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テジャス

てじゃす

テジャスは、1985年より開発が始まったインド国産の戦闘機。技術的困難もさることながら、国内の政治的事情により開発が難航した。2001年に初飛行し、初期作戦能力を取得したものの、その時点では実戦能力には程遠く、2016年になってようやく実戦部隊での運用が始まった。かれこれ30年続いた努力(なによりも迷走)の成果である。
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「火」

 この航空機は1985年、当時のインド首相インディラ・ガンジー(初代首相ジャワハルラール・ネルーの娘)により、新型戦闘機を開発することが発表された。HF-24「マルート」開発から約30年ごしの計画で、最新技術への不安はアメリカ企業と共同開発する方式を採って解決することとした。


 開発はインド側はHAL(ヒンドスタン航空機)やADA(インド航空開発局)、DRDO(インド国防研究開発機構)が行い、機体設計はロッキード(当時)、エンジンにはゼネラル・エレクトリックが関わることになった。


HF-24「マルート」

1956年にインドが最初に独自開発した戦闘機で、これはアジアで独自開発された最初の超音速戦闘機でもある。全くノウハウが無かったこともあり、設計にはFw190Ta152、Ta182「フッケバイン」及びそれを基にしたアルゼンチンの試作ジェット戦闘機「プルキーⅡ」を手掛けたクルト・タンク技師を迎えている。ただ計画途中から解ってはいたことだったが、エンジンには恵まれず、目標のマッハ2どころかマッハ1をようやく超えられる程度と、計画値をはるかに下回る性能に留まった。


核兵器にまつわる国際社会からの制裁もあり、開発作業もさっぱり進まない。そしてただでさえ低い性能は瞬く間に時代遅れとなり、挙句「どうせ使い物にならないし、今すぐ使えるソ連機の方がいい」としてMiG-21MiG-23が導入された。その後継が今回のテジャスである。


「火」⇒「炎上」

 ところが、開発経験のなさに反して「機体はもちろんレーダーとエンジンも国産化!さらに艦上戦闘機型も造るで!」とあまりに欲張りすぎたせいでこの航空機の開発は難航、さらに政治サイドによる要求仕様の変遷も拍車をかけて迷走、1993年初飛行の予定はズルズルと延長されることになった。中でもエンジンを担当するDRDOは問題で、とくに納期の点では全くアテにできない程と分析されていた。2014年時点でも完成していないので、現在のところGTX-35VS「カヴェリ」の搭載はあきらめている。


 さらに1998年には、核実験への制裁としてアメリカ企業は軒並み撤退、以降はエンジン開発にSNECMA(フランスのエンジン開発企業)を頼るなど、開発はさらに難航した。こうして開発は絶賛長期化中であり、開発費は56億⇒250億(ルピー)と増大し、こうした遅れからMiG-21bisonへの近代化にも約210億ルピーを費やすことになってしまった。

おかしいな。インド人は数学に強いんじゃなかったのか?


「炎上」⇒「大炎上」

 開発は21世紀に入っても苦難が続く。2001年になって経済制裁が解除され、ようやく試作機が初飛行。量産型は2007年に登場し、2011年にやっとこさ初期作戦能力(事実上の名目だけ)を獲得。


 そんな中で、世界最先端の戦闘機は軒並み第4世代から第4.5世代・第5世代へと変遷していった。ところで未だ配備されない第4世代の価値はどれほどのものだろうか。いや、元をただせばMiG-21の後継で、この任務や役割を受け継ぐ戦闘機なら、それで良かったはずである。


 なのに、なのに、それなのに。

 2013年、MiG-21FL最後の飛行隊が解散となり、テジャスは間に合わなかった。MiG-21bisは現役に留まるものの、こちらも更なる開発遅延への対処として、延命化改修が行われることになった。そして完全な作戦能力を獲得したテジャスが登場したのは2020年の事。今後は2028年までに123機を生産する予定との事だが、これまで「予定」というものを次々に更新し続けたテジャスである。果たして計画どおり進むかどうかは疑わしい。


 実際、空軍内部ですら『せっかく開発したんだし、このまま配備しよう派』と『遅れまくりだし、いいかげん見切りをつけて新型機を輸入しよう派』の2派閥に分かれており、おかげでテジャス開発費を捻出する一方で、ラファールを導入して国内でも生産しようとしたり、PAK-FA開発にも資金提供して共同開発の体裁をとる等、次期戦闘機事業は迷走しているようである。


