は海軍でJ-15/-16系列の艦上機型を改良していく事にしたらしく、J-31は結局受注が得られなかったようだ。
(ちなみに、公式サイトによればインド空軍ですら現在は6機種である。あれ?テジャスは?)
今では「輸出用ステルス戦闘機」として各国に売り込みが図られているようだが、こちらもFC-1のような本格的輸出用機に売り負けて、受注は得られていない模様である。
評価
全体的にいって、未だ完成度が低く、評価する以前の問題と思われているようだ。
最初のデモ飛行での黒煙しかり、明らかに調整が不十分で、改善の余地が大きい。公表された性能諸元も信憑性に疑問があり、例えば戦闘行動半径は1200kmと主張していたりする。
これはF-35A/Cに並ぶ数値だが、J-31は同程度のサイズにエンジンを2基収容しているので機内容積が小さく、また主翼も燃料タンクは仕込めない程薄くなっている。搭載できる燃料が少ない上、そもそも最初から実戦は望めないような完成度時点での数値だから、これは将来的な目標を見込んだ数値であろう。この機に限らず、中国の公式発表には非常に「怪しい」数値が混じる事もあり、全てを鵜呑みにすることはできない。
また、上記では『製造工程数は半分ほど、部品の数も4割ほど』という発表があったが、これは飛行デモ機の実績で、実戦用装備を施した生産型になれば話が違ってくるだろう。設計も製造工程も一新されるだろうから、正直アテにならない数字である。
初飛行から既に5年が経過しているが、最初にデモ飛行を行った「31001号機」以外に完成した機は未だなく、以降の開発がどう進んでいるかも明らかではない。瀋陽飛機としては、Su-27・J-11生産に替わる新世代の商品を開発したかったのだろうが、その本命(中国軍)への採用が見込めない現状で、一体どう巻き返す算段なのだろうか?
J-31の生産数
日本語版wikipedia等には「2機」とあるが、1機は件の「31001号機」で、もう1機は地上試験用の強度実験機である。
J-31の将来性
これまでの完成度はF-35に例えると、『X-35が初飛行した程度の段階』ぐらいに相当するだろう。ここからはメーカーの努力に委ねられる部分が多いため、「こうだ」とはっきり述べることは出来ない。開発の方向が定まればいくらでも完成度は高められるし、またはきっぱり諦めて忘れ去られるに任せることもできるからである。
となると問題は、本国では採用されずに「輸出専用機」として位置づけられた事と、未だ採用を決めた国が無いという事である。一時期は中国製戦闘機の一大ユーザー国と交渉中ともいわれたが、完成度の低さからか決裂したようで、他にアルゼンチンも候補に挙がったようだが、これも輸出には至らなかった。
性能諸元を見ても分かるとおり、J-31は明らかにF-35を意識している。
形態こそ似てはいるが、技術が高度になればなるほど、似た製品が生まれるのはそう珍しい訳でもないので、姿かたちはそこまでの問題ではない。むしろ、X-35がF-35へ大成するまでどれほどの過程を経たかを思えば、J-31完成するまではまだまだ遠いだろうと思われる。しかも、F-35が難航したのは航空機としてより、レーダーなど電子・通信機器にまつわる部分も大きかった。
見た目をマネするのは簡単である。
しかし、見た目を似せただけで「それそのもの」に替えることはできない。イヌをネコに替えることは出来ないし、ネコをライオンに替えることも出来ない。個人が犬をパンダに似せた事なら本当にあったと思うが、そんな動物園なら普通は即閉園だろう。J-31がF-35に並ぶためには、高度で先進的な電子機器も備えなければならないのだ。
一応開発は現在も進められ、計画によれば生産型のロールアウトは2019年に予定されている。
果たしてF-35に並ぶ電子機器は開発できるだろうか。J-31が本当に第5世代戦闘機として認められるために超えるべきハードルは、まだ多く立ちはだかっているのである。