開発の経緯
台湾はF-104並びにF-5の後継としてF-16の導入を目指していたが、82年に「第三次米中共同声明」が発表されるに及び、台湾への最新鋭兵器売却は議会の側からストップがかけられるようになった。アメリカから代わって提案されたのはCM11(M60A3の車体にM48A5の砲塔を組み合わせて射撃管制システムを近代化したもの)やF-16/79(F-16のエンジンをF100からF-4などで採用されたJ79に換装したダウングレード型)、F-5の大幅改良型であるF-20など、中国への協力に比べれば明らかに格下げ・見劣りが目立つ兵器群であった。
しかしアメリカ政府は自国の軍需企業が協力する事までは禁じなかったので、ゼネラル・ダイナミクスやゼネラル・エレクトリック、クライスラーなどの協力のもと、台湾では独自の兵器開発を目指しはじめた。80年にはAIDCがAT-3「自強」練習機を初飛行させており、この成功に自信をつけた事も一助になった。F-CK-1はこうした経緯で生み出される事になったのである。
F-CK-1「経国」の誕生
AT-3の生産が始まっていた82年8月、のちにF-CK-1となる航空機の開発が始まった。
開発作業は機体設計・エンジン・電子機器・搭載ミサイルの4つに分割して行われた。
機体設計(鷹揚計画)
F-16にも並ぶ性能を目指し、AIDCはゼネラル・ダイナミクス(以下GD)と共同して機体設計にあたった。といってもGDによる貢献は大幅に制限され、全般的には補助・補佐に留まったという。
AIDCからはいくつかの構成案が提示されており、
A構成:F-5のような機
B構成:タイフーンやグリペンのようなクロース・カップルド・デルタ機
C構成:F-15のような機
のような案が提出された。一方、GEでも独自にG案という構成案を検討しており、一部C案の内容を取り入れたものとなっていた。最終的にはこのG案が採用され、計画名は「軽量防衛戦闘機」へと変更される。85年からは機体設計に入り、さらに開発期間短縮・費用削減を狙って試作機は製造せず、いきなり先行生産機仕様が作られる事になった。
エンジン(雲漢計画)
ゼネラルエレクトリックF404やプラット&ホイットニーF100といった最新鋭エンジンを導入できなくなった為、ある意味で一番の難産だったともいえる。当初は旧世代ながら豊富な実績を持つJ79エンジンが予定されていたものの、これは次世代に求められる性能に見合っていないため、新世代のターボファンエンジンが求められた(そもそも今さらJ79搭載機を開発するなら、F-16/79導入で良かったはずである)。
中国からの横やりもあり、ようやく導入できたのは前作AT-3用のTFE731から発展したTFE1042エンジンで、これはボルボ・フリグモートルと共同開発したアフターバーナー実装型である。軍用としてはF125との型番が振られており、戦闘機としての採用はF-CK-1のみとなっている。1基あたりの出力はエンジン本体のみで27KN、アフターバーナー併用では42.1KNを発揮し、原型以上の出力向上を果たした。
しかしこのエンジンはベースとなったTFE731自体元々ビジネスジェット機用で、出力向上を果たしたところでF404の半分強、F100の半分以下に過ぎなかった。実用するまでもなく、85年の検討では既に出力不足が懸念され、更に10%の出力向上が求められたが、それでもアメリカの輸出制限によりFADEC(全デジタル式電子制御器。自動車でいうところのECU)で出力が抑えられていた。F-CK-1ではこのエンジンを2基搭載するものの、総出力は3分の2程度に留まり、また重量は4分の3程度なので出力対重量比ではF-16比で悪化している。
1基当り53KNを発生させるTFE1088-12も開発されてはいたが、メーカーの見込み通りにエンジン採用例は増えず、のちにF-CK-1の発注が130機にまで絞られると、採算が合わないと判断されて、新型エンジンの開発は中止された。
電子機器(天雷計画)
レーダーFCS「金龍53型」はAN/APG-67を基に開発されており、AIDCとスミス・エアロスペース社の共同事業である。レーダーアンテナにはAPG-66用が使われていて、おかげでルックダウン・シュートダウン能力はAPG-66に迫る機能を実現している。
サイドワインダー等の短射程ミサイルはもちろん、BVRミサイル(AIM-7)・対艦ミサイル(星風II型)運用能力も実装され、F-5をはるかに超えるマルチロールとなった。なお、「金龍」とは李金龍の名に因んでいる。
ミサイル(天剣計画)
これはF-CK-1だけが使えればいいという訳ではない為、同時期とはいえ、他の計画とは独立した状態で進められた。
「天剣」とは台湾独自の空対空ミサイル開発計画で、
・TC-1(天剣1型):サイドワインダーのような短射程ミサイル
・TC-2(天剣2型):AIM-120のような中射程(BVR)ミサイル
の2種類から成っている。
開発はTC-1の方が早く、86年に試射成功、89年から生産が始まって91年には実戦配備された。TC-2はモトローラ、そしておそらくレイセオンが開発に協力したと考えられ、92年には試射に成功している。
対地攻撃兵装
F-CK-1はマルチロール機であり、先述した「天剣」空対空ミサイルの他にも各種の対地攻撃兵装を運用することができる。具体的には無誘導爆弾やクラスター爆弾、ロケット弾ポッド、アメリカ製のAGM-65「マーベリック」空対地ミサイルが運用可能。