 そして2019年には、ロッキードマーチンがインド政府に向けてF-21を売り込み、テジャスの懸念事項がまた一つ増えた。ラファールはその後契約で拗れて36機以降の納入は無くなったようだが、こちらはアメリカ最新の技術を備えた仕様で、更に生産設備移転のオマケ付き。


 テジャスの方も、拡大発展型となるテジャスMk2の開発は完全に中止になってしまい、海軍型も魔改造ミンスク級「ヴィクラマーディティヤ」でのテストまでにはこきつけたものの、肝心の海軍は既にやる気を失くして「もっと大きい双発の艦上戦闘機造るで!」となっており、先行きは不透明。


 あっちこっちどれもつかず、このままじゃ全てがゼロに・・・いや、そもそもゼロはインドで生まれました。日本の発明品じゃありません。思い返せば、HF-24「マルート」だって核兵器保有による制裁で頓挫した機である。インド国産戦闘機の夢は、いつだって延期と頓挫&破綻の多段コンボからは逃れられないのだろうか。


「光り輝く」

 とはいえ、テジャスはインドの必要に対しては十分な機とも思われる。近年では小型戦闘機を求める国へ輸出販売も積極的に行うようになっている。


機体構成

 テジャスは純粋な超音速戦闘機としては一番小さい。似たデザインのミラージュ2000よりさらに一回り小さく、A-4に近い大きさといえばその小ささがわかるだろう。主翼は外翼の後退角が深くなっているビゲンに似たもので、見ようによっては「カナードの無くなったビゲン」のようにも見える。こんなデザインになったのは、インドで使い勝手の良さが評判だったミラージュ2000の影響があるとかないとか。


飛行性能について明らかになってる部分は多くない(そもそもいまだにテスト中であるため当然でもある)ようだが、航続距離は850kmとなっており、これはMiG-21の3分の2・MiG-29の半分強程度となっている。最大速度はマッハ1.7とも1.8ともいわれており、超音速巡航はおそらく不可能といわれている。


「戦術戦闘機」として航続性能が重視されていない両機よりも、さらに航続性能が悪いことを除けば、性能は妥当なところでまとまっているようだ。機体重量は6.5tほどになり、これはF-5(6t)と同等、F-16比(8.2t)では下回る。また試作機用エンジンF404-GE-IN-20の推力はKgに換算して54900kg(ドライ)/91630kg(A/B使用時)の出力があり、生産型ではより性能の高まったF414装備も考えられている模様。今のところ諸元表では推力対重量比1を超えないが、増漕や爆弾を投棄し、燃料の減った状態なら1を超えるだろう。


エンジン・レーダーFCS

 エンジンは当初GTRE(ガスタービン研究所)のGTX-35VS「カヴェリ」が予定されていたが、こちらも開発難航のために断念されており、現在のところF/A-18と同系統のF404/F414が採用されている。しかしこの「カヴェリ」、F404と同程度の重量にそれ以上の出力を目標にしており、将来的には90Kn級を目指していた。すみませんコレF404の最大出力より大きいんですが


レーダーFCSも国産の装備が採用される予定だったが、これも開発難航によりIAI製のEL/M-2032が搭載された。これはインド海軍のシーハリアーに搭載されているものと同じものだが、新型機に搭載するにしてはいささか旧式であるため、Mk1AではAESA型のEL/M-2052が搭載された。


武装

 胴体下に1か所(他センサー用にも1か所)、主翼下には左右3か所ずつのハードポイントを備え、最大搭載量は4tほど。もちろん国産・ロシア製などの別なく爆装も可能。機銃には扱いなれたロシア製のGsh-23Lを備える。これはMiG-21MiG-23と同型のもの。


現在、テジャスはR-73ミサイルを搭載した状態が確認されており、ヘルメット装備型照準器が導入されてオフボアサイト能力が実装されれば、小柄な機体と相まって格闘戦でも無類の能力を発揮することであろう。


テジャスの可能性

 この航空機はインド特有の国際的なバランス感覚というか、要は優柔不断に振り回されている。現在、インド空軍はMiG-21bison(MiG-21bisの近代化モデル)MiG-23・MiG-27に加えてSu-30MiG-29ミラージュ2000を配備しており、将来的にはMiG-21やミラージュ2000をラファールPAK-FAで置き換えることも考えているようだ。