更には台湾が独自開発した「雄風Ⅱ型」対艦ミサイル(空中発射型)による対艦攻撃能力も有している。雄風Ⅱ型は西側諸国で一般的なターボジェット推進の対艦ミサイル(射程160km)で、F-CK-1は3発まで搭載可能。
これにより、F-CK-1は対空・対地・対艦と様々な任務をこなせるマルチロール機となっている。
幻の核兵器運用計画
実は、F-CK-1は核兵器の運搬手段として用いることが検討されていた。
台湾は1960年代後半より秘密裏に核開発計画を進めており、その投射手段として1970年代後半には短距離弾道ミサイル「スカイホース」が開発されていた。これは射程600km~950kmの短距離弾道ミサイルで、上海から湛江までの港湾施設や空港、ミサイル基地などを攻撃することが可能だったとされている。しかし、アメリカからの圧力に加え、弾道弾迎撃ミサイル開発計画との兼ね合いもあって、1982年に計画は中止された。
その代替としてF-CK-1を用いることが考えられた。計画では胴体中心線下部に小型化した自由落下式核爆弾を搭載することが予定されていた。
しかし、そもそもこのような核兵器開発計画をアメリカが許すわけがなく、1980年代後半に計画が露見した際にアメリカからの圧力が加えられて中止に追い込まれた。
当然、F-CK-1の核兵器搭載計画も幻となったのである。
派生型
先行生産機
前述のとおり、費用削減のために実用テスト機として4機が製造されている。
10001号機~3号機までの3機は単座型、10004号機は複座型として完成しており、これらはすべてAIDCで運用された。4機はそれぞれ別のテストに充てられ、低高度テスト用の10002号機(フラッターにより尾翼が脱落、墜落)以外は保存されている。
のちに性能向上計画が持ち上がり、このテスト用に2機がさらに充てられることになった。これは単座型・複座型の1機ずつで、テスト終了後は空軍に引き渡されている。
F-CK-1A/B「経国」
A型は131機生産された生産機で、現在は「翔山計画」により電子機器を換装されたMLU仕様となっている。これは事故で喪失した4機を除く127機に行われたもので、2001年のASL計画で生み出されたF-CK-1C/Dの更新内容の一部を適用したものとなっている。
MLU仕様へは2011年~2013年にかけて71機(台南基地配備)が、2014年~2017年に56機(青泉港基地配備)が改造を受けて、現存する全ての機がF-CK-1A(MLU)となっている。
B型は複座練習機で、28機が生産された。こちらにも同様にMLU仕様となっている。
F-CK-1C/D「翔山」
F-CK-1の性能向上を狙ったもので、これはASL計画と呼ばれた。
内容としては、
・搭載力強化、新兵装の導入
・ステルス性の導入
・グラスコクピット化
・金龍53型の更新(AN/APG-67V4仕様へ)
・飛行制御コンピュータの32ビット級への更新
・コンフォーマルタンク装備
等が計画されていた。
もっともステルス性向上・コンフォーマルタンク装備は重量増から早々に放棄され、BAeが手掛けたコンピュータ関連の更新も、実は生産の終わっている民生部品の置き換えが主目的であり、性能向上そのものは主眼ではなかったといわれる(それでも新プログラムが適用されて火器管制・飛行制御では向上したとか)。
この更新計画はすべてが空軍に受け入れられた訳ではなく、更には中華民国監督院から「違法な案件」を指摘されて調査されている。実証機としてA/B型から1機ずつ改造されたが、完全なC/D型はこの2機だけで終わった。更新計画は最終的にコンピュータ関連・兵器対応関連に留められ、現在は全機がF-CK-1A/B(MLU仕様)として改造を終えている。
T-5「勇鷹(ゆうよう)」
台湾国内ではT-BE5AやAT-5とも。
計画
F-CK-1の設計をベースとした練習機で、2015年に持ち上がったF-5FやAT-3の更新計画用としてAIDCより提案されたものである。同じくメーカーから応募された機には、従来から配備されていたAT-3の更新型AT-3MAX、アレニア社からはM-346が提示されており、ここにT-5も加えた3機種から検討されることになった。
馬英九政権(2008~2016)ではM-346採用を有力視していて、2014年にはM-346を台湾で製造するための覚書を交わしていたが、蔡英文政権(2016~)では一転して国産化へと舵を切った。その後2018年には設計仕様が固まり、愛称が公募されている。
2020年6月2日には最初の試作機11001号機が滑走テストを実施し、同10日には車輪を出したままの初飛行を遂げた。12月25日には同じく2号機が初飛行に成功している。2021年11月の導入計画によれば、2026年までに全66機の納入を完了する見込みとなっており、その他訓練用機材も引き渡される予定である。
設計
F-CK-1の設計から超音速性能を除くかわりに、複合材による軽量化・翼厚比などを最適化している。低速での安定性は更に重視され、機体の設計図は8割も書き直されたという。搭載する電子機器は全て国産品で、当然ながら動作プログラムも全てが国内開発とのこと。エンジンはITEC/ハネウェルのF124で、これはF-CK-1のF125からアフターバーナーを除いたもの。
戦闘能力
T-5は高等訓練機と実射訓練機の能力を併せ持っており、必要とあらば襲撃機としての実戦投入も視野に入れているという。
配備
上記のように、台南・青泉港の2基地に3個飛行隊ずつが配備されている。
(青泉港基地のうち1個はテスト・評価部隊)