 インドへのラファール売り込みはMiG-21の置き換えに126機が予定されていたが、インド生産分にもダッソーによる品質保証(=きっちり同じ製品を作れるよう指導してくれ)を求めたために交渉は難航。結局36機はダッソー生産分を導入することになったものの、その後の機をどうするかは決まっていない。オランド大統領はインドを説得しようとし、モディ首相もダッソー社を訪問する等、おたがい歩み寄る姿勢こそ見せているものの、未来はまったく不透明なままである。


 このように、長期化するごとに暗雲が垂れ込めて、もはや青い空が見たいよ!叫びだしたいほどになってしまったテジャスである。現状で良いところと言ったら、やはり猛々しいというよりも可愛らしい容姿だろうか。インドで求められる性能を備えた、手頃な大きさの戦闘機であり、愛嬌のあるダブルデルタ翼を備えている。

センシティブな作品


 各国で開発されている戦闘機を比べて見れば瞭然であるが、やはり戦闘機とはその国ごとに違った要件を求められるものであり、また生産にも工業発展の粋が問われるものである。つまり戦闘機が工業力や国防政策の指標とも考えられる訳で、インドが自主生産(できれば設計も)にこだわるのも無理なからぬところ、という訳である。それが現状で「火」どころか「水子」に終わってしまいそうな戦闘機なのだが。


 果たしてミグやミラージュを刻んでマサラを加え、カリ(汁物)にしたような戦闘機は完成するのだろうか。これからも(主に)DRDOの仕事は問われている。


「インド特有の国際的なバランス感覚」

インドはパキスタンとの分離独立以来、再び独立を脅かされることが無いように外国勢力を排除し、自主自立を維持することを目的とした外交政策を続けている。「独立」したくらいなので植民地主義・帝国主義には反対の立場をとっており、よってNATO・ワルシャワ条約機構ともに距離をおく「非同盟政策」を是としてきた。


しかし70年代、アメリカがパキスタンを軍事的に援助するようになると事情が変わり、パキスタン東部での内紛も戦争に発展するおそれも出はじめた。インドはアメリカ・中国の介入を嫌ってソビエトに接近し、1971年には「印ソ平和友好協力条約」を締結。内紛は第三次印パ戦争へと発展するが勝利を収め、こうして軍事的・外交的にも後ろ盾を得たインドは南アジア圏内での大国としての地位を確立していくことになる。インドは政治的にはソビエト(ロシア)に近くありながら、共産化することはなく、アジアでは中国に並ぶ第三極としても存在感を示していくことになる。


現在のアメリカとの関係は改善しており、経済面でも重要性を増しつつあるようだ。また、中国については緊張を絶やさない関係にあるようで、国境問題は棚上げにする一方、経済関係もしだいに重みを増しつつある。もちろんお互いの一挙一動について警戒は怠っておらず、軍事的に大国に属する二国の緊張は、アジアにおける政治的・軍事的事情の変遷によって太平洋にも波及しつつある。まあ、日本も実は海軍大国だったりするせいでもあるのだが。


ちなみに、日本で『南国への旅行』といえば、以前よりハワイやグアムが人気であるが、もちろん冷戦中のソ連から行けるわけが無かった。そこで人気が出たのがインドのゴアで、現在でもシーズンにはロシア人観光客が押しかける一大バカンス地となっている。



隣国のライバル

 過去に数度の紛争を経験した隣国パキスタンでは、中国JF-17(FC-1とも)を共同開発した。こちらは中国版MiG-21ことJ-7をベースにしたと言いつつも、実際にはF-16F-20を足して2で割ったような外観で、要するに見る影もなくなっている。


 JF-17はテジャスと比較して若干大きく、尾翼のあるテイルドデルタで、空虚重量でも1tほど重くなっている。エンジンはロシア製のクリモフRD-93を搭載し、これはF404とほぼ同等~やや上程度の性能のエンジンである。こちらもMiG-21(あるいは自国製J-7)やノースロップF-5の後継を目的に開発され、他にもアゼルバイジャンスーダン等が注目しているようだ。


 もちろんパキスタンでは続々と配備されているようで、近い将来、パキスタン空軍の主力はこれに置き換えられるものと思われる。またパキスタン仕様は多くの場合、中国本国仕様と異なりエンジンや電子機器を適せん海外製に入れ替えており、実用性という点ではテジャスの上を行っている可能性もある。まあ、実績のある機の発展型だから、という安心感もあるのだろうが。



関連項目

戦闘機(第4世代ジェット戦闘機)

インド 英国面

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